五等分の園児   作:まんまる小生

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ブラコン拗らせ女優という後の風評被害の原因

 

 

 

 上杉風太郎が五つ子が通う旭高校に転勤した後の、とある休日の一時。

 

 古い縁を辿って、風太郎は学生時代に働いていたケーキ屋を訪れていた。

 

 人気店の割に今日は客が少なく、カウンターの席で店長と雑談をできるぐらい穏やかなものだった。

 

 

 

「近くに引っ越してきたんだって?」

 

「ええ、勤め先が変わって出戻りです」

 

「いいじゃないか、そのほうが親御さんも嬉しいだろう

 僕もさ、後20年か30年で親の老後を看ることを考えると

 実家の近場で腰を落ち着けたほうが後々楽かと思っててさぁ…」

 

「そんな大げさな話ではありませんよ

 それに前の職場と違って、数年後にはまた転勤なんだ」

 

「ああ…そうなのかい

 じゃあ家が近いうちに親孝行しておくといいさ」

 

「言うて元から近かったんですけど

 まあ、実家のことはぼちぼち」

 

「結婚急かされてそれどころじゃない…って?」

 

「うるさいよ、店長」

 

 

 

 自分が保護する教え子、二乃がバイトで世話になっている店だ。

 

 上司を相手にするように畏まった態度を求められると思いきや、この店長は十年以上前のアルバイターを覚えていた。

 

 その癖、こちらの事情を知っては親身になってくれている。風太郎にとっても頼れる縁となっていた。

 

 姦しい子供たちのいない空間は静かで心休まるもの。時間が経つのはあっという間だった。

 

 気づけば周りのスタッフは後片づけの作業を始め、客もちらほら退席を始めていた。

 

 

 

「まだ昼間…もしかしてもう閉店ですか?

 すみません、居座ってて…お会計」

 

「ああ、いいよ君はそのままで

 今日は午後から休みだから

 映画の撮影で店を貸すことになっているからね」

 

「はぁ…番組で取り上げられるだけでなく、映画の舞台にですか…へぇ」

 

「主演は今を時めく みぃちゃん、りなりなやこんタンも出るらしい

 生で見れちゃうかもよ」

 

「詳しいですね…」

 

「でも僕のマイフェイバリットはズバリ、タマコちゃんだ!」

 

「タマコちゃん…? え…タマコ?」

 

「そうだけど? 知ってるのかい?」

 

 

 

 タマコ…確か以前、とある女優見習いがそんな名前で役を貰っていたような。

 

 店長に訝しむ目で質問される。あの二乃が務める店の店長だ。仮にタマコがうちの長女だとしたら気づくはず。

 

 そもそもモブの名前なんて被って当然。タマコがどこのどいつか知らないが、あの慢性怠け者ではないだろうよ。

 

 

 

「いえ恐らく人違い…

 そんな芸名で女優してるんですか」

 

「いや、今回の映画の人物名…

 そもそも、どうも今の芸名と本名は別みたいでね」

 

「よくある話ですね

 それで、そのタマコの女優が何なんですか」

 

「僕はあまり詳しくないんだけど

 まだ無名ながら、その演技力がようやく評価されつつあって、映画の出演回数も増えてきていてね

 スタイル良し、器量良し、聞けば苦労人という背景もあって尚良し

 彼女は輝く宝石の原石だ…僕たちは新時代を切り開く若者のプロローグを読んでいるのさ」

 

「そんなコアな情報どこから…」

 

「しかもだ…聞いて驚け

 彼女は僕の店のファンで、新作が出れば毎回紹介してくれるんだ!

 昔から通っていたとあれば、応援せずにいられないだろう!

 無名の頃から応援していたよ…と、あの子がデビューした後に祝電を贈るのが夢なんだ」

 

「はぁ…

 …婚約しておいてアイドルに現抜かすってどうなんだ、あんた子供いなかったっけ?」

 

「この前麺棒でぶっ叩かれたよ…

 まあ彼女、今回の映画では早死になるらしいんだけどね…けっ」

 

「推しが死んだ後は続き見ない人でしょ、店長」

 

 

 

 妻子持ちの男がアイドルに夢中になっているとは…商売しか考えていなかった野心の塊も丸くなったな。

 

 客が一人残らず帰ってしまい、スタッフは時折俺に会釈して忙しそうに駆け回っていた。

 

 もう少しコーヒーを飲むつもりだったが、映画の撮影が始まれば落ち着けるはずがない…

 

 

 

「撮影ってなると邪魔になるので、俺は帰らせてもらいます

 またきます」

 

「そうかい」

 

 

 

 普段生徒ばかり相手にしている生活を送っている身としては、プライベートで年上との交流は得難いものだ

 

 会計を済ませ、優雅な休日を過ごすべくこの後の予定を考えながら出口を向かうと…ちょうど来客と鉢合わせした。

 

 

 

「失礼します 今日はよろしくおねがいします」

 

 

 

 閉店した店の駐車場に車が数台。機材を手に持つ人に道を譲るとぞろぞろと中に入ってきた。

 

 店内の空気がたちまち変わる。もはや喫茶店の憩いの場ではない、全く別の職種の現場に変貌していくのだった。

 

 帰宅するタイミングを失った俺は渋々店長の横へ避難した。

 

 

 

「来た サインもらっちゃお」

 

「ミーハー…」

 

「わーおいしそー!」

 

「よろしくお願いしまーす」

 

 

 

 ウキウキ気分でサイン色紙を持つ大の大人に呆れつつ、やってきた女優陣を見やる。

 

 若い…学生だよな、あの子たち。大学か高校か…仕事人の雰囲気よりも幼さが先に出る子たちだった。

 

 店長はどの子が誰なのか見分けることができるようだ。生憎俺は世俗に疎いというか…芸能関係はサッパリだ。

 

 一花が見たら対抗心を燃やすだろうか。あいつは仕事に対しては真面目だからな。

 

 

 

「よろしくお願いしまー

 すぅ…」

 

 

 

 同じ学生がこの土日に、学業と両立させて立派に働いていると知ったら悔しがるだろうな。

 

 怠けているあいつに教えてやろう、あっはっは。

 

 遅れてやってきた子なんて、仕事に慣れているのか落ち着いた様子で現場に到着してきた。

 

 ギャラリーの俺たちにも調子を崩さず挨拶を………

 

 俺を見やって固まる女優の子は…見覚えのある顔だった。

 

 髪を両サイドに結んで、普段の印象とはだいぶ離れた…どこか幼い印象を含む子は次第に顔を赤くしていった。

 

 

 

「…」

 

「…」

 

「ん? どうしたんだい上杉君」

 

「…店長、気づいてないの?」

 

 

 

 …俺が仕事を休んでいる日に、五つ子の長女は立派にお勤めに励んでいたらしい。

 

 どう見ても一花。中野一花だ。

 

 どうやらこの店がこいつの撮影現場となったらしい。この後この子はカメラを前に役を演じる。

 

 俺がいては迷惑になるか。職場の人に身内がいると認知されるのも気恥ずかしいだろう。とっとと退散するべきだった。

 

 

 

「失礼します

 映画の撮影、頑張って下さい」

 

「へ? は、はい…っ

 お、お疲れ様です」

 

 

 

 一花の横を通り過ぎて、社交辞令の労いの言葉を送る。

 

 俺の態度に一花は驚くも、安堵と緊張が入り混じった顔で急いで頷いていた。

 

 

 

「あれ? 一花、顔赤くなってる?」

 

「もしかして、こういう人がタイプ? 意外ー」

 

「え、一花ちゃんのタイプ――ん? あ、あの人は…一花ちゃんの!?

 ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 

 

 賑やかになる店を出た直後、聞いたことのある声に呼び止められた。

 

 振り向けば、一花が世話になっている会社の社長さんだった。

 

 一花の仕事に付いていたのか…? まさか社長直々に。

 

 五つ子が世話になっている相手に俺は頭を下げる。

 

 俺の堅苦しい振る舞いに社長は苦笑しつつ、同じように頭を下げられた。

 

 

 

「ご無沙汰しております

 一花がいつもお世話になっております」

 

「いいえ、こちらこそ

 一花ちゃんから聞いたよ、寄贈の品のワイン気に入っていただけたようで何よりです

 良かったら今度一緒に飲まない? 良いお店知ってるから」

 

「結構です」

 

「んー つれない

 それはそうと…もしかして…まさかと思うんだけど…」

 

 

 

 社長は一花に時折目配せしながら、声を潜めて尋ねてくる。

 

 店外にいる俺と社長の…保護者と仕事の責任者による密談を、店内の少し離れた所から一花は固唾を飲んで観察していた。

 

 

 

「一花ちゃんの仕事の視察に来られてたり…?

 やっぱり女優業は反対? 事によっては連れ戻したり…?」

 

「ご心配なく、偶然ですよ

 俺はここの常連ですから」

 

「あぁ良かった、一花ちゃんは僕が今一番注目している若手女優なんだ

 今じゃあご覧の通り、僕だけでなく芸能界からも評価され始めてる

 以前お話しさせていただいた事に嘘偽りなく、必ず一花ちゃんを立派な女優に育て上げますから安心してほしい」

 

「そう畏まらなくても

 その仕事でちゃんと給料を得ている身ですし、俺が言っても今更聞かないでしょう」

 

「いやね…彼女は君が反対しようものなら、潔く諦めるしかないと言っていたのでね」

 

「しゃ、社長! もう準備始まってるから、私先行ってます」

 

「あ、あれ、一花ちゃんっ?

 ごめんなさい、いつもなら礼儀正しい良い子なのに」

 

 

 

 いつの間にか先の距離よりだいぶ近づいていた一花が声を荒げて妨げてきた。こいつ聞いてたな。

 

 一花の態度に俺ではなく、なぜか社長が頭を下げる。それ俺の仕事じゃね?

 

 それほど一花に辞められたら困るということか。どうもあいつの能力は高く買われているようだ。

 

 去っていく一花を見やっては溜め息を一つ吐いて、社長は店内へと通じるドアを大きく開いた。

 

 

 

「一花ちゃんの仕事を見ていってはいかがですか、上杉さん」

 

「…」

 

「もし本当にお認めになっていらっしゃるのなら

 その仕事っぷりを見て太鼓判を押してもらったほうが、一花ちゃんは心置きなく仕事に集中できると思うから」

 

「…随分と気を遣ってくださっているようで

 わかりました、お力になれるのなら拝見します

 お気遣い賜り、ありがとうございます、社長」

 

「お礼はいいから、今度一緒に飲もうよ」

 

「結構です」

 

 

 

 厚かましいお誘いは蹴って、社長のご厚意に感謝して店へ戻った。

 

 

 

「カメラチェックしまーす」

 

「ケーキ用意してもらってる?」

 

「照明どこ置きましょ?」

 

 

 

 店の中は既にケーキ屋のスタッフとは別の者が場を支配していた。

 

 撮影機材は一つのテーブルへ向けて集中。あの一席がこれから映画の世界の一部になるようだ。

 

 風太郎が映画の制作陣に興味を向けている横で、うら若き役者たちは全く別の話題に盛り上がっていた。

 

 その姦しい話に一花は珍しく恥ずかしげに、余裕を失っていた。

 

 

 

「一花、さっきの人もしかして一花のお父さん?

 クールでかっこいいねって言うか…若くない?」

 

「ち、違うよ、お父さんじゃなくて近所のお兄ちゃん…みたいなの」

 

「でもさっき、一花の社長さんがさ

 お世話になってますーって感じだったじゃん」

 

「あー あはは…何と言えばいいのやら…

 保護者かな? うん、保護者保護者」

 

「あ…前に言ってたお母さんの後の…?」

 

「そうそう お母さんが亡くなった後にね、遠くから来てお世話しに来てくれたの

 最近近くに引っ越してきたんだって、ここで会ったのもたまたまだって」

 

「うわ、えっ ちょっと待って

 それって血の繋がりない他人なんでしょ?

 うわぁ すっごい優しい人じゃん」

 

「そっか…なんかごめんね、ずかずか聞いちゃって」

 

「ううん、気にしないで

 だからタイプとかじゃないから、誤解はしないでほしいかなー」

 

「いや、そこは怪しいけどね

 それこそ映画みたいだし、ハッピーエンドまで行くでしょ」

 

「逆に余計に気になっちゃったまである

 実際あんな良い人が面倒看てくれたら他の男霞むでしょ、一花の恋愛観聞いてみたいなー」

 

「こらこら、詮索しちゃダメだってば、家庭の事情ってもんがあるでしょーッ」

 

「…あはは…私の恋愛観、か…」

 

 

 

 身内の来訪に気恥ずかしい思いをする女子高生がいることを知ってか知らずか、風太郎は一花とは接触しなかった。

 

 撮影の準備が執り行われ、ついに撮影が始まるようだった。女優たちがテーブル席に付いて監督の指示が飛び交う。

 

 俺とケーキ屋の店長、そして一花の勤め先の社長は、遠目から若者の仕事を見学していた。

 

 

 

「何だ、少しは興味湧いた?」

 

「…店長、あのタマコ」

 

「タマコちゃんがどうしたって?」

 

「…いや、何でもないです」

 

 

 

 同じ五つ子の二乃が働いているのだが…店長は一花の存在に気づかなかったようだ。何度か来店してるのに…

 

 それ程、今のあいつの成り具合が変わっているということか。確かにいつもの一花とは違った印象、髪型だしな。

 

 そんな俺のジレンマを別の捉え方をしたのか。店長はニヤニヤと笑って上機嫌になりだした。

 

 店長だけでなく反対側、隣に立つ社長までも。何でこいつら俺の両隣を占拠しているんだ…一人で静かに見ていたいのに。

 

 

 

「君もファンになったのかい?」

 

「いえ」

 

「映画が公開された後にね、SNSで発信してくれると後の仕事に繋がったりするんだよ

 清き一票を頼むよ、上杉さん」

 

「俺SNSやってないんで」

 

「僕らも全力で拡散します! うちの店の総力を挙げてタマコちゃんを押し上げてみせます!」

 

「会社絡みは八百長疑惑になるでしょ」

 

「あ、じゃあ居酒屋なんかによくあるサインを置いてもいいかな?

 あれって後からじわじわと効果出るんだよ、是非お願いしたい」

 

「喜んで、入り口前に飾ります

 今度うちも取材あるんでその時に紹介します!

 あ、ついでに二号店の分ももらっていいですか」

 

「この大人たちめんどくさっ!」

 

 

 

 欲に忠実な大人たちだった。若者をのし上げようとすることに愉悦すら感じていそうだ。

 

 

 

「リハーサル開始しまーす」

 

「それではシーン37の4」

 

 

 

 一花と二乃にどんな顔をしてこの事を話せばいいのやら。しかしこういう大人は出世しやすいのも事実…複雑だ。

 

 そんな憂いは切り捨てて、緊張感が増した空気に俺たちは私語を慎む。

 

 大人たちがカメラとマイクを役者たちへ向ける。

 

 

 

「アクション」

 

 

 

 女優である少女たちもその空気に真剣みを帯びつつ…女子高生らしい呑気な雰囲気を醸し出していた。

 

 一花は指を頬に当て、ゆっくりとその口火を切った。

 

 

 

「ここのケーキ屋さん一度来てみたかったのです~」

 

「…」

 

 

 

 …は?

 

 第一声。なぜか保護者である俺が手に汗握って見守っていたところに…間抜けな調子の声が響いた。

 

 一花…いやタマコ? あいつ、あんなバカキャラみたいな声出せたのか。

 

 

 

「タマコ! そんなこと言ってる場合じゃないよ」

 

「え~ なんのはなしです~?」

 

 

 

 …煮え切らない。こう…鈍くささと少しイラっとくる感じが絶妙というか。

 

 これはこれで印象に残りやすいか…? 一体何の役を担っているか知らないが。

 

 

 

「…社長さん?」

 

「…」

 

 

 

 俺の一抹の不安に社長に問を投げかけるが、上司は静かに見守っている。

 

 その目は一花の一つ一つの素振り、仕草、演技を事細かく捉えているようだ。

 

 

 

「それ 呪いのリプライだよ」

 

「送られると死んじゃうっていう…」

 

「う~ん タマコには難しくてよくわからないのです~」

 

 

 

 社長を見習ってタマコを見守る。が、やはり不安だ。あいつ、あんなキャラじゃないだろ。

 

 静かに見ていればいいものを、俺はつい不満を感じてしまった。

 

 正直…学生が大人が入り混じる仕事をする上で…見合わない、不要、望まない物を押し付けられることは少なくない。

 

 教職に就いてからそのような教え子を何度か見てきた。正直、良い気はしない光景だった。

 

 

 

「配役間違えてるだろ」

 

「上杉さんはこれまでの彼女の配役、どこまで覚えているかな?」

 

「…ゾンビから逃げる民間人、生意気な不良生徒、病持ちでも明るい女の子

 弟の為に妙な契約交わしてモンスターになった女子高生、主人公の仲の良い友達C」

 

「そう、どれもバラバラな個性を演じ、彼女はやり遂げてきた

 僕は彼女が、幅広い役を演じられる女優だと信じてる」

 

「…共通点は、全部即効で死んでるところか」

 

「そ、その点は目を瞑って」

 

 

 

 社長が見定めていたのは、どんなに小さな仕事でも期待を越えた成果を残す一花の信条、といったところか。

 

 そもそも期待すらされない仕事があったかもしれない。が…それはこの社長が許すはずがなかった。

 

 …冷静に見れば、一花は間抜けで天然で馬鹿そうなタマコを見事に演じ切っている…と言える。

 

 少し悔しい。キャリアと職種が違うとはいえ…一花を見る大人としての考えはこの人には完全に劣っていた。

 

 半ば目を逸らす俺に、社長は一花を見つめたまま、一つ教えてくれた。

 

 

 

「彼女、仕事仲間との談笑の中で君のことをよく話すよ」

 

「え」

 

「新人への質問でよくあるんだよ

 目標は? 有名になったら何をしたいか? 誰に憧れているのか?

 その殆どが君の話なんだよ、一花ちゃん」

 

 

 

 社長の声に。問う前に俺は一花を見やった。

 

 一生懸命に仕事に務める彼女の姿を見た。社長は俺の反応など関係なく続けた。

 

 

 

「高校生にしては高いお給料、何に使っているのか聞けばさ…

 君へのお礼がしたいって

 演技で物にしたら最高な程に…恥ずかしそうに笑うんだよ

 買い物に付き合ってみれば、打って変わって真剣な顔をして君へのプレゼントを選んでてさ」

 

「…」

 

「快く受け取ってもらえなかった時は落ち込んでたりね」

 

「そうですか」

 

 

 

 男に貢ぐな…と。一花のプレゼントを断った日があった。何度も…

 

 俺は爺さんに代わって面倒を看る監護者であって、社会人の年上で。

 

 男だから、一方的な気持ちは受け入れられなかった。そうやって一花に突き返した。

 

 一花は苦笑いして、「ごめんね」と贈り物を手に帰った。悲しくない訳がなかった。

 

 かといって…承諾も、はっきりとした拒絶もできずにいた。

 

 

 

「これは社長としてではなく、一児の父親としての助言

 見栄はね、張っていい時とダメな時があるの

 それは時に優しくも、棘が付いた嘘になる

 優しさが痛みへと変わる、家族を誤解させてしまうから」

 

「…」

 

「あんな良い子、今時いないよ

 月並みだけれど、あの子を大事にしてあげてほしい」

 

「…はい」

 

 

 

 己の不手際を心優しくも咎めた年長者の言葉に、俺は恥入る気持ちだった。

 

 恐れ入る。ここで頭など下げられない。下げれば仕事に務める一花に見られてしまう、その集中を欠いてしまう。

 

 隣に立つ社長を見やれば、ウィンクをして俺の背を押してくれていた。頼もしくも…背筋の悪寒が止まらないんだが。

 

 

 

「…」

 

 

 

 …台詞が止まった。

 

 

 

「どうした?」

 

「次、一花だよ」

 

 

 

 明らかに映画の撮影の台詞とは異なるもの。

 

 何事かと社長と俺が目を配れば、一花がこちらをじっと見ていた。

 

 

 

「あっ すみません

 少しだけいいですか」

 

 

 

 …一花の休憩を挟む一声に、社長は俺に苦笑してこの場を離れた。

 

 撮影、止めていいのか? 疑問が浮かぶ俺を尻目に、横にいた店長まで去って行った。

 

 …どうも、いや、やはりと言うべきか。俺がいちゃまずかったらしい。

 

 その証拠に撮影のスタッフ陣が見ているというのに、一花は俺の元まで詰め寄ってきた。

 

 俺が頭を下げようが何しようが、一花は俺という身内が気になって仕方ないらしい。

 

 まだまだ甘ちゃんだな…と呆れながら、俺は一花に引っ張られるがままフロアを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンッ 乾いた音が狭い倉庫の中に響く。

 

 俺の顔の真横に手を伸ばして、一花は壁ドンを迫ってきた。これも演技で身につけたものか…

 

 もっぱら、この手の行為はされる側が赤面する流れだ…が、役者としてまだ未熟なせいか。

 

 顔を真っ赤にして震えているのは壁ドンしているほうだった。

 

 

 

「何だよタマコちゃん」

 

「フータロー君

 恥ずかしいから見ないでくれるかな?」

 

「恥ずかしがるような役やんなよ

 全国民に公開するってのに、何を気にかけてるんだタマコちゃん」

 

「あーもうっ! 絶対に馬鹿にしてる! めっちゃ笑ってる!」

 

 

 

 タマコがしょうもない人間だと自覚しているらしい。

 

 先の恥ずかしい演技に一花は悶えていた。自分でやったくせに。

 

 …俺がいなければ役に成りきっていたいただろうに。これに関しては俺の方に落ち度があるか。

 

 一花にプロ意識を強要させるのは社長であって俺ではない。その社長が諭しているのなら俺から責め立てるのはおかしな話。

 

 

 

「笑ったりしねーから、おまえはおまえのやりたい事に励めばいい

 頑張れよ、お姉ちゃん」

 

「…」

 

「ま、俺が笑わなくてもDVDが出れば五つ子共々で鑑賞会が開かれるから覚悟するんだな」

 

「マジでやめてくれる?

 長女の威厳がお亡くなりになっちゃうから お姉ちゃん頑張れない」

 

「…社長の手前、言わなかったが

 俺が反対すれば辞めるんだってな?

 俺の意見に耳を貸してもらっておいて何だが…その程度の覚悟なら考えを改めるべきなんじゃないか」

 

「…仕事中にお説教か…」

 

「まあ聞け、ぶりっ子」

 

「ぶ…はぁ

 あんまり時間ないから手短にね」

 

 

 

 社長からのお節介から知った一件。一花にとっても快くない話なのだろう。露骨に嫌な顔された。

 

 あんなに真剣に務めておきながら、辞めるかもしれないと考えるのは歪とも言える。

 

 一花には仕事と学業を両立してもらわないといけない。ならばその憂いは教師である俺が手を差し伸べるのは然り。

 

 …どう言い繕っても、説教だな。嫌な顔されるに決まっている。

 

 

 

「女優の卵止まりでリタイアする者は多いと聞く

 テレビに取り上げられ、映画からドラマ、バラエティまで出演する者はほんの一握り

 しかもおまえの場合、学力を維持しなければ進級も危うい

 大抵は融通の効く学校に通うか、留年覚悟か…女優の道一本でいくか

 おまえはでかいハンデを背負って挑むわけだろ」

 

「そもそも高校辞めるって選択肢取ったら

 …私、勘当されない?」

 

「おまえ…俺を何だと思ってやがる」

 

「鬼教師

 竹林先生や武田先生から色々と聞いてるんだからねー」

 

「…前の職場の話は一旦置いといて」

 

「生徒からモテたって聞いてるよ

 まあ、実際に告白されたってフータロー君言ってたし、知ってたけど

 ちょっと多すぎませんかね、せんせ ファンクラブって何?」

 

「ええい、永遠に話が脱線するから少し黙ってろ」

 

 

 

 説教に抗ってくる不良生徒が憎たらしい…おまえら竹林とは仲悪いんじゃなかったのか。

 

 …社長からの暴露を聞いた手前、それが一花のジェラシーだと思うと、少し気恥ずかしい。

 

 しかし恋愛事にかまけているなど、それこそ愚か者のすること。今の一花に2つどころか3つの両立は不可能だ。

 

 仕事に対して、俺からの評価に臆しているようじゃ…恋愛なんてできやしないんだぜ、一花。

 

 

 

「とにかく、おまえが意思を固められない要素は多い

 一度決めたことに挑み続けることが、賢くて勇敢って訳じゃない

 学生という将来への分岐を秘めている今は、一度考え直すのも悪くはない」

 

「…何度も考えたよ

 それこそフータロー君と再会してからは将来のことばかり

 でも、だからこそ…私はこれしかないと思った――きゃふんっ!?」

 

「これしかないって思い込んでる時点で浅はかだっつうの

 そんな長所の少ない人間、他の奴らとの競争で敗北するぞ」

 

「うぅ…長所ないもん…だから少しでも早く仕事しようと…」

 

「おまえな…」

 

「二乃みたいに料理上手くないし

 三玖みたいに学科一つに長けてるわけじゃないし…歴女って長所になるし…

 四葉程運動神経良くないし

 五月ちゃん程真面目じゃないし、食べれないもんなぁ…

 はぁ…今になって四人の特徴が羨ましいや」

 

「…おまえ、仮にあいつらが女優目指すってなったら先越されるんじゃね

 演技力なら三玖もズバ抜けてるしよ」

 

「言わないでー! それ一番笑えない冗談だから言わないで!」

 

 

 

 図星かよ。姉妹の参戦に戦々恐々する長女だった。

 

 極めて私生活はだらけている長女だ。演技力を取り上げられたら武器になるものが無い。

 

 今時、修羅の国となっている芸能界において、特徴の無さは致命的だ。何か生み出せたらいいんだが…

 

 女優として成功した後にも壁が待ち受けていることに、一花は肩を落としてドアのほうへ向かっていった。

 

 もうそろそろ撮影が再開される。それはいいが…あんな調子で大丈夫か、タマコ。

 

 

 

「あはは…あー…でも良い感じかも

 頭空っぽになったし…これが危機感ゼロのタマコの心境なんだね

 一歩女優として成長した気分だよ、フータロー君」

 

「もう死にに行くのか…? そろそろ長生きする役貰ってこいよ」

 

「今は社長に数こなせって言われてるから…

 あぁ…でも、死ぬ演技力なら同世代の子には絶対負けないね」

 

「それをものにしたところで、下手したら一生主演貰えなくなるぞ」

 

「終盤に死ぬヒロインをやればいいんだよ」

 

「おまえはそれでいいのか…」

 

 

 

 死に際の演技に自信身につけられても用途が限られているぞ…

 

 しかし、一花は一つの長所にゆるぎない自信を得ていた。

 

 …仮に見合わない仕事や、マイナスとなる出来事に陥ったとしても、一花はプラスへ変えてしまうのかもしれない

 

 俺は一花を束縛してしまっているのだろうか。一花は仕事に対して一途であり、努力家である、勉学はさておいて。

 

 説教は中途半端になって終わった。ドアを開いてフロアに出た一花は、悩みなど振り払って仕事仲間と合流した。

 

 やる気を見せて快闊に笑う彼女だが…その後ろ姿は気落ちしたそれに見えてしまった。

 

 再開される撮影を横目に社長と店長の元へ向かった。

 

 何かをせずにいられなかった。肩を落とす一花の姿を見て、別の意欲が湧いてきた。

 

 

 

「社長、撮影はどのくらい時間かかるんですか」

 

「夕方まではかかるよ」

 

「店長、材料費諸々払うので厨房借りていいですか

 差し入れ作りたいので」

 

「む…まあ多いほうがいっか…

 何を作るのかによるね、僕のと被らせないでくれ」

 

「はい」

 

 

 

 久しぶりに…ちょっとやる気出た。五つ子が頑張っているのなら、この気持ちは必然だった。

 

 タマコがいつ死ぬのか知らんが、俺がケーキを焼くまでは生き延びてくれるだろう。

 

 シャツの袖を捲りエプロンを腰に巻く。厨房を借りて…ケーキを作った。

 

 時々店長に見られながらも完成した。過去に店長に褒めてもらえたもの。

 

 二乃のお気に入りでもある、リンゴのタルトだ。

 

 …作っておいてアレだが…俺がこれを作って、一花に振舞ったと知ったら…二乃の奴怒らないだろうな? 姉妹喧嘩の元になりそうで複雑だった。

 

 

 

「差し入れどうぞー」

 

「ありがとうございます!」

 

「タルトですか? おいしそー!」

 

「…ふ、まだまだだね」

 

「本職と張り合う気はない」

 

「ここでケーキを出す以上、プロ意識を持ってもらわないと」

 

 

 

 撮影現場とは少し離れたテーブルにタルトや皿などを置くと、休憩中の役者…女学生たちがさっそく目を付けてきた。

 

 疲れた時には甘い物が恋しくなる。タルトを切り分けて渡してやった。

 

 物は渡したというのに、少女たち…もとい、一花の友人はその場に残っていた。なんか言われそう…

 

 

 

「一花のお兄さん、ケーキ作れるんですか?」

 

「お兄さん…?

 昔、ここのアルバイトしてたので」

 

「家庭的なんですねー いいなぁ一花

 私もこんなお兄さん欲しかったです」

 

「素人でも、誰かに教わればすぐに覚えられる

 この店はケーキ作りの教室も開催しているから、興味があったらどうぞ」

 

「あはは、作るより作ってもらうほうが嬉しいかも」

 

「でも教えてもらうのもいいかも、一緒に作ったら絶対楽しいもん

 お兄さん、先生役してくださいよー」

 

「あはは…あー

 時に…一花どこに行ったかわかる?」

 

 

 

 何か妙な興味心を向けられていて反応に困る。これはあれだ…妹のらいはの友達相手にも抱いた感情だ。

 

 つまり、お兄ちゃんとっても面倒くさい。とっとと一花を探してタルトを恵んでやるとする。

 

 俺の探し人の行方を彼女たちは教えてくれた。どうやら休憩室を借りて休んでいるらしい。

 

 せっかく作ったのに食べずにいては気分が削がれるというもの。タルトを片手に休憩室へ向かった。

 

 休憩中の一花は寝ていたわけでもなく、疲れた体を休めるわけでもなく、ノートを手に勉強していた。

 

 

 

「…はっ」

 

「何その反応、日光浴していた野良猫か」

 

「いや、頭フル回転してたから本能で糖分を欲してた

 素晴らしいタイミングにケーキが来てお姉さん感激だよ」

 

「勉強していたとは恐れ入る」

 

「ケーキちょうだいケーキ、はよケーキ」

 

「流石五月の身内だな、飲み物何がいい?」

 

「うーん コーヒーかな、カフェモカでもOK」

 

「はいよ」

 

「フータロー君、家の中でもこんな風に甘やかしてくれるとお姉さん嬉しいなー」

 

「別にいいぜ、妹から冷ややかな目で見られることになっても構わないと言うのなら」

 

「自惚れるな、と言ってやりたいけど…絶対に現実になるんだよね…

 持ってきてください、お願いします…」

 

「はいはい」

 

 

 

 一花は咄嗟にノートを隠そうとしたが、来訪者が俺だと知って心なしか安堵していた。

 

 …こいつ、努力しているところ人に見られるの嫌いだしな。恐らく母親絡みから得た考えなのだろうが。

 

 ケーキの差し入れは大好評だった。休憩室から出て、パントリーでアイスコーヒーを作って一花に持って行った。

 

 

 

「はぁ…ふ」

 

「眠たげだな…疲れたか、流石にあのタマコは」

 

「私の時間そんな多くないから、差程疲れてないよ

 でも…正直自習の時間減ってるから」

 

「睡眠時間も削って、休憩の合間もノートと睨めっこか」

 

「フータロー君が専属の家庭教師になってくれたら、もうちょっとやる気出るんだけどなー

 私の部屋で付きっきりで」

 

「生憎今は四葉の成績がやばいので、おまえ後回し」

 

「そーですか、ふーん」

 

「膝ぐらい貸してやるぞ」

 

「いりませーん そんな硬そうな膝枕お断りです

 というか寝てたら起こしてくれる? 近々期末だし」

 

 

 

 普段の勉強会、妹の前だったら甘えた事を抜かす一花だったが…今は己に厳しい態度だった。

 

 こうして見ると、妹の前でおちゃらけたり、怠けたりした姿は理由あっての振る舞いだったのだろうか。

 

 真面目に勉強を続ける一花を、椅子に座って対面から見る。

 

 一生懸命に、不器用ながら努力する子の表情が見える。

 

 

 

「…」

 

「…な、何? 見られてると集中できないんだけど」

 

「いいや」

 

 

 

 見られていることに気づいた一花に非難の目を向けられる。当然っちゃ当然。

 

 一花の咎めに対して、俺は頬杖をついて見続けた。

 

 態度を改めないことに一花は手を止めた。

 

 

 

「フータロー君?」

 

「…おまえ、長所がないと言っていたな」

 

「うん?」

 

「そんなことはない」

 

「…」

 

「見てるとわかる、わかったんだ」

 

 

 

 見積もりが甘くて油断ばかり。寝癖が悪くて努力を毛嫌う怠慢。部屋も汚い自堕落な怠惰。 

 

 一花はだらしないところが多い。

 

 俺の知らないところで努力していることを知らなかったわけじゃない。

 

 

 

「そうだった…今思い出した

 昔、おまえの嘘に騙されたっけな

 存外、素養はあるのかもしれん」

 

「嘘じゃなくて演技って言ってほしいな」

 

 

 

 だがこいつは、一言も己の努力を言葉にしてくれなかった。

 

 他社からの評価、裁定を覆す言葉を持っていながら。

 

 

 

「おまえは嘘つきだから」

 

 

 

 中野一花は嘘つき。

 

 俺にも、姉妹にも…母親にも。皆にも平気で嘘をつく、酷い人間だった。

 

 

 

「思ってみれば…おまえは理由があれば、嘘をつき通せる人間だ

 その為に小細工だろうが、己の欲だろうと、何もかも利用して嘘をついている

 …仕事だと割り切ることで、多くの役を演じ切れるんだろう」

 

「…」

 

 

 

 中野一花は嘘つきだ。

 

 嘘は次第に誤解を招き、誰かを傷つけ、恨みや嫌悪を向けられる。

 

 どう言い表しても酷い行いに変わりはない。

 

 しかし、その嘘の発端を知れば…この子を慮る気持ちが増すだろう。

 

 

 

「優しくあり続けた、その努力が報われる仕事だとしたら

 演技と言う仕事は、どれほど素敵なものになるんだろうな」

 

「…」

 

「…まあ、その…あれだ

 い、良い女優になれるんじゃないか」

 

「…」

 

 

 

 俺は一花を束縛はしない。ただ見てやるだけ。

 

 ドジだからな、一花は。そういう約束だった。

 

 明確に承諾の言葉を告げられた一花は、俯いたままだった。

 

 …その頭がこっくりと…何度も船を漕いでいた。

 

 こいつ…

 

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 

 俺は対面の椅子から立ち上がり、一花の隣に座る。

 

 

 

「…」

 

「…」

 

「…何さぁ」

 

「起こせって言ったじゃん」

 

「…恥ずかし…」

 

 

 

 寝たフリをしていた一花の横顔をじっと睨んでいると、嘘つきは降参した。

 

 そんな可愛くねえ嘘は騙されてやらないな。俺の不適な笑みに一花は不機嫌そうに言い返す。

 

 

 

「今は起こさないで」

 

「勉強は?」

 

「今はできないから」

 

「…なら、寝ちまうか」

 

「え? なに?」

 

「ほら、寝るところねーし」

 

 

 

 そっぽを向く一花だったが、眠いのは本当だったらしい。寝かせろと突っぱねられた。

 

 普段からかってきたり、生意気なお節介…もとい、貢ぎ癖を押し付けてくる仕返しをしてやろうか。

 

 振り向く一花に、椅子を少し引いて自分の太ももを叩いて教える。

 

 一花は一瞬固まって驚くも…周りに誰もいないことを確認して、おずおずと頭を下ろす。

 

 椅子に座る俺の膝の上に、一花は頭を乗せて横になった。

 

 

 

「…」

 

「…」

 

「見ないでよ、もう…っ」

 

「硬い膝枕の感想を聞きたいなー お兄さん」

 

「こんなんじゃ眠れるわけないし、寝心地最悪

 これで寝れるなんて四葉くらいじゃ――」

 

「ふーん」

 

「…何?」

 

「何でもねー いいから寝ちまえ、休憩終わったら起こしてやるから」

 

 

 

 流石に覚えてはないか。俺の苦笑に一花は視線を向けてきたが、何も言わないことにした。

 

 昔、こいつに膝枕してやったことがある。

 

 その時、携帯で撮った写真がある。一花の寝顔が写ったものが。

 

 

 

(見られたら怒るだろうな)

 

 

 

 そんな代物があると知らない一花は俺の膝枕に不満をぶつける。

 

 いくら肉とはいえ、ぺしぺしと叩いても柔らかくはならない。気持ちよく眠れる位置を探ろうと一花が動いてくすぐったい。

 

 いいから寝ちまえ。一花を黙らせるべくその目元を手で覆った。

 

 

 

「頑張ったな」

 

「…」

 

 

 

 嘘つきは、嘘を暴かれようと嘘をつき続ける。演じ続ける。

 

 目を閉じても尚眠る気配のない女の子に、一言添えて…時折その髪を撫でていた。

 

 優しい嘘つきが、この先恵まれることを祈って、風太郎は一花を寝かしつけた。

 

 まだ先の話になるが。

 

 後に中野一花は…女優として栄えあるデビューを成し

 

 ファザコン、ブラコンという不名誉な弄りネタが生まれてしまったことに悩まされる名女優が誕生することになる。

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