提督は艦娘の母性に救われる《完結》   作:室賀小史郎

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残酷な表現があります。ご注意を。


甘江家の家庭事情

 

 光一は裕福な家に生を受けた。

 普通ならそれだけで勝ち組街道一直線だろう。

 

 しかし神は全てを与えない。

 

 事件は光一がまだ三歳の時。

 光一の父光太郎はこの時、現役の潜水艦艦長として任務に就いていた。

 その期間は長く、子育てで大変な時期を母幸子に任せるしかなかった。

 

 しかし肝心の幸子はすぐに光一を実家の執事やメイドに任せてしまう。

 何故なら幸子は光一に全くと言っていい程に興味がなかったから。

 

 理由は光太郎を繋ぎ止める役目を果たさなかったからというもの。

 

 幸子が光太郎と出会ったのは海の上。

 それはロマンチックな出会いではなく、幸子は豪華客船で世界一周旅行の最中に深海棲艦の駆逐艦による無差別攻撃により海に投げ出され、そこへ近くを牽制任務で航行していた光太郎が乗る潜水艦に救助された。

 そもそもそんな時期に世界一周旅行なんて出掛ける神経がおかしいが、幸子という女は基本的にそういうところが欠如している人間だ。

 その際、海から引き上げてくれたのが光太郎で、これがきっかけで幸子は光太郎に狂気的な愛情を抱く。

 

 幸子が光太郎と婚約すると同時に、光太郎は潜水艦艦長へ昇進。

 理由は手負いとは言え、幸子を救った際に深海棲艦の駆逐艦を撃沈させたから。

 その時の魚雷を放ったのが光太郎であり、このことは世界中が現代兵器でも深海棲艦に対抗出来ると歓喜に湧いた。

 

 光太郎としてはまさに順風満帆と言えるだろう。

 しかし光りがある所には常に影がある。

 実は深海棲艦を撃沈した際、魚雷は命中したが、止めを刺したのはまだ全世界に公表する前の艦娘・吹雪であったのだ。

 そもそも駆逐艦が手負いだったのも試験的に艦娘を用いて戦闘させたものによるものであった。

 

 当時の自衛隊の上層部と日本政府は世界のため、何より日本のために光太郎を利用することにした。

 彼に功績を与えて艦娘の存在を隠し、国防軍の設立と軍事費の確保を狙ったのだ。

 でないと日本はいつまで経っても自衛しか出来ず、消耗する一方だったから。

 

 当然、そのことは光太郎に上官や政府高官から命令された。

 光太郎は自分の婚約者幸子や日本国民のためになるならと、木偶になった。

 

 虚しくも国のためになれるのならばと、光太郎は構わなかったが、ここから歯車が軋み出す。

 

 先ずは国民的英雄として光太郎が脚光を浴びることで、幸子がそれに嫉妬して情緒不安定に陥った。

 それ故に結婚を急かされ、電撃結婚。それも大々的に報じられた。

 次に幸子は光太郎との子を強請る。何故なら子が居れば自分の元を離れないと幸子は考えていたから。

 

 しかし現実は違った。

 子が産まれても光太郎は任務があり、幸子の元を長い間留守にする。幸子はそれが嫌だった。嫌だったから子を産んだのに、何も変わらなかった。

 何せ子どもが産まれたことで、光太郎は尚の事任務に精力的だったのだ。

 それに子どもが居れば幸子も寂しくないだろうとも考えていたから。

 

 しかし任務が終わって帰ってきた光太郎は自分の考えの甘さを痛感することになる。

 何故なら幸子が自分を出迎えてくれた際に、その腕に子を抱いて居なかったから。

 子どものことを光太郎が問うても、幸子は『私が見てなくてもいいもの』と言い放ち、挙げ句の果てには『それより私のことを見て』とまるで幼子のように拗ねたのだ。

 少し前なら愛らしく思えただろう。しかし光太郎は妻に、幸子に背筋が凍る思いだった。

 

 幸子にとって、光太郎以外に必要とするものは何もない。

 光太郎はそれを思い知り、離婚も考えたが離婚したら幸子がどうなるのか容易に想像がついたのでそれは決してしなかった。何より、血を分けた我が子が今以上に不幸になることを考えると、胸が張り裂ける思いだった。

 故に光太郎が決意したのは退役だった。退役して、幸子の家業を手伝うことで子ども光一の側に居てやるために。

 

 それから光一が三歳になった頃のこと。

 この頃の光一は母親の愛に餓え、それでも光太郎や母方の祖父母の愛でなんとか保っていた。

 しかし子どもは母親の愛を欲するもの。故に光一が取った行動は母親の気を引こうと、母親の大切にしている光太郎からの贈り物であるスカーフを引き裂いたのだ。

 大抵の親なら悲しくはあっても子どものことだから、自分がもっと構ってあげなかったからと思って注意するくらいだろう。

 しかし相手は幸子だ。幸子は光太郎への愛に狂ってしまっている。

 故に光一は母親から包丁で刺された。光太郎が間一髪で狙いを逸したことで急所へは行かなかったが、一生消えることのない傷を、光一の顔と心に残してしまった。

 

 それからは光一は幸子と完全に隔離された生活になり、光一は幸子の両親……祖父母に大切に育てられることになった。

 光太郎とは時々会うが、幸子は全く会わない。寧ろどちらも会う気は無いし、年に数度光太郎に言われて会う程度。

 故に光一は母親の愛に飢えた人生を歩むことになる。

 

 そして歩み、艦娘たちを率いる提督となり、自分のことを心から慈しみ、愛してくれる者たちと出会ったから、光一という人間は救われたのだ。




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