五等分の園児   作:まんまる小生

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幼子との約束その2 先生への質問

「腹を割って話すべきか…

 しかし、あいつらに何の得が…深入りしねーって約束に反するし…」

 

 

 

 借りた車を返して、駅近くの繁華街で飯を済ませると夜になってしまった。休日だというのに重労働で疲れ果てた。

 

 中野家が残した家具を汗だらだら流しながら鋸で解体し、車で運んで破棄し、大家のお婆さんに挨拶して、自分の仕事に手をつけていたり。

 

 朝から動き回ってようやく得た休息の時間。冷えた酒を飲みたくなったが堪え、その代わりに考え事に耽っていた。悩むだけ悩んで答えは出せず。

 

 もう20時だ。あいつらはちゃんと飯を食べただろうか。

 

 高級マンションに引っ越したからって、倹約して貧相な食事になってないだろうな。ありえるぞ。

 

 電車を利用して帰る前に電話しよう。五月と話す約束だったからな。

 

 夏休みが終わる前には帰ると打ち明けた流れで、あいつらに一つ不安要素が増えてしまったんじゃないかと後悔していた。

 

 だから今日中に伝えるべきものがある。誤解させたまま心を痛めていると思うと、申し訳なさでいっぱいになる。

 

 携帯を取り出すと、朝から出ずっぱりで充電が心もとなかった。

 

 手短に済ませる必要がありそうだ。五月に電話すると、しばらくコール音が続き、手が離せないかと諦めようとしたところで出てくれた。

 

 

 

「は、はい 中野五月です」

 

「悪い、忙しかったか」

 

「い、いえっ

 そちらこそお忙しいのに、お電話ありがとうございます」

 

「気にするな、こっちも用事が済んだ

 …飯は食ったか?」

 

「はい、ちゃんと」

 

「…

 あー…まあ、あれだ」

 

「?」

 

「食費、ケチるなよ

 裕福に食ってるぐらいが爺さんも安心する」

 

「…はい」

 

 

 

 なんか妙に五月の声が拾いにくいな、俺の携帯も寿命か。五月以外の雑音が聞こえるようで違和感がある。

 

 昼は素っ気ない態度で五月の誘いを振ってしまったんだ。

 

 用事が済んだ今なら、多少の雑談をする余裕がある。バッテリーにも余裕があれば、の話だがな。

 

 

 

「二乃が美味しいカレーを作ってくれました

 中野家のご飯と言ったら二乃のご飯ですから」

 

「あいつが飯担当か」

 

「はい

 美味しいだけじゃありませんよ

 お母さんの為に栄養に気を遣ったりしてくれて…」

 

「そっか」

 

「…」

 

「二乃らしいな、優しい奴だ」

 

「…はいっ」

 

 

 

 見たことがなくても想像がつく。台所に立って文句を言いながらも優しい料理を作ってくれる姿が。流石に家族相手に文句はないか。俺嫌われすぎだろ…

 

 俺にとっても、家事を担ってくれた妹を持つ身としては、そんな姿がどこか可愛くも見える。

 

 しかしあの性格だ、二乃は妹の前では意地を張る子だろう。辛くても、あの子は口にせずに家族に尽くす。あの子も母親に似ているんだ。

 

 

 

「五月、悪いがあいつらに伝えておいてくれ」

 

「は、はい?」

 

「夏休みが明ける前とか話しただろ

 二学期が始まったからって、無理に登校しなくていい」

 

「…ですが…」

 

「いいんだ、行きたい時に行け

 担任に何か言われたら俺に言え」

 

「う、上杉さんにですか」

 

「ああ

 他校の教師がバックにいると知ったら、強引な真似できねーだろ」

 

「…え? 今なんとおっしゃって…?

 バックに教師…とは」

 

 

 

 そういえば言ってなかったか。仕事に関して何も教えてなかった気がする。

 

 

 

「俺も一応、教職に就いている」

 

「う、上杉さんが先せ――」

 

「えええええっ!?

 上杉さんが先生っ!?」

 

「凄い」

 

「四葉…三玖、声漏れてるって」

 

「声でかすぎ」

 

「あ、あわわわっ

 すみません上杉さんっ!」

 

 

 

 …なぜ五月との電話で、姉たちの声が耳に入るんだ。

 

 どうやら姉妹が揃っているところでスピーカーに切り替えて通話していたようだ。

 

 全部筒抜けか、地味に怖いことをしやがるぜ。

 

 さっきの二乃の話も本人に聞かれてたのか。憂鬱だ…また一言二言、きついのを言われるんだぜ。

 

 

 

「つーか、らいはから聞いてなかったか」

 

「う、窺ってませんでした

 でも…先生だったのですね、お母さんと同じ…」

 

「ねえ上杉さん

 やっぱりそれってお母さんの影響なんですか?」

 

「…少なくとも、先生と会わなきゃ勉強はしなかったな」

 

「わぁ…

 ししし、なんか嬉しいね、こういうのっ!」

 

「…俺の話はいいんだよ、とにかく登校を急かすつもりはない

 それだけ伝えておきたかった

 電池切れそうなんだ、今日はこのへんで…また明日な」

 

 

 

 母親に感化されて学校の先生になった。娘からしたら気になる話題として十分だろう。

 

 子供たちに興味を向けられると悪い気はしなかった。しかし生憎と携帯が限界だ。

 

 普段なら用が済んだらすぐに切ってしまう性質だが、昼間のことを思い出すとつい最後まで返事を窺ってしまう。

 

 やはり五月の反応は良くないようだ。手に掴んだ縁の糸が細く解れていく様を見たら、子供は怖がって引っ張ろうとする。

 

 

 

「あ、あの

 昼間の件は申し訳ありませんでした」

 

「いや、俺も袖にするみたいに断って悪かった」

 

「いえっ 次の機会が頂けるだけで十分です

 楽しみに待っています」

 

「…ああ」

 

「お店、上杉さんが好んでいる所にしようと思ってて

 男の方って甘いものはお嫌いでしょうか

 私はどこでも構いませんので――」

 

「はぁ…まったく」

 

「…?

 ? わ、私何か失礼なことを!?」

 

「い、五月ちゃん落ち着いて」

 

 

 

 電話の向こうで五月が慌てている。

 

 家族を亡くし、数日前に大泣きしていた子に…なんてことを言わせているんだ。年上なのに、高校の教師だというのに。

 

 まったく、なんて体たらくだ。十も年下の子供に気を遣われてるぞ俺。悪かったな五月。

 

 悩んでばかりで馬鹿らしい。ついさっき教師と教えたことが恥ずかしくなる。

 

 高校生だから何だ。亡き恩師の娘だから何だ。ただ子供が甘えようとしただけじゃないか。なぜ子供が謝ることになる。

 

 他人だとしても、俺はこいつらを守ると決めたじゃないか。

 

 その一方的な思い遣りは俺の都合でしかなく、こいつらに押しつける身勝手さが後ろめたかった。まだ俺自身が納得できる答えは得ていない。

 

 しかし。こんなにも慕ってくれる子供には笑っていてほしい。

 

 複雑なものなんていらなかったんだ、理由なんてそれで十分だ。

 

 

 

「もう遅くなっちまったが、今からそっちに行っていいか?」

 

「ぇ…

 え、えっと」

 

「…こっち見ないでくれる?

 別にいいわよ」

 

「すまん」

 

「でも変なことしないでしょうね

 こんなこと、今日だけよ」

 

「変なことって、ちびっ子の分際で何を心配してやがる

 先生に顔向けできねえことはしねーよ」

 

「誰がちびっ子よ!」

 

 

 

 そこで通話は切れた。画面が暗転して使い物にならなくなってしまった。

 

 

 

「あー…これで二乃の機嫌損ねたら詰みだな…」

 

 

 

 早くも前置きした制約を破ってしまっている。その時はその時でいいか。あいつとは本音で話したほうがいいって、あの時思い知らされたからな。

 

 逃げてばかりじゃあ男が廃るって言うしな。今朝、惚れ直せとか見直してやるとか妹と話をしたっけ。まあそういうことだ。

 

 あまりにも遅くなっては門前払いされかねない。小走りで子供たちの下へ向かった。

 

 足は疲れた後だというのに…思った以上に軽い。懐かしい感覚だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「臭い、汗くっさい」

 

「…」

 

 

 

 時間以外に問題があったようだ。外とは違い涼しいリビングには来訪者を仁王立ちで待ち構えていた二乃が。冷え切ってるのは冷房だけが原因ではなさそうでした。

 

 おまえ、この休日誰の為に一日中駆け回ってたと思ってやがる。流石にむかついてきた。

 

 二乃の指摘には無言で堪えておいてやる。労わる気ゼロだな。十年前に可愛がってた奴に罵倒されるのは胸に刺さるものがあるぞ。

 

 もう夜だというこの時間に中野家の新たな家にやってきた。居間には外の熱気を知らぬ五人が集まっていた。風呂上りのようで寝巻き姿だった。

 

 二乃の言葉に他の姉妹からのフォローはない。本当に汗臭いようだ。悪かったな!

 

 パジャマを着ている身からしたら汗臭さは遠慮したいだろう。嫌だったならはっきり言えよな。

 

 

 

「シャワー浴びてきたら?

 持ってきてた替えの服、一着くらい残ってないの?」

 

「上だけなら…」

 

「なら汗流してきて」

 

「…了解」

 

 

 

 気を遣われてるんだか煙たがられてるんだか、もうよく分からん。どの道嫌悪されてるのは間違いないが。

 

 汗をかいて一度風呂に入りたいとは思っていた。入室の最低条件みたいだし使わせてもらおう。

 

 脱衣所で衣服を脱いで、ホテル以外でお目にかからない小奇麗なバスルームでシャワーを浴びる。

 

 浴びてから気づいた、洗剤使っていいのか疑問だった。女子高生のあいつらなら異性に自分のを使われると嫌がるだろう。

 

 かといって、汗臭いとまで言われてるのに、半端にするのも反感を買いそうだ。

 

 …気を改めたところであいつらに関わると悩みは尽きないんだよ。五つ子というよりも年齢差と異性に関する悩みだが。 

 

 ふと、後ろの脱衣所のほうから物音がした。

 

 

 

「誰かいるのか」

 

「あ、上杉さん

 脱いだお洋服お洗濯しちゃいますよー」

 

「…四葉か

 あ、おまえ、悪いけど洗剤使っていいか」

 

「どうぞー」

 

 

 

 洗剤と言ってもボトルが多くてどれが何なのかいまいち分からないんだが。ボディソープだけ見つけて他は触らないことにする。

 

 後ろで四葉が上着を回収しているようだが、しばらくしてもまだ居続けているようだった。

 

 

 

「上杉さん、覚えてますか

 こういうの、昔ありませんでした?」

 

「…どっちのことだ」

 

「…え、どっちとは?」

 

「おまえと風呂場と言ったら

 おまえん家の風呂掃除した時と、俺ん家に泊まった時の二箇所しか思い浮かばない」

 

「お風呂掃除…

 え、えぇええ…」

 

 

 

 片方の思い出は覚えてないようだ。幼稚園の頃の話だし、覚えてる方が珍しいか。

 

 風呂と言ったらいくつか思い当たるものがある。そして四葉が知るものといえば恐らく二つ。

 

 中野家の風呂掃除は、先生が仕事から帰ってくるまでの間に手伝いでよくやっていた。

 

 あともう一つは、四葉が実家に泊まった時。四葉が覚えているのは後者だったらしい。

 

 

 

「それで、何の話だ」

 

「い、いえっ

 ただ、昔こんな風にお話したなと思いまして」

 

「…」

 

「皆と喧嘩したのに、上杉さんといると楽しかったのは覚えてますよ」

 

「結構覚えてるんだな」

 

「覚えてますよ、断片的ではありますが

 あの後いっぱい遊んでくれて

 お礼を言わなければと思ってました」

 

「…お礼ね

 確かに、あの頃のおまえは非常に面倒くさかった」

 

「あはは、すみません

 上杉さんはどうか分かりませんが

 …また会えて本当に嬉しいです、上杉さん」

 

 

 

 思えば、感謝の言葉を言われたのは四葉が初めてだった。十年ぶりの再会に喜んでくれるのは素直に嬉しかった。

 

 再会してから、五つ子に対して後ろめたさが消えない日はなかった。四葉の言葉はどこか許されたような、そんな安堵があった。

 

 五月の言葉は本人が助けを求める必死なもので、とても祝すようなものではなかった。

 

 俺からもそういった気持ちは伝えてないし、昔の話は避けるようにしてきた。だが先の五月のようにギクシャクした気遣いをされるのも困る。

 

 やはり伝えるべきか。だがどのタイミングで。四葉のようにすんなり言えるほどの素直さはないぞ。

 

 伝えたいことで思い出した。四葉のせいで今に至るまで後悔させられる黒歴史が増えたんだった。

 

 

 

「お陰で黒歴史が増えたんだぞ」

 

「く、くろっ 黒歴史ですか…?

 怪我させてしまった…とかではなく?」

 

「…思い出させたら謝るが

 おまえのデコに口付け――」

 

「―」

 

 

 

 背後からガンッ!と何かをぶつけるような音が響いた。

 

 

 

「どうした」

 

「お、覚えてたんですね…

 あ、あの時はとんだご迷惑をおかけしました…と…いいますか…っ!

 あ、あーっ…! あぁぁぁ…」

 

 

 

 悶えてるようだ。十年も前の、額にキスの件は四葉も覚えていたのか。

 

 27の大人でも恥ずかしいのなら、思春期真っ只中の四葉にとって耐え難い黒歴史なのだろう。

 

 黒歴史を掘り起こされて羞恥のあまり暴れているようだ。そろそろ風呂から出たいのに何してんの。

 

 

 

「上杉さん、どうかその旨は内密にお願いします…!」

 

「…わざわざ釘刺しに来たのか」

 

「そ、それもありますが、懐かしいのも本当ですよ」

 

「そうか、わかった」

 

「バレたら三玖になんて言われるか、気が気じゃなかったんですよっ」

 

「釘刺すのはいいが

 もうあの時と同じ子供じゃないだろ」

 

「はい?」

 

「流石にでかくなったおまえ達の前で、腰にタオルだけ巻いて風呂から出る勇気はない」

 

「…

 すみませんでしたっ!」

 

 

 

 やっと気づいてくれたか。四葉はそそくさと脱衣所から出たようだ。まったく、お子様め。

 

 脱衣所で汗を流した体を拭いて着替える。四葉の奴誤ってズボンまで持っていたんじゃないかと思ったが大丈夫だった。

 

 しかし、案外覚えているんだな。あの四葉がそこまで覚えていたとは驚いた。

 

 ということはだ。似て異なるといっても似てる五つ子だ。

 

 四葉が恥ずかしい黒歴史を覚えているのなら、あいつらにとっての黒歴史もちゃんと覚えていそうだ。該当するものが多すぎる…

 

 だから大人しくしろと何度も言ったのに。我侭ばかり言って好き勝手やるから、大人になった後に赤面することになる。

 

 四葉との思い出話はドア越しで助かった。洗面所の鏡を見て気づいた。

 

 不意打ちであんなこと言ってくれたから…つい笑っていたのがバレるところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この家には女子高生が五人もいるんだ。嫌でも姦しくなる。

 

 子供の時ですら耳を塞ぎたくなるほど喧しかったんだ。

 

 高校生にもなれば落ち着くと淡い期待をしていたが、相も変わらず賑やかな一時が蘇りつつあった。

 

 

 

「覗いた?」

 

「そんな失礼なことしないよ!?

 三玖、近い近い!?」

 

「どうかなー 四葉はまだまだお子様な面があるし、一緒に入ってたりして」

 

「昔のノリは止めなさいって」

 

「そういうのじゃないってば!」

 

「では何をされていたのですか、服を取りに行くだけで随分と長かったですね」

 

「…お、思い出話とか」

 

「二人っきりで? お風呂場で?

 なんかやらしいなー」

 

「白状するべき」

 

「う、上杉さんからもお願いしますっ」

 

「昔のノリはやめろ、振ってくるな」

 

「昔のノリって何ですかっ 上杉さーん!」

 

 

 

 今のおまえがこっちに突進して泣きついてきたら、幼稚園児を完全再現することになるぞ。

 

 風呂から上がってリビングを覗くと、四葉がソファに座る姉妹四人に問い詰められ半泣きになっていた。

 

 こっちはドア越しとはいえ全裸だったしな。少しは反省しろ。

 

 突進はしてはこなかったが、冷やかしの視線を向ける家族から逃げようと四葉は俺の隣に寄りついてきた。

 

 

 

「…四葉、上杉さんと仲良くなってる」

 

「流石にそれは気のせいだろ」

 

「そ、そこまで全否定しなくてもいいのでは

 三玖も…上杉さんがこう言ってるし

 そんなんじゃないからさ、ね?」

 

「…後で教えて」

 

「そ、それは…ごめん」

 

「尚のこと怪しい」

 

「もう許してー!」

 

「…あんたもしつこく噛みつくんじゃないわよ、みっともない」

 

 

 

 何か気に障るのか、他の姉妹が追求をやめても三玖だけは引かなかった。二乃が割り込まなかったら口を割るまで続きそうだった。

 

 矛を下げた三玖が恐る恐るこちらを見やって、目を逸らされた。何か訴えているようだが、ここでは薮蛇になるし何も言わないでおく。

 

 時刻は21時過ぎ。30階という高所からだと窓の景色も良いものだ。子供たちは眼中にないようで騒がしいままで、宝の持ち腐れという奴だ。。

 

 窓の外を眺めていると、五月がソファから離れてこちらに寄ってきた。

 

 次は何だ。つい身構えてしまう。

 

 

 

「あ…明日はご予定などありますか?」

 

「…いや、特別ない」

 

「…と…まっていかれるのは…

 いかがでしょうか…?」

 

「…ぐいぐい来るなおまえ」

 

 

 

 大人として信頼してくれるのは嬉しくも、そんな誘いを受ける大人に甘えていいのかおまえ、と顔を顰めてしまう。色々と違う面から心配になってきたぞ。

 

 姉四人は五月の提案を諦観しているだけで何も言うことはないらしい。

 

 過度な干渉はしないと言ったんだがな。ある程度踏み込む覚悟をしたつもりなのだが、泊まりは急にハードル高すぎじゃないか。

 

 それとも俺の考えが古いのか。女子高生進みすぎ。母親の件はもう大丈夫なのか五月。

 

 

 

「部屋空いてないだろ、五人分しかないし」

 

「そ、そうですが…」

 

「わ、私のベッド使っていいよ」

 

「えぇ…」

 

 

 

 さっきまで覗きとか、怪しいとか妹を睨んでいた子の言葉じゃないだろ…

 

 振り向くと、三玖は顔を赤くしながら挙手していた。恥ずかしいなら言わなければいいのに。

 

 三女の気遣いは他の三人には寝耳に水だったようで、身内は慌てて三女に説明を求めた。

 

 

 

「ま、まさか一緒に寝る気!?」

 

「…ば、場所がないなら…致し方ないし…っ!

 上杉さんは…信頼してる、大丈夫」

 

「十年も会ってなかった奴の何を信頼してるのよ!?」

 

「あ、ほら、上杉さん

 予備のお布団あるから、それを使ってください」

 

「こことか、夜景が綺麗でいいですよ!」

 

「泊まることに誰も反対しないのかよ」

 

 

 

 二乃も睨むだけで何も言わないし。五人の総意というのならば従っておくべきか。

 

 俺だけやたら気にかけるのも、自意識過剰と言われるだけか。返って警戒されて不安に思われるのだろうか。本当に判断が難しい。

 

 提案を了承すると五月は笑顔を見せてくれた。申し訳ありません、と言いながらほっと胸を撫で下ろしている。

 

 話が決まったところで、一花と四葉が布団を取って準備を始めてくれた。わざわざ申し訳ない。

 

 その傍らで、残った一組が喧騒を再開させようとしていて溜め息が出る。泊まるのはいいが気苦労が絶えない夜になりそうだ。

 

 

 

「三玖、あんたね

 止めはしないけど、少しは警戒しなさいよ」

 

「わ、私は…」

 

「期待して裏切られて、また泣いても知らないわよ

 上杉だって九月からはあまり会えないんだし」

 

「…

 私は、少しでもいいから

 私も、話したかっただけ…」

 

「…

 あんた、二人きりで話せるの?」

 

「話してたよ、家に来てくれた時に一回」

 

「へー、人見知りのあんたがねぇ…」

 

 

 

 …あれが話したと言えるのか。三玖の誇らしげな言い分に二乃が驚嘆している。俺はあれを前提に胸を張っている三玖に突っ込みたくなった。

 

 雨が振る中無言が続いて、やっと話ができたとしても泣かれてしまって、それどころじゃなかった。

 

 再開してから…と言っても決めつけも甚だしいのだが、三玖が時折こちらを窺っているのは知っている。

 

 話す機会を探っているのか。二乃の言うとおり人見知りな性格から警戒しているのか。どちらにしろ無視できないものだ。

 

 話をしたいのはこちらも同じだ。先生のことだけじゃない。四葉もそうだが、それなりに思い出話をしたい気持ちはある。

 

 一花と四葉が布団を運んできてくれて、フローリングの上に敷布団を敷かせてもらった。

 

 敷くのはいいが、おまえらはいつ寝るんだ。ここはリビング、こいつらがいる限りは俺寝れないじゃん。

 

 21時ではまだ早いとしても、五人の様子を窺えば大人しく自室に戻る空気ではないことは分かる。

 

 布団の上であぐらをかくと、五月と四葉が続き、姉の三人はソファに座りながらも体はこちらに向いていた。

 

 

 

「う、上杉さん

 先生になられたのはいつからなのですか?」

 

 

 

 五月がおずおずと、それでいて声を弾ませて尋ねてきた。

 

 昔もそうだった。ころころと表情が変わって面白い奴だな。

 

 四人の姉の視線も、俺の答えを待っているようだった。寝る気ないよなおまえら。

 

 子供たちに付き合ってやるべく、消えそうにない明かりの中で一つ一つ当時を懐かしみながら話してやることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かれこれ1時間が経ち22時を過ぎた。

 

 話題は尽きないのだが、空気が変わりつつあった。

 

 テレビも付けず無言が少しずつ続くようになってきた。気まずいのなら早々と部屋に戻ればいいのに、五月と四葉は話を続けようと話題を振ってくる。

 

 姉妹同士で仲睦まじく談笑していた姉三人も、だんだんとこちらに話を振ることが多くなってきた。虚勢も限界が近いようだ。

 

 話題は尽きなくても気まずくなる原因は決まっている。母親の話題を避けているからだ。

 

 最初は気づかなかったが、テーブルの上にあの先生の写真立てが置かれていた。

 

 そして、俺が気づいてから明らかに五つ子の空気が変わってしまった。

 

 触れてはいけないものに触れた時の気まずさだった。

 

 そうじゃないだろう。母親を疎むようなことはしないでほしい。

 

 あれから笑うようになったが、今でも悲しみを紛らわすのに必死なんだろう。

 

 だが、悲しみの根源を…嫌なものだと決めつけて蓋をする冷淡さも持っていない。

 

 目を逸らすなとは言わないが、見ないというのは酷い行いだ。

 

 俺は、母親の写真立てを倒したことを後悔している。大切な家族にしてはいけない過ちだった。

 

 

 

「おまえら

 先生の話を聞かせてくれないか」

 

「え…お、お母さんの話ですか?」

 

「何でよ…何であんたなんかに」

 

「俺はあれからの先生を知らない

 少しでいいんだ、話してくれないか」

 

 

 

 勝手な物言いだとは分かっている、それでも聞かせてもらうぞ。

 

 開き直りに近い態度だ。悲しみが癒えるのを待つと決めていたのに傷口を抉るような言葉だ。

 

 母の死に悲しみ、姉妹がお互いに支え合ってやっと兆しが見えてきたのだ。無粋な真似をしてそれを壊すようなことはしたくはない。

 

 だが、あれから一つ気になることがあったのだ。

 

 一つのサイクルが完成されているようで、あの家を見てから警鐘が鳴り響いていた。

 

 

 

「お母さんの話か…

 あはは、なんか思い出そうとするとできなくなるね」

 

「…辛そうにしてたか?」

 

「…弱音というか、そういうところは見せてくれなかったわ

 心配されるの嫌いだったから、ママ」

 

「…だろうな」

 

「…

 中学を卒業した時から体調崩して寝込んじゃう日が多くなったのよ

 前から体調悪かったんだろうけど…」

 

「辛いのに家事しようとするんだよね、お母さん

 元気なのか、嘘なのか…わからない時あったなぁ…」

 

「…そうか」

 

 

 

 嫌な思い出も、辛い思い出でも、忘れたくても、一つ掬い取れば次々と溢れてくる。

 

 母親の姿を思い浮かべているのだろう。二乃と四葉は話し終えた後に身をよじらせていた。

 

 一花も連想するように思い出して俯いていく。

 

 五月と三玖は母親の話題を振ってから既に俯いていく。三玖も膝を抱えながらもぽつぽつと話してくれた。

 

 

 

「亡くなる日の前に…お母さんと買い物に行った」

 

「…」

 

「調子がいいから、日向を歩きたいから…付き合ってって

 …

 …普通に、元気だった…」

 

「三玖…」

 

 

 

 一花が隣に座る三玖の頭を抱き寄せた。姉妹はこの話を知っているんだろうな。

 

 三玖は泣いていた。嗚咽を零して、しゃくり上げながら教えてくれた。

 

 

 

「いつもごめんなさいって

 またご飯作るって

 約束したのに…っ…明日にな…たらっ…!」

 

 

 

 母親との二人だけの最後の思い出なのだろう。大切な思い出でも今は後悔しかない。約束を果たせずに亡くなってしまい悲しみだけが残る。

 

 三玖はもっとこうするべきだったと母親に懺悔するかのように泣いて悔いていた。

 

 

 

「…一花はその日叩き起こされてたよね

 裸で寝る癖治しなさいって」

 

「…もう、四葉だって

 お子様パンツ卒業しなさいって言われてたじゃん」

 

「ちょ、ちょっとっ!

 何で今言うの!? 上杉さんいるのに!」

 

「あはは…」

 

「…確かに言われたけどさー」

 

 

 

 三玖が泣いてしまい、この場はもう楽しく話せるものではなくなった。

 

 認められない、少しだけでも抗いたい。そんな思いが見える四葉の言葉に一花も乗ってくれたのだろう。

 

 だがそれでも虚しいだけ。長くは続かなかった。

 

 最後に、俯いていた五月が口を開いてくれた。

 

 

 

「…いつも通りでしたよ」

 

「ああ」

 

「いつも通り、元気がなくても布団から出て、毎日私たちを見送ってくれました」

 

「…」

 

「起きているだけで辛かったんだと思います

 それでも家のことをしてくれて、できなかったら謝ってくれました

 そんなこといいから寝ててくださいって、それがいつものお決まりの話で

 いつものことでしたから、また明日もって…」

 

「そうか

 あの人、意地っ張りだからな…変なところで我侭だし

 最後まで母親をしたかったんじゃないか」

 

「そんなことより、私たちは休んでいてほしかったわ…っ

 母親らしいことなんて、他にも後にもいっぱいあるじゃんっ」

 

「あんな、最後は一人でだなんて…あんまりです

 誰か、一人でも一緒に…っ」

 

「…親不孝者、なのかな」

 

「それだけは…嫌だなぁ

 みんなお母さん大好きなのに…一回失敗しただけでそうなっちゃうなんて」

 

「…失敗って言っても、最初で最後だからね…」

 

「一花ぁ…」

 

「だから四葉一人のせいじゃないよ

 五月ちゃんもね、これは私たち五人が間違えたことだよ

 言ってたじゃん、五人で乗り切れって

 だから…一人で泣いちゃ駄目だよ、わかった?」

 

 

 

 一花の答えに納得がいった。姉妹として助け合い生きていく術は当たり前なことだと思っていたが、由来は母親の言葉でもあったのか。

 

 確かにそれはこの五つ子が生きていく中で一番安全な方法のはずだ。人間五人も組めば一つのグループになるし、寂しさもなく、大抵の事は五人で対応できるだろう。

 

 母親からの教えは間違っていない。間違ってはいないが、今はそれが逆効果になっているんじゃないか。

 

 

 

 

「死ぬ程きつくても平気な顔して娘を見送ってよ

 また明日ってのは、先生もそう思ってたんだろうな」

 

「…お母さん…っ」

 

「五月ちゃん…もう

 お母さん安心できないよ?」

 

「あんたね…あんただってそうよ

 姉だからって何でも我慢されても困るわ」

 

「…わかってるけど…」

 

「…おまえらな」

 

「上杉さんは本当に会ってなかったの?

 私たちに隠れて会ってたり」

 

 

 

 見ていられない。もう踏み込むべきかと話しかけようとしたところで、四葉から横槍を入れられてしまった。

 

 前にも話したと思うんだがな。縋りついてくるような四葉のその問いを無碍にできず、応えてやるしかなかった。

 

 

 

「高校卒業して引っ越してから一度も会ってねえよ」

 

「何でなのよ

 ママ、あんたのこと頼りにしてたのに

 何でなのよ…」

 

「二乃、だからそういうのやめてって」

 

「あんたたちもそう思うでしょ

 あの時の、上杉さんがいた時のママ笑ってたじゃん

 らいはお姉ちゃんも来てくれて、あの時が一番…

 本当に、あんたがいたら…ママだって入院考えたかもしれないのに」

 

「…そうかもしれないな」

 

「待って、二乃の言ってることは言葉が過ぎる

 お母さんは上杉さんにそんなこと求めてないはずだよ

 そんな、縛り付けるようなこと」

 

「だったら、今更来なくてもいいじゃない!!

 五月の約束とか言ってたけど、それも縛りつけてるってことでしょ!?」

 

「わ、私は」

 

「何で、そんな昔の約束を守って

 ママを守らなかったのよ!? おかしいでしょ!?」

 

「…」

 

「何でなのよ…

 ねえ…お兄ちゃんだったじゃん…私たちの…」

 

 

 

 何でかと言われたら…こんなことになるとは思わなかった。それだけだ。

 

 予期してなかったわけではない。だが、まだ時間はあると…根拠のない安心感に逃げたかったのかもしれない。

 

 また会えると思っていた。なんて愚かな考えだ。

 

 苦しみながら生きてきた先生や子供たちに対して言えるものではなかった。

 

 

 

「約束したんだ」

 

「約束?」

 

「先生の夢なんだとよ

 振り向かないで自信を持って生きる人間の支えになりたい、そう言われて見送られたんだ

 俺はその第一号だったのかもな」

 

 

 

 夢を語る先生の言葉は、今生の別れまで比喩するものではなかったとは思う。別れではなかったとしても、一つの区切りを言い渡すものだった。

 

 次会える日がいつなのか定かではなかった。それまで、先生に対する余計な心配は無用だとはっきり言われた。

 

 俺はあの時振られたのだ。必要とされず、求められずに。夢を叶えなさい、と背を押されて門を越えてしまった。

 

 ああも言われて先生に近づけるほど豪胆な性格でもないんだ。振られてもなお寄りつく男など、身勝手で浅ましい人間でしかない。

 

 そんな男になるつもりはなかったが、結局今の自分は女々しいものに成ってしまった。あの人から声をかけてくれるのを待っていたんだ。

 

 同い年が相手なら違っていただろう。相手は年上で憧れの人だった。先生に対して消極的な考えしかなかった。

 

 

 

「…自惚れたくなくてな…

 先生を救える人間は学生である俺以外にいるはずだった

 それこそ、俺より力になれる大人がいる

 先生の前で恥をかくのが、一番嫌だったから会えなかったのかもな」

 

「でも、一緒にいてほしかったっ」

 

「ああ…俺も会いに行くべきだったと思う」

 

「…自惚れなんかじゃないです

 お母さんは本当に、上杉さんのこと」

 

「もうその話はやめよ…?

 上杉さんを責めてるみたいで嫌だよ」

 

「でも…知ってほしいです…ちゃんと」

 

「そうよ、知らなかったなんて許せないわ」

 

 

 

 一花が気を回して話を切り上げようとしてくれても、五月も二乃も譲れないものがあって聞く気はないようだ。

 

 この話題は考え出すと止まらなくなる。何年も悩み続けたものだから分かる。

 

 もうこの答えを考える必要も意味もなくなった。あの人は死んでしまったのだから。

 

 話が変わるのなら調度いい。涙を滲ませる子供たちに言いたいことがある。

 

 事によっては問答無用でこの家を追い出されそうだが、これ以上子供たちから余計な気遣いをされるのも御免だ。

 

 

 

「この際言わせてもらうぞ

 無理に登校しなくていいとは言ったが、それも期間を定めての話だ」

 

「そ、それはもちろん」

 

「…急に何の話よ」

 

「…おまえらがこの調子で立ち直れるのかは疑問に思う」

 

「す、すみません」

 

「待って五月

 …迷惑をかけてるのはわかるし、このままじゃいけないのは当然よ

 でも…だからって私たちにどうしろって言うのよ

 すぐにママを忘れろって、そう言いたいの?」

 

「最後まで聞いてくれ

 悲しんだり恋しくなるのはいい、当たり前だ

 だが、悲しんで、泣いて、その後はどうするんだ

 また泣くのか」

 

 

 

 子供たちには耳の痛い説教だった。

 

 俯くなり、睨むなり反応はそれぞれ。だがしかし、事態がループしている自覚はあるようだ。

 

 人間が感情を完全に処理することはできない。無茶なことを言っている自覚はある。だが俺が伝えたい意味は、そんな話ではない。

 

 

 

「風化していくように、母親を失った悲しみも薄れていくだろう、時間が解決してくれるはずだ

 俺も待つつもりだった

 だがな、おまえら…

 悲しんで、慰められて、泣き止んだら誰かを慰めて、思い出したらまた泣いて

 その繰り返しじゃねえか…

 傷口が塞がる前に、誰かを慰める度に…自分で傷つけてるんじゃねえか?」

 

「…」

 

「姉妹に頼るのは悪いことではないが、一人で立って歩くことも考えないとな

 五人で乗り切るのも大事、もう十分お互いの気持ちは確認し合ったんだろ

 最後は一人で乗り切ってみろよ

 その後でまた五人で手を取り合って進めばいい」

 

「…もしかして、お母さんが言ってたことを汲んで…あんな思い出話をさせようと…?」

 

「いや、そんな五つ子ルールなんて知らなかった」

 

「な、なんだ…

 でも、それがなんか…フータロー君らしいかも」

 

「らしいって何だよ」

 

「…そういうところ、お母さんに似てるんですよ…

 少しは浸らせてくれたっていいじゃん…」

 

 

 

 他人からの勝手な物言いは、怒りより呆れが勝ったようだ。一花は肩を竦めて苦笑していた。

 

 一方的に忠告されて、それが正論だったとしても子供たちはただ困惑するしかない。

 

 

 

「…正直、まだ辛い」

 

「あはは、でもそう言ってくれるのは嬉しいよね

 もう上杉さんが親代わりみたいなものだし」

 

「親…

 …ねえ、フータロー…」

 

「…なんだ、三玖」

 

「…

 ふ、フータローは…っ」

 

 

 

 三玖から一回か二回、名前で呼ばれた時があった、上杉さん、は言いづらかったようだ。

 

 名前呼びに返事を返すと、三玖はほんの少し表情が柔らかくなった。

 

 

 

「フータローはどのくらいで、悲しくなくなった?」

 

「?

 …ああ、俺の母親のことか?」

 

「ちょっと三玖っ

 なんでそんなこと聞くのよ」

 

「いくらなんでも失礼だよ」

 

「ご…ごめんなさい」

 

「べつにいいぜ、俺も勝手に話してるし

 …まあ、一ヶ月だな

 俺は休まずに登校したがな!」

 

「…そんなもんなんだ」

 

「重ねて言うが、今すぐじゃなくていい

 学校も休んでもいい

 だがこのままじゃ救われないぞ、おまえらも先生もな」

 

「そんなことわかってるわ

 私たちだって泣きたくて泣いてるわけじゃないわ」

 

「ずっと泣いてばかりなのはわかってたけど…どうしたらいいのかな」

 

「私が泣いてばかりなのが一番の原因です

 皆を責めないでください…っ」

 

「…五月ちゃんには感謝してるんだよ ね?

 上杉さん、上杉さんの言いたいこともわかります

 甘えてばかりだけど…もう少し時間をください」

 

 

 

 急かすつもりはないと言っているんだが、そう捉えるよな。

 

 やはり言うべきじゃなかったか。責め立てられていると受け取った五つ子は、より一層自分に負い目を感じてしまうかもしれない。

 

 泣かなくなる方法など人それぞれだ。俺にもわからないことだ。

 

 難問を突きつけて期限を設けるから答えろ、そう押し付けているだけ。

 

 酷い教師だ。なにせ答え合わせもしてくれないのだから。

 

 一つ言えるのは、おまえたちが答えだと言い切ったものが答えなんだ。

 

 その時、おまえたちを心から褒めて、やりたいこと、求めていること、それに突き進むおまえたちを支えたいと思う。

 

 これもまた身勝手な押し付けでしかない。

 

 こいつらから見れば俺は身勝手で我侭に見えるんだろうな。先生が知ったら怒るだろうか。

 

 話は終わり、子供たちがそれぞれ自室に戻っていく。

 

 おやすみの挨拶もなく。やはり怒らせてしまったか。

 

 悔やむぐらいならするべきではなかった。頭を振って寝る前にトイレを借りることにした。

 

 

 

「…おい」

 

 

 

 戻ると布団の数が多くなっていた。

 

 乱雑に俺の布団を取り囲むように三つの布団が並べられていたのだ。

 

 頭が痛くなった。おまえら考える気ないだろ。一緒に寝るつもりか。

 

 枕を抱えている五人に溜め息をつく。歓迎していない、という俺の態度を見ても五つ子は苦笑いして戻る素振りは見えず。

 

 俺も我侭だが、おまえらのほうが数倍我侭だ。

 

 昔から変わっていない、そんな夜の一時だった。

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