「寝てたか」
目を開けば亡き恩師の遺影が、陽光に当てられていた。
遺影の視線は俺に向いており、すぐに飛び起きた。
知らぬ間に…机に突っ伏したまま眠ってしまっていたようだ。
外を見れば上がっていた陽が下がってきている。お陰で日向が伸びてきて背中が熱かった。
蝉と蟋蟀の鳴き声が響き、夕暮れが近づいてきている。
「…」
泣きつかれて寝ちまったのか。醜態を晒して喚いていた後のことは…あまり覚えていない。
部屋から出たわけもなく、先生の仏壇のある部屋で寝てしまっていた。
居た堪れない不安が残っている。五つ子に説教をしておきながら、自分が引き摺っているのだ。
我ながら繊細なのかず太いのかよく分からないな。都合の良い男であることは間違いない。
呆れて笑ってしまう。本当にどうしようもない男だ。これでは子供たちに愛想を尽かされる。
結局昼飯も食べていない。だが、生憎腹は空いてないし食欲は失せている。
「しまった、時間が」
もう夕暮れだとぼんやり眺めていたら思い出した。船の時間!
夕方の18時が最後だ。それを逃すと島から帰る方法はない。
時刻は16時過ぎ。余裕はあるが身支度しなければならない時間だ。
身体がだいぶ固まって痺れているが、立ち上がって部屋を出ることにする。
「…」
振り返ると、先生の遺影がある。
その下には、先生の亡骸がある。あの悪夢とは違うものでも、連想してしまう。
別れ、となる。ここにはそう気軽に来れないのだから。
…本当に、聞こえているとしたら…何て言えばいい。
分からない。これを考え始めると、そもそも幽霊について考え直す必要がある。答えなど出やしない。
「…また、来ます」
恨まれてるかもしれないってのに。先生は優しい人だから…そんなことはないだろうとも考えてしまう。
本当に駄目だな…一つのことを考えるとすぐに別のものが割り込んでくる。無意識なのだから、もはや病気だ。
それに、亡くなってから再会を約束するのも…なんだか悲しくなってきた。
本当に何でこうなってしまったのか。
踵を返して戸を開くと何かが足元に転がってきた。
後ろから見れば、それが人の頭だと分かる。
「いっ!?」
「いたっ」
嫌なものを連想させやがって… 落ちた頭からははっきりと声が聞こえて、口から上がりかけた悲鳴を抑えられた。
誰かと思ったら…髪に隠れてヘッドホンが見えた。
「三玖、おまえ」
「あ、起きたんだフータロー」
「何やってんだ、こんなところで」
「…かくれんぼ」
「隠れてたのか? 廊下から丸見えだろ」
つーか高校生でかくれんぼって。まあ嘘なんだろうけど。
疑惑の目で見ていると、三玖は視線から逃れてそっぽを向いた。
「べ、別にフータローが心配でお昼抜けて来てみたらフータロー寝てて起こすの悪いけど
フータローの寝顔初めて見るからもう少しって思ってたらお母さんの前であることを思い直して
仕方なく戸の隙間から見てたらつい眠気が…」
「…」
「…きた…わけでもなく」
「…」
「あの…その…」
「おう」
「…ゆ、夕方だから時間っ!
心配になって呼びにきた」
「さんきゅーな」
構わず見てると恥ずかしさから自爆していた。
長くてまったく辻褄の合わない前置きだった。嘘が下手くそな子だった。
「…本当に帰るの?」
「ああ、俺は日帰りだ
明日迎えが必要か?」
「ううん…皆で帰るから
…でもフータローも泊まっていくのは…」
「…悪いな」
「謝らないで…私たちこそ、ここまで連れ出してごめん
フータローも心の準備、必要だったよね…私たちが勝手すぎたんだよ…」
嘘がつけない三玖の態度から想像はつく。寝ているところと、その前の俺の態度から既に察しているんだろう。
嫌なものを見せてしまった。母親に対して後ろめたさがあると知ってどう思うだろうか。
後々疑心を高まらせてもらっては困る。素直に話すべきか。だがどうやって。
三玖の目はさっきから挙動不審だった。完全に怪しまれてるな。
説明しきれるか自信ないが、ここで退いてはいけない。
腹を割って話すかと思ったところで、そわそわしていた三玖がばっとこちらを見上げてきた。
「こ、これ」
「なに?」
「つ、詰めておいたの…お腹減ると思って」
「…」
三玖が恥ずかしながら両手で差し出してきたのは豪華な見栄えのする弁当箱だった。旅館の物だろう。
受け取ると三玖はほっと胸を撫で下ろして、さっきまでの落ち着きのない態度が収まっていった。
これが原因か。紛らわしいな、おい。
気持ちはとてもありがたいのだが…え、これはどうやって返すの。
…
「く、く…くくっ…は、ははっ」
「え…ふ、フータロー?」
「気持ちはありがたいが…あー…困った奴だな、おまえは」
「え"」
「…いつになるか分かんねーけど、また近いうちに来ないとな」
「ご、ごめん!
迷惑…だった?」
「いや、ありがとな三玖
最高のタイミングだった」
「?」
三玖の善意なのだろうが、後のことなど考えてなさそうだ。この弁当箱はいつ返すんだよ。
食い終わったら洗って返す必要がある。また来ないとな。臆してるからって来ないわけにはいかなくなった。
子供たちに預けて返してもらえばいいし、それとは別に爺さんと話をする機会は必ず訪れるが、このタイミングに少し笑ってしまったのだ。
あの人と会うのも、結局は子供が引き寄せたものが多い。本当に懐かしい気持ちになれて少し楽になった。
当の本人は混乱してこちらの顔を見ては逸らして、横目で見てきたり。
生憎時間の都合上、長話はできそうにない。他の姉妹に声をかけてから帰らせてもらおう。
五つ子に帰る旨を知らせると、旅館の入り口前まで見送ってくれるそうだった。
「上杉君、今日は私たちに付き合せてしまい申し訳ありませんでした
で、ですが…お疲れでしたら悪いことは言いません、泊まっていかれたほうが」
「昼寝したから大丈夫だ」
「…上杉君とお話できると思っていたのですが…
見失ってばかりでした…せっかくお母さんの故郷へいらしてくださったのに」
「私だって…フータローと行きたかった場所があった」
「また今度な
少なくとも再来月の四十九日に…先生の遺骨取りに来るからな
お墓、こっちって話だろ」
「あぁ…よかった、フータロー君一緒に来てくれるんだ」
「私たちだけだったら間違いなくお通夜の空気になってたわ」
一花の奴、またいらんこと気にしてたのか。それもあの時一緒に相談すればよかっただろ。
今日は一花と二乃と話し込んでいたこともあって、五月や三玖とは話す機会がなかったな。
行きの道中、船の上で思い出の場所があると何度も誘っていたのに。悪いことをしてしまった。
夏でもこの時間は日も暮れて、旅館の前の沿道に立てられた行燈に明かりが灯っている。午前中には見れなかった観光地らしい光景だ。
…別にまた会えるし、過剰に気にかけることもないのだろうが、やはり気になってしまう。
「おい、四葉」
「…すみません
色々と考え事をしてしまって」
「おまえの最初で最後の人生最大の悩みが吹っ切れたんだ、もっと嬉しそうな顔しやがれ」
「あの一言で解決したと言われてましてもっ…!」
「答えは出たんだ、言い切ってやれる程のな
まだ悩んでるんだったら今度納得できるまで付き合ってやる」
「…約束ですよ」
四葉は姉妹から少し後ろに隠れていた。
戸惑う気持ちも分からなくはないが、おまえの憂いが晴れるものなんだ。少しは喜べ。
それとも、原因が自分たちではなかったと分かっても尚何かひっかかるのか。気難しい子だ。
自分でもこれが自棄に過ぎないことは分かっている。何もかも背負ってどうにでもなってしまえと思っている部分もある。
それほど爺さんから告げられた先生の話は衝撃的だった。
本当に待っていたのなら、なぜ俺は会いに行かなかったのか。これは一生延々と考えて生きていくものなのか。
床に伏す程、体が弱っていたんだ。俺が会いに行くしかなかったんだ。
結局後悔しかなかった。ここに来てから分かっていたことだ。決して報われることなんて思うほうが間違っている。
「上杉君」
「…」
「?
上杉君っ!」
「あ、ああ…すまん」
「…
お爺ちゃんが呼んでますから」
「また爺さんか」
「人の祖父に対して失礼ですね…」
「今日はもう懲り懲りしている」
旅館の玄関の中に目を向けると確かに爺さんが立っていた。
普通なら最後に挨拶ぐらいするものだ。気を遣われてしまったようだ。
ご老人にわざわざ足を運んでもらったのだ、玄関まで赴き頭を下げた。
「今日はすまなかったな」
「…俺の問題だ、気にしないでください」
「…
この歳になると説教臭くなってしまうな
人の愛情を知ってもらうだけで、何かが足りないと思うとな」
「…あなたはこれからも母親の愛情をあいつらに教えることになる…ゆっくりでいい」
「ああ…だが一つ…
いや、いかんな…もう時間がない」
「…」
時間がない。確かに船が出る時間を考えるともう出る必要がある。
だが、そんなもの俺が走ればいいだけのこと。それで済む。
あんたの時間は、何をしても刻々と迫っている。
それが何年先かは知らないが、人の思いってのはその時にしか抱けないんだと思う。同じものなんてない。
爺さんは動こうとしない俺に肩を落として茶化した。
「…愛情には犠牲が伴う
零奈を思うと、そればかり考えてしまう…寂しいものだとな」
「…わからなくはない」
「零奈の為なら何を犠牲にしても構いはしない…が、今となってはな
これを孫たちに向けても戸惑うだけだろう
おまえさんに全て押し付けてしまっている、すまんな…」
優しさとは、時間でも体力でも何かを消費して証明される。それが大きいほどその優しさの大きさを示すとも言えるだろう。
愛情という曖昧なものでも同じ。気持ちだけで済むものではない。時間でも金でも、自分を犠牲に相手に尽くし費やす。
犠牲なら、あんたはなろうとしているだろ。
あんたも、先生も。一花も。二乃も。四葉も。
俺の親父も。
本当に、むかついてくるぜ、おまえらはよ。
むかつくが、肯定してやる。
「愛情には犠牲が伴う
ならば、犠牲が愛情を証明するのかもしれない
それが一番手早くて簡単なやり方だ」
「…」
「…その犠牲の価値の大きさは愛された人が感じ取るものだ
愛した奴にはわからないんだろうな
だからいつまでも、優しくあろうとする」
どいつもこいつもな。その癖、なぜかそいつらには不幸が纏わりついているんだ。
肝心なところではぐらかすんだ、見ていて不愉快だ。
十分だ。だからもういい。そんな言葉も言わせてはくれない。大人はずるくて…身勝手だ。先生も親父も。
それは恐らくあんたもだろう、爺さん。
あんたは娘をよく理解していた。あの言葉は俺の十年前の記録に酷く一致していた。
だからこそ言えると思う。
あんたはやり遂げた。だからこそ、その不幸に泣いていい。
「あんたが語る思い出も、俺にとっては先生との思い出に繋がる
教えてくれよ、いつかまた…あんたの愛娘のこと」
「…その時はお主からも語ってもらおうか」
意地の悪い爺さんだ。俺が泣いていたことなど知っていただろう。
正直、心が浮ついてまともに考えがまとまっていないが、そうだな…その時には必ず。
生意気が過ぎたと思ったが、爺さんは弱々しく笑っていた。
せめてその思い出が否定されないことを願っている。あんたが知らないだけでその愛情はきっと先生には伝わっていたはずだから。
「ここで誰かを見送るのって初めてだよね…
なんか夕暮れだと余計に物悲しくなっちゃう」
「思った…
いつも私たちはお爺ちゃんに見送られる側だった
…寂しいね、フータロー行っちゃうの」
「…嫌なら今からでも引っ張ってきたらいいじゃない」
お母さんと皆でお爺ちゃんにお別れをして帰る時とは逆だから新鮮だった。
上杉さんを見送って、視界から見えなくなってから皆も少し気落ちしているようだった。
この夕暮れ時が余計に物悲しさを何倍にもしているような。やっぱり泊まっていってほしかったよ。
ここに私たちだけで来るのは、本音を言えば嫌だった。
一花や五月は積極的に行こうって私たちを誘ってたけど、私も二乃も、三玖も乗り気じゃなかった。
お爺ちゃんにお礼を言うことが嫌だったわけじゃない。ただ…やっぱりお母さんの前に立つことが怖かった。
二乃も三玖も思い出すと泣いちゃうからって。またお爺ちゃんを心配させるって。
二人が最終的に合意を出した理由が、上杉さんが行くって行ったから。
その二乃の態度が午後から違うように見える。お風呂の時一人で行動してたけど、その時に何かあったのかな。
帰ってきた二乃はのぼせたって言ってたけどご機嫌だったし、上杉さんに当たることはなくなった。
「…なによ」
「…べっつにー
やっと上杉さんと仲直りしたのかなって
三玖が何て言うかな」
「…思ったけど、あんた昔から変わらないわね」
「え?」
「上杉の話になると、三玖に譲ってばっかり」
「それは…あれだけ好き好きって分かりやすいと」
「あんたも大して変わらないじゃん
何でもいいけど、三玖を当て付けに利用しないこと」
「…ごめん」
「まあ、あの子が上杉の話題になるとおっかないのは事実だけど
…ひっ!?」
「仲直りしたことは否定しないんだ、二乃」
だいぶ離れていたはずなのに、三玖に聞かれていたみたい。二乃が悲鳴を上げると三玖が私の背後から睨んでた。
三玖の目から逃げようと二乃が五月の背中に隠れた。とばっちりを受ける五月が二乃を引き剥がそうと走ってる。元気だなーもう。
「四葉は逆に落ち込んでるように見えるけど
フータロー君に何か言われた?」
「…正直、急な話に理解できてない状況…そういう一花さんは?
少しお顔がスッキリされてますが、いかがなさいましたか?」
「帰ったら義兄の通帳を拝見させて頂こうかなと思ってる次第です」
「何があったの!?」
通帳って…はっ、まさか同棲の事前準備とか…!? 三玖やばいよ! 一番の強敵はやっぱり一花だよ!
って、同棲というか一緒に住む話はたぶんないと思うから、何かの確認かな? びびったびびった。
でも上杉さんのお家、一度でもいいから行ってみたいな。
三玖と二乃と五月の追いかけっこは終わったみたいで、夏の涼しい夕暮れなのに三人共汗かいてぜぇぜぇ言ってる。これからご飯なのに。
大広間に向かって皆で夕食を摂る。上杉さんの分も作ってくれたみたいで、おかずの多いご飯だった。
食べながら二人の様子を窺う。一花と二乃も特段変わったところは見受けられない。でも怪しい。
きっと上杉さんと仲良くなれたんだよね。うん、なら秘密にしたいよね。聞かないほうがいいよね。
私も皆に教えられそうにない。
嬉しかった、上杉さんは私の悩みを覚えてくれていたんだ。
十年も前の昔なのに。おでこにチューまで覚えてたのは恥ずかしかったけど、それもそれで嬉しい。もしかしたらまたしてくれたり、なんて。
私が子供の頃から思い詰めてたことだから尚更嬉しいし、あんなことを考えていても上杉さんは私を見捨てないんだって、安心するんだ。
だからこれは私と上杉さんの二人だけの秘密にしよう。
お母さんにも言えなかった、二人だけの…
………
「本当にそうなのかな…上杉さん」
こんなこと考えてる子が、本当にお母さんを不幸にしなかったと言い切る理由が知りたかった。
でも納得するまで話し合うっていう約束は悪くないかな。その時にちゃんと教えてもらおう。
「みんな、ご飯の後にお爺ちゃんに呼ばれてるから一緒に行こうね」
一花の報告に皆が頷く。お爺ちゃんに聞いてみようかな、上杉さんと何話してたのか。
私が二乃と三玖と話をしてた間に何かあったんだ。でなければ上杉さん、あんな顔しないよ。
二乃も三玖もあの後心配してたんだから。お母さんの前で手を合わせてたあの様子は、最初見たものとはまったく違った。
あの時の上杉さんの背中はとても小さく見えた。
私たちの大切なお兄ちゃんだから、何度も助けてくれた人だから恩返ししたいよ。
上杉さんは不幸にしちゃいけない。絶対にお母さんのようにはなっちゃいけないんだ。
私、何だってしてみせるよ。例え皆と同じ場所にいられなくなったとしても、絶対に。
「…あの、四葉」
「…ん?」
「四葉、五月を見習ったほうがいい」
「え、何で?
どこを?」
「…あの、突拍子のないものに疑問に思うのは分かります
ですが悪意を感じます、ありますよね?」
「だっていくらなんでも、私そんなに食べれないし…」
「仏頂面で食べてるからだよ
五月ちゃんみたいに美味しそうに食べたらいいのにって」
「あはは…ごめん、なんかそわそわしちゃって落ち着かないみたい」
「大丈夫ですか?
…こう言っては快く思われないでしょうが、上杉君にメールしてみるのも」
「甘えすぎよ」
「うん、最近五月は本当に甘えすぎ」
「わ、わかってますがこればかりはお許しください…!
相談して教えを請わなければならないことがあるのです…!」
なにその相談って、五月も普通に私たちに隠し事してるよね…末っ子って甘え上手って言うかさぁ。見習いたいそこは。
考え事をしていたせいで顔に出てたみたい。向かいの三玖や五月に心配されて失敗したと改める。こういうところが余計な心配をかけるんだよね…
一花も二乃もその点は上手く自分をコントロールしていて羨ましい。それでいて上杉さんと対等に話し合えるんだから私とは全然違う。
でも一番は三玖かな、三玖には勝てないよ。
三玖は本当に優しい。お母さんの思っていることを一番に汲み取って理解している気がする。
三玖は私なんかにも隔たりなく優しくて、それを一切押し付けようとしない。それもお母さんによく似ていて…みんな居心地良いと思っているはずだよ。
だから勝てない…一花がこの前教えてくれたけど、私が一人で遊んでいるのを追いかけてくれたなんて知らなかった。
それをずっと黙ってたなんて…ずるい、三玖。
…なんか嫌になってきちゃった。本当に上杉さんにメールしてみようかな。
私ってお母さんに似ているところありますか…って。…でもなかったらどうしよ。
また三玖に顔が強張ってるって言われちゃった。お陰で横から一花と二乃に頬を引っ張られた。似ているところは仏頂面だったりして…それは嫌だなぁ。
美味しいご飯も食べ終わって、またあの部屋に足を運んだ。
お母さんのいる部屋の縁側でお爺ちゃんは腰かけて座っていた。お茶を飲んで涼んでいたみたい。
よく見れば、お母さんの仏壇にはお饅頭がお供えされていた。私たちも気が利かなかったかな。暑い日にお水を置いてあげるべきだったかも。
「座ろっか、座布団用意して」
「正座はNGよ」
「だらしない…」
「うっさい、ママの前で普段正座しないでしょ」
「作法に煩いお母さんが黙っているわけない」
「ぐ…でも私は今回はしないわよ」
午前中の出来事に二乃が苦情を訴えてる。正座しだしたのは五月だっけ。それに皆釣られちゃったんだけど、二乃が痺れた足を引きずらせながら我慢してたみたい。
お爺ちゃんの傍に座布団を置いて皆で座った。結局皆正座じゃん。二乃も文句言ってたのにちゃんとしてるし。
お爺ちゃんはゆっくりとこっちに振り向いて、体の向きをこっちに向き直してくれた。今日は月も出ていて外が明るい。
「お爺ちゃん、改めてお礼言わせてね…ありがとう、ご飯美味しかった
あと、これからも迷惑おかけします」
「お昼にも言ったわよそれ…」
「迷惑などない
あの男がおまえたちを看ると請け負ってくれたからな…」
「…お昼にも少し聞きましたが、お爺ちゃんが上杉君を引きとめてくれたのですね
本当に、ありがとうございました」
「…あの男とは仲良くやっているのだな」
そっか、お爺ちゃんが上杉さんに相談したんだっけ。五月の約束もあったんだろうけど、あの日五月を慰めてくれたのも上杉さんだった。
お爺ちゃんは私たちと上杉さんとの仲が気になるみたい。私たちは昔会ったことあるけどお爺ちゃんは知らないもんね。
「良くしていただいてます
とても頼りになる方で、教師をされていますから…母に近しい存在を感じています」
「盛りすぎよ…」
「お母さんっぽいとは私は思わないけど
私たちが泣いてばかりいる時に励ましてくれた
どっちかというとフータローは…お兄さんに近い」
「私もお兄さんに一票かなー
さすがにフータロー君を父親と見るには、もう少し頼り甲斐がほしいかな」
「…それってさ、つまり頼りないってこと?」
「うーん、違うか、頼らせてくれないって言い方が正しいか
ほら、フータロー君ちゃんと線引きしてるからさ
お父さんって言うからにはもっと踏み入ってもらわないと」
「ふーん…私は今でも十分だよ、束縛したくないから今が一番いい」
どちらも良いところと悪いところがあるのは仕方ないよ。それを全部押し付けるのは身勝手で上杉さんが可哀想。
私たちは少しでも上杉さんの負担を減らすことを考えないと…いつか倒れちゃうよ。
今日だってこの島から日帰りだよ? 大変だよ。上杉さんは怒ってなかったけど本当は辛いはずだから。
「私は今でも不可解なのは…ママを好きなくせに全然泣かないところよ
今日ぐらいあいつの泣き顔拝めるのかと思って楽しみにしてたのに」
「悪趣味」
「誰かさんの部屋を覗き見してた人に言われたくないわ」
「…私はちゃんと白状した」
「じゃあ私も次会ったら素直に暴露しておくわ
ふふ、楽しみ」
「二乃の悪趣味に乗っかりたくないけど、フータロー君には泣いてほしいのは同感
そのほうが私たちも接しやすくなると思うんだよね」
「そうです、だから私も上杉君が胸の内を語れる関係を築こうと積極的に交友を深めているのです
甘えているのにも理由があります」
「…フータローには泣いてほしくない」
「私も…」
三玖は何か知ってるのかな。お昼途中で抜けておかずをお弁当箱に詰めてもらってたけど…上杉さんに渡したとか。
私は気になってたけど怖くてあの部屋には近寄れなかった。
「あの男は一人で泣いていた」
「え、フータロー君が?」
「そうなのですか…
その…不躾でした…」
やっぱりあの時だよね。二乃と三玖も察したみたいで暗い顔を浮かべていて目が合った。
なんか…なぁ。やっぱり私たちの知らないところに行っちゃうんだよね。
私たちにはこんなに構って優しくしてくれるのに、大人はずるい。嘘つき。
お爺ちゃんは話したいことがあると言ってた。お爺ちゃんは立ち上がってお母さんの仏壇のほうへ歩いていった。
「一花…二乃…三玖…四葉…五月、聞きなさい
親は…いや、人は誰かを愛しても平気で嘘をつく」
それは昔からお母さんを見ていたから分かる気がする。
でもそれは、その嘘は優しくて…みんなにとってお母さんが大好きな理由の一つだった。
「優しいものほどそれは酷いものだ、嘘をつかれてもおまえたちは咎められないだろう」
言い当てられたみたいで驚いた。甘えるなと言われてるみたいで少し怖かった。
「子供には飴玉のようなものだ
飴が溶けるまでの一時の甘さで、見られたくないものを誤魔化す
それが悪いことだと思えないのも、大人の勝手な気持ちだ」
「それって、お母さんも上杉さんも同じってこと…?」
「あの男に関しては…わしよりもおまえたちが詳しいだろう
零奈に、母親に思うものがあるのなら…
あの男にも教えてやるといい」
それは私たちがお母さんに言えなかったことで、皆からの返事はなかった。
一花は不器用だったから…変に遠回りしてお母さんを悲しませちゃったよね。私も一花が高校行かないって言った時は驚いたし、それはダメだと分かってたよ。
二乃はお母さんの性格だからって全て受け入れて、お母さんが隠そうとしているものを見ないようにしていた。二乃は自分を責めながらも受け入れようと徹していた。
三玖は最後までお母さんに優しかった。お母さんが無理をしたらすぐに駆けつけて怒ってた。それでもお母さんを傷つけたくなくて途中で折れちゃって、何も変えられなかった。
五月はずっと怖がってたんだ。お母さんがいなくなる恐怖を誤魔化すためならお母さんの嘘を信じ込もうとして、それが時々怖くて、みんなで五月を止めた。
でも今思えば五月はちゃんと理解してたんだよね。
最悪の場合をちゃんと理解して…最後の望みに上杉さんとの約束を忘れずに願っていたんだから。
…私にお母さんとの思い出なんてない。私は傷つくことが怖くて一人でい続けた。
それでもお母さんには言わなかったよ。だってお母さんって…本当に不器用でどうしようもない人なんだもん。それでも私たちを一番に考えてくれる、一番大好きなお母さんだよ。
今思えば、私から言うべきだったんだよね。一番楽な場所にいたんだからさ。
もうやめて、もう十分だから。もういいんだよって。今度は私たちが頑張る番だからって。
「近い未来嘘だと暴かれようと、今だけは笑っていてほしいと思うのがおまえ達の母親の愛情だった
その結果、傍を離れてしまったことを許してやってくれないか」
「許すも何も…私たちは誰もお母さんに怒ってないよね…」
「割り切ったわけじゃないけど、あいつにも言われたことよ」
「…上杉君は、お母さんを許してやってほしいと言っていました。
少し悔しいですね
ずっと一緒だった私達より、離れ離れだったあの人がお母さんを理解しているみたいで」
「…はっはっは。」
「え」
お爺ちゃんが声を出して笑ってる、珍しい。
あまりにも珍しいからみんなもぎょっとして驚いてる。
あまり喋らないし、声も小さいお爺ちゃんがこんなに愉快な感じに笑うのは見たことなかった。
でも何で急に。おかしなこと言ったかな。
「それはつまり、あの男が一番に零奈を愛していたということだろう
はっはっは」
「ええええっ」
「…まあ、そうなるのかしら」
「…複雑」
「わ、私だってお母さんへの愛なら上杉君に負けるつもりはありません」
「こらそこ競わない」
お母さんとお兄ちゃん、本当に仲良かったもんね。
お母さんが少し羨ましい。こんなこと考えちゃいけないことだけれど…
いなくなっても愛してくれるなんて、それって本当の愛なんじゃないかな。
…だから、もっと早く会ってほしかったな。何で会えなかったんだろ。上杉さんあんなに優しいのに。
お爺ちゃんは笑っていた表情を戻して、仏壇の観音開きになってる棚を開けた。
中には、一回見たことある。お母さんの骨を入れた壷がある箱だ。布に包まれたそれがちょっとだけ見えた。
何で開けたのかなと思ってたら、その手前に、何か小さなものが置かれていた。小さな紙袋に見えた。
お爺ちゃんはそれを取り出して、一花に手渡した。
「渡しそびれたものがある
彼に渡してやってくれ…大切なものだ」
「…
これ、なに?」
ボロボロの小さな茶袋。
紙を入れるような薄っぺらいものじゃない。小物を買ったときに入れるような袋だった。
一花はそれを受け取って、疑問を投げかける。
「優しい子を傷つけてしまった自分では渡せなかったそうだ」
「…そ、それって…」
「多くは語るまい
知っているのは恐らく当事者だけだ」
「…うん、わかった
でもこれは五月ちゃんがいいよ」
「え、な、なぜですか」
「だって…元はさ、五月ちゃんの約束が繋いだ縁だもん
きっとそれがいいよ」
「…」
…ちょっと五月が羨ましかった。でも一花の言っていることはもっともで口出しできるわけもなかった。
一花は小さな袋を五月に手渡した。
見ていいのかな…凄い気になる。私だけでなく、二乃と三玖も紙袋の口元を覗こうと近寄る。
「み、見てはいけません!
これは上杉君に渡してからでないと」
「それ最初から開いてるみたいよ」
「え」
「セロハンテープ貼ってた跡がある
というか凄い古そう」
「ほんとだ、テープのところ黄ばんでるね」
少なくとも一年や二年前に買ったものじゃなさそうかな。
こんなのあったかな。見覚えがないや。気になるけど…これはこっそり見たりしたら五月に激怒されて泣かれそう。
お爺ちゃんからの頼まれ物は一花じゃなくて五月が管理することになった。
というか一花に預けちゃダメだったよ。もう一花の部屋汚くなってるんだから。
よくよく考えたら私たちが全力で止めるべきところだったんだ。二乃と三玖もどこかほっとしてた。
お話はこれでおしまいだったみたいでお開きになった。
もっかいお風呂に入ろうかって話になって自室に行くことになった。
「四葉」
「…? お爺ちゃん、なんですか?」
私だけ? お爺ちゃんに呼ばれてみんなには先に行ってもらうように伝える。
長くなるのかな、お爺ちゃんが腰を痛めたら大変だから座布団に座って話すことにした。
「零奈はおまえを一番に気にかけていた」
「…そ、そっか」
へー …って軽く答えちゃったけど、正直嬉しかった。とても…
でも何でかな、やっぱり迷惑かけてたからかな。
どれだけ私が一人でいようと努めても、お母さんには不安にしか感じられなかったのかな。
「似た目をしていると言っていた
他人に傷つけられて、変わってしまった子がいたそうだ…
おまえは次第にその子と同じ目をするように育っていると言っていたよ」
「そ、そうなんだ…私はそんなことなかったけど
その子可哀想だね、酷い人に虐められちゃったのかな…」
「…
言葉とは難しいものだ どれほど相手を思い遣っているつもりでも傷つけてしまうこともある
見栄を張ってばかりで誰にも頼ろうとしない
あの男も…零奈に酷く似ている」
「…
何でそんなことを私に?」
「零奈が伝えられなかったものを代弁しただけだ」
「…電話で言ってたの?」
「嘘は言わんよ
零奈は明言はしなかったが
同時に四葉、おまえと零奈はよく似ている」
「え?
…ぇ?」
えっと、私はお母さんに似てて、上杉さんもお母さんが酷く似ていて。
私の目は…変わっちゃった子に似てるって…お母さんが言ってて。
…私と上杉さんも似てるってこと…? お母さんが知ってるその子って昔の上杉さん?
変わっちゃった子って…上杉さんのことなんだ。
ま、待って…じゃあさっき言ってた優しい子を傷つけたって。お母さんが上杉さんを…
「四葉、零奈を不幸と見ているのだろう」
「そ、それは…
それは…」
「なら、正直に…自分を偽らずに生きなさい
おまえが母に求めたように」
「…」
お爺ちゃんはそれを伝えたかったんだろう。立ち上がって部屋から出て行っちゃった。
部屋に残ったのは私だけ。お母さんのいるこの部屋は静かで…ちょっと怖かった。
なんだか、よくわかんなくなってきた。
お母さんが何を思っているのか。上杉さんと私は似てたのかな。私は上杉さんのように優しくもないし頭も良くない。どこが似てると思ったんだろう。
聞きたい…。直接話して…知りたかった。
お母さんからまた、上杉さんのお話を聞きたかった。
昔はよくしてくれたよね。楽しそうに話してたの覚えてるよ。
好きなんだってバレバレでさ。だから皆そんなお母さんが見たくてさ、何度も聞いちゃったね。
「お母さん…」
お兄ちゃんはまだお母さんのお話をしてくれそうにない。
お母さんがもう話してくれることはない。このまま終わってほしくないよ。
正直に生きるべきなら…正直に言ったら上杉さんを傷つけちゃうよ。やっぱり自分らしくなんて無理だよ。
昔のように迷惑ばかりかけちゃう。
「なんだっけ、あの時なんて言ってくれたんだろ」
あの日、私に向き合ってくれた人にだけ正直な気持ちを伝えたんだ。
上杉さんが私の額に近寄って、優しくしてくれたのは覚えてる。
あの後の言葉が嬉しかったのは覚えてる。でも何て言ってくれたのかは…もう覚えてない。
知りたいな。昔の私が笑ったその言葉はきっと、今の私も笑っていられるものだと思う。
「お母さん…私ね、お母さんにも言ってなかったことがあるんだ」
正直になれそうにない。けれど今は。無意味なのかもしれないけれど。
一番気にかけてくれたお母さんになら教えられる。
私と上杉さんとの秘密。お母さんには到底言えないと思っていた。
お母さんに届くか半分半分の確立。それでも今なら。
「私ね、お母さんも…皆も…嫌いだったんだよ」
自分勝手な考え方に、上杉さんにも怒られたよね。
「嫌いだったんだよ…ずっと」
いつか離れていくのなら、私は壊れる前に嘘をつく。
嫌いなら嫌われても平気だと思ったから。でも嫌いになれなくて、一人でいるしかなかった。
でも、心の中で一番に望んでいたのは、逃げる私を捕まえてほしかった。
こんな私でもいいんだよって、許してくれて、温かいに家まで手を引っ張ってくれることを。
「ずっと好きだなんて…できないよ…」
子供のように、お母さんを困らせて引き止めたかったから。
言えた。できたのに…酷いよお母さん。
やっぱりお母さんは遠いところに行っちゃったね。
走って捕まえられないほど…ずっとずっと遠いところに。
「帰ったぞー」
「おかえりお父さん
あ、そこ危ないっ」
「あ?」
「ぐはぁっ!」
「おおっ!? 悪いな風太郎、来てたのか」
疲れて横になっていたところに背中を踏みつけられて肺から悲鳴が上がった。今日もまた散々な日だ…
「…何やってんだこいつ
風太郎が伸びてるなんて何か祭りでもあったのか」
「ううん、中野お爺ちゃん家に行ってきたんだって
船に乗って旅館に行ったのに、一人で日帰り」
「それは…なんつーかもったいねーな
旅館なら温泉か! 俺だって久しく行ってねえぞ! いいなー!」
「夏休みに行けよ…もう終わるけど」
仕事帰りの親父はいつも騒がしい。勝手なことを言ってちゃぶ台の前に座って笑っていた。
恩師の実家を離れ、船に揺らされ、人の少ない電車で半分寝て。
帰る前に実家に寄っていったのだ。顔を出せばらいはが出迎えてくれたが、親父は仕事でまた遅いとのことだった。
既にその時の時刻は22時を過ぎていた。少しは休めよと常々思う。
俺は疲れ果ててしまい無様に寝転がってた体を起こして座り直す。親父を待っていたら眠気を堪え切れなかった。
らいはもスマフォから手を離してこちらに寄ってきた。小学生の頃は携帯などに興味が薄い子だったのに今では友達とのやり取りに欠かせないらしい。女子大学生してやがる。
この家の大黒柱は夕食は食べた後のようで労働で疲労した体を休めていた。
俺がここを出て8年ぐらいになるのか、実家の風景は大して変わらず、貧乏臭くも落ち着いた空気があった。
「風太郎、中野さんの子供たちは元気にしてるか」
「ああ…段々生意気になってきやがった」
「それは何よりだ」
「お兄ちゃんが愛想尽かされないか妹は心配です」
「とっとと愛想尽かして一人立ちしてくれて構わん」
「見栄張っちゃってー
絶対に落ち込むんだよ、皆が結婚したらお兄ちゃん一気に老けるから良い人早く見つけたほうがいいよ」
「そうだそうだ! 早いところ孫の顔見せろ! 五人ぐらいが調度いいな!」
「…」
頼むから、先生の実家で憂鬱になりかけた後に結婚の話とかやめろ。
頭が痛くなってきた。あと何であいつらが結婚したら俺が老け込むことに繋がるんだ、意味が分かりません。
やっぱり実家に帰省なんぞろくなことがない。職場の先輩がよく親が結婚の話に絡んできてうるさいと愚痴を零していたが、よく分かる。よーく分かった。俺も後輩に言おう。
これなら家で一人でいたほうがマシだ。多少夢見が悪いがな。
らいははこちらと目を合わせて立ち上がった。
悪いな、と心の中で謝る。わざわざここに寄った訳も聞かずに諭してくれた。
「ちょっとコンビニ行ってくるね」
「おいおい、夜中に出歩くなよ」
「ここ狭いじゃん」
「…はぁ…」
らいはは気にしないで、と手を振って玄関へ向かっていった。俺と親父の溜め息が重なった。妹には敵わない。
妹が出て行ったとなったら、俺が父親に用があって来たことをすぐに理解するだろう。
親父は何も言わない。夏の虫の鳴き声だけが狭くて無音のこの家に微かに聞こえている。変わらない場所だった、今も昔も。
変わったとしたら…あの時程、俺は母親の記憶がないことだ。
毎朝パンを作ってくれて、あの台所で家族を支えてくれた。まだらいはが生まれていない、家族三人で過ごした風景がもう朧なものになってしまった。
「…」
「…」
目を合わせることもなく、何をすることもなく無言が続いてしまった。
言わなくていい、と教えてくれているようだった。何の話かも分からないくせに、俺の判断に委ねている。
あんたにとっても、良い話ではない。
だが俺はもう子供じゃないんだ。そうはいかない。
「親父」
「何だ」
「…謝らないといけないことがある」
言わなくてもいいことなんだろうな。きっとあんたは笑って…
それでも今日、俺は先生の家に行って、先生の父親と話をして…思ったんだ。
言わないとなって。もしかしたら言えずに後悔する未来があったら、そう思っちまったんだ。
もう逃げていられない。爺さんにもあいつらにも生意気なこと言っちまったからな。
「何だよ改まって、気持ち悪い」
「気持ち悪い言うなっ
いいから聞けっ!」
軽く笑って、親父は俺と向き合った。
…まともに向かい合って話したことがあっただろうか。
先生が亡くなった時も。俺が教師になった時も。俺がこの家を出る時も。大学に受かった時も。進路の相談をする時も。向き合うことはなかった。
いや、あったな。随分と前の…四葉が泊まった時と三玖のことで相談した時はまともに話したっけ。
子供の話なら向き合えるなんて馬鹿らしいよな。
だが、これも馬鹿な俺の話だ。だから話せるんだろうな。
「俺は他人を見下していたんだ、知ってるよな」
俺が先生と京都で始めて会った修学旅行の帰り。俺は染めていた金髪を元の黒髪に戻した。
その後のことだった。クラスメイトと揉めて、僻んで、何もかも捨てて見返してやろうと思った。
家族の為に努力する自分に酔っていた自覚はある。馬鹿だったから、貶される覚悟はあるべきだった。
だが俺にとってそれが一番で、何よりも…大事なものだった。
母が事故死したのは間抜けだったから。貧乏なのは親父が不良でろくでなしだから。馬鹿から生まれるのは馬鹿だと、妹を貶された。
馬鹿にされて、結果が出なかったことに指を差されたことが憎く、蹴落として撤回させてやろうと必死だった。
あれから間違っていたんだと分かっていても、俺は間違っていたとは思えない。
あの時の俺は家族しかいなかった。他人との間に俺の居場所はなかった。
親父は腕を組んで、呆れたような、どうしようもないと何のこともなく告げた。
「見下してたっつーか
優先してたものが違ってただけだろ
嫌なことあったんだろ」
「…」
だよな。あんたは分かってくれていた。一言も俺は話していなかったのに。妹を泣かせてしまったことがあったのに。
この狭い家で、近すぎる距離でもあんたは俺を叱らなかった。それが俺にとって最高の家族だと思わせてくれた心配りだった。
しかしそれは幼稚な子供でしかない。もうそれはいいんだ。それで終わっていいのは、子供までだ。
あんたは優しい父親だった。感謝している。だから俺は家族の為に勉強し、将来恩返しをしようとも思った。
自分でも…立派な目標だと思っている。
だからこそ、やってはいけなかったことがある。
「ああ…
でも、それでも…俺は」
伝わっているんだろうな。もう口にしなくても良かったかもしれない。
だが、いつか後悔するかもしれない。
言葉にしなければ本当のことなど。
「あんたも貶していた」
「…」
「心のどこかではあんたのように…不幸になりたくねえって思っていた
妻を亡くして、借金を抱えて、息子はろくでなし、娘に家事をやらせちまってる
俺はそんな人間にはなりたくなかった
あんたを失敗した人間だと決めつけていた」
今日も夜遅くまで働いて、家の借金の返済もまだ残っている。
最愛の妻を亡くしている。一人取り残されてもなお、子供の為に必死に働いて育てなくちゃならなかった。
それのどこに…幸せな人生があるってんだ。
今でもその苦悩を知りはしない。昔の俺も理解できない話だった。
分からないからって、父親を見下して遠ざけようとしたんだ。こうなりたくないと少しでも離れたくて。
親父は黙って聞いていた。
「それだけじゃない…人の価値は金だけが全てじゃねえって知ってもなお改めなかった
憧れの中野先生に否定されてショックを受けた
自分がやってきたこと全てが間違ってはいなかったと、全て無駄になることを認めずに…
俺は父親を蔑ろにして、心の均等を保とうとした
あんたの不幸とその努力を、足蹴にして立ち直ろうとしたんだ」
「ああ、なんとなく…そんな気はしてたぜ」
「…すまなか…った…」
知っていたと聞いて、頭を下げた。
こんな親不孝者があんたの息子で…悪かった。
「構わねえよ、こんな狭い家で暮らす家庭だ
良い事尽くしな家族なわけねえだろ
おまえは本当によくやってくれたし…本音で話す機会もなかったな」
それは俺が逃げていたからに他ならない。
妹がいる前だとか、あんたが疲れているからだとか、そんな理由をつけて。
頭を下げたままだと親父の顔は見れなかった。
頭を下げる子供なんぞ、見ていないかもしれない。不安はあったが…頭を上げることなどできない。
それでも親父は話してくれた。
「…まあ、言ったら負けってのはあるよな…」
「?
負けも勝ちもねえんじゃ…」
「負けってのは、相手がいる話じゃねーんだよ、風太郎」
「…何の話だ?」
話をはぐらかすつもりか。あんたはいつもそうやって…
仕方なく顔を上げると、親父は苦笑いしていた。
よっこらせっと、親父は手を伸ばしてお袋の写真を取った。
それをちゃぶ台の上に置き、重い溜め息を吐いて続けた。
「負けるってのは昔の自分にだ…弱音って嫌になるじゃねーか
一人で育てるって覚悟したしよ
母さんの分まで幸せにするって決めたんだぜ
その気持ちが揺らいじまうみたいでな」
「…ああ」
「母さんがいたら笑われちまうぜ
いや…マジでキレて勘当されちまうかもな
離婚しちまったら風太郎もらいはも連れてかれちまうところだった」
何がおかしいのか、陽気に笑う親父の気持ちは分からない。
それほど妻に誓ったものは重かったんだろう。
それが相手に向けて言葉にしたものなのかは分からない。
もし一人で抱いたものだったとしたら、俺は知っている。
地獄の日々の始まりになるだろう。
誰も見てはくれはしない。独り善がりだと分かっていながら、定かではない誰かに求められるよう…約束の為に生きるんだ。
求められる人間になるには…誰かに見てもらわないといけないんだ。でないと間違ってしまう。
「なあ風太郎、直球に聞くぜ」
「…」
「俺は、間違ってたのか…?
落ちこぼれとか不幸なんてそう思われて当然だ、周りにもそう見られがちだ
子供のおまえらからもそう見えるよな
仕方ねーし、俺も何も言わなかったしな…解決できねーんだわ」
「ああ」
「…
人と比べたら、俺の幸せってのは殆どの奴が持ってるしよ
金もねーし、家は狭いし
仕事は不定期…母さんも死んじまった。
でもな、不幸だなんて思っちゃいなかったぜ
子供がいるんだ…良い人生じゃねーかって毎日思ってた」
だから俺は…その程度で満足しちまう人間が嫌いだったんだよ…!
自分に言い聞かせるな、もっと求めろよ、幸せを! あんたの我侭はどこにあるんだ!
凡人の考え方だ。俺はそんなもの認められない。
努力した分成果は残るべきだ。自分の為に生きて、幸せを得るべきだ。
なのにあんたはその幸せを根こそぎ取られ、他人の目に見向きもせず…手の平にしかない残らない、小さなものだけを見て笑うのか。
馬鹿なんだよあんたも。先生も。あの五人もな。勉強以前の問題だ。優しすぎる…
…俺もそうなるべきだったのかもしれない。
何に妨げられようと見向きもしなくなる。やりたいようにやる。それだけしか眼中にないほど。
そんな大切な物があれば。
「…言わなくちゃいけないことをよ
先延ばし先延ばしって逃げて、もう20年近く経っちまったな…
俺もおまえに謝らないといけねー」
「…なんだよ、気持ち悪い」
「ひでーな…
まあ…俺は高校時代は遊んでばかりだった
なのにおまえはバイトと勉強を両立して、妹の面倒を看てくれたな
親子だってのに雲泥の差だ、理不尽だろ
昔怠けていた俺の失敗を、おまえに背負わせちまった」
「…」
「風太郎、不自由させて悪かった」
親父はあぐらをかく膝に手を添えて、頭を下げた。
嫌なものだった。心がざわついて落ち着かない。親父が詫びる姿など求めていない。
時には優しさが人の不出来を糾弾する。
思い返せば、高校1年の頃にバイトをすると親父に話したことがある。
思い出せないな。その時親父が何て言ったか。
分かるのは、思い出せないということは…忘れたかったんだろうな。きっと嫌な顔させちまったんだ。
一花の言っていた気持ちが少し分かる気がする。
「俺はあんたを惨めにさせるために生まれたんじゃねぇ…
俺はあんたのガキで…家族なら助け合うべきだ
裏切ったのは俺だ」
「裏切ったつっても、見習わないほうがいいってのは事実だしな
俺を足蹴にしていくぐらいが調度良いってもんだ」
「…足蹴にするぐらいならもっとマシになるべきだった
自分でも嫌になるぜ
何もかも…無駄に終わった
できもしねーことを目標に掲げて努力した気になった挙句、他人を見下して終わりだ」
「全てが無駄になったのか?
おまえは教職に就いて、立派に働いてるじゃねえか
俺がおまえの頃の月収と比べたら鼻で笑われちまいそうだしな!」
親父は自分を卑下するように笑った。
写真に写る母を見る。いつの頃なのかは知らないが恐らく結婚した頃のものか。母親も何かを費やし、努力していたに違いない。
小さな喫茶店を開いていたんだ。もしかしたらそれが母の夢だったかもしれない。
今更比べるつもりなんてない。俺はあんたたちは違う。良いところも悪いところも全部違う。
だが、今日ではっきりしちまったんだ。
俺は失敗したんだ。
高校時代の俺は、大学の頃もだ…何で俺はあんなに勉強してきたんだ。
一位を取って、取り続けて努力してきた。半端な気持ちでは取れなかった自負はある。俺は成功したはずなんだ。
少なからず、自慢でもあったんだ。あんたを見下してた分、先生に背中を押された分、報いになっているんだと。
それら全てが砕かれた気分だ。
何よりも…先生を不幸にしたことが辛い。会いたかったと何度も後悔している。
これから先、ずっと思い続けるのか。懺悔して生きていくのか。子供たちの傍で…一人で胸の内を隠してよ。
親父は妻が残した借金に子を巻き込んだことを悔いていた。同じなのかもしれない。
こんな気持ちを抱きながら、あんたは俺達を育ててくれたのか。
「…俺は
こんな人間になるために」
「…」
「こんな奴に…なりたかったわけじゃねえ…
俺は
いつか誰かに必要とされる人間に」
やり直したいと、馬鹿な考えが浮かんでは振り払う。目頭が熱く、とっさに堪える。
27にもなって情けない男だ。
これから俺はどうしたらいい。目標を失い、失敗している。
子供たちと接する資格があるのか。あってもなくても、あいつらが自立したら消えるべきだろう。
あいつらにとっても、俺にとっても。良い影響を及ぼすとは思えない。
それだけ考えつくと少し気が楽になった。それまで耐えればいいんだと、そう考えるとな。
「なに泣き言言ってんだ、風太郎」
頭を撫でられた。力強く、乱暴で弱気な考えを壊すような。
親父は笑っていた。
父親の前で情けない態度を晒してばかりだ
…笑ってくれたほうがマシだ、親父。
「俺も高校で真面目にやってればって何度も思った
母さんも…俺が不甲斐ねえせいで無理しちまったんだろうしな
おまえを見てると後悔もしたが…ほっとしてる」
「何が…」
「俺も学生時代を思い出したぜ
背広着てる先公ってびしってしててよ
かっけえじゃねえか、風太郎!
おまえもそう思うだろ、な」
…ああ、俺もそう思う。
かっこいいし、好きだったぜ…先生。
毅然として、努力家で、馬鹿真面目で俺の憧れだった。だから俺は教師になったんだろうな。
先生に憧れて選んだ仕事だ。悔やんで泣いてばかりじゃいられない。俺の憧れた人の職業だから。
あいつらの母親の仕事だ。腑抜けたものなど見せられない。
少しおかしくて笑ってしまった。こんな単純なことで、馬鹿馬鹿しい。
親父はそれを見て、手を離した。
あんたに頭を撫でられて思い出した。
俺が子供の頃のこと。まだ母さんがいた頃…一緒だった思い出が蘇った。
親父に謝りにきたってのに、謝られて、諭されて…励まされて。よくわからんねえ。
だが、話してよかったんだと思える。
物語のように綺麗に終わる必要はない。家族の縁は切れないのだから。
また次がある…また話そう。思い出を語ろう。
いつか後悔するかもしれないが…それで、いい。
そう思えることが幸せだった。また会いたいと思う気持ちは偽らなくていいだろう。
「帰っちゃったんだ」
「おう、そそくさと行きやがった
薄情な兄貴だぜ」
コンビニには行かず適当にブラブラして戻ってみると、お兄ちゃんはいなかった。居間にはお父さんだけ。
疲れ知らずな訳ないし、朝から忙しかったくせに。やっぱり心配だよ、もう。
もう時計は23時。今日も一日が終わろうとしている。もうすぐ夏休みが終わって…二学期が始まる。
五つ子のみんなは大丈夫かな。無理してないといいんだけど…またメールしてみようかな。
一人っ子なら世話を焼いても良さそうだけど、五つ子だから私がでしゃばるのもなぁ。
姉妹で支え合ってきたところに、私が割り込むのは無粋だし。
でも一花ちゃんは心配なんだよね…二乃ちゃんや三玖ちゃんからも声が上がってるし、年上として相談に乗ってあげたい。
………
「…大丈夫?」
「あ?」
「元気ないよ?
お兄ちゃんと何かあった?」
お父さんがずっと黙ってる。この時間になるとお風呂入ってすぐ寝ちゃうのに。
布団を敷かずに、ちゃぶ台の前に座ってぼーっとして。めったに見ない光景でぎょっとしちゃった。
あれ、写真置いたんだ。お父さんの前にはお母さんの写真があった。
「喧嘩別れとかじゃねーからな
出て行った時もそうだけどよ…遠くに行っちまったな」
「…またすぐ会えるよ」
「まあな
あーあ…」
うーん、分かりづらい。お兄ちゃんなら多少分かるけどお父さんは本当にわかりにくい。
お兄ちゃんと何を話したのか知らないけど、良いことあったのかな?
でもずっと溜め息ついてるし、本当に珍しい。
お父さんは私の視線を見て取ると手招きした。
話を聞くのはいいけど、はぐらかしたら怒るよ。
「あの爺さんよ、娘さんを亡くしても気丈な人だったよな」
「零奈さんのお父様?」
「ああ…
まだおまえにはわからねえだろうし、親はこんなこと軽はずみに言っちゃダメなんだけどよ」
「な、なに?」
「親にとって子供ってのは宝だし、人生みたいなもんでな
何があっても生きていてほしいんだぜ
子供に押し付けたら可哀想だけどな」
「うん…零奈さんもそうだったよ
…超不器用さんだったけど」
「中野さんも娘に言わなかったかもな
もしもな、言っておくべきだったって後悔する日が来たらよ、その親は辛いだろうな
人がいなくなる時は…ほんと、あっという間だな」
…うーん、むず痒い。お父さんの子としては無性に答えづらい。
でも、お父さんはお爺さんの気持ちが分かるのかもしれない。
もし十年経って、お兄ちゃんが亡くなったら…考えるのも嫌になる。
そうなるわけないと思っても、お父さんは思い浮かんじゃうのかな。だからちょっと寂しいのかな。
親不孝はやっちゃいけないこと。望んでもないのにしちゃったのは…辛いよね、零奈さん。
「…長生きね、うーむ」
「?
お父さんは再婚とかしないの?」
「…うーむむむ」
「…お兄ちゃんは間違いなく父親似だね」
「いいや、ありゃ母親似だ
面倒見は良いくせに変なところに拘る頑固者だ
俺はザ・適当」
「じゃあ私がお父さん似かぁ…
うん、やだ」
「おいぃ! 目の前で言う奴がいるか! 今日一番グサっときたぜ!」
「早くお風呂入って寝れば治るよ」
動こうとしないお父さんの背中を押してどかす。私はもう寝るんだもん。
明日もお仕事なんだから、夜更かしなんてダメなんだから。
背中を押さえるお父さんは少し憤慨しながらも笑ってた。うん、それがお父さんだよ。
「風太郎」
「おう」
「見栄張ったっていいけどな
だったら、その分幸せになれ」
風太郎が家を出る前のこと。
玄関で靴を履いたところで、勇也が声をかけた。
「幸せ、ね…
…はっ…」
「あーっ! てめぇ、鼻で笑いやがった!
お父様の身に染みた助言を蹴りやがるとは!
元不良生徒から学ぶもんなんてねーってか、教師様よー!」
「…考えておく、じゃあな親父」
「おう、また適当に来い」
すっかり、調子を取り戻した風太郎の姿に勇也は内心安堵していた。
長男が離れて、近い将来らいはも離れていくんだと思うと。親として嬉しい反面、寂しくある。
頑張ってこいよ、とドアを開けて出て行く風太郎に、父親は手を振って見送った。
玄関のドアが閉じられ、別れとなった。
「…親父」
「あ?」
玄関のドアは閉まりきらず、その寸前で止まっていた。
ドアの向こう側で、風太郎は手を離さずに掴んだままでいる。
顔を合わせずに、声だけが真っ暗な夏の夜に浸透する。
「俺は幸せだったぜ、あんたと一緒でな」
「…」
「恩返し、するからな
長生きしねーと許さねーぞ」
その言葉を最後に、ガチャリとドアは閉じられた。
足音が遠のく。
家庭を持って数十年…失敗続きな人生を送った父親への。
最愛の人を亡くして…長い年月を経た後に得た、愛する子からの答えだった。
「素直じゃない奴、誰に似たんだか」
勇也は躊躇ったが、静かに施錠した。らいはは鍵を持っているから開けておく必要はなかった。
居間に戻り、妻の写真の前に腰を下ろして天井を見上げていた。
これまで、やり直したいと願わなかった訳ではなかった。
しかし今この瞬間、それは無粋だった。
慣れたものだと思っていたが今はどうも調子が狂う。勇也には狭かったこの家が、ほんの少しの間だけ広く感じられた。
「長生きね…
だったら早く孫見せろってな」
「まだ言ってる…
そんなに欲しいなら私がお兄ちゃんより先に結婚しようかな」
「なにぃぃい!?
ま、まさからいはぁ! おまえ相手が、野朗がいるってのか!?」
「いないけど
大丈夫大丈夫、お父さんとお兄ちゃんより良い男見つけるから、安心して」
「やる気を出すな! まだ早いだろ!
俺を一人にしないでくれぇ!」
「私、夜中うるさい人って嫌い」
だったらお父さんも良い人見つけて再婚すればいいのに。
お兄ちゃんが帰った後でも騒がしい。相変わらずな家族。
お父さんは煩いし、雑だし、金髪でヤンキーだし、友達に見せるの恥ずかしいし。
困った父親だった。どこか放っておけなくてお兄ちゃんも気にかけて心配してる人。
好きなところは少ない、むしろ嫌いなところが多いけれど。
ずっと好きだよなんて家族に言わないけれど。
私もお兄ちゃんも大好きなお父さんは、本当に…
…ってほんと今更…やっぱ言えないかも。
言葉にできないまま、いつも通り私たち家族は一日を終えて、また明日を一緒に過ごすんだ。