呉の枯桜並木   作:舌百

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暁のなき暮れ

あの着任式の後、執務室に戻り先程の戦力把握の続きをしていた時、特三型の資料が一番艦から四番艦まで見つかった。資料というのは機密性の保持のためにその鎮守府に着任している艦娘のもののみが本部から送られ、轟沈した時には回収される。ということはこの鎮守府のどこかしらに、先程の場にいなかった残り一隻(ひとり)がいるというわけだ。

少し探してみようかと思い立ち上がろうとした時部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「あー、好きに入れ。」

そういうとドアがゆっくりと開き、茶色の髪を後ろで縛った幼な子が入ってきた。

「え、えと…その、電…です。」

オドオドとしてこちらの顔色を伺うように話すその様は虐待を受けた子供のようだった。

「おう、よろしく。まあそんな畏まってないでリラックスしてろ。そっちのが俺も指示を出しやすい。」

「は、はい。わかりました。」

その少女はビクビクしながら執務席前のソファに座りピッタリと足を閉じて背筋をただした。

「おい。」

そう声をかけると肩をビクつかせこちらに顔を向けた。

「はぁ…そんなビビるんじゃねぇよ。俺が悪いことしてるみたいじゃねぇか。まあそんなことはいい、お前の姉妹艦の暁ってどこにいる。」

ちょうどいいと思い、そう尋ねた。彼女は暁の姉妹艦だからだ。

「え、と…その…あの…暁ちゃんは、今部屋から出られないです…」

ドモりながらではあるがしっかりとそう伝えてきた。部屋から出られない、それはつまり前任のあれに酷い目にあったということだろう。その状態で戦場に出してもどうしようもない。時間と姉妹艦が解決するだろうと思い干渉はやめることにした。

ふぅ…とため息をついた時自身の目の前に影が立っていることに気づく。

「し、司令官さん…その、お願いしても、いいですか…」

「あ?まあ俺にできることなら構わねぇよ。」

今にも泣きそうな顔で、それでも泣くまいと努力した顔のその少女は頭を下げて、

「その、えと…暁ちゃんを助けて欲しいのです!」

「助けてほしい…?そういうのは俺より姉妹艦のお前らのが…」

「それではダメなのです!」

俺の言うことを遮った、腹の底からの訴えは気迫がこもっていた。

「あ、えと…す、すいません…その…」

しかしその直後、しまった、と思ったように一気に頭を上げてまたおどおどとし始めた。

「まあいいぜ、ほらこっち座れ。」

目尻に溜まった涙を軽く拭ってやり、ソファに誘導し対面に座る。

「それで、さっきの話なんだが暁は助けてやる。どちらにせよいずれかは戦力として必要になる、それが早くなったのは俺としてもありがたい限りだ。」

目の前の少女はその言葉を聞いて安堵したように見えた。

「さて、なんで姉妹艦じゃダメなんだ。」

「えと…雷ちゃんが暁ちゃんにつきっきりで、その、私たちも部屋に入れなくて…それで…」

また泣きそうになっている。不甲斐なさを悔いる涙なのだろう。

「なるほどな、んじゃあ知る限りの暁についての情報を教えてくれ。今どこにいるのか、なんでそんなことになったのか、そしてどう助け出すのか。」

「わかりました…場所は私たちに割り当てられた元々響ちゃんと暁ちゃんのお部屋に一人でいるのです。それで、なんでそうなったのかは話すと長くなってしまうのですけど良い…ですか?」

「あー構いやしねぇよ。ほらゆっくりでいい、話してみろ。」

「ありがとうございます…えっと、暁ちゃんはあの人のお気に入りでしかも私達を守って私達の分まで乱暴されて…本当は絶対に辛いのに、それでもお部屋だとお姉ちゃんだもの当然だわって…こんなの平気よって笑ってて…でもある日、響ちゃんが襲われそうになってたのです、その時暁ちゃんが…体に激痛が走ってるのにあの人のことを突き飛ばして、それであの人が怒って暁ちゃんのことをいっぱい殴って…そこからお部屋に篭ってずっとごめんなさいって謝ってて…」

そこで耐えられなくなったのか少女は極限まで声を殺して泣き始めた。

胸糞の悪い話だ。

おそらくだが食事もとっていないんだろう。なにせ艦娘は食事を取らなくても死ぬことはない。空腹や不快感を感じたりやせ細ったりはすれど戦闘が最低限可能なレベル以下には下がらないようになっているらしい。

「そのくらいで大丈夫だ。想像以上にきついが悲しんでても何にもならない。とりあえず特三型の部屋に案内してくれ。」

 

 

この鎮守府の闇は思ったよりも深そうだ。

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