五等分の園児   作:まんまる小生

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五等分の教え子 背徳ご奉仕包囲網のご褒美

「ぐっ…おも…ここでいいのか?」

 

「はい、そこに置いといてもらえれば後は私が運びますよ」

 

「二度手間だから…どこに置くか教えてくれ」

 

「…えっと…部屋の一番奥です、そこの角」

 

「りょ、了解」

 

 

 

 相も変わらず土日は五つ子と過ごす中、今日はいつもと違い重労働を担っていた。

 

 五つ子たちの私室は各々の個性が溢れた空間に仕上がっていて、かれこれ何度かその模様替えの手伝いをしたことがあった。

 

 今日はその一環といったところか、四葉の部屋に新たに家具が追加され、今しがた玄関から階段を上がって持ち主の部屋に届けたところだ。

 

 運送業者に頼めたのに…四葉が断った後、二階建てでもないのに階段があることを失念していたお馬鹿に代わって俺が運んでいるのだ。

 

 無事にタンスを所定の位置に置き終わり、居間のソファにぐったりと体を沈ませて休ませてもらった。静かなものでつい眠ってしまいそうだった

 

 

 

「そういえば四葉

 あいつら全員外に出てるのか」

 

「午前中に戻ってくるとか言ってましたよ

 いつもすみません、男手が上杉さんだけだと…大変ですよね

 しかも私たち5人もいるので」

 

「5人いねーだろ、おまえしか残ってないし

 五人もいれば、あのタンスも楽に運べたぞ」

 

「それもそうですね…」

 

 

 

 我が身の出生が五つ子であり、母親に負担をかけてしまっていたことを憂えていた四葉は苦笑した。

 

 これといって用事があるわけでなく。これからの予定を組み立てていると…ふいに肩に…背後から首元に触れられた。

 

 驚いて振り向くと、何やら距離が近い四葉が構わず俺の肩に手を添えてきた。

 

 

 

「な、何なんだ急に、むず痒い」

 

「今日、私はこの後の予定を決めていたんです」

 

「まだ作業が残っているのか?」

 

「とんでもない、上杉さんはもう休んで下さい

 決めていたというのは、私は今日…

 上杉さんを、労わるんです!」

 

「…ん? は?」

 

 

 

 堂々と宣言した内容がいまいち理解できず。四葉はそんな俺を置いて拳を握って張り切っていた。

 

 何の主張か分からず疑問符を浮かべる俺に四葉は力説してくれるらしい。

 

 

 

「もうじき上杉さんと再会して1年経とうとしていますよね

 これまで私たちの為に何度も足を運んでいただいて、数々の無礼を重ねてきました」

 

「…茶でも出してくれるのなら頂くぞ」

 

「生憎と私はコーヒーの淹れ方も、美味しいお茶の作り方も知らない家事ダメダメな子なので

 私は五つ子の中で随一の体力があります、力もあります、逆にこれしかありません!

 なので…私にしかできない恩返しを模索していました!」

 

「あぁ…ふーん…それで

 もう嫌な予感しかしねーんだが、いったいおまえは何をする気だ

 もう帰っていいか?」

 

「帰ってもいいですが、現場が上杉さんのお家に変わるだけですよ」

 

「労わる気ゼロだろ、強制執行かよ…」

 

「今さっきちょっと触って、やっぱりなーって思ったんですよ」

 

 

 

 力技で何かされそうだと思ってげんなりしている俺に、四葉はまたもや俺の肩に触れてきた。

 

 グイグイ、と結構強めに触られ…もとい揉まれた。

 

 

 

「う、ぐ…よ、四葉、くすぐってぇッ!」

 

「…上杉さん、めっちゃ硬いですよ…肩

 というか…うん、背中もですね、ガチガチに凝ってます」

 

「ま、待て、どこ触って…!」

 

「もう、動かないでくださいよ

 お母さんもそうだったんですよ、仕事柄座ってお仕事してるから肩も背中も腰も硬くて

 こういう肩凝りや腰痛から始まる病気ってあるんですよ、直せなくなるケースもあるんです」

 

「あ、ああ…俺の前の主任もヘルニアになったとか聞いたな」

 

「知ってるのなら話は早いです

 不健康の元じゃないですか、だから私何度もマッサージしてあげたことがあって」

 

「うぐっ」

 

「今日は、上杉さんにしてあげますっ

 お母さん喜んでくれたので、上杉さんも気に入ってくれるはずです」

 

 

 

 無造作に背中を弄られ、肩をがっちり掴まれて宣告されてしまった。

 

 先程触られて揉まれた感触を思い出すと、確かに心地よいものはあった。がしかし、無遠慮なタッチがどうも慣れない。俺が不慣れなだけか。

 

 マッサージなど一度も体験したことがない身だ。接骨院など行ったこともなく、まだその世話にはならんという自負があって考えた事なかった。金かかるし。

 

 四葉は俺の肩を叩いて立ち上がると、いそいそと俺が泊まる際に借りている布団を持ってきやがった。

 

 それをリビングに敷く。先程の体験から暗雲立ち込める空気を感じているので、ここは逃げるのが吉。

 

 がしっ! と、伸びきった足を見ると、布団から手が伸びた四葉に掴まれていた。ずるずると布団のほうへ引き摺られていく…

 

 

 

「死にたいんですか?」

 

「大げさな…」

 

「あんなに硬い人初めてだったんですけどね、お母さん以上でした」

 

「…

 お、お願いします四葉先生」

 

「よろしいっ!

 この四葉が責任持って上杉さんの体を癒してあげましょう!」

 

 

 

 このヤブ医者め。先生がお世辞で褒めたのではないことを祈るしかなさそうだ。

 

 四葉に引き摺られて布団の上にうつ伏せで寝転がると、肩に手をかけられ、だいぶ強い力で揉まれた。女の子にしてはやはり…こいつ力がある。

 

 警戒する程嫌なものではなく、やはり心地良いもので…先生が絶賛していたのも実力があったからこそと言える。

 

 

 

「上杉さん、もっとリラックスしましょうよ

 肩肘張ってると痛いだけですよ」

 

「…」

 

 

 

 しかしだ。親子であり同性だから心置きなく身を委ねられたのだ。男である俺の背中に跨って女子高生がマッサージしてるなど…嫌な構図だ。

 

 こんな姿、他人だけでなく、あの五つ子にまで見られたら何と言われるか…

 

 

 

「…」

 

「…」

 

「…あれ、五月戻ってたの?」

 

「何をしているのですか貴方たちは…いや、見て分かりますが…

 …

 不純…ではありませんよね? 早く離れてください」

 

 

 

 リビングのドアの前で五月が棒立ちしていた。俺と意見が合致しているようで、目が険しくて警戒感を高まらせている。

 

 そりゃあ家に帰ってきたら、家族と団欒を過ごすリビングに男女が布団を敷いて組み付いてたら思考が停止する。五月は頭痛がする額を指で抑えて問い質した。

 

 何も怪しいことはしていないと、四葉が経緯を説明する。その間手際良く俺の肩の筋肉を刺激しているあたり…手馴れてやがる。

 

 

 

「あぁ…お母さんによくやってあげてましたね

 ですがもういいでしょう、皆が戻ってくる前に取り止めてください」

 

「うんとね、まだだいぶ固いし、腰もまだだから時間かかるよ」

 

「…えっと、あの…上杉君の症状はいかがなものなのですか?」

 

「お母さんよりやばいよ」

 

「は…ぁ……ぁ…ッ!」

 

 

 

 急に何だ。五月は四葉の返答を聞くと突然よろけて、寝転ぶ俺の傍らに膝をついた。

 

 バッと俺の手を両手で掴んで、祈るように胸に抱え込まれた。緊迫したその様子につい戸惑ってしまう。

 

 最愛の母に苦労をかけて、亡くなってしまった後だと…見過ごせないものだったらしい。

 

 

 

「う、上杉君がそこまで疲弊していたなんて…

 そんな…負の連鎖だと言うのですか…貴方まで倒れたりしたら私たちは…!

 母も悲しみます! どうかご自愛なさってください」

 

「…どういうことだ、四葉」

 

「お母さん…腰痛で一時通院してたことがありまして…

 五月にとっては他人事じゃ済まないんですよ、上杉さん」

 

「おまえが発破かけたんだろうがっ!

 い、五月? 俺は至って健康だからな?

 この前の健康診断もオールAだったし、まだ頑張れるからな?」

 

「うぅ…上杉君、今日は四葉のマッサージを受けて元気になって下さい

 私も微力ながらお手伝いしますので」

 

「ちっ…なんか年寄り扱いされている気がして非常にむかつく」

 

「…母を年寄り扱いする気ですか…若い人だってなる時はなるんです!

 四葉、徹底的にお願いします」

 

「いいよー! じゃあ五月は上杉さんが暴れないように抑えててね」

 

 

 

 まさかの続行に体中から嫌な汗が滲んでいるのが分かる。そんな体に直に触れられることに余計に。

 

 しかも五月まで意欲的に加わるはめになって、片手を掴まれてしまっては大人しくされるがままになるしかない。

 

 肩に触れていた四葉の手が背中に、背骨を沿って下っていく。

 

 

 

「あ」

 

「え、なに」

 

「…上杉さん、ちょっと力抜いて下さいね

 肩揉んであげますから」

 

「それはさっき…あぁでも…前より気持ちよくなってきたような――」

 

「今っ!」

 

 

 

 ごきり

 

 肩に触れられて脱力しきったところで、強烈な一押しが背骨に直撃した。

 

 

 

「――かっ…だまし討ちかよ…はぐっ…」

 

「よ、四葉!? さっき、ボキッていいましたよ!?

 し、資格とか持ってないんですから、浅知恵で大事なことはしないほうが…!」

 

「や、やりすぎちゃったかな…?

 背骨が歪んでたから…」

 

「けほっ こほっ

 あ、でもなんか…結構気持ち良い…?」

 

「…」

 

「…」

 

「…痛くしてOKみたいですね、むしろ好ましいようです」

 

「上杉さん、意外とMだったんだ」

 

「やめろ、そんな目で俺を見るな…」

 

 

 

 変に誤解されていそうなので訂正したいのだが、さっきの一撃で体が麻痺して動かず。五月と四葉にベタベタ触られている感触しか残っていない。

 

 接骨院のおままごとじゃないんだから、四葉には厳しく注意しておいた。だが、だいぶ楽になったかも…?

 

 二人に囲まれたままだと暑苦しくて汗をかいてきた。

 

 見かねた五月が外出で持ち出していた鞄からハンカチを手に汗を拭いてくれた。

 

 そういう助手役なのか、おまえ。四葉のも拭いてるし。お医者様ごっこじゃないんだから、恥ずいからやめろ。

 

 

 

「私も趣味でヨガに通っているのですが…良かったら足のほうもいかがですか」

 

「足…?」

 

「あれま、なんか三人で面白そうなことしてるね」

 

「一花だ、おかえりー

 ねえ聞いてよ一花、上杉さん体硬すぎて大変なんだよ」

 

「硬い? あぁ…だからマッサージってこと?

 へぇ…ねえねえ、お姉さんもしていい?

 ヘアメイクの人が詳しくてね、教えてもらったんだー 結構上手いんだよ」

 

「待って下さい、今は私が」

 

 

 

 ドアが開かれてリビングに顔を出したのは一花だった。よりによっておまえか…

 

 この状況を一瞥した直後に身を乗り出すあたり、非常に趣味が悪いといえる。二乃と三玖ならこうはならなかっただろうに。

 

 自分の提案が姉に押し負けそうだと知って、なぜか末っ子は俺に懇願の眼差しを向けてきた。私もしたいという好奇心が見え隠れしている。

 

 それはあれか、俺に人体実験の被検体になってくださいってことか。俺が無視すると、我慢できずに五月は四葉を押しやって俺を起き上がらせた。

 

 座ったまま手足を伸ばされ、五月はゆっくりと俺の背中を片足へ傾けて――あだだだっ! これ学校でやってたヤツ! ヨガ関係ねえ!

 

 

 

「え、上杉君、これが限界ですか」

 

「足首に届くのがギリギリだね…

 うん、これは硬いわ」

 

「私と走ってもこれだもん、今度から柔軟体操も取り入れましょうっ!」

 

「これ以上朝のメニューを増やす――いてててっ!」

 

「…もう少しいけません? せめてつま先に指が届くように」

 

「筋が切れるっ! 押すな! そう簡単に柔らかくならないからな!」

 

 

 

 五月が背中に密着してきて、強引に背中を押しやってくる。それ一番やっちゃいけないことだからな。

 

 五月は恐る恐る徐々に力を込めては俺の反応を窺っている。膝立ちの五月が背中にくっついていて余計に暑苦しい。癖ッ毛が首元に当たって痒いし。

 

 もはや何をされているのか分からず。五月から解放されると圧迫していた体勢が解かれて、呼吸が乱れて布団に寝転んだ。

 

 け、健康とは何だったのか。これでは拷問だ。しかも医者なんて一人もいないし。最初からこうなる展開になるのは必然だった。

 

 

 

「次は私でいい?」

 

「お、おまえは禁止ッ!」

 

「えー 四葉も五月ちゃんもしてあげたのに私だけダメって酷くない? 贔屓、贔屓だよ」

 

「その目、何を企んでやがる…控えめに言って身の危険を感じる」

 

「そんな乱暴しないって、一回だけでいいからっ

 ちゃんと気持ちよくするって、大事にするから」

 

「おまえ、今度は何役を請け負ってきたんだ」

 

「…あの、上杉君が不安視するのも分かります…どことなくいやらしい空気を感じます

 だらしない男性がよく言いそうな発言のように聞き取れます」

 

「な、何言ってるの五月ちゃん!?

 私はもうほら…無我夢中でフータロー君の疑念を払いたいだけで」

 

「無我夢中でそのような言葉が出てしまうあたりが怖いんですよ」

 

「い、一花がそんなだと私が不埒みたいな感じになっちゃうじゃんっ!

 や、やめてよもう…!」

 

「あーもう! 二人に見られてたら、いかがわしいことなんてできないでしょーが!

 はいフータロー君、右足上げて、左足は床に合わせて、両手も床につけて!」

 

「…四葉、よく見ておきましょう

 危険だと判断したら突き倒してください」

 

「危ぶまれているのなら、有無を言わさずこいつを止めてくれ…

 二乃と三玖がこの場にいてくれれば…!」

 

 

 

 長女の暴走を二の句を言わさず止めてくれる次女と三女がいないのが不運だった。一花は身を乗り出して俺の足を掴んできた。

 

 やっぱり際どい体勢じゃねえか。一花は俺の右足を掴んで真上へ上げていく。俺の足首が伸びきらないよう手で抑えているようだ。

 

 所謂、二人組でやるストレッチだ。異性に限れば主に恋人同士がするようなものだ。

 

 左足は地につけて伸ばしきっているので…大きく広げた股の間に一花が寄りかかっている体勢になる。

 

 ぶっちゃけ痛いし足を閉じたくて力んでしまっている。足を閉じないように一花が俺の足を抱くように密着しているせいで耐えるしかなかった。

 

 

 

「うぐ…くっ…い、いっ…思いのほか効く…ぅ…!」

 

「あはは、もう涙目じゃんフータロー君

 十歳も年下の女の子にいい様にされちゃって…ほんとは意識してるでしょ」

 

「こ、このクソガキ――あいだーっ!

 もう拷問だろこれ!」

 

「いや、フータロー君がほんとに体硬すぎるだけだって

 私はこの角度なら余裕だし、ほんとに優しくしてるんだよ?

 フータロー君が痛がりすぎなだけだよ」

 

「ま、マジで…これが普通だと?」

 

「うん、だから頑張って、もうちょっと続けていいよね?」

 

「うぐーっ! 五月、もうストップ!」

 

「よ、四葉っ」

 

「わ、わかった とりゃーっ!」

 

「え、ちょっと!? うわっ!?」

 

 

 

 一花の調子に乗った態度からギブアップを告げると五月は四葉に指令を下した。

 

 突き倒してでも止めろと。一花の背後にいた四葉に。そこから手を突き出せば一花が俺のほうへ倒れるに決まっているわけで。

 

 俺の足が悲鳴を上げる前に一花は手を離してくれた。太ももに手を沿えて支えてくれたお陰で怪我もせず。そもそも布団の上だから怪我はしなかっただろうが。

 

 ようやく痛みから解放されたのだが、手をついて倒れこんできた一花の顔が目の前にあった。

 

 

 

「ご、ごめんねフータロー君…やりすぎた」

 

「はしゃぎすぎだ…馬鹿…」

 

「う…ごめん」

 

「…男遊びしたいのなら、他所でやれ」

 

「…他所の子とできないし

 そんなこと言ってると…お姉さん、本気で襲っちゃうぞ」

 

「ちょ、ちょっと一花!?」

 

「何を言ってるんですか! もういいでしょう、離れてください」

 

 

 

 男と肌を密着させていたせいで、一花が息を荒くしている。異性の話題になるとやたら前のめりになる子だったし、興味心は人並み以上なのだろう。

 

 しかしそのようなふしだらな発言を生真面目な五月が聞き逃すわけがなく、大慌てで一花の肩を掴んで引き離そうとしていた。

 

 どさっ! と突如、異質な音が聞こえて、俺も三人も音の正体へ目を向ける。

 

 

 

「…誰が誰を襲うって…」

 

 

 

 …不穏な空気を曝け出しているのは、姉妹に続いて帰宅した三玖だった。手に持っていたビニール袋が床に落ちていた。

 

 姉妹たちがびびるほど目が据わっていたのも束の間。俺に見られていると知った三玖は顔を赤くして俯いて、すぐに駆け寄ってきた。

 

 五月とは反対側に座り込んで、一花を突き放した。普段大人しい子がご立腹となって、姉も妹も冷や汗をかいていた。

 

 

 

「不純はダメ、フータローを虐めないで

 嫌がってる人に無理矢理するなんて最低」

 

「い、虐めてはないよ? これはマッサージ、ストレッチだって」

 

「…目的と趣旨が違ってた…

 一花が年上好きなのは前から知ってたし…気になっちゃうのもわかるけど

 もし嫌われたりしても、誰も助けてあげられないよ、一花」

 

「うっ…み、三玖に言われる日が来るなんて…」

 

「四葉も五月もベタベタしすぎ

 男の子への配慮がなってないよ、仲良くするのはいいけどやりすぎ」

 

「そ、そう言われてしまうと…はい、反省します…」

 

「わ、私は本当に上杉さんが体凝ってたからマッサージしてあげようと…!」

 

「それなら病院とか、お店に行けばいい」

 

「…

 わ、私ならお金いらないし…それに、そもそも

 …ちょ、ちょっと…三玖こっち…」

 

「?」

 

 

 

 反省を促す三女に文句でもあるのか、へこんでいる一花と五月とは違って四葉は徹底抗戦のようだ。

 

 俺に聞かれたくない話題なのか。先程もだいぶ暴露が過ぎるとは思うのだが…四葉は三玖を引っ張って俺との距離を空けた。

 

 四葉は三玖の耳元に口を近づけて、内緒話を始めた。

 

 

 

「なに、四葉…

 どんな理由があったとしても、いかがわしいことに変わりな――

 

「上杉さんが、お店で女の人に触られてたらどう思う?」

 

「………」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…やだ…」

 

 

 

 内輪揉めは終了したらしく、三玖と共に戻ってきた四葉は座り込む俺の足を掴んできた。

 

 三玖が来ても続行するらしい。俺はもうマグロのような目をして眺めていることしかできなかった。今後のおまえらとの付き合いを考え直さないとな。

 

 三玖も協力的になってしまったようで、俺の背後に回って両腕を掴んできた。結局おまえも俺を縛るのか…

 

 

 

「足裏は老廃物が溜まって凝りやすいんですよ

 これは保健室の先生やマネージャーさんから教わったのですが、足つぼマッサージも腰や肩に効果的です」

 

「い、痛い?」

 

「…たぶん、上杉さんは滅茶苦茶痛いんじゃないかな…」

 

「…」

 

「フータロー 諦めて四葉に任せて健康になろう

 お店のお世話になるくらいなら四葉が無料でしてくれるから」

 

「三玖、おまえ近い」

 

「…あ、暴れないように捕まえてるだけ

 これは治療の一環、必要に迫られての行為」

 

「お姉さんも三玖のお手伝いしようかな

 左腕は私が持つよ、五月ちゃんは右手ね」

 

「え? わ、わかりました…失礼します」

 

 

 

 さっきの説教は何だったのか。三玖は俺の背後から腹部へ向けて両腕を回して掴んできた。振り向けばやや汗をかいている三玖が必死に誤魔化していた。

 

 三玖から咎められていたが、説教した本人が自爆したことで一花が蘇ってしまった。俺の左腕を抱えて拘束してきた。俺が暴れでもしたら胸に触れてしまいそうな距離で心臓に悪い。

 

 姉に促された五月も慌てて腕を掴んできた。誠実さが売りの末っ子が姉に毒されてしまっている…最初の威勢はどこにいったのか。三玖に鼻をへし折られてしおらしくなってしまっている。

 

 足元には四葉がいるわけで、四方から五つ子に囲まれてしまっていた。しかも物理的に距離が近い。一つの視界に一花と三玖、五月の顔が見えて眩暈がする。

 

 

 

「あ、暑苦しい…! おまえらいい加減俺を解放――」

 

「いきますよー

 えいっ」

 

「――――!!!」

 

 

 

 …男の悲鳴とは、存外女々しいものだと今日初めて知った。そして足裏を押された時の痛みも。

 

 四葉の指がぐいぃいいいいいいいッ!!! と足裏を刺激した直後、身を仰け反る程の激痛が背筋を通して走ってきた。血管が、全身から汗が出そうだ。

 

 

 

「わお、そんなに痛かった? 私が四葉にしてもらった時は叫ぶほどじゃなかったよ」

 

「や、やはり上杉君…もう体がボロボロなのでは…あぁ…お母さん…っ」

 

「これは思ってたより重症…かな

 もう一度いきますよ、上杉さん」

 

「ま、待て 四葉タンマ!

 も、もう無理だ、さっきのはもうムリ――いぃいいい…!」

 

「う、上杉さん、舌噛んじゃいますって」

 

「じゃ、じゃあ私がフータローの口塞いどく…」

 

「いやマジできつ――むぐぐっ!」

 

 

 

 鈍く神経に響く痛みに悶えていると、無情にも背後の三玖の手で口元を塞がれてしまった。顔真っ赤にしてるくせにやることが大胆すぎる。

 

 四葉の力押しが強力なせいか、滅茶苦茶痛い。足ツボを押されてもがき叫ぶ人の気持ちがわかってしまった。

 

 両腕は一花と五月に封じられ、口元と上半身は三玖に拘束され、両足は器用に四葉が抑えている。

 

 これはもしかしなくても、ガチで抗っても振り払えないのでは。そう思うと羞恥心や鬱陶しさよりも恐怖が先走る。

 

 数年教師を務めていた身としては、学生の悪戯心や行き過ぎた遊びが事故に繋がったり人間関係が壊れた子を知っている。まさかそれに類似するものなのかと思うと心臓がやけに早まった。

 

 やり過ぎだと無言の抗議の視線を送っても、痛みに顔を歪めていては威嚇にもなりそうにない。

 

 というか…三玖に口を塞がれているせいで息が…酸欠になるんじゃ…

 

 

 

「な、なんか…本当にやらしい雰囲気になってきちゃった…かも?」

 

「い、一花、言葉を慎んでください

 四葉も私も真剣なんですよ」

 

「…」

 

「三玖なんてガン見だし…

 あれ? 四葉、手が止まってるけどもういいのかな?

 それともフータロー君が気になるのかな?」

 

「え!? な、何でもないよっ!」

 

「むぐ…ぐ…」

 

 

 

 四人に囲まれて、熱気で意識が眩む。三人に見下ろされ、四葉がちらちらとこちらを窺っているが何も返せそうにない。

 

 こいつらの、高校生となった五つ子が、十年前と同じように一斉にくっついてくると…このような事態に陥るとは…でかくなったじゃねえか…お兄さん死にそう。

 

 

 

「何やってんのよ、あんたたち!!」

 

 

 

 芯の通った女の子の怒声が聞こえた。視界が揺れて四肢が次々と解放されていった。

 

 背中の感触も途絶えたかと思ったら、一本の腕が差し込んできて倒れずに澄んだ。

 

 よく見れば、隣に寄り添っていたのは最後の姉妹である、次女の二乃だった。

 

 …思いっきり涙目になってた。キッと姉妹を睨みつけて怒っている。

 

 

 

「あんたたち…上杉は私たちの恩人じゃない!

 何であんな酷いことできるのよ!?」

 

「え、えっと…二乃、さっきのは」

 

「あんたたちが家族愛か本気で好きなのか、この際どっちでもいいわ!

 なら教師と生徒の関係だろうと、正々堂々告白して付き合いなさいよ!

 卑怯な方法使わないで! 無理矢理襲うなんて最低よ!」

 

「お、襲う…!?

 わ、私たちは彼を労わろうと…」

 

「二乃、落ち着いてよ…」

 

 

 

 長い髪を揺らして憤慨する二乃は、本気で怒っているようで…姉妹の言い訳は聞き入れてくれそうになかった。

 

 よほどショックな光景だったようだ。二乃は明らかに声も体も震えている。

 

 何よりも…さっきから視線を注いで落ち込んでいる。リビングのテーブルに置かれた、母親の写真を見て。

 

 狼狽する姉妹たちの目が徐々に沈痛なものに変わる。そして二乃もまた、どこか悔しそうに顔を歪めて涙を流していた。

 

 

 

「ママが好きになった人なのよ…

 ママのこと、好きになってくれた人じゃない…

 傷つけないでよ…ぅ…ぅぅううっ…ママが泣いちゃうわよ…」

 

「…二乃…」

 

 

 

 二乃にとって欠かせないものに皹が入るかのような、耐え難い出来事だったらしい。

 

 二乃の涙を傍観している俺は、ただただ戸惑って押し黙るしかなかった。

 

 

 

「お昼ご飯、私作らないからあんたたちがやんなさい

 …反省、しなさい…この馬鹿」

 

「…はい…」

 

 

 

 猛省する四人を見てひとまず矛は収めてくれる代わりに二乃は廊下を指差す。

 

 廊下にはビニール袋から零れた食材が散乱している。現場に踏み入れた彼女の慌て様を物語っている。

 

 とぼとぼと四人は転がった物を拾い集める。見ていて痛ましい光景につい声をかけそうになったが…二乃に思いっきり睨まれた。

 

 「良い様にされてんじゃないわよ」 そんな至極当然なツッコミを貰いそうな目だった。

 

 昔は平気だったがな…もう高校生相手だと無理だ。今日はそれを痛いほど痛感した。実際に痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…どこか遊びにいきたいわぁ」

 

「前に遊園地のチケットやっただろうが」

 

「女の子が暇してる時は、どこか遊びに連れてってくれるのが男の甲斐性でしょ」

 

「今の俺の姿を見てよく言えるな…」

 

 

 

 二乃の逆鱗が静まった後、彼女と並んでソファに座ってテレビを眺めていた。俺はもう疲れてテレビの内容が聞き取れていないのだが。

 

 背後の台所からはお叱りを受けた四人が四苦八苦しながら昼食作りに取り組んでいた。三玖は料理を学び始めていたが他3人は素人だ。大苦戦しているらしい。

 

 だいぶ落ち込んでいるようで、あの一花も茶化して詫びてくることはなかった。俺と視線が合うと慌てて逸らされ、露骨に逃げようとしていた。あれだけ盛大に自爆したらそうなる。

 

 俺にも非がないわけではなく、二乃に手加減するよう頭を下げたのだが無視された。三玖はまだしも、四葉と五月に関しては完全にとばっちりなんだがな…

 

 もう少し粘ろうとは思ったのだが、案外二乃はそこまで怒っていないように見える。

 

 何せさっきからずっと…なぜか俺の手を捕まえて、にぎにぎと手の平に指を押し付けているのだから。

 

 

 

「…さっきからこれは何なんだ」

 

「…ま、マッサージだなんて気づかなかったよ

 皆がしてあげたって言うのなら…私もしてあげないといけないでしょ

 あ、あれだけ啖呵切ったんだから…」

 

「…」

 

「…気持ち良い?」

 

「いや全然」

 

 

 

 横腹に拳がめり込んだ。体がくの字に曲がっても二乃には手を掴まれたままで、俺は静かに悶えるしかなかった。二乃からは逃げられず、迂闊な発言はしばかれるだけだ。

 

 ただ手を揉まれても何も得る物はなかったのだ。素直に感想を述べると二乃は機嫌悪そうに俺への粛清を始めた。四葉と違い知識があるわけではなさそうだった。

 

 

 

「先生やってると肩凝り酷くなっちゃうのかしら、ママもそうだったわ

 四葉がお母さん以上だって言ってたのなら…一度お医者様に看て貰ったら?

 甘く見てると後々後悔するわよ」

 

「考えておく

 確かにここ数年、体がだるいなとは感じていた」

 

「あらやだ、お兄様ではなくおじさまと呼ぶべきかしら」

 

「…まだ20代なんだが」

 

「あんたの身体年齢調べたくなったわ」

 

「やめろ

 わかった、気をつけるから小言はやめろ

 俺だって早死になんてごめんだ」

 

「…」

 

 

 

 二乃なりに此度の一件は思うものがあるらしく。四葉の暴走だけで片付けるわけにはいかないようだ。ええい、肩凝りや腰痛というワードを聞くと年寄り扱いされているようで癪に障る。

 

 実際、若者でもこの手の悩みは尽きない…もとい、年々増えているらしい。俺も気をつけなければ健康的に働けず、子供たちの不安の種になってしまう。

 

 

 

「それよりも…あいつらの落ち込みようをどうにかしないとな」

 

「ま、まあ…本気で反省しているのなら私はもういいわ」

 

「でもよ、流石におまえの勘違いは飛躍しすぎだろ」

 

「…」

 

「…え、何だその無言」

 

「私が言うのもなんだけど…女の子がそんな綺麗なものだと思い込んでたら苦労するわよ」

 

「いや…俺とて一端の高校教師だし、熟知しているつもりではいるぞ」

 

「…具体的には?」

 

「嘔吐した子を看病したり、きったねぇ部屋してたり、ストーカー常習犯で部屋一面に好きな男の写真をびっしり貼り付けてたり」

 

「じゃ、ジャンルが違うわ…というか、あんたが何でそのような輩と絡んだのか心配になってきたじゃない…

 そうじゃなくて…もっとこう、生々しい一面よ」

 

「…」

 

「でもまぁ…あんたが怒っていないのなら好きにすればいいわ

 私が口を挟む権利ないし、きょーみないし」

 

 

 

 二乃から手を離されて手のマッサージが終わった。

 

 これ以上は関知せずといった態で、二乃は俺から目を逸らしてテレビを眺めている。傍観者を決め込んではいるが、内心家族が心配で仕方ないくせに。

 

 四人による昼食作りは難航しているようだし、俺も手伝うか。そう決めてソファから重い体を立ち上がらせる。

 

 …思っていたよりも、すんなりと起き上がってしまい、その違和感に足が止まってしまった。

 

 

 

「ど、どうしたのあんた

 やっぱりまだ体が痛む?」

 

「か、軽い…」

 

「へ?」

 

「体が軽い! マッサージ効果覿面じゃねえか、マジかよ!

 すげぇ! 十年ぐらい若返った気分だぜ!」

 

「そ、そう…それは…良かったじゃないの」

 

「あぁ…痛い思いをした甲斐があったもんだ

 二乃、あいつらへのお咎めはなしといこうぜ!」

 

「いや、あんたが良いのなら別に…野犬に噛まれた程度で済むならいいのよ

 …や、その扱いは私も釈然としないんだけど」

 

 

 

 四葉たちに揉まれる前と後とでは雲泥の差だ。この軽やかさはまさしく学生時代の俺だ…!

 

 肩や腰に抱えていた重石が粉砕された気分だ。肩凝り…侮ってたぜ、サンキュー四葉。

 

 こんな素晴らしいことをしてもらって、叱られて半べそかいているとしたら…恩を仇で返すようなものだ。

 

 可哀想なので四葉にお礼がてら上手いものでも食わせてやろう。お兄さん、大変気分が良い。

 

 

 

「あ、あの上杉さん…お体の調子は良くなりましたか?」

 

「ああ、正直最初はあまりにもベタベタと触られて馴れ馴れしいガキだとは思っていたが…

 うん、あれはあれで必要な処置だったんだな、怒ったり文句を言ってすまなかった」

 

「その前置きが一番心に突き刺さりましたが、もういいです…

 上杉さんが今後の生活を楽に楽しく過ごせるのなら、やってよかったです」

 

「おまえは…健気だな

 抱きしめていいか?」

 

「え、あ、え、えっと…っ!?

 わ、私だけじゃないので、五月と一花も、三玖もしてくれたじゃないですか!」

 

「冗談だ

 そうだな、三人も…まあ、文句は尽きないが…お陰でだいぶ楽になった、ありがとな」

 

「文句はあるんだね…私も今回はやりすぎたよ、ごめんねフータロー君」

 

「…強引だった…ごめんなさい」

 

「わ、私も…我を見失っていました」

 

 

 

 度が過ぎたお節介だと認識はしてくれたようで、四人は気落ちした顔で謝っていた。

 

 仮にも俺の体を気遣ってしてくれた振る舞いが、このような形で後悔に終わるのは忍びなかった。何かしら良い方に転ばないだろうか。

 

 

 

「…そうだ、礼と言っては妙だが

 俺からもお節介を焼いてやろうじゃねえか」

 

「え?」

 

「それでチャラってことにしよう

 体が軽くなったんだ、何なら遠出してもいいぜ

 おまえ達の進級祝いもできていなかったしな」

 

 

 

 思えば五つ子が高校1年から2年に無事に進級した時、何もしてやれていなかった。

 

 それには事情があるのだが、先生が亡くなった半年の間、懸命に勉強に取り組み学力を上げた五人には何かしら労いたい気持ちが前々からあった。

 

 蓄積していた疲労がなくなったことで、この際大きな贈り物をしてやろうという話だ。俺の突然の誘いに四人は戸惑い、二乃も興味があって輪に加わってきた。

 

 

 

「はーい先生、海行きたーい

 沖縄でもハワイでもいいから行きたーい」

 

「おう、海か、いいぜ!

 パスポート用意するのに時間かかるがいいだろう」

 

「…京都とか、奈良行きたい」

 

「観光地巡りか、三玖らしいな

 来年は修学旅行だし、今年行っておくのも良いかもな

 一花はどこがいい?」

 

「わ、私? 私は…アメリカに行ってみたいかも」

 

「ハリウッドか? 一度は外国に足を踏み入れるのも良い経験になるな

 仕事で行く機会もあるだろうし、慣れておくのもいいな

 五月はどうだ」

 

「私は…北海道はいかがでしょう

 新鮮な海の幸…赤く鮮やかないくら丼を食べてみたいです…はぁ…」

 

「四葉は?」

 

「感想は!? 私の扱い酷くありませんか!?」

 

「旨いもの食いたいだけならどこでも良さそうだったから」

 

「北海道を嘗めないでください!

 北の地でしか食べられない味があるでしょう!」

 

 

 

 それぞれ意見を挙げていく五つ子だが、今のところ候補は被らず。似ても似つかない五つ子らしい。

 

 むくれている五月を放って、最後に四葉の希望を聞く。本人は自由身勝手に協調性を見せない姉妹に右往左往していた。

 

 普段の四葉なら恐らく誰かしらの意見を選んで実らせていただろう。

 

 

 

「そもそもおまえがマッサージを持ちかけた結果だ

 おまえが行きたいところに行くとしよう」

 

「…何で私たちの意見聞いたのかしら?」

 

「おまえが最初に言い出したからだろうが、俺は聞いてなかったぞ」

 

「二乃…」

 

「わ、私のせい!?

 進級祝いなら四葉の件とは別でしょ!

 私もまだ行きたいところあるのに依怙贔屓じゃない」

 

「いつもフータロー連れて買って貰ってるのに、二乃が贔屓とか言える立場じゃない」

 

「ふん、あんたがうじうじ悩んで誘えないだけじゃないの、僻まないでくれる?」

 

「誘ったところで卑しく強請らないから」

 

「卑しいって何、上杉は家事をする私へのご褒美で付き合ってくれてるの

 あんたみたいな不器用さんとは違うのよ」

 

「というわけで、四人の話は無視して

 四葉、おまえの希望を聞こうか」

 

「え、えーと」

 

 

 

 後ろで騒がしくなった二乃と三玖は放っておいて、四葉に問う。

 

 不和を招くことに気を揉む四葉は口喧嘩をする姉二人と、苦笑いする五月と一花を見やって困惑していた。

 

 しかし俺が引かないことも既にご存知だろう。四葉は少し思考した末に、おずおずと口にした。

 

 

 

「…ゆ、遊園地…とか」

 

「遊園地?」

 

「前に行ったじゃん、らいはお姉ちゃんと

 フータロー君の教え子さんから、ペアチケットを3回分も…悲しい事件だったよ」

 

「おまえら、らいはにチクったよな、覚えてるからな

 また行きたいのなら構わないが、それでいいのか?」

 

「えっと…遊園地と言っても

 その、ランド…行きたいです」

 

「ああ…ランドね」

 

 

 

 女子高生は某夢の国をご所望らしい。なるほど、確かにあそこは遊園地の中でも一級品というか、他とは一線を画す場所だ。

 

 四葉が取り上げた地に、各々の希望は潰えたというのに四人は目を合わせて声を弾ませた。

 

 

 

「ランド! いいじゃん、私も行ってみたかったんだ

 仕事で稼げてきたし、いつかまた行きたいって思ってたんだー」

 

「うん、行きたい

 今度はフータローも一緒に」

 

「いいですね、あそこは何もかもご飯が美味しいですよね!

 お母さんと行ったきりですし、もう一度遊びに行きたいです!」

 

「ナイスよ四葉

 上杉、あんたなら車借りて連れて行ってくれるでしょ」

 

「ああ、いいぞ

 …決定でいいか、四葉」

 

「は、はい

 良かった、遊園地行ったばかりだから皆嫌がると思ってた」

 

「こいつらが嫌がってたら、おまえだけ連れて行っても良かったんだぞ」

 

「えっ!? そ、それは恐れ多いです!」

 

「送り迎えぐらいしてやるぞ」

 

「ええ!? 私一人で行かせるつもりだったのですか!?

 そ、それなら一緒に行きましょうよ! せめて!」

 

「冗談だ」

 

「…い、言っとくけど上杉、あんたも来るのよね?」

 

「ああ、今回はらいはには譲ってやらん」

 

「根に持ってるなー この人」

 

 

 

 四葉の希望は概ね姉妹には好評のようで、行き先は確定したようだ。

 

 チケットを取るのに抽選なり時間がかかるだろうが、知人にランド好きがいたから話を聞いてみるとしよう。

 

 貧乏人にはまず縁遠い地だ。五つ子は母親と何度か行ったことがあるらしいが…そう贅沢はできなかっただろう。

 

 あの古いアパートを出て、高級マンションに引っ越してから子供たちの生活は劇的に変わった。いずれはこの生活もまた変わっていくことだろう。

 

 楽しめる内に、姉妹全員が揃っている内に思い出を作る。それがどれほど大切か知っているから。

 

 その楽しさと大切さを知っている五つ子は身を寄せ合って、その日を思い浮かべて笑い合っていた。

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