五等分の園児   作:まんまる小生

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五等分の園児その3 初めてのお泊り

 京都で出逢った中野先生とその子である五つ子と親しくなって二月程経ったが、これまで自分の強引な振る舞いで成り立っていた関係だったと思い返していた。

 

 中野先生の手助けになっている自負はある。五つ子とも信頼関係を築いている。悪い気はしない。

 

 だがしかし、思えば先生から頼まれてやっていたことではなかったのだ。全て風太郎のお節介だ。

 

 2年に進級し思い出の恩師が同じ高校にいたことに気づいた風太郎は、何かと理由をつけて中野先生を知ろうと足を運んできた。自分の問題点を知られると度々指導されてしまったがな。

 

 五つ子を抱え、苦労されていることを知った風太郎が取る行動はすぐに決まった。

 

 誰かに必要とされる人間になるため。自暴自棄に陥った自分を導いてくれた恩師に恩返しをすると誓ったのだ。

 

 今まさに、その機会を得られたこの瞬間を笑って喜ぶべきなのだろう。

 

 必要とされることの究極ではなかろうか。しかし実際に目の当たりにした風太郎の心中は複雑だった。

 

 頭を下げる恩師など見たくなかった。

 

 

 

「一晩だけ、子供たちを見守っていただけませんか」

 

「先生、話は聞きます

 …顔を上げてください」

 

 

 

 風太郎が子供たちの面倒を看て、申し訳ないと頭を下げられることは幾度もあった。しかし今回は状況が違った。

 

 話を終えるまで頭を上げるつもりはないのだろう。微動だにしないその90度の姿勢は尊敬してしまう。接客業に就く自分はこれを見習うべきだろうか。複雑だった。

 

 このような不測な事態に転ぶとは考えてなかった。今日だって日課となりつつあった、幼稚園から五つ子を迎えて適当に家事を手伝っていた。いつも通りの日常だったのだ。

 

 帰ってきた中野先生から話があると誘われ、子供達から見られないようこうしてベランダで向かい合えば、頭を下げられてしまった。困っているのは分かったからやめてもらいたい。

 

 

 

「実は…

 行方が知れない夫のことで話がしたいと義父母から連絡がありました

 火急のようで、私もできれば早く話をしたいと思っています

 本来なら私の実家に子供たちを預けるつもりだったのですが、父が体調を崩していてとても面倒を看れる状態ではなかったのです」

 

「それは…タイミングが悪いですね」

 

「大人であり、教師でありながら、身勝手な話ですが…お願いできませんか」

 

 

 

 旦那の話か、と予期せぬ事情が絡んでいて反応に困った。風太郎にとって決して忘れていたわけではないが、聞かないようにしていたタブーだった。

 

 蒸発した旦那のことなら中野先生が急遽やむを得ず予定を合わせざるをえないのも分かる。もしかしたら今でも帰らぬ夫を探しているのかもしれない。

 

 風太郎はいまだ頭を下げ続ける中野先生の肩を掴み頭を上げさせる。その顔を見ずに携帯を手に取った。

 

 

 

「父と妹に連絡を取ります」

 

「…ありがとうございます」

 

「まだわかりませんよ」

 

「いいえ、その気持ちだけで十分…お礼を言わなくてはいけません」

 

 

 

 なぜ顔を背けているのか、自分自身のことながら風太郎にはわからなかった。無性に顔を合わせづらかったのだ。

 

 中野先生の予定を確認し親父に電話すると軽く了承を得られた。夜勤もなく早めに帰るとのことだ。すまん親父。

 

 引き受けます、と告げると中野先生は再び頭を下げた。つい目を逸らしてしまった。暇ですから、としか答えられなかった。バイトもなかったし問題ない。

 

 中野先生はだいぶ切羽詰っていたと見られる。子供の世話を教え子である風太郎に頼むほどだ。適任だと白羽の矢を立てられたのなら嬉しいが流石に自惚れが過ぎる。

 

 恩師からの初めての正式な頼み事だ。必ず安心して先生を送れるように。そして家族の話に集中できるよう成し遂げよう。

 

 風太郎は固く心に誓った。やることは子守なのだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、風太郎は中野家で夕飯を頂くことになった。おかずをタッパーに入れて持ち帰っていいとのことで、らいはの土産にさせてもらう。

 

 思えばプリンを食べたり昼飯を食べたことはあるが、夕飯を一緒にするのは初めてだ。珍しさから隣に座る三玖や四葉が喜んで歓迎してくれた。

 

 だがこの一家、食事中でも喧しいことこの上ない。先生は澄ました顔で黙って食べているのだが、同じ卓を囲むマナー知らずの子供たちは先程から風太郎に構ってばかりだ。一向に食事が進んでない。

 

 

 

「ふーたろーくん、にんじんおいしい?」

 

「ああ、味が染みててうめえな

 でもおまえのはいらねえ…おいにげるな」

 

「フータロー、これなーんだ?」

 

「しらたきだな」

 

「…

 ぶっぶー…はるさめ」

 

「嘘つくな、肉じゃがだぞこれ

 いらんから食え」

 

「うえすぎさん! たまねぎあげる!

 むぐぅっ!」

 

「おう、好き嫌いするとお母ちゃん泣くぞ」

 

「うえすぎ、おかわりいる?」

 

「いや二乃、俺はそんなに食えないから

 待て待て待て!」

 

 

 

 こいつら飯を口にする度に話しかけてきやがる。しかも母親は黙って静観を決め込んでいる。風太郎としては母親にびしっと叱ってもらいたかった。

 

 これから帰った後に家でらいはと夕食を食べるのだ。そのために食事を少なめに盛ってもらったというのに、子供たちが気を利かせておかずを分けてくるんだ。もう腹より胸がいっぱいである。

 

 ニコニコ顔の二乃にご飯を大盛りに盛られてしまった。食べ切るしかない、と渋々割り切ったところで、炊飯器に駆け出す子がいた。

 

 

 

「五月…さいきんいっぱいたべるね」

 

「そだちざかりだ!」

 

「あんたもよ四葉、たまねぎたべなよ」

 

 

 

 五月が小さな茶碗にご飯を盛って戻ってきた。よく食べてよく笑う子だ。風太郎も五月の可愛い点だと思っている。ケーキを目前に目を輝かせていた五月を微笑ましく、よく覚えている。

 

 しかし今の五月を見て微笑ましいとは思えなかった。いつもなら恥ずかしそうに笑って卓につき、口元にご飯粒をつけて美味しそうに召し上がるだろう。いつもなら。

 

 これまで姉たちの会話に一切入っていない。

 

 暗くやや俯いている。それでいて食べる量は普段より多いのだろう。黙々と食べる五月に皆黙ってしまった。

 

 中野先生が隣に座る五月の茶碗を見つめていた。果たしてその量は他の姉妹と成りが変わらない五月の腹に不相応なのだろうか。部外者の風太郎には分からない。

 

 母親の反応を窺っていると目が合った。しばし視線が重なり…逸らされた。ええ…。

 

 その他四人が物言いたげに風太郎を見つめていた。

 

 どうやら風太郎は地雷原に踏み入らねばならないようだ。薄情すぎるぞこいつら。

 

 

 

「五月はよく食べるな、男顔負けだぞ」

 

「…そ、そうでしょうか…」

 

「ああ、良い事なんだろうが…心配な点もある

 おまえは可愛いから、尚更心配なところでもある」

 

「…?」

 

「…太るぞ」

 

「―」

 

 

 

 思ったことを正直に告げると食卓の空気が変わった気がした。

 

 五月の箸が止まり、静かにちゃぶ台に置いた。だっておまえ…らいはより食べてるぞ、後が辛いぞそれは。

 

 姉たちも固まって五月と風太郎の顔を交互に見やる。中野先生も顔に青筋が立っているように見える。土下座をする日が来てしまったのだろうか。

 

 ゆっくりと茶碗から手を離し五月は俯いてしまった。見れば肩が震えていた。

 

 まずいと思ってからではもう遅い。泣かせてしまった。

 

 

 

「い、五月――」

 

「こら! ふーたろーくんっ!」

 

「五月なかしたわね!」

 

「フータロー、ダメ、あやまって」

 

「五月! いじわるするひとは四葉がたいじするよ!」

 

 

 

 慌てて五月に声をかけようとするが、五つ子の逆鱗に触れてしまったようで一花と二乃から襲撃を受けた。続いて三玖と四葉からも頬を抓られタックルされた。容赦がなかった。

 

 可愛い妹を守ろうとする姉たちからの制裁で飯どころではなくなった。オブラートに包んで注意したはずなのに。

 

 先生は五月の頭を撫でて、大丈夫ですよと励ましていた。先生も気にかけていたくせに、これでは風太郎は道化である。失礼極まりなかったとはいえ、流石に納得いかなかった。

 

 

 

「大事なお話があります」

 

 

 

 中野先生の言葉は喧騒の中でもよく通る。時には五つ子の制裁の宣告となるのだから聞き逃すことはないだろう。風太郎も。

 

 風太郎の背中に馬乗りになったり、頬を引っ張ったり、頭をぽこぽこ叩いたり、プロレスの真似事をしたり、好き勝手暴れていた四人が驚き止まる。

 

 何事かと思えば、中野先生はベランダで話した件を子供たちに伝えるようだ。

 

 旦那の話は上手く誤魔化しているが子供たちは納得するだろうか。

 

 五月に限らず、子供たちは母親を慕い、離れ離れを嫌っている。

 

 たかが二ヶ月の仲だ。快く子供たちが受け入れるか怪しかった。

 

 予想は的中。話を聞くに連れて五つ子の顔が不安に満ちていく。

 

 しかし、これが風太郎に怒り出した四人の意識を逸らすためだとしたらとんだ曲者だ。お陰で助かったぜ。

 

 

 

「お爺ちゃんの旅館に泊まるつもりでしたが

 上杉君にうちに泊まってくれませんか、と…」

 

 

 

 どんどん俯いていく五つ子がばっと顔を上げて風太郎を見上げる。驚きと期待の目だ。

 

 おまえら現金すぎるぞ…。非常に複雑な気持ちだった。嬉しくない。この後の展開は想像つく。

 

 風太郎が泊まる、と聞いて再び四人が襲撃してくる。さっきまで叩かれたり引っ張られたりしたのに容赦ない。四人は嬉しそうに頬を綻ばせて、しがみつき引っ張ってくる。

 

 五月を見やるとどこかほっとしているようだった。風太郎と目が合うと頬を膨らませて目を背けられてしまった。

 

 一時期の二乃のように険悪な関係になってしまうのではと危惧したがそこまでではなさそうだ。大いに怒らせてしまったが。

 

 上手く話を逸らしてくれた先生に感謝しつつ、あれからいまだに進歩していない不甲斐なさを痛感して風太郎は重い溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんノーデリカシーだもんね」

 

 

 

 ばっさりと告げられた。野菜を切りながらだと攻撃的に捉えてしまう。今までは咎められても大して気にしていなかったのに今は胸が痛い。

 

 

 

「お兄ちゃんはクズで自己中で協調性ないけど

 とても優しいから大丈夫だよ、こうしてご飯作る練習してるんだから」

 

「優しければ協調性はあるだろう」

 

「妹を置いて他所でご飯食べちゃう人だけどね

 肉じゃがおいしかったって伝えてよ?」

 

「…わかった」

 

 

 

 妹に教わってる時点で兄として不甲斐ない。しかし、らいはのカレーは世界一美味い。なら教えてもらう他ないだろう。

 

 中野家に泊まるのは明日。急遽、風太郎は妹と共に夕食のカレーを作っていた。翌日の中野家の食事は自分で作ることになったからだ。

 

 昨日は五月に許しを請うも無視されてしまい解決できずにいる。そんな状況で五月の食事を粗末なものにすれば積み上げた信頼を失いかねない。風太郎は必死だった。あの子の食い意地を侮るな…

 

 料理の手順と分量を目で確認していくと、妹の慣れた手つきに苦労をかけていることが見て取れて、罪悪感を抱く。家事を続けることは大変だ。

 

 あとは煮込むだけだね、と一通り終えたらいはに疑問を投げかける。

 

 

 

「隠し味とかあるのか?」

 

「…お兄ちゃん」

 

「なぜ呆れたような顔をする」

 

「うちは貧乏です、隠し味にチョコとか聞くけどそんな余裕あると思う?」

 

「ないな、だがうまい」

 

「隠し味なんてありません

 けれど、上杉家の料理には欠かせないものがあります」

 

「な、なに?

 なんだ、味は薄めとかか?」

 

「愛情だよ!」

 

 

 

 最初何を言っているのか理解できなかった。愛情なんて調味料俺は知らない。

 

 ケーキ屋のバイトをしている身には鼻で笑ってしまうものだった。

 

 顔に出てたのか、不満を露わにした妹から頭突きをくらった。もう制裁は勘弁である。

 

 

 

「愛情があればね、いつだって手抜きのない美味しいご飯が作れるんだよ」

 

「手抜きって…誰だよそんなこと言ったの」

 

「…お母さん…」

 

「…おまえ、母さんのこと覚えてるのか?」

 

「ううん、夢だけど」

 

「なんだ、夢かよ」

 

「あはは…夢ってすぐ忘れちゃうけどなんか覚えてるの、全部じゃないけどね

 お母さんに上手くなる方法聞いたらね

 お兄ちゃんとお父さんの笑顔を忘れないでって教えてくれたの」

 

「…なら母さんにも感謝しないとな」

 

 

 

 らいはにとって母親との記憶は皆無だが何か思うものがあるのだろう。恥ずかしそうに打ち明けたものは曖昧で現実味のない話だった。

 

 だが、妹はそれを信条にこれまで腕を磨いてくれたのだと思うと胸が温かくなる風太郎だった。妹の頭を撫でると笑顔を咲かせてくれた。

 

 

 

「でもお兄ちゃん、カレーなら今日作って明日持って行ってもいいよ?」

 

「あ?

 いや…いい、もう作っちまったし、二度手間だしな」

 

「お兄ちゃんにも上杉家の味が伝承されたよお母さん…

 愛情ってそういうことだからねお兄ちゃん!」

 

「…なにがそういうことなんだ」

 

 

 

 べつに手作りに拘っているわけではない。今回は下手なことはできないから仕方なく作るだけだ。手間より時間を重視したい風太郎には理解できないものだ。

 

 つい癖で髪を弄る風太郎がおかしいのか、らいはは嬉しそうに笑っていた。見栄っ張りなんだから、と笑って諭している。

 

 我が家なのにどこか居た堪れない。こういう時は勉強するに限る。

 

 そう思いながらも、からかってばかりの妹と並んでぐつぐつ煮込むカレーを黙って眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当日、授業を終えた放課後に風太郎は中野先生と共に五つ子を幼稚園から迎えに行った。先生は夜に外出の予定もあって早く仕事を終えられたそうだ。

 

 先生はこの後出発して明日の朝に帰る予定で、明日は学校を休むそうだ。そのほうがいい。もし働くとなれば完全徹夜になりかねないから心配だった。

 

 五つ子を迎えた帰り道。今晩の食材を買いに近くのスーパーに寄った。無難に中野家のカレーに近いものを作るために普段の食材を選んでもらった。

 

 五つ子と共にスーパーの籠に食材を入れていく先生の後姿を眺めると、別の心配事が浮かび上がる。あれから旦那のことは聞いてないが大丈夫なのだろうか。

 

 中野家も風太郎の家と似たような生活環境だ。上杉家は借金の返済が絡んでいるから贅沢はできない身。しかし中野家は違うだろう。お金はさほど心配していない。

 

 一人で五人の子を育てること。生半可な思いでは仕事と両立できないはずだ。中野先生には言ってはいないが、五年前の京都で見た先生と、数ヶ月前に再会してからの先生は随分と変わっていた。

 

 儚く少しやつれていたようにも見えた。鉄仮面だが。無愛想で鉄壁の無表情だが。

 

 しかし無理をすれば体を壊し倒れてしまうのだ。大丈夫なのだろうか。

 

 聞いてはいけないお節介だ。風太郎自身も他人の家庭事情に首を突っ込む真似はしたくなかった。

 

 結局こうして一人で悩むしかない。必要とされていないうちは…俺は。

 

 

 

「フータロー…?

 どこかいたいの?」

 

「いや、買い物を見るのは初めてだなって思っただけだ」

 

「…おかしほしい」

 

「あー、じゃあ一つぐらい買ってやるよ」

 

「ほんと? いっしょにたべよ、フータロー」

 

「上杉君」

 

 

 

 風太郎はいつものように手を繋ぐ三玖の顔を見て思った。

 

 母親が仕事で苦労している分、子供も寂しい思いをする。金を稼ぐ為に仕事に励めばいいわけではない、難しい問題だ。

 

 つい貧乏人の禁句を滑らせると先生からジト目で睨まれた。甘やかしてはいけないそうだ。

 

 それでも三玖は残念…と笑っていた。良い子だ。優しくこの手を握り返した。

 

 怒られる前に勘定を済ませて逃げよう。夕食の食材を入れた籠を受け取ってレジへ向かおうとすると、先生に耳を引っ張られた。

 

 

 

「上杉君、怒りますよ」

 

「もう既に怒ってるような」

 

「まさか学生の貴方が払うつもりなのですか」

 

「いや、俺が勝手に決めたことですし」

 

「…二乃のお菓子作りもですが、材料費は払うと言っているでしょう

 頼み事を引き受けて頂いた恩はありますが、貴方から施しを受ける身ではありません

 わかりましたか?」

 

「いでででッ!」

 

「お、おかあさん、フータローかわいそう…」

 

 

 

 ぐいぐい引っ張られ耳元で咎められた。周囲に人がいるのに躊躇しない人だ。風太郎が怒られている様子に子供たちが笑っていた。心配してくれたのは三玖だけだ。

 

 ただ一人、五月は母親が離れる時間が迫っているのを察して元気がなさそうだった。中野先生は五月の様子が心配なようで…お菓子を解禁した。これには五月も顔を上げた。

 

 さっきまで落ち込んでたのにやはり子供だな、と笑ってしまう。

 

 だが、無償の幸せなどないのだ。貧乏人にはお菓子一つ…それだけの贅沢が一日を彩らせ煌めかせてくれる。

 

 風太郎は先生と並んで、小さな幸せに喜ぶ五つ子についていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 買い物を終えて中野家に着くと中野先生はすぐに遠出の準備を始めた。実際どこに行くかなんて聞いてないが新幹線を使うらしい。

 

 準備を終えた先生を全員で見送ると、子供達はやはり暗い顔をして口々に不安を漏らす。

 

 早く帰ってきてね。きっと祖父の下へ預けられても同じような言葉を母に向けていたのだろう。心からの願いを。

 

 愛しい子供たちからそう強請られれば先生も黙っていられなかった。膝をついて五人を抱きしめた。五月なんかはもう泣いていた。

 

 上杉君を困らせてはいけませんよ、と先生は子供達の頭を撫でながら忠告した。

 

 果たしてどうだろうか、と風太郎は子供たちが母親の言葉を忘れないでくれることを心中祈った。半分諦めている。

 

 

 

「五月も上杉君と仲直りしなさい」

 

「…」

 

「あれ、五月まだおこってるの?

 きのう、うえすぎさんにきらわれたらどうしようって―ーむぐぐ」

 

「よ、四葉しーっ」

 

「五月、くるじぃっ」

 

「後悔しているのならちゃんと話をするのですよ」

 

 

 

 いってきます、と玄関を出る先生に子供たちは手を振る。

 

 風太郎は子供達に見送ってくる、と一言告げて後を追った。言おうと思っていた言葉が、どうも気恥ずかしくて言い出せなかった。

 

 急ぎ裸足で玄関を出て先生に声をかけた。風太郎の何か言いたげな表情を見て取れていたのだろう。中野先生は声をかける前からこちらを向いていた。

 

 

 

「今晩はよろしくおねがいします

 このお礼は必ずいたします」

 

「あ、ああ…わかりました

 それで先生…まあ、忙しいでしょうから…その」

 

「?」

 

「…

 いや、お礼ならそうですね

 じゃあ先生、前もってお願いしておきます」

 

「なんでしょう?」

 

「学校、ズル休みします」

 

「いけません」

 

 

 

 即答だった。流石に教師が生徒にズル休みを許すはずなかった。風太郎は苦笑して続ける。

 

 

 

「先生に頼まれて今日の事を考えていましたが、よくよく考えたら明日のことはさっぱりでした

 朝になれば子供達を起こして、朝飯作って、子供達の幼稚園の準備をして、幼稚園に送ったり

 かなりハードな朝じゃないですか」

 

「できる限り早く戻ってきますが…上杉君の登校時間には必ず戻ります」

 

「ですが、俺が休むのなら子供達を幼稚園に送る必要もないし朝もゆっくりできます

 だから…目を瞑ってくれませんか先生」

 

「…」

 

「ゆっくり焦らず帰ってきてください

 適当にやっておくんで

 いってらっしゃい」

 

 

 

 教師として頷けないところがあるのだろうが、もはや聞く義理はない。急な話を引き受けた礼ぐらい好きに選ばせてもらおう。

 

 風太郎は先生を回れ右させて背中を押した。いつもは強くて憧れる背中だが、今この時は力強さを感じられない小さなものに見えた。

 

 

 

「わかりました

 ですが…戻った後お話があります、上杉君」

 

「じゃあ遅く帰ってきてください」

 

「それはできませんが

 仕方のない人を叱る元気は残しておかなくてはいけませんね…

 いってきます」

 

 

 

 何だ、笑ったのか?

 

 風太郎には後姿で分からなかったがいつもの口調が少し和らいで聞こえた。鉄仮面が崩れることなんてありえるのか、と風太郎は驚いた。

 

 馬鹿なことを考えていると中野先生は歩き出してしまった。先程押した背中とは違う、いつも見るきびきびと前を歩く、そんな先生の姿だ。

 

 さっきのは見間違いだったな、間違いない。もうじき暗くなるだろう夕暮れの中歩く先生を見送った。振り返るようなかっこ悪い人ではなかった。

 

 風太郎は振り返ってから、息を呑んで気を改めた。

 

 玄関から裸足で出てきた女の子がいた。半開きだったドアから少しずつ顔を出して、震えていた。

 

 五月はぼろぼろと止まらない涙を必死に拭って嗚咽をかみ締めていた。地面には次々と、涙の痕が絶えなかった。

 

 風太郎は五月の前に膝をついて、頭を撫でた。

 

 

 

「偉いな五月」

 

「…

 お、かあさん…おかあさあああああんっ!

 あぁあああああああ…ッ!!」

 

 

 

 母親が見えなくなるまで嗚咽を口から漏らさなかった五月は、母親を求めて泣き始めてしまった。

 

 抱きしめると、涙を拭うこともせず声を上げた。

 

 五月はまだまだ甘えん坊で親離れのできそうにない、母親思いの優しい女の子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に中野先生が外出したがこれからが問題だ。

 

 風太郎はこの日の為に事前に予定を組んできたがトラブルは付き物。油断は禁物だ。

 

 洗濯物を取り込み終わり、これからカレーを作るのだが、その前に風太郎の下に集まってきた子供たちの相手をしなくてはならなかった。

 

 母親が離れて戸惑っている。三玖だけでなく普段遊ぶ時だけ触れてくる四葉も風太郎が身につけたエプロンを手に握っていた。普段と段違いに大人しいのは良いが調子が狂う。

 

 もう日が傾き薄暗くなってきた。寂しさも募る一方だろう。

 

 

 

「それぞれの担当を言い渡す」

 

「たんとー?」

 

「そうだ、特に一花

 おまえの姉としての力を期待している」

 

「う、うん! おねえちゃんがんばるよ!

 なにすればいい?」

 

「五月を頼む

 一番へこんでるからな」

 

「あ…うん!

 わかった! ごはんまってるからね!」

 

 

 

 奥で窓の外を眺めている妹を見た一花は元気に笑って五月の下へかけつけた。

 

 本来なら風太郎が慰めるべきなのだが非情なことに他にやることがあるのだ。

 

 

 

「うえすぎっ! カレーつくるのてつだうわ」

 

「わ、わたしも! できるからねフータロー!」

 

「…よ、四葉もいいですか?」

 

「ああ、おまえらは俺の手伝いな

 視界から消えた奴は罰としてカレーを辛くしてやる」

 

「フータローからはなれないもん…」

 

「からいのはむりです!」

 

 

 

 知らないところで何をしているか不安になるよりは一緒に行動したほうが気楽だ。多少料理が遅れるだろうが安心する。それに楽しんだほうがいい。

 

 三人に手を洗ってもらい、ピーラーで野菜の皮を剥いてもらった。不器用で危なっかしい手つきだが一生懸命に取り組む姿を見れば応援したくなる。時間をかけてゆっくり行った。

 

 

 

「初めてにしては上出来だな、皮が残ってるところもねえし」

 

「ほんと?」

 

「このぐらいふつうだし、プリンよりらくしょーよ」

 

「わたしもこれきりたーい!」

 

「ダメだ、こっちは俺の担当だ」

 

「まえもひとりできってたじゃん!

 わたしもやる!」

 

「野菜の皮を剥いた程度でいい気になりやがって

 そうだな、今日一日良い子にしてるのなら考えといてやろう」

 

「ほんとう!?

 じゃ、じゃあ…きょうはいい」

 

「がんばってフータローてつだう」

 

「二乃いいなー

 わたしもうえすぎさんとおかしつくりたい…」

 

「じゃあ四葉もパンケーキつくる?」

 

「あまいのやだ…つぎはわたしとあそぶのっ!」

 

「うえすぎさんケーキ! ケーキがいい! クリームのやつ!」

 

「だからパンケーキだっていってるでしょ! クリームつけるから!」

 

 

 

 風太郎は子供たちの騒がしい会話を耳にしながら野菜を切って調理を進めていく。ふと五月と一花の様子を見ると五月がこちらを見ていた。すぐにそっぽを向かれてしまった。

 

 一花は絵本や塗り絵などを取り出して五月を誘っているが釣れないようだ。困った顔をして他の物はどうかと何やら物色していた。がんばってくれ。

 

 やだやだ、ねーねー、クリーム!と騒がしい声を聞き流しつつ、風太郎はエプロンやズボンを引っ張ってくる三人に屈しないよう踏ん張ってカレー作りに励んだ。

 

 子供の相手をしながら作業することに慣れてきた風太郎だった。

 

 なぜか頬が緩み、せめて美味しいと喜ばれるように…そんな気持ちを込めて料理に励んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カレー作りは一通り順調に終え後は煮込むだけとなった。米も炊いている最中で一段落つけると思いきや、手が空いたと知ってすぐに子供たちが遊んで、まだ手伝う、と引っ張ってきて休めそうになかった。

 

 母親を見送った後の大人しい雰囲気が薄れている。袖を引っ張ったり、しがみついてきたり遠慮がなくなってきた。やはり母親の言いつけは忘れられたようだ。

 

 三玖が遊ぼうとせがんでくるがまだやることがあった。先に風呂掃除を終わらせて、その後に洗濯物をたたみ、サラダを作れば調度良く夕食にできると風太郎はスケジュールを組んだ。

 

 大人しい三玖と料理に拘る二乃に煮込むカレーを見てもらい、風太郎は四葉と風呂掃除をすることにした。三玖には頬を膨らませて渋られたが頼める相手が三玖しかいないのだ。四葉は危なっかしいのでな。

 

 三玖の私怨の視線に耐え切れなくなった四葉に手を引かれ、さっさと風呂場に向かった。賢明だな。

 

 一花と五月はテレビを見ているようで大人しかった。サラダを作る時は二人も呼ぶとしよう。

 

 手早く終わらせよう。風太郎は風呂掃除に取り掛かると横から急に四葉が抱きついてきた。

 

 遊ぶのは後だと引き剥がしたかったが、少し様子が違った。

 

 

 

「おかあさん、どっかいっちゃうの?」

 

「あ?」

 

「…おとうさんみたいに…いっちゃうのかな」

 

「んなわけあるかよ」

 

「でも、おかあさん…おとうさんのこと…はなすときみたいだった」

 

「お父さんのこと?」

 

「…やさしくて、おこらなくなるの」

 

「分かりやすいな」

 

 

 

 どうやら四葉は母親の微弱な変化を察したようだ。ほんの少しの嘘も悩みも感じ取ってしまうのだろうか。根拠のない勘なのだろうが恐ろしい。当たっている。

 

 しかし父親が絡んでいるのでは、と疑われているのでは嘘はつけない。風太郎の都合で親子の関係に皹を起こさせることはしたくない。なにせ先生は誤魔化したが嘘はついていないのだ。

 

 子供の戯言だと一蹴してやっても良かった。とんだ勘違いだと。

 

 だが四葉は二人っきりになったこのタイミングで持ちかけてきた。

 

 他の姉妹を不安にさせたくなかったのだろう。それでも不安で聞かずにいられなかった。我慢してやっとこの場で聞けたのだろう。

 

 そう考えると小細工で誤魔化すことはできなかった。くっついてくる子供の頭を撫でる。

 

 

 

「まあ、よく見抜いたっつうか

 おまえの勘はいいな

 父親絡みだ、当たっている」

 

「…」

 

「でも先生はおまえの親父のことで話をしに行っただけだ、明日帰ってくるぞ

 でないと俺はどうするんだよ、明日帰るってのに」

 

「ごめんなさい…」

 

「…母ちゃんは絶対におまえ達を置いてったりしない」

 

「…」

 

 

 

 親父という前例があると最悪の可能性が拭えないのだろう。

 

 風太郎も分からない訳ではない。もし妹や親父に亡くなった母親と同じ前触れが起きれば心配になる。居ても立ってもいられなくなるだろう。

 

 そんなことはない。大丈夫だよ。そう励まし慰めるのが大人の役目だ。

 

 だが他人の風太郎には小賢しい嘘はつけそうにない。

 

 

 

「もしいなくなったら捕まえようぜ」

 

「?」

 

「走って捕まえるんだよ」

 

「そんなことできないです…」

 

「できるさ、ちゃんと会えるんだから…

 おまえの母ちゃんだって親父を捕まえようとしてるかもしれないぞ

 遠いところまで行ってよ」

 

「おかあさんが?」

 

「ああ、できない話じゃないさ

 走ってタックルするのは得意だろおまえ

 俺は何度もおまえに捕まっちまってるよ」

 

 

 

 つい話し込んで手が止まってしまった風太郎は風呂掃除を再開した。四葉の話に専念したいが台所に立つ二乃たちが心配だ。まだ不安なら後で聞くから許してほしい。

 

 そう頭を下げて浴槽を洗っていると背後から四葉にタックルをくらった。

 

 

 

「ししし、れんしゅーです」

 

「…」

 

「でも…うえすぎさんありがとー!

 えへへ、だいす…き…

 あ、あれ?」

 

「四葉、おまえ…」

 

 

 

 浴槽を洗おうと屈んでいるところに後ろから押されれば、頭から落ちるに決まっている。

 

 風太郎の顔は泡だらけで濡れてしまった。それを見た四葉の顔が引きつっている。

 

 これから怒られるというのに足にしがみつく手は離さないらしい。鈍いのか鋭いのかどっちなんだか。

 

 制裁としてその頭の悪そうなリボンごと髪の毛をくしゃくしゃにしてやった。泡が付こうが濡れようが関係ない。容赦はしない風太郎だった。

 

 ごめんなさーいっ! と、風太郎に抱えられて拷問を受ける四葉の顔は、悲鳴に反して楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめたほうがいいよ」

 

 

 

 風太郎と四葉が風呂掃除をしている一方で三玖は焦っていた。子供の三玖でもこれが危ないことだと見て分かった。

 

 

 

「ひにちかづいちゃダメっておかあさんも、フータローもいってた

 かじになっちゃう」

 

「そんなことしないもん」

 

 

 

 二乃が踏み台を持ってきて煮込むカレーをかき混ぜていた。母親と風太郎の見よう見まねでも、二乃にとっては楽しい冒険なのだろう。

 

 

 

「ダメだよ、フータローおこるよ」

 

 

 

 三玖が止めようと呼びかけるが二乃は聞いていない。楽しそうにカレーをかき混ぜていた。

 

 元よりお菓子作りに限らず料理に憧れていた子供だ。その行いに胸が躍っているのだろう。

 

 

 

「…む…

 一花、一花ー」

 

「どしたのー?」

 

「二乃がー」

 

「うん?

 五月ちゃんいこ?」

 

 

 

 一人ではダメだと察した三玖は姉を呼ぶことにした。

 

 風太郎を呼ぼうとも思ったが前に甘えすぎと言われたことを思い出して一花を頼った。

 

 一花と五月が台所に顔を出すと二人も驚きかけつけた。

 

 台所は危ないと言い聞かせられていた二人は、二乃が危ないことをしているとすぐに分かった。

 

 

 

「に、二乃、ダメですよ」

 

「二乃、危ないからやめよ? ね?」

 

「あんたたちまで…もうっ」

 

「二乃、フータローといっしょにやろ?」

 

「ひとりでできるもん!」

 

 

 

 二人が呼びかけてもダメだと察した三玖は、二乃が足場にする踏み台に手をかけた。

 

 一花も意図を汲んで三玖に続いた。

 

 

 

「ちょっと!?」

 

「ダメったらダメだよ」

 

「はなれてっ」

 

 

 

 二乃ごと踏み台をカレーの鍋から離れさせようと引っ張った。

 

 急に足場が動けば体勢を崩すだろう。引っ張った方向とは逆に体が傾く。子供には分からないことだろう。

 

 よろめいた二乃の手が熱した鍋に触れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂掃除を終えて居間に戻った風太郎はその瞬間を見た。

 

 コンロの前。子供たちが争っている。それだけで背筋が凍った。

 

 やめろ、と足を踏み出すが遅かった。

 

 手にぶつかった鍋とコンロが擦れる音。二乃の驚きと痛みの表情。二乃が怪我したことに驚いて手を離す一花と三玖。

 

 風太郎は十歩もない距離を走って踏み台から落ちる二乃を受け止めた。

 

 鍋はこぼれることはなかったが一度火を消して、左腕で抱えたまま二乃の手を流水で冷やした。二乃は泣いていた。

 

 三玖と一花に踏み台を持ってくるように伝える。二人は顔を青くしながらも急いで二乃を踏み台に立たせた。左手が空いたことで二乃の手を確認した。

 

 まだ分からないがそう腫れてはいないようだ。少し皮膚が赤くなっている程度で火に直接触れた様子はなく、鍋からもすぐに手を離していたから軽傷で済んだのだろう。

 

 しかし何かが違っていればと考えると恐ろしく、風太郎の冷や汗は止まらなかった。

 

 

 

「何であんなことをしたんだ三玖、一花…五月も

 二乃を止めようとしてたのは分かるがな

 危ないだろ」

 

 

 

 風太郎に叱る気などとうに失せている。静かに泣いている三玖と一花を見れば反省していることぐらい分かる。しかしいけないことをしたのは間違いないのだ。

 

 五月と奥の四葉は立ちすくんで動けないでいる。直接関わっていなくても五月は見ていたのだ。止めないといけない。

 

 どう叱るものか悩ませていると、二乃が踏み台から降りて風太郎に詰め寄ってきた。

 

 

 

「こ、こんなのへっちゃらよ」

 

「二乃、痛いところはないか?」

 

「ちょっとひりひりするけど、だいじょうぶ!

 ほら、ね?」

 

 

 

 涙声で大丈夫だと言い張り、火傷した手を握って開いてを繰り返して見せてくる。念のため保冷剤をタオルで巻いたものを渡しておく。

 

 二乃も自分が悪かったと自覚しているのだろう。自分より泣いている一花と三玖を見て居た堪れない顔をしている。

 

 風太郎が膝をついて向き合うと、泣きじゃくる二人の肩がびくっと震えた。

 

 

 

「三玖、一花、こっちを見ろ」

 

「ごめんなさいふーたろぉ…ごめんなさいぃ」

 

「…ごめんなさい…」

 

「おう」

 

「いたっ」

 

「っ」

 

「次は気をつけるんだぞ

 困ったら俺を呼べ」

 

 

 

 デコピンしてやると二人は額を両手で押さえた。

 

 続いて二乃の額にもデコピンしてやる。されると思わなかったのか痛そうに上を向いてもがいている。

 

 

 

「俺も悪かったな

 二乃に注意してなかったし、三玖に困ったら呼べなんて言ってないしな

 火なんて止めてとけばよかった、すまない

 ほら、おまえらもデコピンしやがれ」

 

 

 

 膝をついて手招きする。泣き顔の三人はよくわかっていなくても風太郎の言うとおり近くに寄ってきた。

 

 こちらを黙って見ている四葉と五月も呼ぶ。五月はともかく四葉がどこか寂しそうだった。巻き込まれないだけ良かったのに妙な顔をする奴だ。

 

 とことこと寄ってきた四葉と五月は風太郎にしがみついてきた。体勢が苦しかったが踏ん張って倒れないよう耐えた。誰も抱きしめてやるとは言っていないのだが。

 

 お返しにデコピンしていいぞ、と他の三人に前髪を上げて見せる。

 

 三玖が恐る恐る右手を出してぺちっと叩いた。おまえあれだけの力で引っ付いてくるくせに弱すぎる。

 

 三玖が泣き顔で風太郎に飛び込んできた。ちょうど四葉と五月の間から風太郎の首に抱きついてきて暑苦しい。

 

 続いて一花と二乃もごめんなさい、と謝ってしがみついてきた。

 

 五人に押されてしまっては耐え切れず風太郎は床に転がってしまった。

 

 

 

「おまえらな…少しは遠慮を知れ」

 

 

 

 台所で遊ぶな、そう言い聞かされたルールを六人で破ってしまった。

 

 何をしてくれてるんだ、と両手で抱えきれない五つ子の頭をぺしぺし叩いてやった。

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