脹相お兄ちゃんと壊相兄者は、夏油と話すことがあると言って部屋から出て行った。
一人で残されることになったが、絶対に部屋から出ず、扉も開けないことを固く誓わされた。
俺のことをなんだと思っているのだろうか。
やっぱり赤ちゃんだと思われているのだろうか。正解だよ。
やることもないので、脳内で動物タワーバトルをやっていると、天井から何かが落ちてきた。
平べったい円状のそれは、冷蔵庫にはっつける磁石みたいだったが、呪力をまとっているため、ただの磁石ではないだろう。
というかそもそも顔がついているし、俺はこれに見覚えがある。
「変な呪霊」
「呪霊ではなイ」
「きゃああああ喋ったぁあああ!」
「それほど驚くことカ?」
実際それほどまでに驚いてはいないが、様式美というものがあるのだ。
俺は落ちてきたそれを拾い上げ、表裏をひっくり返して見比べた。
「人間ってこんなに薄くなれんの? ……ハッ! まさか真人に!? あの野郎なんてことを! 許せねえ!」
「違ウ。絡繰ダ」
冗談で言ったんだけど通じなかったな。
俺は驚いた風に見開いていた目を普通に戻し、改めて薄っぺらい絡繰を見つめた。
缶バッチみたいだ。こういうグッズあったら売れそう。もうあんのかな。
「お前はツギハギ顔の呪霊に魂を改造してもらったのだろウ」
「よく知ってんね」
「その感想を聞きたイ」
あ、これが俗にいう、特級呪霊に襲われた時のことを五条悟が例えた「僕にとっては町でアンケート取らされた位のハプニングさ」というやつか。
襲撃されたわけじゃなくてガチのアンケートだし、特級呪霊なのは俺の方だから使い所間違ってるな。
「なんで?」
「……教えてくれるのならば教えてやっても良イ」
「やーだよーん。どうせお前もあれと魂を変えてもらう縛りしたから、先駆者の体験を聞きたかったとかそんなとこだろ」
ここで黙り込んじゃったら図星だと言っているようなもんだぞ。
腹芸苦手か? 年齢的に高校生だったか、じゃあ仕方ないかもしれないな。
……いやいや、俺に至っては赤ちゃんなんだが。赤ちゃんに腹芸で負けるな。
「もっといいこと教えてくれなきゃ教えてあげたくなーい」
「何が知りたいんダ?」
「お前名前は?」
「
「何それかっけえ!」
名前は知っていたが、いざ実際に名乗られてみると格好よさがやばい。
究極と書いてアルティメットと読ませるのはロマンすぎる。
しかもメカ丸。メカなのに丸という和風な漢字がつくことによって和洋折衷全部盛りでお得だ。
「俺も
「バカにしているのカ?」
「なんで!?」
素直な賞賛だっただろ。
名前を褒めるのは、初対面のコミュニケーションとして妥当だと思ったのだが。
「ハッ! そうか、究極がお前の名字なのか。俺が究極血塗になったらお前と結婚しちゃうもんな。勝手にごめん……」
「理解しタ。バカなのはお前カ」
「……? まあお前よりは俺の方がバカなんじゃないだろうか?」
俺にこんな絡繰は作れない。素直に尊敬する。
天与呪縛で呪力が強いらしいが、この絡繰を作れるのはそれとはまた別の努力だろう。
「で、なんだっけ。感想だっけ。あれはねー、なんかメキメキッて音がしてねー」
「待テ、対価の話はどうなっタ?」
「え? もうメカ丸の名前聞いたじゃん」
俺たちの間に、しばらくの沈黙がよぎった。
俺は首をかしげた。メカ丸が何かを話し出すかと思ったが、そんなことはなかったからだ。
仕方なくこちらから口を開く。
「で、何が聞きたいんだっけ?」
「……深く考えない方が良い気がすル。お前三輪、いや東堂タイプだナ」
「誰だよ東堂。そして俺は血塗だ」
実際は知ってるけど、それは本当に俺の知っている東堂なのか?
東堂葵と俺の一体どこが似ているというんですか。
姉妹校だけでなくクラスメイト全員から嫌われているムキムキマッチョと、兄弟からベタベタに愛されている幼女ボディの俺と、一体どこに共通点があるというんだ。
「魂を変えられて自覚できた異変はないのカ」
「心なしかいつも気分がるんるんしてるけど、それって今が楽しいだけなんだよな」
「……もう良イ」
「おい諦めるなよ! なんか有益な情報あるかもだろ!」
「あるのカ?」
「……今頑張って考えてるから! ちょっと待て!」
頭を抱えて考えてみる——ないかもしれない。
最大級の悔しさを感じながら、それを伝えようと口を開く前に、扉の方が先に開いた。
「あ、お兄ちゃ——」
「穿血」
「メカ丸ーッ!?」
手の中にあったメカ丸の絡繰は、脹相お兄ちゃんの的確な穿血によって撃ち抜かれてしまった。
俺の手には傷が一切ついていないあたり、コントロールが良すぎる。
きっとピッチャーに向いてると思う。
「少し目を離すとすぐこれだ」
「ええーっ、俺が悪いのか……? ごめんお兄ちゃん……」
「いや、お兄ちゃんの監督不行き届きだ。すまない」
「はわわ……お兄ちゃんを謝らせちゃった……」
そんなつもりは毛頭なかったので、俺は大変反省した。
反省したがどうすればよかったのかはわからなかったので、多分改善はされない。
「さっきのはなんだ」
「わかってなかったのに壊したのか!? お兄ちゃんってば!」
「呪力があったけど呪霊ではなさそうだね。破片が残ってる」
「そうだよ壊相兄者、呪術師だってさ。なんか落ちてたから拾った」
「なんでも拾っちゃダメだよ」
し、知ってるわい!
そんななんでも口に入れる赤ちゃんみたいな注意の仕方はやめてくれ。
「いい奴そうだったから友達になれたかもしれないのに」
「ならなくていい」
「えー!? でも目的俺と一緒だったよ。親近感湧いたなー」
「……それを報酬に呪霊に協力しているということか。ロクでもない。関わらなくていい」
「えー!?」
それ俺がロクでもないって言われてるみたいで嫌だな。
しょんぼりして肩をなで肩にしていると、兄者が俺の肩をポンと叩いた。
「それじゃあ血塗、私とお遣いに行こう。行きたがっていたよね?」
「うーん、別に行きたいわけじゃないんだけどさぁ……でも壊相兄者が心配だから一緒に行く!」
兄2人は、目線だけで「お前の方が心配だよ」と語りかけてきた。
ハッ! 胎児じゃなくなったから失われていたと思っていたテレパシーが復活したのか!?
「両面宿儺の指の回収。頼んだぞ。壊相、血塗」
「もちろん」
「兄者は俺が守るぜ!」
——原作のように死なせたりはしない。この命に代えてもな。
俺は格好良く決意したが、この後橋で迷子になって号泣することになる。
前回の小話に寄せられた「妖怪バカ目隠しのネグレクト」というコメントで腹を抱えましたが、五条悟にも言い分があります。
「忘れてた、メンゴ!」
明日の投稿は小話ではない予定です。