after that
――ヤロー選手、
「すみませんねえ、言えることは何も……あ、ところで良いきのみが採れたんですよ。ほら、食べていってください」
――あ、あの、それよりコメントを……。
「こっちのモモンのみなんか良い熟れ方をしとる。どうです、生でいってください」
――ど、どうも……。
――ルリナ選手、本日は5体を残しての快勝! 今のお気持ちをお聞かせください!
「そうですね、とても良い試合運びが出来たと思います」
――相手選手ははがねタイプの新任ジムリーダーでしたが、印象はいかがですか?
「前任がメジャー上位の常連だったということもあり、厳しい意見もあるでしょうがめげずに頑張って欲しいですね」
――前任の彼について……。
「ノーコメントで」
――カブ選手、本日はバクーダという珍しいポケモンを使っていましたが何か作戦が?
「うん、あの子はホウエンから取り寄せたポケモンでね。元々はとある選手に対する対策用に育てていたんだけど……今は専らマクワくんのポケモンの動きを覚えさせているよ」
――とある選手、とは?
「………………ところで、バクーダはとっても強いポケモンだ。ひざしがつよい時の爆発力なんかは中々他じゃ出せなくって……」
――カブさんって、話を誤魔化すのヘタですね。
「…………なんのことだい?」
「ふむ、これは……店長さんのおっしゃる通りクリームが非常に濃厚ですね。はい、もぐ。中々、もぐ。隠れた名店を、もぐ。発見してしまいました、もぐ」
――サイトウさん、食べるよりコメントを……。
「……あ、すみません。これは恥ずかしいところをお見せしました。……そうですね、今度は
――オニオンさんが羨ましいと思った超能力だとか、逆にいらないと思った超能力ってありますか?
「…………はい……。特殊な力というのは、必ずしもメリットだけをもたらすものではありませんから……」
――なるほど。具体的に言えば……。
「……彼はきっと、その能力が無かった方が幸せだったんじゃないかと思います…………」
――……はあ。
――ビート選手、ジムリーダーに就任して以来4戦3勝と良いスタートですが、ズバリ強さの秘訣は!
「師曰く、どうも僕には精神面で欠けているものがあったらしいのです。それがジムチャレンジをあのような形でしたが一応は終え、一皮剥けたことにより解消できたのではないでしょうかね」
――なるほど! 師、というのは……。
「カイ元ジムリーダーのことです」
――え、えーと、彼は……。
「いいですか、カイさん! アナタのことですから多分この試合も見ていたのでしょう! アナタの弟子はアラベスクで立派にやっていますよ! いつか恩返しできる位には経験も積んで実力もつけますので、首を洗って待っていてくださいね!」
――ポプラ元ジムリーダー、引退後の生活にはもう慣れましたでしょうか。
「元々いつでも辞められるように準備だけはしていたからねえ、そう生活に大差はないさ。ただメジャーの座にしがみつける限界も近かったし、今回のジムチャレンジでビートを見つけられたのは本当に幸運だったよ」
――後継者であるビート選手は、現在かなりの好成績を残していますが……やはり、ポプラさんの影響が強いのでしょうか。
「いいや、そんなことはないよ。あの子は元から強かったね。才能もピカイチだし、それを育てた奴の腕も良かった。強くなるべくしてなった、典型的なエリートタイプだよ。あたしがやったことなんて、ちょっとピンクを教えてやったくらいのもんさ」
――まだまだ余力を残しての引退と言われていますが、これからアラベスクジムなどのバトル業に携わる予定はございますか?
「そうさねえ。ビートがまだまだ半人前だったならそういう道もあったかもしれないけど……半人前は半人前なりに、きちんとやれてるようだから。ま、ババアはとっとと身を引くに限るよ」
――マクワ選手の今季の戦績は5戦5勝、連勝が続いております! 現在ジムリーダー暫定1位の座についていますが、マイナー降格となってしまった前シーズンと何か変化はあったのでしょうか?
「そうですね。前季は少々トラブルがあり、シーズン後半は中々自分の思うような試合が出来ませんでしたが……今季はもう、あのようなことはないと言っておきましょう」
――なるほど。前季まで一切用いてこなかったアマルルガを起用し始めたのも、何か心境の変化が?
「はい。ボクもようやく、大人になれたということなんじゃないでしょうか。その成長の証として、
――メロン選手、近頃は後進の育成に力を入れているとの噂ですが……。
「そうさねえ。こおりジムはずっとあの子が継ぐもんだと思ってきたけれど……子供の成長ってのは早いもんだよ、本当に。アタシもいい加減、子離れしなきゃってことさ」
――引退について、具体的な時期は考えていますか?
「今年は知り合いが何人も消えてったし、世代交代の波ってやつだろうね。アタシも乗り遅れないようにしなきゃいけないな、とは思っているよ。……ま、一人は別問題で消えたにしてもね」
――マリィ選手はあくジムリーダーの前任であるネズ選手と違ってダイマックスの使用に躊躇いがありませんが、その辺りについてはどのようにご考えでしょうか?
「別に、わたしにダイマックスについての拘りはなかです。それよりも、勝負に勝つ方が重要だと私は思ってます」
――なんか、固くないですか? 緊張してます?
「……兄にも、
――ネズさん、ジムリーダーを引退してから初めての新曲ですが、この歌に込められた思いというのは?
「そうですね、まあ……離れ離れになった友人への、ちょっとしたエールってとこですかね」
――なるほど! 確かにそのような印象はありました。サビの『お前へ………
――キバナ選手、近頃の不調の原因は……。
「ん……すまねえな、メンタルコントロールが上手くいってねえんだ。ポケモンたちのコンディションは悪くねえ、すぐに調子を取り戻してマクワを引き摺り下ろすぜ」
――精神面でというのは、前チャンピオンの敗北が? それとも
「うーん、まあ、そうだな。そんな感じだ。これ以上俺サマから言うことはないぜ」
◆◆◆
「――ガラル、スタートーナメント?」
「そうですマスタード師匠! 師匠のことですから、勿論興味はあるでしょう? この広いガラルの地から最強の選手たちを集め、それぞれがタッグを組む! 組み合わせ次第ではファン待望のドリームマッチが成立し放題です!」
ヨロイ島。ガラルの外れに浮かぶ小さな孤島にて、褐色の男と白い髭を生やした老人が向かい合っていた。
相当に激しい戦闘でも行ったのだろう、バトルコートが描かれている二人の周りには炎で焼け焦げた跡や砕かれた岩石が飛び散っている。
豪奢なスーツを着、熱弁を振るう男がダンデ。対し興味深そうに話に頷く老人はマスタード。
互いに元ガラルチャンピオン、一般人からすれば天上の存在である。かつて師弟の関係にあった二人が久々に、などと言って始めた一戦はファンが聞けばまさに垂涎ものだろう。事実、彼らの激戦に匹敵するような戦いは近年のガラルリーグではチャンピオンマッチに向けコンディションを完璧に整えたキバナとダンデのそれくらいだ。
数少ない自分を負かせることの出来るかもしれない相手――ユウリはそれを飛び越えてしまったが――との久々の闘いにダンデは心躍りながらも、途中でバトルを切り上げ本来の用件をマスタードに伝える。
ガラルスタートーナメント。
ダンデ考案のそれは、一言で言ってしまえばガラルの実力者たちによるタッグバトルの大会である。
ローズの失脚後、彼の就いていたリーグ委員長という地位を継いだダンデは新チャンプの誕生に熱狂しているガラルを更に盛り上げるため、各地の実力者たちを集めた大会を開こうとしているのだ。
無論、目の前のマスタードもその内の一人。かつての無敵のチャンピオンが参加してくれれば百人力だ、とこのヨロイ島に舞い戻ってきた訳である。
そして師であるマスタードに話をしてみれば予想通り、彼の眼は新たな強敵たちとの出会いに燃え始めていた。
「ほう……中々に、心惹かれる催しよな」
「はい。この後の予定では、ジムリーダーたちや師匠以外の元チャンプ、果てには王族たちなど沢山のガラルの実力者たちに声を掛けます。新チャンプにはちょっとしたサプライズで、要件を伝えずに呼び出すつもりですけどね。
……それと、一人だけ連絡の取れない強者がいるのですが――そっちの方は、俺が動かなくても案外何とかなりそうな気がしています」
ふむ。お主がそう言うのであればそうなのであろうな。
楽観的だがどこか信頼できる言葉を吐くのが目の前の男、ダンデである。マスタードはそのようにかつての弟子のことを内心評価していた。
さて一方、ガラルスタートーナメントと称す催しの方であるが――先の言葉に偽りはなく、まっこと興味深い。
ともすれば、かつて鎬を削った
昔よりこういった場では直感で答えを返すと決めていた。
向こうもこちらの返答を察しているのだろう、不敵な笑みで招待状とやらを手に取っている。
「相分かった。そのスタートーナメントとやら、楽しみにしておこう」
◆◆◆
ブラックナイト事変。
僅か十数日ほど前に起こったばかりの事件、その呼称の一つである。
ナックルシティを襲った未曾有の大災害は、その第一の危機においては旧チャンプ・ダンデとその弟ホップ、そして新チャンプのユウリたち三人のトレーナーと二匹の伝説のポケモンによって鎮められた。
この時点で既に各地のパワースポット周囲における影響は甚大であり、暴走したダイマックスポケモンによる被害も数件見受けられたという。
もっともその多くは鍛え上げられたジムトレーナーたちやマクロコスモス社員たちによって鎮圧され、軽傷者は数人出るも死者は零に抑えられたのだが。
問題は、その事件における第二の危機――
ガラル地方の中心たるこの都市においてその数字は余りに大きく、避難が完了しており人的被害は無かったとはいえ無視することは出来なかった。
問題であったのは、この計画の実行者であるカイが計画の被害者でもあったこと。
そしてこの計画の首謀者であったローズ元リーグ委員長の大衆人気が、事件を乗り越えてなお凄まじかったことである。
世論はマスコミの情報によっていとも簡単に覆る。しかしそのマスコミもマクロコスモスが握っていては、事件の責が誰にあるかなど彼らの一存で簡単に決まってしまうだろう。マクロコスモスの傀儡となった経験もあるガラルの警察の誰もがそう考えた。
しかし、黒幕であったローズの取った行動は少し予想外である、と言わざるを得ないものであった。
ローズ元リーグ委員長、自首。
ガラルの各メディアたちはそのニュースを困惑しながらも報道した。
彼の権力があれば、あれほどの大事件であっても責任逃れをすることは不可能でない。国際警察が首を突っ込んでくれば話は別であろうが、どうやら彼らはこの事件への対応について少し揉めているらしい。
彼は事件の全ての責は自身にあるとし、カイのことを全面的に擁護した。
ナックルシティ復興の費用も支払われてしまっては、彼の自首を受け入れないわけにはいかない。捜査、逮捕……と驚くべきほど短時間でそれらは行われた。
裁判はスムーズに進むことが予見された。ローズ元委員長は自身の罪を認めており、証拠も多数揃っている。ただ世論や彼の動機、また人的被害が零に近いことなどを考慮すれば減刑もあって然るべきである。無罪ではないがそれほど重い罰が与えられることもない、そんなところが落とし所だろう。多くの法律家たちがそう語った。
もう一つ語るべき点があるとすれば、カイのことだろう。
彼はナックルシティを破壊し尽した計画の実行者でもあり、ガラルのエネルギー事情を解決するための犠牲にさせられかけた被害者でもある。
実年齢は僅か■歳、また過去に虐待を受けた経験があり――実際はもっと悍ましいものであったが――精神的に非常に不安定な状態であったことも認められていれば、彼を罪に問おうとする者は極少数であった。
計画の所為か、事件の日から意識不明の状態が続く彼の保護は新チャンプがその役目を買って出、とある病院の地下室に安置された。
カイに対する世論の多くは同情的なものだ。あるいは、それもローズ委員長の置き土産なのかもしれないが――大人たちの傲慢の犠牲となった幼き少年に事件の責を追及しようとするのは、あまりに人の心がないのではないかと非難された。
しかしその事情がややこしくなったのは、事件からおよそ半月後。彼が意識を取り戻し、そして病院を脱走した日だ。
彼の身体は未だ快復したとは言い辛く、半月の眠っていた期間を考えれば歩くこともままならないだろう。能力の副作用という奴か、身体の各部は見るも無残な姿になっており――また、
エーテル財団の施した改造は現代医療による治癒を阻み――また、その改造によって得た力は自ら身体を「修復」し始めた。
それは見る者全ての表情を歪ませた。到底それは自然界にあっていい現象ではなく、意識の無い中であっても苦痛に悶える少年の姿を見て喜ぶ者は、一般的倫理を兼ね備えた人間の中には存在しなかったのだ。
やがて最低限生命の維持に必要な機能を取り戻すと身体は「修復」を終え、そしてそれからしばらくの時を置いて彼の意識の回復、そしてそれに伴う脱走は起こった。
多くの人間は叫んだ。今すぐ彼を連れ戻し、保護をすべきだ。彼は自身の状況を把握できていない。そのトラウマから、周囲に恐怖を覚え逃げ出したのだろう、と。
そしてそれはあながち間違いでもない。確かに彼を突き動かしたのは恐怖の念である。ただ、その感情の向き先を自分でも見失っているだけで。
◆◆◆
謎のトレーナーとポケモンによりナックルシティの復興は終わり、いよいよ事件の爪痕は消え去ったガラル。しかし未だ民衆たちの心には強く記憶が刻まれていた。
信頼していたリーグ委員長の裏切りとも呼べる計画、メジャージムリーダー一人の失踪、変化していくジムリーダーたち、無敵のチャンプの敗北、新チャンプの就任……余りに多くの出来事は、大衆の心に無意識の内に「不安」の念を植え付けた。
だからこそ、新たな時代の到来を告げる必要があった。新たな時代は明るいものだと宣言する必要があった。そしてそれを行うには、大衆の圧倒的な人気が必須であった。
それらを要因の一つとして、元・無敵のチャンピオン――ダンデは、「ガラルスタートーナメント」の開催に踏み切ったのである。
そして同時に、なんだかんだと言って身内には甘い一人の元ジムリーダーが帰郷する言い訳を作るのにも、それは一役買っていた。
グラジオ&リーリエ√は出来上がり次第投稿します。
次話はこれの続きか掲示板辺りでしょうか。