提督は艦娘の母性に救われる《完結》   作:室賀小史郎

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過剰な愛のアトランタマミー

 

 光一は今日も変わらず執務をこなす。

 作戦内容を考える時間は減ったものの、その分執務量が大幅に増えた。

 これも平和維持には大切なこと。故に光一は一切気を抜かずに職務を全うしている。

 しかし――

 

「マイベイビー、マミーのおっぱいいる?」

「あとでいるー。今は執務頑張るー」

「いい子ねマイベイビー。執務が終わったら沢山おっぱいあげるからね」

「わーい」

 

 ――甘えてない光一は光一ではない。

 

 気は抜いてないが、今も光一はアトランタに後ろから抱きしめられながら執務を行っている。

 

 アトランタはママ艦隊ではかなり遅くに編成された新参者。

 それはアメリカからやってきたのが他のアメリカ艦娘たちより遅かったのもあるが、最初アトランタは光一を毛嫌いしていたのだ。

 

 理由はマザコンだから。

 それも初対面の挨拶時に妙高に座椅子の上とはいえ、横抱きにされて胸に頬擦りしてキャッキャキャッキャと戯れる大の大人を見たら普通の反応とも言えるだろう。

 本人の背も低く、見た目も少年のようなことからまだマシとはいえ、マシというラインだ。

 ギリギリアウトはアウトなのと同じように。

 

 周りからは『そのうち慣れる』『そのうち可愛く思う』等と言われても、アトランタはそうなることはないだろうと思っていた。

 幸い提督としては優秀であったし、向こうからもこれといって強制的に甘えさせろという意味不明な命令もなかったので、アトランタは光一がマザコンなのを除けば日本での生活は快適とすら思っていた。

 

 しかし光一の闇の部分をある日アトランタは見てしまった。

 実家からの贈り物を粉々に潰し、燃やす。そんな彼をまたまた目撃したアトランタは恐怖を感じ、それと同時に光一の過去が気になった。

 光一の過去は本人が公言はしていないものの、ここにいる艦娘たちは秘書艦の飛鷹や初期艦の電が本人から口止めはされていないので、提督を少しでも理解してほしいと皆に包み隠さず話している。故に全員が知っている。

 それを光一本人から聞いたとかではなく、たまたま用事で光一の父が鎮守府にやってきた時に、飛鷹と電が父から直接息子の過去を聞かされ、

 

『自分が不甲斐ないばかりに嗚呼なってしまった。情けない父親なのは理解しているが、君たちにしか頼めない。光一を頼む』

 

 と頭を下げられたから。

 光一本人の過去の話を聞き、彼が放つ実家への何とも言えぬ感情の発露と親子の温度差で合点がいったのだ。

 また光一が自分の過去は消し去りたい過去だから公言していない訳ではない。ふと思い出話をするように過去のことを話したりもする。

 例えば昔食べたお菓子の話。母親と食べようと持って行ったら――

 

『どうして私がわざわざあなたとの時間を作ってまで食べないといけないの? 一人でも食べられるでしょう、産まれたばかりの赤ん坊でもないのに。その手は何の為に付いているの?』

 

 ――と真面目に訊かれたと、本人は笑って話していた。しかしみんなは笑えない。とてもそんな空気ではない。

 こうした普通とズレていることを光一も自覚しているので、場の空気を悪くするからとあまり過去の話はしないのだ。

 そんな彼を艦隊のみんなは心から心配し、自分たちだけは光一を心から愛を伝えたいと思っている部分だ。

 

 アトランタもその例に漏れず、光一を何かしら愛を贈ろうとした。

 そして愛を一度でも注いでしまうと、光一が見せる愛くるしい笑顔に母性本能を貫かれ、彼のことが可愛くて仕方なくて、気が付いたらママ艦隊の一員になっていたのだ。

 

「マミー」

「どうしたの? 疲れたの? おっぱいほしくなったの?」

「うーん……おっぱいほしい」

「ふふっ、良く我慢してたものね。いいわ、どうぞ」

 

 アトランタはそう言うと、シャツのボタンを外し、どたぷんと胸部装甲を露わにする。光一が頬擦りしても痛くないように、いつも下着は身に着けずニップレスシールを貼っている。こちらの方が肌と肌で触れ合えるので、光一には好評なのだ。

 

「マミー……いい匂い」

「ふふっ、甘えん坊で可愛いマイベイビー……ちゅっ」

 

 谷間に顔を埋め、これでかと甘える光一。そんな彼をアトランタは苦しくない程度に優しく抱き寄せて、その頭部やおでこにキスを落とす。

 

 あなたはいい子

 あなたは要らない子じゃない

 みんなに必要とされてる

 

 そんな思いを込めて。

 

「マミー」

「はぁい」

「マミーマミー」

「はぁいはぁい」

「大好き」

「アタシもマイベイビーが大好きよ。ずっとアタシが面倒を見てあげる」

「うん♪」

 

 キスの弾幕がアトランタの愛によって光一の顔に降り注ぐ。

 光一はそれを幸せそうに受けつつも、データ資料を見る目は全く逸らさない。

 彼は先天的な映像記憶能力を持っており、一度覚えた物は忘れないし、速読も得意だ。

 ただこのせいで未だに実母から受けた虐待を映像と共に覚えている。故にどんなに忘れたくても、実母を許そうと思っても、心がそれを拒絶するのだ。

 

「ねぇねぇ、マミー」

「ん〜、どうしたの、マイベイビー?」

「おやつはマミーのマラサダ食べたい!」

「OK♪ 生クリームとチョコチップの作ってあげる♪」

「わぁいわぁい♪」

 

 マラサダとはハワイでは定番のおやつで、小さな揚げパンのような物。

 アトランタは光一のために様々なおやつを作れるように猛特訓した。今では間宮や伊良湖、鳳翔ですら凌ぐ腕前で、その中でも光一はマラサダがお気に入り。

 ふわふわの軽い食感のパンにほんのりとシナモンの香り。そこにチョコチップを入れたチョコチップマラサダや生クリームやカスタードクリームをトッピングしたマラサダ等など、バリエーションが豊富。

 故にアトランタのおやつは光一だけでなく、艦隊のみんなから好評で、パーティや宴会ではサラトガやイントレピッド、ホーネット、ホノルルでアメリカならではのスイーツをみんなにご馳走している。

 

「どのくらい食べたい? たくさん食べさせてあげたいけど、ディナーが食べられなくなったら飛鷹に怒られちゃうからね?」

「う〜ん……三個!」

「OK♪ でも可愛いから四個におまけしちゃう♪」

「やった! マミー大好き!」

「アタシも大好きよ……ん〜、ちゅっ」

 

 その後も光一はたくさんアトランタからキスを受け、美味しいおやつを食べさせてもらい、母の愛に溺れるのだった。




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