五等分の園児   作:まんまる小生

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番外編 幼子との約束の後日談です。


番外編 五等分の教え子
五等分の教え子 恩師の墓参り


 その日は眩い日差しが刺す青空だった。

 

 8月14日。夏の日差しは墓石を照らし、枯れた空気が肌に纏わりつく。

 

 先祖と過ごすこの盆の時期は、墓地に多くの花が飾られていた。

 

 季節の彩りがなければ、白と黒の無機質なこの空間が前々から好めずにいた。

 

 故人に対する振る舞いの答えは定められていない。風習とはとかく曖昧で、これもまた嫌いな要所だった。

 

 墓なんて全部同じで見つからないものだと思っていた。少なくとも一年前までは。

 

 この日、上杉風太郎は墓前で手を合わせ、黙祷を捧げていた。

 

 墓石に添えられた花の香りと焼香が漂う中で静かに、穏やかな面持ちだった。

 

 蝉の鳴き声はどこか遠くへ。それとも耳に入っていないのだろうか。

 

 鼻につくその匂いにも慣れてしまったのか。風太郎は真剣に祈っていた。

 

 乾いた青空と蒸し暑い陽光は、一年前の出来事を連想させるから。

 

 

 

 中野家之墓。手を合わせた先の石にはそう刻まれている。

 

 

 

 高校時代、彼には世話になった教師がいた。

 

 17年前。京都で出会い、一人ぼっちだった彼に道標を与えた。

 

 11年前。間違い続けてきたその手を取って諭してくれた。

 

 恩師の墓の前で、思いの他力んでいた手を下ろす。

 

 風太郎は溜め息を一つ吐いてからゆっくりと顔を上げた。

 

 

 

「家、引っ越したからな

 取り壊されちまったし、迷っていないか先生」

 

 

 

 お盆とは先祖の霊があの世からこの世に現れ、かつての家に帰ってくると云われている。

 

 もう離れ離れになった家族と過ごすために。この国の古き習わしからそう教えられた。

 

 恩師には五人の子供がいる。

 

 それも同じ顔を持つ五つ子。その家族は狭く貧しい生活を送りながらも、母が子を愛し、子もまた母を愛していた。

 

 幸せだった親子の時間は一年前に終えてしまった。一概に幸福だったとも言えない、苦渋と努力の末に作られた優しい家庭だったのだろう。

 

 母は娘の帰りを持ち続けることを果たせずに力尽き、残された子供たちは嘆き悲しんだ。

 

 明日はこの人の命日になる。

 

 もしかしたら子供たちの様子を見に来ているかもしれない。だが、かつての古い家はもうなくなってしまっている。

 

 寂しい思いをしていないだろうか。どこかでまた娘の帰りを待っていないだろうか。

 

 それでも困ったように笑う姿が、ぼんやりと風太郎の脳裏に蘇った。

 

 

 

「…ここにいないほうが、あんたは幸せなんだろう」

 

 

 

 心配はなさそうだった。迎え火の代わりになるか、風太郎は苦笑した。

 

 墓には彼が持参した物とは別の、鮮やかな花が手向けられていた。

 

 既に家族が手を合わせに来ていたのだ。

 

 それぞれ五人がバイトをして、五人が用意したものらしい。風太郎のものと重ならないようにと注意されたのだ。

 

 好みがバラバラな五つ子のそれは、どうも哀悼の意には少しかけはなれているような。華やかで可愛らしい、あいつららしい愛情が込められている。

 

 子供たちを見守ってくれているのならば、今この場にはいないのだろう。きっと一緒に歩んでいる。

 

 そのほうが風太郎にとって気楽だった。

 

 

 

「報告ぐらいしておくぜ

 これでも保護者代わりなんでな」

 

 

 

 なぜ風太郎が他人の墓参りに足を運んだのか。結局理由がなければ会えないのは変わっていない。

 

 亡き母に代わって祖父が、その祖父に代わり風太郎が、五つ子の面倒を看ている。

 

 この一年間、幼稚園の頃に出会い再会した子供たちと過ごしてきた。

 

 最近になって生意気度が極めて高まりつつあるのだが、母親からすればまだまだ子供たちが心配に決まっている。

 

 さて、何を伝えておくべきなのやら。風太郎は青空を見上げて考える。

 

 長話など御免だ。だが生憎と五人もいるんだ。一人でも手に負えない問題児が五人も。

 

 だから調度良かった。

 

 義務があれば、こうしてこの場に一人で足を運んで来られた。

 

 毎月、月命日に墓参りに来る子の付き添いでなくても。

 

 

 

「実際、あいつらは貴方に似て気丈な子に育った

 俺なんて必要ないのかもしれない

 そうあるように見守るのが、教師だしな」

 

 

 

 五人揃って生きることを望んだ母の教えを信じ、その術を熟知している五つ子たちは母の死も乗り越えた。

 

 今日に至るまで笑って、怒って、泣いて、努力してきたあいつらを見守ってきた大人は、誇らしく語りたかったのだ。

 

 先生が望んでいた、憂いなく笑ってくれる日はきた。ただ泣くだけの子供たちではない。

 

 しかし。

 

 子供が前を向いて将来を歩み始めているというのに。

 

 こうして、五つ子から離れた今ここで。

 

 導くはずの大人が、故人に会いたいと願いを抱くのはいけないことだろうか。

 

 せめて安らかに眠ってくれるように願う事しかできないこんな未来を受け入れていても。

 

 出会ったあの頃のように。

 

 傷つけ合って、全てが不器用で遠回りばかりだった日々でも。

 

 あの頃の思い出が一番輝いていた。

 

 思いとは、言葉にして伝えなければならなかった。でないと募り続けてしまうのだから。

 

 

 

「…これなら一緒に来れば良かった

 姦しくて苦労するがな」

 

 

 

 過去を思い返す暇など与えてくれない。そんな子供たちの時間を思い返して風太郎は呆れて笑った。

 

 もし再会したら。

 

 風太郎の言いたいことは決まっていた。

 

 あの時も。これからも。同じことを思うだろう。

 

 

 

「面倒くせーぞ、おたくの五つ子」

 

 

 

 なんて、文句が言いたいだけだった。

 

 文句を言いたいのに、なぜか彼の胸の内は温かく。

 

 

 

「まずは…長女の一花の話をしよう

 貴方にとって、一番頼れる子だったんじゃないか」

 

 

 

 風太郎は苦笑し、もう亡き人へ…五つ子との思い出を語った。

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