小話のようにアホみたいな会話ならぬるっと書けるんですが。
もう数週本誌が進んだら渋谷ハロウィン編のプロットが書けそう。
「じゃ、今日は恵と一緒に任務行ってきてね!」
「いきなり!?」
「あれ、言ってなかった?」
「聞いてないぞ五条悟! 俺今日にーちゃんとマリカーする約束してたのにー!」
やーだーとじたばた暴れて抵抗したものの、五条悟の長い腕で首根っこを掴まれると猫のように大人しくするしかない。
そのまま運ばれた俺は伏黒にポイと投げられ、五条悟は「僕は別の用事あるからよろしくー」と去って行った。
俺を投げつけられた伏黒だったが、案外優しく受け止めてくれた。玉犬で。
「あの人相変わらずめちゃくちゃだな」
「うう……伏黒、にーちゃんに約束破ってごめんねって言っておいて……てかなんでにーちゃん一緒じゃねえの!?」
「特級呪物二つも持って行ったら任務よりも危険度上がるだろうが」
「百理ある」
それを言われてしまってはもう黙り込むしかない。
大人しく玉犬をもふもふしてから立ち上がり、伏黒の横に立った。
「こっちは今日俺たちの引率をやってくれる一級呪術師だ」
伏黒に紹介されたのは、特徴的なサングラスをかけた成人男性だ。
金髪は染めた様子がないし、顔立ちからいっても、どこかヨーロッパあたりの血が混じっているのがわかった。
とくに血に関しては俺に一過言あるのでな。
「グラサンの人こんにちは。俺は血塗です」
「こんにちは、私は七海建人です」
お互いに軽くお辞儀しあう。
特に何の表情も浮かんでいないその顔をしばらく見てから、俺は顔を輝かせて伏黒を振り返った。
「伏黒! この人めっちゃいい人だな! 俺好きかも!」
「……よかったな」
仮にも俺は特級呪物の受肉体だ。
いつ爆発するかわからない危険物のようなものである。
まさかマイナスの感情なしに、普通に挨拶を返してくれると思っていなかった。
さすが、虎杖悠仁の死亡が偽装されていた時の指導役を五条悟から任されるだけある。
というか、今回も特級呪物の受肉体とかいう厄介事を五条悟から押し付けられているのだろう。
えっカワイソ。ちゃんと相応の給料もらってんのかな。これはボーナス案件だと思うが。
「にーちゃんが言ってたナナミンは良い人ってこのことかー」
「その呼び方はやめてください」
「じゃあななみちゃん」
「ぶっ飛ばしますよ」
いい名前なのに……ななみちゃん。
そういう名前のキャラクターがいたはずだ。
なんだかCV的に今の俺が親近感を覚える、白くて丸っこいやつである。
「私たち呪術師を恨んではいないのですか」
「はぇ?」
その質問はあまりにも唐突に感じたので、俺は変な声を上げてしまった。
「封印措置をされていたのでしょう」
「いや、恨んでるのはそれやったやつだけだよ。そんな主語でかくしないでくれ。俺は芽キャベツが嫌いだけどキャベツのことは憎んでないんだぜ」
「おい、意味わかんねえこと言うな……」
伏黒が呆れながらつっこんでくれなかったら、俺は突然芽キャベツの話をし始める狂人になっていた。
いやなってはいるんだけど。キャベツの話いらなかったな。
なんかこう、一人の人間にひどいことされたからって、人類丸ごと嫌いになるのは主語がでかすぎるだろって話をしたかったんだが。
俺ってたとえ話めちゃくちゃ下手じゃん……若干凹みつつも、気を取り直して聞いた。
「で、俺が呼ばれたってことは呪胎九相図関係なのか?」
「いや。お前がどの程度戦えるのかの見極め——五条先生、本当に何も言わなかったんだな」
「『じゃ行ってきてね!』と『あれ言ってなかった?』しか聞いてない」
「何も言わなかったんだな」
伏黒からの哀れみの視線が痛い。
五条悟め、あいつなんでこんなに人のスケジュールめちゃくちゃにして社会人をやれているんだ。
あっ俺が人じゃないから——うるせいやい。
しかしそうか、いざという時の前に、俺の機能テストをしておこうってなところか。
一応呪術高専の1年と2年の連中と模擬戦はやってたけどな。対呪霊となると確かに経験はゼロである。
「えー、俺って全然戦えないぜ。ななみちゃんより弱いぞ」
「私より強かったら引率になりません」
「確かにな! 納得した!」
なんだ、ななみちゃんより強いことを望まれているかと思って焦った。
特級呪霊もピンキリで、俺は圧倒的に
そもそも俺が特級なのは、その出自の特異さによるところが大きいのだ。
ちょっと見栄を張ってななみちゃんより弱いと言ったが、俺は伏黒よりも弱い。
宿儺の指があれば勝てる気もするが、伏黒殺す前に俺が宿儺に殺されちゃうだろうな。
宿儺って妙に伏黒好きだもんな。俺も伏黒が好きだし、伏黒殺す気なんかないけどね。
「今回の補助監督を務めさせていただきます、伊地知潔高と申します」
「メガネの伊地知だ! よろしくー」
「メガネで認識されてる……」
あとはよくパシリにされている伊地知、五条悟にいじめられている伊地知、五条悟と学長の板挟みで苦しんでる伊地知で認識している。
これで五条悟より年下ってマジ? 五条悟ってめちゃくちゃ童顔だな。
伊地知の運転する車に全員で仲良く乗って、現地に向かう。
「今回の場所は廃校です。昨夜そこに逃げ込んだという情報が窓から入っています」
「ふーん。元々はどこにいたんだ?」
「そこまでは……」
「伊地知もっと頑張って」
「私ですか!?」
後部座席になぜか用意されていたチャイルドシートに座って足をぷらぷらさせていると、伏黒が伊地知に質問した。
「向こうの情報は?」
「ほとんど……」
「伊地知……ガンバ!」
「私なんですか!?」
情報をまとめて伝えてくれるだけの補助監督なので、揃っていない情報の責任は伊地知にはない。
本来なら現地での情報収集含めて呪術師の仕事でもある。
だが、妙に申し訳なさそうにするので、ちょっとだけからかいたくなってしまったのだ。
もっと自信満々にしてればいいのにな。
助手席に座っているななみちゃんが話す。
「血塗さん。あなたは戦闘経験がほとんどありませんね」
「さ、さん!? はわわ……そんな敬称初めてつけられた……もっと言って……」
「……特に、人と連携した戦闘経験はゼロに近い。ですから、二手に分かれます」
「俺一人になったら監督の意味なくね?」
「いいえ、私が一人になります。伏黒君と組んでください」
な、なぜ。話の筋が読めずに困惑する。
「人と組んだ時、あなたがどう動くのかを見たいので」
「ああそういう? ぶっつけでやるのこえーな、まあいいけど。てか見たいなら俺とななみちゃんが組んだ方がいいじゃん」
「実力的に単独行動は私の方がいいでしょう」
引っかかるものいいだが、引率の先生がそういうなら従うまでだ。
あ、先生ではないんだったか。
100人に聞いたら100人が五条悟よりななみちゃんの方が教師に向いてるって答えるだろうから免許取ったらいいのに。
「じゃあ伏黒、俺が死にそうになったら、死なない程度に助けてくれよな」
「まず死にそうになるな」
「えー? それは状況次第じゃん……俺弱いしなあ……」
伏黒が死にそうになったら死なない程度に助けるから頼むぜ。
やってきた廃校——元は小学校だったらしい——には、入口が二箇所あった。
東と西に下駄箱が2つあり、奇数学年が東、偶数学年が西になっているらしい。
というのが、西の入口から入り、下駄箱の「6-2 13番」みたいな数字を見てわかった。
ななみちゃんは東の入り口から入ったので、もう二手には分かれている。伊地知は帳を張り、校門前で待機だ。
「おい、そんなの見ても何もわからないだろ」
「いやわかる、人間の生活様式とかが」
「そういう勉強は帰ってからしろ……」
「まあそうだな、今は人間の勉強より呪霊の勉強をすべきか」
下駄箱から目をそらし、顔を上げた。
俺たちが入ってきた入口の方から、呪霊がこちらを覗き込んでいるのと
もう俺たちをこの廃校から逃がさないとでも言う気か?
「ギャギャッ」
呪霊は真っ先に俺に向かって飛びかかってくる。うわ、思ってたより素早い。
俺は呪霊の突進を腹に受け、思い切り弾き飛ばされた。
「がふっ」
「血塗!」
吐血し、背中から窓ガラスを突き破り転がる。
俺が転がされたのはどこかの教室で、体がいくつかの机にぶつかって止まった。
かろうじて体勢を立て直し、膝をついて上体を起こす。
口元の血を拭うと、呪霊が「ギャハギャハ」と笑う不愉快な声が聞こえる。
ちょっと殴られた程度で、こんなに血が出るわけないってなんでわかんないんだろうな。
「雑魚ほどすぐ調子に乗るよ——蝕爛腐術『朽』」
俺の術式、蝕爛腐術「朽」は、傷や粘膜から俺の血液が入り込むことによって発動することができる。
さっきの呪霊は
吐血で目を狙ったが、飛沫がうまく入ってよかった。
血液点眼成功!
呪霊は思ったよか素早かったが、俺から目をそらさなかったことが幸いして簡単だった。
二階からの目薬でもないし、お目目の大きいタイプの呪霊だったからな。
このくらい弱い呪霊であるならば、グズグズに腐って死ぬのも一瞬だ。
自分の術式でトドメを刺すのはこれが初めてだが、結構えぐいな。
相手が強ければ強いほど腐らせる時間が長く必要になるし、弱かったとしてもそれなりに苦しませてしまう。
絶対に主人公は持っていないタイプの攻撃属性だ。
ヤダー! 主人公が持ってない攻撃タイプってことは、つまりラスボスへの決め手にはならないってことなんだよ!
「大丈夫か?」
「……全然大丈夫じゃない」
伏黒の声に答えながらゆっくり立ち上がって、体に降りかかっていた細かいガラスの破片を振り落とす。
俺は自分が突き破った窓を指差して、伏黒に訴えた。
「伏黒は目が見えてないのか? めちゃくちゃ窓ガラス割れたぞ!」
「大丈夫そうだな」
「伏黒ってやっぱ目が」
「見えてる」
俺は吹き飛ばしてしまった机を正しく置き直した。やばい、机の足が歪んでしまっている。
損害賠償を求められたらどうしよう。俺給料もらってないから無一文なんだけど。
その不安を見抜いたのか、伏黒が言う。
「廃校だから多少壊れても問題ない」
「それ早く言えよ。階段登るの面倒だから天井に穴開けていいか?」
「だから言わなかったんだろ」
流石の俺でも、さっきの雑魚呪霊のために俺たちが派遣されてきたとは思っていない。
本命は別にいるだろう。だから探さなきゃならない。
俺は索敵能力を持っていないので、面倒だし更地にすれば良くね? というノリで提案したが、伏黒に却下されてしまった。
索敵もそうだが、そもそも俺って戦い苦手なんだよ。死にそうで怖いし。
死んでもいいとは思っているが、死にたいと思っているわけではないのだ。
「ななみちゃんは大丈夫かな?」
「自分の心配してろ」
「百理ある」
自分より強いやつの心配するだけ無駄か。
天井を破るのは伏黒に怒られるので諦め、大人しく階段で上を目指す。
もちろん道中、異変がないかを確認しながらである。
「そういえば伏黒ってお昼ご飯何食べた?」
「時間的に朝食しか食ってねえ」
「え!? 今って昼前だっけ!?」
「午前11時だ。時計見てないのか」
「時計はスイッチをスリープモードから解除する時に画面でしか見ない。そんで俺は五条悟に捕まるまで、昨日の夕方からずっとスイッチをやってた」
「……廃人になるぞ」
「ふふん、もうなってる」
150年間脳内でずっと一人ゲームをやってきたゲーム廃人血塗だ。よろしくな。
マインスイーパーの成功率95%を誇るぞ。
「血塗、止まれ」
「ん」
索敵能力は伏黒の方が高い。
大人しく言うことを聞くに限る。
「次の角にいる」
「おけ、どうする? 俺突っ込もうか」
「無策すぎるだろ」
「じゃあ伏黒の案を聞こう」
「……突っ込め」
「キャッ、俺たち気が合うわね!」
俺の方が耐久性がある。
傷を負った場合でも治りが早い。囮役としても斥候としても最適だ。
少し考えた伏黒もその結論にたどり着いたのだろう。
下手に伏黒の式神を犠牲にするより効率がいい。
「突撃! 隣の晩御飯! あ、昼だった」
帳が降りているので窓の外は夜だが。
無策で角に突っ込むと、俺を迎えたのは——爆風だった。
爆破オチなんてサイテー!
爆風はかなりのスピードで一直線に迫ってきた。
それも、廊下一面を全て覆い尽くすほどの規模である。避けられない。
伏黒の玉犬が俺の首根っこを掴んで引き戻してくれなければ、直撃を食らっていただろう。
なるほど、向こうはずっと待ち構えていたというわけである。
置き型のトラップか? それにしては何かスイッチを押しちゃった感覚はなかったが。
「追撃がない。向こうから攻めてくるつもりは今の所ないみたいだな」
「てことはあの位置が向こうにとって都合がいいってことだな。引きずり出すか」
「……袋小路が都合がいい? 背後に弱いか、それとも壁がないと……」
考察を始める伏黒だが、俺は全く別のことを考えてた。
「なあ伏黒、やっぱ廃校だしちょっとくらいぶっ壊してもいいんじゃね?」
「ふざけてる場合じゃ——いや、ありかもしれない」
伏黒の賛同に、俺はにっこりした。男の子って解体工事とか好きだよな。俺も好き。
※ ※ ※
相手の攻撃方法を簡単に説明する方法がある。
ボンバーマン。以上だ。
校舎の壁をぶち壊せるほどの爆破を起こせるわけではなく、爆風をメインに攻撃してくる。
その爆風は一直線で、90度曲がった角に隠れれば当たることはない。
術式がボンバーマンとくれば、俺に分がある。
なぜなら——俺はゲーマーだからだ!
敵が潜んでいると思われる袋小路、その
俺は軽く屈伸運動をしてから、天井に跳んだ。
「芋砂は嫌われるぞ」
戦闘中、一箇所にとどまり続けるのは悪手だとしか言いようがない。
ずっと同じ場所に居続けるボンバーマンなんて、かなりの縛りプレイだろ。
「しょーりゅーけん!」
伸び上がるようなアッパーカットを天井に決める。
幼女ボディのこの俺だが、呪力を込めた一撃ならば鉄筋コンクリートの壁くらい突き破れる。
半分呪霊だ、純粋なパワーを出すのは基本機能として搭載されてる。
「ッ!」
俺が拳を打ち込んだ場所がドンピシャだったらしい。
崩れたコンクリの破片と一緒に、この任務の撃破目標が落ちてくる。
パーカーのフードを深くかぶった——オワ、人型だ。戦いにくいな。
相手の術式がボンバーマンだというのなら、わざわざ
現実世界は
向こうがわざわざ壁のある建物を戦闘の場所に選んでいるのは、そうしないと爆風を簡単に避けられてしまうとわかっているのだろう。
一直線にしか飛ばせない爆風で、狙う方向が360度あるってだけでもしんどそうなのに、360度に立体も含めたら避けるこっちとしてはかなり楽だ。
落ちてきた敵は難なく着地すると、俺に向けて何かを投擲してきた。
一瞬見えたそれはビー玉か? 球体は少し滞空すると、俺の方向に爆風が飛んでくる。
「ウッワ!」
俺は横に跳んで、壁の後ろに滑り込み爆風を避ける。
なるほど、あのビー玉が爆風の起点ってわけだ。
……ん? 妙な違和感を覚えるが、それが何かわからない。
「これで挟み撃ちだ」
俺が開けた天井の穴から、伏黒が降りてきた。
その状況自体は構わないが、呪力の流れがまずい。
「ヤベ! 伏黒、うしろー!」
「……ッ!」
伏黒の背後で、何かがコロリと転がった。
瞬間、転がった球体から発生する爆風。クソッ、爆風は遠隔操作可能かよ!
とっさに血液を触手状にして伏黒に向けて伸ばしたが、速度が足りない。
伏黒に届く前に、爆風で俺の血液は散り散りになってしまった。
「オワーッ! 伏黒ーッ!?」
血液操作は俺の専門じゃないからー! 動かせるにしても遅いんだって!
極ノ番展開してたわけでもないし! てか今の俺に極ノ番は無理! 術式の洗練が足りないから!
伏黒が吹き飛んでしまうかと思われたそのタイミングで、俺が穴を開けた天井がさらに崩れて落ちた。
瓦礫の山が、伏黒に到達しそうだった爆風を防ぐ。そしてそれをやったのはもちろん。
「こちらは無事です」
「ななみちゃーん! だいすきー!」
完全にファンになりました。
俺が感動している間に、敵はななみちゃんが築いた瓦礫の山を駆け上り上の階に戻ってしまった。
あーくそ! そうだよな、完全に中・遠距離型の術式だ、距離を取りたいに決まっている。
俺は壁の影から飛び出し、追いかける。
「ななみちゃんはそのまま伏黒を頼む! 俺はゲームでも護衛系が一番苦手なんだよっ!」
自分以外のことを考えなきゃいけないって、現実でもゲームでも難しいんだよな。
上の階に飛び出すと、意外にも敵は正面切って迎え撃ってきた。
目の前に飛んできたビー玉に対して、俺は冷静に対処する。
「
脹相お兄ちゃんの使う赤血操術における百斂とは、血液を加圧し限界まで圧縮させる技だ。
俺の術式は赤血操術ではない。そのため、体外の血液操作は不可能だ。
だが、擬似的にそれを可能にしているのは、外に出した血液を体内と繋げっぱなしにしているからだ。
俺が触手みたいに、自分を起点に血液を伸ばすのもそれが理由だ。
自分の血管と繋げずに完全に血液だけで独立させると、ベチャッとただ血液をぶちまけるだけの結果になってしまうのである。
だから、こういう風に体の外で血液の球体を作るとなると、全く別の操作が必要になってくる。
術式とは別の、呪力の純粋な操作。
術式を使わずに呪力だけを飛ばすような感じであり、とんでもなく効率が悪い。
そもそも圧縮とかはできないからマジで百斂ではない。お兄ちゃんに見せたら呆れられる。
爆風が一直線に飛んでくる。
百斂もどき、と言いながら作った、ただの大きな血液の水球が間に挟まることで、俺の体は熱風から守られた。……ちょっと焦げたけど。
燃費が悪い上に大した意味がないというのに、なぜこんなことをやったのか?
——フッ、言わせるなよ。
俺だってお兄ちゃんの真似をして格好をつけたいお年頃なんだ。ただし。
「もう二度とやんねー」
普通にこの大きさの血液吐血したほうが早かったし楽だった。
無駄に呪力を使った徒労感をひしひしと覚えながら、俺は血液を遠隔操作する必要ってほんとないなと思った。
もっとマシなお兄ちゃんパロディ技考えよ。
敵は爆風に紛れて退避したらしい。そう遠くへは行っていないだろう。
いつのまにか俺の背後にいた、ななみちゃんが言う。
「正直、私との相性はあまりよくありません。球体は7:3の比率を割り出すのが難しいので、術式の基盤となっている球体が爆風を発生させる前に破壊するのは効率が良くありません。本体を直接叩いたほうがいい」
ちなみに、連携することがあるかもしれないからと、ななみちゃんの術式についてはすでに聞いていた。
できないとは言わないのがさすがだよな。
俺はよくわかんないぞ。丸ってどこから等分にすんの?
「そうか。じゃあ俺がやろう」
「無駄だ! 全員吹き飛ばしてやる!」
キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!
俺は恐れおののいて、思わずななみちゃんのシャツの袖を掴んだ。
「あ、あのさあ……もしかして相手、人間?」
「……今気づいたんですか」
いや殺し合いやってる間に相手の出自とか調べないでしょ。
術式は呪霊も人間も使えるんだし……いや、冷静に考えたら術式が使えるほどの呪霊を相手にする任務に、いきなり俺をぶち当てることはないか。
随分長いこと感じていた違和感の正体はこれだったらしい。
呪霊のくせして、ビー玉を触媒にしないと展開できない術式ってなんだそりゃって思ってたんだ。
そんな小賢しいこと、自然発生の化け物はしないんだよ。諸説はあります。
「呪詛師なら殺せないよ。伏黒……はあれだからトドメはななみちゃんやってな。弱らせてはおくから」
「できますか?」
「うん、
蝕爛腐術は初見殺しの術式だ。
決まれば勝ち。だから俺はもう勝っている。
「おーいきっこえっるかー? 今お前は体が苦しくなっちゃってると思うけど、それは俺の術式でそのままだと15分くらいでお前は腐って死にまーす」
「な……ッ!」
角の向こうから驚愕の声が聞こえる。
そう遠くへは行っていないと思っていたが、本当に近くにいたな。
うん、やはりちゃんと生きてる人間だ。術式を展開してより明確にわかった。
しかし、最初からそのくらい喋ってくれれば俺だって呪霊と間違えたりしなかったのに。
「術式開示のつもりならもっと丁寧にやれ」
「あれじゃダメなのぉ?」
「ダメだ」「ダメですね」
「ダブルで否定!?」
いつのまにか登ってきていた伏黒が俺にダメ出しをする。
しょうがないだろ、術式開示なんかやったことないんだから。
何事にも初めてというのが存在するんだから、温かく見守ってもらいたいものである。
「俺の血液を傷や粘膜から取り込むと術式が発動してそこから腐りまーす。だからお前は死にまーす」
「血液だと!? そんなもの当たっていない!」
「お前がえら呼吸でもしてねーなら無理。血液って液体だぜ、熱で蒸発するだろ。お前、自分の術式忘れたのか?」
なんのために俺が散々血液ばらまいたと思ってるんだよ。
「
だからぶっちゃけこの場で伏黒とななみちゃんだって蝕爛腐術の餌食にすることもできる。
まあ術式で腐りきる前に俺が殺されるだろうけどな。逃げ切る手段思いつかないし。
おっといけない、また呪術師を殺すことを考えてしまった。
俺は平和主義だというのに、戦いとなるとすぐに誰かを殺すときのことをシミュレーションしてしまうから嫌なんだ。
「プププー! 自分の術式を俺に利用されててだっせー! はい、術式開示したから15分よりもっと早く死ぬだろ。こっからななみちゃんどうぞ」
「先ほども言っていましたが、トドメを私にさせようとするのはなぜです」
「え!? 伏黒はまだこどもなのに人殺し推奨するのか!?」
「伏黒君ではなく、あなたが殺せない理由です」
伏黒がこどもなら、俺は赤ちゃんだからだ。
というのは冗談だ。
「特級呪物だからに決まってるだろ。俺がどの程度危険なのか調べたいんだろ? 嬉々として人間殺したらこの任務クリアできても最終評価Eだよ」
「……殺さなくても良いでしょう。縛って連れて行きますよ」
「縛れるものないけど俺の血液でやる? 復活するときのナウシカみたいになっちゃうかもしれんけど」
「縄でも持って来させます」
ななみちゃんは電話をかけて、伊地知を呼んだ。
俺が血液を触手状にして伸ばせば、人ひとりくらいの体なら浮かせられる。
ジブリで言うところの、王蟲の触手でフワ〜って浮かび上がるナウシカを再現できそうなんだけどな。
このままだと死んでしまうので適当なタイミングで蝕爛腐術を解除し、伊地知に引き渡す。
相当弱っているし大丈夫だろう。ななみちゃんが検分して、呪物は全部取り上げたみたいだし。
これで俺の初任務は終了だ。時間にして1時間というところである。
「ななみちゃん俺の評価に色つけておいてー!」
「上には正しく報告します。それでは」
ななみちゃんは、きっちり労働時間内に仕事を終了させて帰って行った。
やっぱ好感持てるな。残業は憎むべき文化だからな。
俺は労働後の爽やかな気分に浸りながら、一緒に仕事をこなした同僚にいたわりの声をかけた。
「伏黒も大変だな。わざと死にかけて」
「……気づいてたのか」
俺が覚えていた違和感は二種類あった。
一つは呪霊だと思い込んでいた相手が、呪詛師だとわかった時に解消された。
もう一つの違和感は、やたらに伏黒がうっかりさんだったことだ。
慎重派の伏黒が、相手の術式を正確に理解していないのに、斥候役の俺を無視して前線に飛び込んでくるのは行動としておかしい。
そんなことをするなら俺が前に出る意味ないからな。
伏黒には式神がいるのだから、たいていの場合式神を前に出している。
もちろん場合によっては伏黒が前線張るし、張れるだけの能力があるが、それこそ伏黒の強みなので最初にはやらない。
式神使いだが本体も強い、ってのが奥の手の一つだろ。
「うん。だって伏黒あんなに弱くないじゃん」
術式も判断力も、あんなに弱くはない。
共に任務に来た呪術師が死にかけたときに、俺がどう行動するかの判断基準として、わざと危うい状態になることを指示されたのだろう。
そういう腹芸、にーちゃんには絶対無理だし、釘崎も向いていない。
俺は伏黒のこういう妙に苦労しそうなところが好きなんだよな。
常に貧乏くじ引かされる苦労人というか。応援してあげたいよな。
「もっと早く気がつけてたらよかったんだが。だからああなると思ってなくてうまく助けられなかった。ごめんな」
伏黒が式神で自分を守ることなく爆風で吹き飛ばされたとき、俺はもうダメかと思った。
本当にななみちゃんがいてくれてよかった。
伏黒守るのを失敗して俺の評価が下がったこととかはどうでもいい。普通に伏黒死ぬほうが嫌だ。
にーちゃんの友達死なせるとか最悪すぎるだろ。
「お前が謝ることじゃない」
伏黒は俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。それ玉犬の撫で方と一緒……。
自分より強いやつの心配するだけ無駄、と思っていたがそれは改めたほうがいいな。
状況によっちゃ俺でも助けられるかもしんねんだから、その機会を逃さないようにしよう。
「帰ってボンバーマンやろー。伏黒もやろうぜ」
「その前に昼飯だな」
「ふっ、人間って不便だな伏黒」
「お前も食うんだよ」
「えー。まあいいけど……あ、せっかく外に出たんだからなんか食べに行けるのか? 俺あれ行きたい、えーと、あの釘崎が言ってたやつ! 甘いの!」
「……パンケーキか? 俺が嫌だ」
「えー!?」
パンケーキは食えなかったが、この後タピオカを買ってもらったので俺は満足した。
【今回のモブ】
呪力を込めた球体を媒体とし、球体が転がった方向一直線に爆風を発生させる術式を持った呪詛師。
名前はタカラトミーとハドソンから。
スーパーボンバーマンだと思ったら爆裂変形ビーダマンだった。っていうのがやりたかっただけ。
【血煙について】
本来の意味は煙のようにほとばしる血液のこと。
正確には、熱されても蒸発するのは血液中の水分だけなので、空気中に血液が漂うことはない。
敵が血塗ちゃんの血液を吸い込んだ(飲み込んだ、あるいは粘膜に触れた)のは爆風によって血液が飛沫のように巻き上げられて拡散されたからである。
だからこそ
おそらく風を使うこの敵にしか通用しない技。ということに血塗ちゃんが気づくのはかなり後。
血塗ちゃんの前世は理系じゃない。