ガラルの悪のジムリーダー   作:アタランテは一臨が至高

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withサイトウ その2

「はい、もうメロンさんは元に戻りましたからね。大丈夫ですよ、実況を始めましょう」

「あ、うん……じゃなくて! 頭撫でんな!!」

 

 作戦タイムの間、時たま聞こえてくるメロンの怒号に怯えながらも、ようやく1時間が過ぎる。

 

「さあ1時間の作戦タイムがとうとう終了しました。この間カイさんにひたすら餌付けしていましたが、流石に飽きてきたので丁度良かったです。それでは遂に皆さんお待ちかね、バトル本番が始まります」

「視聴者は俺らと違ってCM分の時間しか待ってないけどな。……え、そのミアレガレットくれないの?」

「お姉ちゃんって呼んでくれたらあげますよ」

「調子乗んなよお前。金払うから寄越せ!」

 

 サイトウが右手に持つミアレガレットを何とか奪い取ろうと画策する。

 しかし超ガラル人の身体能力には勝てず、ひょいひょいと手を動かして遊ばれただけで終わるのであった。

 

「ルールの確認です。3対3のシングルバトル、勝ち抜き戦。ダイマックスはできません。手持ちに戦闘可能なポケモンがいなくなった時点で、敗北となります」

「このミアレガレットうまっ。ありがとな、サイトウ」

「お姉ちゃんがないですよ」

「1回で十分だろ!」

 

 ダラダラと適当なことを話していると、俺とサイトウの目の前に設置されているモニターにバトルコートの様子が映し出される。どこの町にでもある、ごく一般的なものだ。

 

「さあ両選手がバトルコートに入って参りました。向かって右、真っ白な衣服に身を包んだ女性が現序列10位、ジ・アイスのメロン選手です」

 

 メロンがゆったりとした足取りでバトルコートに姿を現す。テレビの企画とはいえ、そこそこ真面目にやるつもりのようで真剣な表情だ。

 

「対する左。仮面で顔を隠したゴーストタイプの使い手、現序列11位、サイレントボーイのオニオン選手です」

 

 一方オニオンは、少しおどおどとした様子で姿を現す。年上のメロンに怯えているのだろうか。

 俺と試合した時はどれだけ罵声を浴びせても寧ろ気楽そうにしていたのにおかしいな……?

 

「メっ、メロンさん、よろしくお願いします……」

「ああ、よろしくねえ。お遊びだけれど、本気で行くよ」

 

「いや、大人気な……」

「また睨まれますよ」

 

 慌ててサイトウの後ろに隠れると、二人は距離を取って試合開始の合図を待つ。

 番組が呼んだリーグスタッフの審判が二人の間に立ち、双方にルール確認を行う。

 

「……それでは、両者の合意も取れましたところで試合を開始したいと思います。

 ――試合、開始っ!」

 

「行きなさい、【編集――じゃなくて、ミミッキュ!」

「ム、ムウマージ、お願いします……」

 

「アイツ、やりやがった!」

「私たちは何も聞いていません――メロン選手の先鋒はミミッキュ、オニオン選手はムウマージを繰り出しました」

「スペックだけ見るとミミッキュにやや有利って感じだが、ゴーストタイプの扱いに関しちゃオニオンの方が断然上だ。そこをどうメロンが覆すかだな」

 

 お互いにトッププロのトレーナー。敵のポケモンを目に入れた瞬間、頭の中で指示を固める。

 

「ミミッキュ、プランβだよ!」

「ムウマージ、めいそうはしなくていいので守りながらじっくり攻めて下さい……」

 

 メロンの掛け声と共にキビキビとした動きで攻め始めるミミッキュ。これだけの動きを1時間で仕込めるのは流石メロンと言ったところか。

 対するムウマージは、ゴーストタイプさながらの動きで時折姿を消しつつ、攻撃を上手く躱し続ける。

 

「そこだよ、『かげうち』!」

「『まもる』です……」

 

「中々激しい動きをしていますね。現状、カイさんはどちらが有利と見ますか?」

「うーん。ミミッキュが段々と削れてきてるが、もちものがフィラのみだからな。食った瞬間に形勢は逆転するだろ。そこをオニオンがどう凌ぐか、ってとこだ」

 

「今です、『マジカルリーフ』」

「根性見せなあ! 『じゃれつく』!」

「!」

 

 やはりゴーストタイプの扱いはオニオンに一日の長があるか。的確な指示でミミッキュを削り続け、遂に技の直撃を食らわせる。

 しかし既に疲労困憊、といった様子であったミミッキュであったが隠し持っていたフィラのみを食べると共に体力を大幅に回復。技の直後で隙を見せたムウマージに大技を叩き込む。

 

「……っ! ムウマージ、下がって守りに集中。落ち着いて、まだ全然余裕はある……」

「させないよ! 『トリックルーム』!」

 

 ミミッキュが顔を上げて体を震わせると共に、空間が歪み始める。

 その歪んだ構造を理解できるのは、歪めた本人以外に存在しない。ムウマージは混乱した様子で辺りを見渡す。

 

「珍しい技が出ましたね。エスパージムの人がたまに使ってくるのを見ますが、対処には中々困ります。

 あ、そう言えばカイさんもこの前キバナさんとの試合で使ってましたよね」

「そうだな。素早く動くポケモンにとってはかなりの障害だが、俺の使うはがねタイプたちはあんまし動かねえ。だからそこまで困りもしないってことだ」

 

「大丈夫、歪みが戻るまで守り続ければ変わらない。『まもる』……」

「そんなに暢気で大丈夫かい? ちょっとゴースト同士じゃ分が悪いようだからねえ、逃げさせてもらうよ! 交代、ミミッキュ!」

 

 ムウマージが守りに入った瞬間、ミミッキュがボールの中に吸い込まれていく。

 手慣れた動きで取り出した2個目のボールから出てきたのは――

 

「出番だよ、ハッサム!」

 

「Giaaaaa!!」

 

 はさみポケモン、ハッサム。むし・はがねという優秀な組み合わせのタイプを持ち、かつての対戦環境においては最上位近くに君臨したこともある強力なポケモンである。

 

「ハッサム、ですか」

「俺も結構使うポケモンだが……余りトリックルームとはマッチしてないように思えるな。空間の歪みを全く気にしないという程動かないポケモンじゃねえし、どっちかと言えば素早く動いて敵の先手を取りに行く『バレットパンチ』を持ち味とするポケモンだ」

「なるほど。つまりメロンさんのトリックルームには別の意図があると?」

「うーん……どうなんだろ」

 

「ハッサム、位置取りは覚えてるかい? 行きな、『れんぞくぎり』!」

「Giiaa!!」

 

 背中の羽をはばたかせながらムウマージに襲い掛かるハッサム。

 

「あんな動きしてちゃ、すぐに歪みで引っ掛かるはずだ、が……?」

「……何と。かなりスムーズに歪みを躱して攻撃していますね」

 

 動きを妨害されるムウマージに対し、華麗に攻撃を仕掛け続けるハッサム。エスパータイプでもないのに、『トリックルーム』が見えている訳はない。何かしらの仕掛けがあるはずである。

 

「……そうか。メロンの奴、ほんとにすげえな」

「おや。ハッサムがあそこまで動ける仕組みがわかりましたか?」

「ああ。言ってみれば単純だ。アイツ、さっきの時間で()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ」

 

 俺の言葉に、らしからぬ驚愕の表情を浮かべるサイトウ。

 恐らくだが、メロンはミミッキュの作り出す空間の歪みを1つのパターンに絞り、その中でポケモンたちに動く訓練をさせたのだろう。

 俺もトリックルームを使うパーティには似たようなことをさせているが、1時間でそれが出来るとは凄まじいの一言である。

 

「まあ見た感じ、歪みのパターンは結構単純っぽいが……どんだけスパルタやったんだアイツ」

「これは少々オニオン選手にとって不味い展開ですね」

 

 指示も上手く行かず、一方的に嬲られるムウマージをじっと見つめるオニオン。

 やがて、ムウマージが弱り切ったところでオニオンが口を開く。

 

「ムウマージ、僕の指示に従ってください……『 右 へ 』」

「!」

 

 オニオンが何かを呟くと、ムウマージはまるで操られているかのように動き始め、完璧にトリックルーム内を移動し始めた。

 

「これ、は……」

「オニオンお得意の霊能力だな。完璧に意思疎通してやがる。見ろ、すぐに逆転するぜ」

 

 先ほどからピクリとも動かないオニオンの代わりに、ムウマージは見事な動きでハッサムを翻弄する。

 完全に形勢逆転だ。オニオンにはもうトリックルームの構造が手に取るようにわかっているのだろう。既に、この空間はオニオンのものになっている。

 

「それにしても、トリックルームの構造を把握するのが早いな。流石はオニオンってとこか。中途半端に構造を単純にしたのが裏目に出た。完全にオニオン側に味方しちまってる」

「こういうのを見ると少しばかり能力者が羨ましくなりますね。何の力もないこの身を不甲斐なく感じます」

 

 何言ってんだコイツ。この前ネットに上がってたジャラランガとのタイマン動画見たぞ。

 

「……やっちまったね。すまない、お前たち! もう少しだけ頑張ってくれ!」

「Giaaa!!」

 

 声を上げて戦うハッサムだが、もはやトリックルームは足枷となっている。

 1時間で急造した力には粗が見え始め、やがて少なくない傷を負っていった。

 

 もう決着はそう遠くない。オニオンのムウマージは段々と力を溜めてその時を待っている。

 

「くっ……ハッサム、『バレットパンチ』!」

「『 か み な り 』」

 

 ハッサムが俊敏な動きでその拳を繰り出そうとした瞬間、透明な壁に阻まれる。もう既に、歪んだ空間を完全に支配していた姿はない。

 動揺によるミス。それは、訓練が完全に終わっていないポケモンにとってはありふれたものだ。

 

 直後、黒雲からの落雷がハッサムを襲う。

 

「――っ」

 

「ハッサム、瀕死状態に陥りました」

「……勝負、あったな」

 

 大体、片方にだけエキスパートタイプのポケモンを渡しているのがおかしい。

 そりゃあ、()()もなると言うものだ。

 

 

 その後メロンは最後まで健闘し、1対1にまでもつれこんだものの、数の有利を取られていた分発生した余裕の差で辛くも惜敗。

 レンタルポケモンによるエキシビションマッチは、オニオンの勝利で終わった。

 

 

 

「メロンさん、オニオンさん、お疲れ様でした」

「ど、どうも……」

「あらサイトウちゃん。そっちこそ実況お疲れ様。ところで相方のクソガキは? ちょっと悪口を言われた気がしてね」

「カイさんなら『悪寒がする……オカンだけに』とかクソつまんない台詞を残してどこかに行ってしまいました」

「あ、そうなんですか……。カイさんのリーグカード、スーパーレアが出たので自慢したかったんですけど……」

「……カイさんって、オニオンさんと仲良いですよね。やっぱし年齢差が……」

「子供は子供と遊ぶのが一番だからねえ」




次回は掲示板回です。

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