五等分の園児   作:まんまる小生

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五等分の園児最終話 いざかまくら

「フータロー、かまくらっ」

 

「おまえそればっかりだな…」

 

「やくそくしたでしょっ」

 

「おまえの大好きなお兄さんが寝不足で死にそう」

 

「おひざ、かしてあげる

 やすんだら、かまくらっ」

 

「頭落とされそうだから遠慮する」

 

 

 

 翌日の夕方。子供の迎えを終わらせて中野家の居間で寝転んでいた。

 

 先生に深夜に呼び出されてあまり眠れてないんだ。教師だというのに生徒を連れ出しやがって。

 

 甘えてはいけないと言っておいてめちゃくちゃ甘えてるじゃねえか。

 

 

 

「ねむたいなんて、うそでしょっ

 フータローずっとわらってるっ」

 

「あんた、でかいからねてるとじゃまっ」

 

「さむいならあっためてあげますよっ」

 

 

 

 二乃に腹を蹴られ、続いて四葉が腹に飛び込んでくる。本当に死んでしまう…

 

 先生と和解し、新たな約束を設けたが…4月でこいつらに会わない約束がなくなったわけではない。

 

 先生には止められたが、約束は約束だ。それに模試の件もある。

 

 模試で1位を取らなければ話にならない。有言実行してこそ先生に近づく口実を得られる。

 

 でないと逃げられるからな。きちんと正当性を持って先生の逃げ道を封じてやるぜ。

 

 話をしなければならないのは、目の前でむくれている三玖とリボンを引っこ抜いて謝っている四葉だ。

 

 なのだが。

 

 

 

「おい一花、おまえ本当にどうしたんだ」

 

「…」

 

「…無視かこのやろう」

 

「あいたっ

 …ふーたろーくん、たたかないでよもー」

 

「五月の次はおまえか

 また母親に叱られたのか」

 

 

 

 ストーブの前で呆然と座り込んでいる一花の頭を叩いて、やっと気づいたようだ。

 

 迎えに来てから元気の欠片もない。ぼーっとストーブを眺めて動かず喋らず反応なしだ。

 

 何があったのか確認すると、隣の五月が一花の頭を撫でた。立場変わってるぞおまえら。

 

 

 

「…一花、気にしちゃダメですよ

 おにいちゃんがげんきにしてくれたよ?」

 

「…」

 

「一花ね、おかあさんはげましてあげたの…」

 

「…そうか、ならいいじゃねえか」

 

「…でも、しっぱいしたじゃん」

 

「なかせたんだよ」

 

「…

 なるほど」

 

 

 

 深夜に呼び出されたわけだが、五月に教えた番号からだと分かっていた。

 

 真夜中に何してんだと思っていたが、一花も起きていたのか。

 

 一花と五月、先生で話していたんだろうが。一花は真摯に励ましたが上手くいかなかったのだろう。

 

 四葉の目が少し冷たく見えるのが気になる。流石に母を泣かせたとあっては一花を許せないのだろうか。

 

 

 

「一花、こっちこい」

 

「…うそ、ついちゃダメっていったんだよ

 いけなかったかな」

 

 

 

 一花がこちらに寄ってきて、横に座り込む。

 

 嘘をつくなと咎めたのか。

 

 和解した後では、もうやめろと口に出せるが、実際難しい。

 

 和解はしたが楽観視できる状況ではないのだ。先生は病を抱えている。

 

 きっと病状が悪化することがあるはずだ。その時に子供に嘘をつくのは親の優しさだ。

 

 一花は心を痛める母を諭したかったのかもしれない。だが母親にもプライドはある。簡単にはいかない。

 

 

 

「お姉ちゃんよ」

 

「え?」

 

「おまえも嘘つきだということを忘れるな」

 

「あうーっ

 いふぁい、ひっふぁららいれー

 わふれふぇらいっれー!」

 

 

 

 一花の頬を引っ張ってやる。前科持ちに言われたくないわ。

 

 

 

「俺も後になって知ったが

 嘘をついたほうがいいこともある

 先生のはやりすぎたがな」

 

「じゃあ、ダメだよっ」

 

「全部を否定したらお母さん可哀想だぞ

 ダメな嘘はあるが、そうじゃないのもあるはずだ

 …難しいだろうけど、怒らないでやってくれないか」

 

「…」

 

「おまえだって、嫌でも嘘をつかなくちゃいけなかっただろ」

 

「お、おにいちゃん」

 

「ありがとな、教えてくれて

 …大丈夫だ、全部言わなくても分かってくれるはずだ」

 

 

 

 一花はたまに嘘をついてしまう子だ。薬が嫌で健康を装う子だ。

 

 母親を心配させまいと嘘をつく子だ。

 

 そんな一花でも気づいたのだろう。嘘は人の価値を下げてしまうものだ。

 

 嘘をつき続ければ何が大切な物なのか見失ってしまうかもしれない。

 

 それに気づいて、母親に教えてやるこの子は大丈夫だ。優しい子だ。

 

 母親も分かっているさ。

 

 一花も気づくはずだ。嘘が求められる時があるって。

 

 

 

「報告しておくか

 一応な、先生と仲直りしたんだ」

 

「!!

 じゃ、じゃあ…いっしょにいてくれるんですね!」

 

「ほんとですか、うえすぎさんっ!」

 

「それは変わらない」

 

「えええええっ!!」

 

「なんでよ!おかあさんとのやくそくなんでしょっ!」

 

「なんで、なんでなの、ふーたろーくんっ!

 もー!」

 

「ひとりはやだよ、おにいちゃん!」

 

「一人が嫌なら家族といろって言っただろ四葉…」

 

「うぅ…うぅううっ!!

 …三玖は、三玖はいいの?ほら、とめないとっ」

 

「…けっこん…」

 

「そればっかりじゃん!」

 

「…」

 

 

 

 歓喜の表情が一瞬で不満と不安の物に変わってしまった。

 

 おまえら、俺は先生と仲直りしたがおまえらはまだだろ。

 

 五月は先生と喧嘩したんだろうが。こっちに気を配っている場合じゃないぞ。

 

 一花が言っていた、先生の嘘は先生自身が向き合わなければいけない。

 

 説得するには自身の病を告白するしかない。偽るのなら子供たちの非難を受け続ける覚悟が必要だ。

 

 どれも茨の道だ。子供たちには待ってほしい。

 

 

 

「フータロー、かまくらっ」

 

「…」

 

「やくそくだよっ」

 

「…作るのはいいが、このアパートの近くじゃ無理だな」

 

「なんで?」

 

「自転車とか、通路の邪魔になるしな

 車も入れなくなっちまう」

 

 

 

 抗議の目を向ける子供たちの中で三玖は特別変化はなかった。主張も変わってない…

 

 かまくらを作るのはいいが問題があった。

 

 このアパート、玄関前は自転車置き場だったり、やや広いスペースがある。

 

 隅にでも作ろうと思ったが、来客の車が駐まることがあるそうだ。しかも高齢の大家さんの親族の車も使うそうだ。

 

 無理だ、世話になっている人にこれ以上迷惑をかけられない。一度会ったことがあるが子供たちに優しいおばあさんだ。邪魔だからといってかまくらを壊せる人には見えん。

 

 

 

「やだっ

 かまくらぁ…

 つくれない?」

 

「公園とか、雪が多いしそこで」

 

「こわされちゃう…」

 

「…」

 

「フータローと…やくそく

 さいごになっちゃうのに…」

 

 

 

 最後か…

 

 結婚だとか言って、まだ分かってくれてないと思っていたが違ったようだ。

 

 この子なりに考えてくれていた。この約束、少し甘く見ていた。

 

 不満を漏らしていた子供たちも、三玖の言葉に目を見張っていた。

 

 

 

「わかった、もう少し待ってくれ

 良い場所、見つけてやる」

 

「…うん」

 

「…ふーたろーくん、わたしもさがすよ?」

 

「よ、四葉も…」

 

「いや、大丈夫だ

 一つ当てがある

 おまえらも一緒に遊べるだろうしな」

 

 

 

 確約とはいかないが恐らく了承は得られるはずだ。逆に歓迎されると思う。

 

 4月まで、約束の時までもう一月。雪が解ける前に三玖との約束を果たそう。

 

 4月に模試もある、時間がない。勉強に専念しなければいけないのだから失敗は許されない。

 

 告白してくれたこの子と話をしよう。また笑ってほしいんだ。

 

 今でもあの時の言葉は温かく胸に残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようちえん…?」

 

「ああ」

 

「…おやすみなのに」

 

「お陰で誰もいないな」

 

 

 

 確約が取れた翌日。

 

 かまくら作りをするために三玖を連れてやってきたのは、この子が通う幼稚園だった。

 

 門の前で待っていると奥から見知った職員が走ってきた。

 

 

 

「こんにちはっ

 おまたせしました、三玖ちゃん元気?寒くない?」

 

「げんき…フータローといっしょだから」

 

 

 

 ぶいっと三玖は職員の挨拶にピースで返した。確かに元気だ。

 

 

 

「すみません、お休み中に」

 

「いえ、土曜日も仕事なので」

 

「いや、それもまずいんだが」

 

「いいんですよ、かまくら作り楽しみにしてたんですから

 園長から子供たちが寒い中でも外で遊ぶ機会を増やしたいとか言ってて困ってたんですよ」

 

「それ、あんたが寒がりなだけだろ」

 

「バレてましたか」

 

「いっしょに、きょーしつであそぶの」

 

「おまえも外で遊べ」

 

 

 

 賑やかな人だ。仕事中に邪魔してしまったが厚意に甘えさせてもらおう。

 

 かまくら作りの場所に悩んでいたが、こんなに広くて管理する人間もいる場所があったのだ。

 

 雪は大量にあるし、作れば子供たちが利用できて邪魔にならない。部外者に壊されることもないだろう。

 

 

 

「スコップはこちらに」

 

「助かります」

 

「…ちっちゃいのもあるんだ」

 

 

 

 道具も揃っているしな。業務用のスコップを渡された。

 

 三玖には小さなシャベルが用意された。後は集めて作るだけだ。

 

 

 

「よーし、今日中に作ってやりますよー!

 おー!」

 

「お、おー…」

 

「おー」

 

「声が小さいぞ若者!

 おー!」

 

「おー!」

 

「おーっ!

 あ、おちちゃった」

 

 

 

 あんたが一番張り切ってるんだがどういうことだ。

 

 子供たちがよく遊ぶ砂場の横がいいとのことで、三人でせっせと雪をかき集めた。

 

 重労働である。重たく積まれた雪をひたすら一箇所に集める。

 

 集めた後に壁を立てるようにかまくらを作らないといけない。

 

 二乃の時もそうだが、安易に約束するものじゃなかった。後悔している。

 

 休みたいが、あの職員が仕事しすぎて休めそうにない。逞しすぎる。

 

 

 

「つちもはいってて…なんかやだ」

 

「黒くなるのは我慢してくれ」

 

「大丈夫だよ三玖ちゃん、後で真っ白な雪持ってきてあげるから」

 

「どこにあるんすかそんなの…ほとんど子供に踏まれてますよ」

 

「あそこにありますよ」

 

「や、屋根って…マジですか」

 

「雪落とさないといけないので」

 

 

 

 雪国じゃないんだから、施設が潰れるわけないだろう。

 

 正直作るだけで精一杯だ。外見はそちらに任せよう。

 

 

 

「フータロー」

 

「どうした」

 

「えいっ」

 

「…」

 

「…やっ…」

 

「遊ぶな」

 

「三玖ちゃん、作っておくから投げちゃって!」

 

「わかった」

 

「やめてください」

 

 

 

 かき集めた雪の山を持ち出して雪玉を投げられた。

 

 腕力のない三玖の雪は足元に届くのが限界だった。

 

 職員が作った雪玉を両手に持って、こちらに走ってきた。やめろと言っているのに。

 

 仕方なく逃げるように三玖から距離を取った。

 

 

 

「あたんない」

 

「外で遊ばないからだ

 もっと体を鍛えろ」

 

「フータローがにげるから」

 

「そりゃあ逃げる、冷たいし、痛いし」

 

「…む~…」

 

 

 

 こちらは遊ぶつもりはないのだが、雪玉が当たらなくて面白くないようだ。

 

 こちらが遊んでいるというのに、あの職員は雪をかき集めていた。目が合うと手を振っていた。

 

 本当にお人好しだな。少し三玖に付き合ってやらないといけないようだ。

 

 

 

「一発でも当てられたら褒美をやろう」

 

「! ほんと?」

 

「何でもとはいかないがな」

 

「じゃあ…チュー」

 

「却下だ」

 

「…おでこに」

 

「…まあ、いいだろう

 あの人には内緒だぞ」

 

 

 

 三玖にやる気を出させるにはそれが一番か。おませさんめ。また一花が怒るぞ。

 

 褒美を設けると三玖の動きが明らかに変わった。全力で走って全力で雪を投げてくる。最初からそうしろ。

 

 額にキスなど全力で阻止させてもらった。情けも容赦ないぞ。

 

 掠りもしない、希望もない挑戦に三玖の顔が不機嫌になっていく。

 

 

 

「む~!」

 

「小学校に上がったら体育の授業があるんだ

 サボってばかりだと、かけっこビリになるぞ」

 

「もうビリだもん!!」

 

「虚しすぎる…」

 

「…もう、やだぁっ

 フータローのばかぁっ」

 

 

 

 雪玉を手放してこちらへ向かって走ってくる。

 

 もう降参か。長々と遊んでられないし構わないがもう少し忍耐というか、逞しくなってもらいたい。

 

 平地でも転ぶ子供が雪の上を走ればどうなるか、察しはついていた。

 

 

 

「わふっ」

 

「気をつけろ

 一度転んだら間違いなくビリだぜ」

 

「…えへへ」

 

「何だよ」

 

「やっぱり、フータロー…すき」

 

 

 

 顔面から冷たく硬い雪に突っ込むところを掴みあげた。

 

 三玖を立たせるとかがんでいた風太郎の首もとに抱きついてきた。

 

 ヘッドホンとは別に、耳にイヤーマフラーをしている。クリスマスに買ってあげたものだ。

 

 気に入ったようでこの冬の外出中はよく身につけていた。お陰でヘッドホン合わせて首元が暑苦しそうだった。

 

 

 

「あれ、もういいのですか?

 三玖ちゃんと遊んでていいんですよ」

 

「いいって…一人で任せっきりにするわけには」

 

「かまくらっ」

 

「職員は担当を振り分けられるものです」

 

「俺は職員じゃないっす」

 

「お兄さんなら大歓迎なんですけどねー」

 

 

 

 勘弁してくれ。この一年こいつらと関わってきたんだ。子供の相手はもう十分だ。

 

 かまくら作りを再開する。職員の尽力で十分雪は集まった。 

 

 大体の大きさを決め山に穴を開けるように雪を退けては盛っていく。

 

 身も蓋もないが全く楽しくない。作業でしかない。

 

 三玖は雪を盛ってはシャベルで叩いて、盛っては叩いてで楽しんでいるようだ。

 

 …叩いてると思ったらかまくらの壁に何か掘っては雪で修復していた。

 

 絵でも刻んでいたのか。

 

 

 

「三玖、何やってんだ」

 

「おはな」

 

「花?」

 

「うん」

 

「三玖ちゃん、最近そのお花よく描いてるよね

 何なの?」

 

「…えへへ、ひみつっ」

 

「えー?

 もー、教えてよー」

 

 

 

 仲が良いことで。らいはもそうだったが、やはり年上のお姉さんとは話しやすいようだ。

 

 こちらは作業をしながら会話に耳を傾ける。職員さんには少し休んでもらいたいものだ。

 

 花とはとても見えない彫り物を見て職員は三玖と肩を並べて座って話をしていた。

 

 

 

「せんせー」

 

「なに?」

 

「せんせーは、みんなからこくはくってされたことある?」

 

「んー

 先生若いからねぇ、あるんだなー」

 

「せんせー、いいひとだもん」

 

「あはは……彼氏いないんだけどね…」

 

「そこは言わなくていいんじゃ」

 

「いいなー高校生はー

 同級生と青春楽しんでそうでいいなー」

 

 

 

 期待されてもそんなものはない。

 

 同級生じゃなくて教師に憧れていると言ったらどうなるだろうか。

 

 以前この手の話を耳にされてからかわれそうになったな。絶対に言わない。

 

 

 

「こくはくされて、うれしかった?」

 

「そうだねー、嬉しかったよ」

 

「…でも、ほんきじゃないんだ?」

 

「う、うーん…」

 

「やっぱ、ダメなのかなって」

 

 

 

 職員の目がこちらに向く。

 

 三玖の話を聞けば自然とそう思われてしまうだろう。

 

 三玖は誰かに告白して、悩んでいる。

 

 この人が三玖を大切に思っていることは知っている。単純にはぐらかすのは良くないと思った。

 

 何も言わない。肯定と受け取った職員は花を作ろうとシャベルを刺す三玖の頭を撫でた。

 

 

 

「本気かどうかはその子しか分からないけどね

 三玖ちゃんには知っておいてほしいな

 子供の約束はね、自由なの」

 

「じゆう?」

 

「こんなこと言ったら怒られちゃうけど

 子供の約束はね、破っても怒られないの

 忘れちゃっても許してくれるの」

 

「え?」

 

「三玖ちゃんにも絶対分かる日が来るよ

 だからね、それは…うーん

 優しさなんだよ

 三玖ちゃんを大事に思ってるから、いいんだよって許してくれるの」

 

「わすれないもん

 わすれないよ…」

 

「…三玖ちゃんは良い子だね

 私は忘れちゃったけどね!

 もうほとんど覚えてないから」

 

「…わすれちゃうの?

 フータロー、すきなの…わすれちゃうの?」

 

「好きな気持ちは忘れないよ

 もし三玖ちゃんが忘れないでいて、それでもお兄さんが好きだったら

 告白しちゃえ、早い者勝ちだよ三玖ちゃんっ」

 

 

 

 …この人のように子供の心に寄り添って教えられたら、あの子たちを泣かせずに済んだ。

 

 自分はこれを伝えるのに時間を要した。

 

 男女の差もあるが見れば分かる。言葉だけではない。

 

 子供を見る目は優しく、時にはおどけてみたり、声音を変えたり。必要なことはちゃんと伝える技術を感じた。

 

 子供がちゃんと分かってくれるように努力する。見習うべきものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かまくらが完成した。

 

 夕方になってしまったが大きなものがやっと完成したのだ。もう疲れた。

 

 完成すると職員はやることがある、と職員室へ向かってしまった。ろくに礼を言わせないまま行ってしまった。

 

 気を遣っているのか忙しいのか。困った職員だった。今度何かお礼に何か贈るべきか。

 

 

 

「フータロー、できた

 はいろっ」

 

「壊すなよ」

 

「はやくっ」

 

 

 

 完成してからずっと目を輝かせていた三玖が中に入っていく。

 

 中から手を引っ張られ、急かされるように中に入る。

 

 

 

「…どうだ、念願のかまくらは」

 

「くらい…」

 

「夕方だし、雪の中だからな」

 

「でも、あったかい

 ふしぎ、ゆきのなかなのに」

 

 

 

 あぐらをかくと、三玖が足の上に尻を置いて座り込んできた。

 

 少し休ませてもらおう。完成した達成感もある。手伝ってくれた職員には悪いが一番乗りを堪能させてもらおう。

 

 

 

「あの花って、コスモスか」

 

「こすもす?」

 

「おまえがくれた花だ」

 

「しらなかった

 きれいな、あかいおはな…コスモスなんだ」

 

「色は沢山あるがな」

 

 

 

 あの二度目の告白の時に差し出された赤い花。

 

 三玖がシャベルで描いていたのは恐らくコスモスだろう。名前を知った三玖は忘れないように口にして覚えようとしている。

 

 

 

「あのおはな、すてちゃった?」

 

「…何でそう思うんだよ」

 

「だって、あれからみたことないもん」

 

「家に飾ってたんだ

 生き物だからな…枯れる前に栞にしちまった」

 

「しおり?」

 

「ああ、せっかく貰ったんだ

 ちゃんと大事にしてる」

 

「…えへへ…うれしい…」

 

 

 

 枯れるのが忍びなくて先生に相談したら、花屋を紹介してくれた。

 

 ドライフラワーにして栞をいくつか作ってもらった。

 

 本や参考書に使わせてもらっている。栞を使う習慣がなかったから慣れるまで苦労したものだ。

 

 手に取ると、あの時のこの子の告白を思い出してだらしなくにやけてしまうから困ったものだった。

 

 

 

 

「フータロー、いっちゃうの?」

 

「…どこもいかねえよ

 でも、やることができた

 4月は忙しいんだ、悪いな」

 

「…また、あえるよね?」

 

「ああ」

 

 

 

 必ず会えるさ。

 

 今まで通り、こうして遊んでやれなくなるかもしれないがお別れではない。

 

 小学校に上がったら、きっと俺に構っていられなくなるのはおまえたちだ。

 

 友達もできる。勉強がある。世界が変わっていくんだ。

 

 先輩になるらいはがいるんだ。きっと自分より妹を頼ることが多くなるだろう。

 

 …そういう意味ではお別れなのかもしれない。

 

 忘れられて、思い出になってしまったら、ここでお別れになる。

 

 

 

「…フータローのおうち、しってるもん」

 

「…何する気だ」

 

「さびしくなったら、いくもん」

 

「ちゃんと前もって知らせてくれよ、らいはでいいから」

 

「いくからねっ」

 

「…」

 

「これでおわりじゃないからっ

 かんけい、かわっても…ね?

 かわんないんだよっ

 わすれないよ…」

 

 

 

 関係は変わっても変わらない。

 

 変わらないものがある。この子はそう教えてくれている。

 

 例え疎遠になっても、忘れないというのか。

 

 三玖を貶すつもりはないが、どうだろうか。幼稚園の記憶はほとんどないのだ、自分は。

 

 三玖もそうかもしれない。逆に言えばこの思い出に固執してしまうことは望ましくない。

 

 自分のことを忘れてしまうほど、この先の将来を楽しんでほしい。

 

 …先生の思いを否定する俺に、三玖にそれを強いるのは矛盾している。

 

 だが…そう願ってしまう。先生には嫌な選択をさせようとしている。

 

 三玖、まだ子供のおまえに言っても仕方のないことだが。

 

 その言葉はあまりにも幼く、無力だ。

 

 あの時の告白の返事をしよう。あの時はただ嬉しくて伝えられていなかったからな。

 

 こちらを見上げる子供の髪を撫でる。

 

 悪いな、三玖。

 

 

 

「ありがとな、三玖

 俺もおまえが大好きだ」

 

「…えへへ」

 

 

 

 これだけでいい。もう何も言わなくていい。これ以上はこの子に不用だ。

 

 分かってくれる時がくるはずだ。

 

 子供の憧れだったと、笑ってくれる時がくるはずだ。

 

 ゆっくりでいい。それまで待ってやるさ。

 

 子供はただ笑う。今を握り締めて喜びを噛み締めている。子供の特権だ。

 

 純粋に真っ直ぐ伝わってくるその好意がとても嬉しかった。

 

 手を繋ぐ喜びを教えてくれた子だった。

 

 いつか、大人になったおまえと話がしてみたいな。

 

 困らせてやりたいものだ。仕返しとばかりにこの事を思い出させてやる。

 

 こんな自分を慕ってくれて、ありがとうな。

 

 せめて、せめて良き思い出であれるよう祈って、ちゃんと笑えていたと思う。

 

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