日本防衛軍が誇る一航戦。
その一人、加賀は甘江艦隊の空母機動部隊の要。
そしてママ艦隊としては、
「高い高ーい」
「わぁい♪」
光一を艦隊一あやす天才だ。
今は一一〇〇。もうすぐお昼時だが、今日もまた光一の実家から自己満足だけの贈り物が届いた。
今回は子どもが乗る木馬の玩具。
当然、光一はそれをチェーンソーやらハンマーやらで粉々に粉砕し、工廠の炉へと放り投げた。
そして一気にその日のやる気を削がれてしまったので、加賀が最上級の愛を持ってあやしているところ。
これには光一も大満足で、加賀のおっぱいや頬に自身の顔をスリスリと擦り付けている。
傍から見ればヤバい光景だが、ここの鎮守府ではデフォ。
「ふふふ、可愛いですね……よしよし。僕ちゃんはいい子いい子」
「えへへ〜♪」
加賀はそもそも感情表現が乏しい艦娘で、光一も第一印象は「静かな艦娘」だった。
しかし接してみると思っていた以上に感情が豊かで、何より心優しい艦娘だと分かった。
加賀は光一の過去をこの鎮守府の先輩である飛鷹や電から聞き、心から光一に同情した。
そして加賀にとっては重度のマザーコンプレックスを持っていようが、人は人であり、彼は優秀な提督。故に「そうなのね」の一言だけで済んでしまった。
当然、飛鷹も電も良く言えば寛大に見えるそのドライな反応に一抹の不安を覚えたものだが、彼と接している加賀の表情が非常に慈愛深いのを見て不安は安心に変わったのだ。
光一が望めば肩車やおんぶも抱っこも平然と応じ、光一が不注意で転んだりしたらそれが例え芝の上でも抱きかかえて明石のところまで運んで行く。
それだけ加賀は光一に対して過保護なのだ。
そうなったのも、光一の元へ実母が玩具を贈り付け、それを粉々にしている最中に涙を流しながら手を傷だらけにしている場面をすぐ側で見ていたから。
傷だらけになっても、血のせいで工具を握ることが難しくなっても、彼はその行為を止めない。止められない。無意味だと頭では理解していても、あの戸籍上母親とする女が己の自己満足のためだけの贈り物なんてこの世に要らないから。
光一の複雑な思考や感情に対しては、決して口出ししないが、彼の側からは決して離れない。
実母の愛を知らぬなら、自分がそれ以上に愛して、提督を幸せにすればいい。加賀は常々そうシンプルに考えて、行動している。
なので光一は加賀と一緒にいると心地良く感じ、いつしか彼女のことをおっかあと呼ぶようになった。
「おっかあ、もう大丈夫だよ」
「……そう」
「今度はおっかあにぎゅーってされたい」
「そんなこと、お願いしなくてもやるわ」
可愛い我が子のお願いに、加賀はしっかりと応えるように抱きしめる。
すると光一はより幸せそうに顔を綻ばせ、加賀はそれを見るだけで大戦果を上げたような高揚感で満たされるのだった。
―――――――――
本日も全行程が終わり、艦娘たちは休息時間。
しかしママ艦隊はここからが本番である。
何故なら今から光一が眠りに就くまで、彼の母親としてお世話するからだ。
毎回この時間はママ艦隊の者たちで厳正なるじゃんけんで決める。
今夜はお艦を任せられた加賀がその権利を勝ち取り、思わず無表情ながら高らかに勝利のVサインをしてしまったほど。
因みに寝かし付けたらママ艦隊旗艦の飛鷹とバトンタッチし、飛鷹が添い寝して朝を迎える。これだけは飛鷹にしか出来ない特権だ。
「さあ僕ちゃん。今夜はおっかあがおやすみまで一緒よ」
「おっかあだ! やったー!」
官舎の居間で両手を広げる加賀の胸に、光一はぽふんと飛び込む。
豊満なクッションがぽよんと光一をキャッチし、加賀はぎゅーっと我が子を抱きしめ、これでもかと頬擦り。
「おっかあ、くすぐったい♪」
「嬉しいのは知ってるわ。だからおっかあにスリスリされなさい」
「わぁ〜♪」
悲鳴をあげる光一だが、その表情と声色は幸せに満ちている。
加賀はそれだけで今日の任務の疲れが吹き飛ぶ思いだ。
「ずっとこうしているのもいいのだけれど、そろそろお風呂に入らないといけないわね」
「お風呂ー! おっかあとお風呂入りたい!」
「ちゃんとおっかあの言うことは聞ける?」
「聞く!」
「では準備してくるわ。僕ちゃんも一緒に行く?」
「行くー!」
「では行きましょう」
◇
湯が沸き、加賀は光一と共に湯浴みする。
丁寧に服を脱がせ、自分もそのあとで服を脱ぎ、先に光一の頭と身体を入念に洗ってやった。
この時、妙高やビスマルクの場合だと心を鬼にして頭や身体は自分で洗うように言うが、アトランタと初春は加賀のように全てやる。飛鷹に至っては洗いっ子するくらいの仲良し親子だ。
「先に湯船に浸かっていてね」
「おっかあの背中流してあげる!」
「あら、嬉しいわ。でも冷えちゃうといけないから、湯船に浸かったままやってくれる?」
「いいよー♪」
加賀はどこまでも光一ファースト。
光一はざぶんと湯船に入ると、加賀は光一の手が届くところで腰を下ろして後ろ髪を前にやる。
すると光一は一生懸命にゴシゴシと背中を洗ってくれて、加賀はそれだけで涙が出るほど嬉しくなった。
「おっかあ、泣いてるの? 痛い?」
「いいえ、違うわ。僕ちゃんが優しいから、嬉しくて泣いてるの」
加賀がそう返せば、光一はそっかと嬉しそうに言って再び手を動かす。
こんなにも優しい子を、この子の実母は愛さなかった。加賀は基本的に他人の事に口出ししないが、光一の実母に対してだけは信じられない、決して分かり合えない人種だと思っている。
故に自分がもっと愛情を注いで、光一が寂しくないようにしなくてはと決意を新たにした。
そのあとは一緒に湯船に浸かり、光一が眠るまで添い寝をし、飛鷹と交代するまで加賀は愛する我が子にうんと愛情を注ぎ、光一は光一で加賀おっかあの愛に包まれて眠りに就いた。
遅くなってごめんなさい。
そして読んで頂き本当にありがとうございました!