「じゃあ学長との面談なんだけど、失敗したら死刑になるからよろしく」
「ノリ軽ッ! もっと早く言え! 俺死ぬのかよ!」
望まない形で
五条悟、適当すぎる。知ってた。
案内された先には、もふもふのぬいぐるみを背後に控えた強面の中年男性が待っていた。
想像はしていたが、想像通りでも困惑することってあるんだな。
おっさんがかわいいに囲まれている。
やることは五条悟の拷問の時と一緒だ。お話だけ。命がかかっているのも変わらず。
違うのは俺が今拘束されておらず、やろうと思えば殺し合いには発展させることができるということくらい。
まあ勝てないけどな。俺は弱いし部屋の外に五条悟いるし。
「呪胎九相図の処理に協力すると決めたそうだが、それは殺害を含むか?」
「含まない。捕縛に限る。ただしあんたらがお兄ちゃん達を殺そうとしても止めはしないよ。ここが俺にとってギリギリの妥協点だぜ」
現状、高専と敵対関係になるつもりはない。
何しろ、俺が絶対に敵対したくないにーちゃんが高専に所属しているからだ。
しかし、お兄ちゃん達を殺そうとする呪術師を殺してしまったら敵対はやむなしだ。
だから、そこを線引きにする。
場合によっては兄弟を見殺しにすることになるが、そもそもお兄ちゃん達が殺されるくらいの呪術師だったら、俺が抵抗しても意味ないしな。
そう簡単にお兄ちゃん達が死ぬかよ。俺っていうお荷物もいないことだし。
「なぜ虎杖悠仁の殺害を中断した?」
同じこと宿儺にも聞かれたな。同じ回答したら死刑決まっちゃうかな。
「
どうせ前世の話をしても妄言と同じ扱いだ。
であれば掴みどころのない答えで構わないはずだ。嘘は言っていない。
夜蛾は、にーちゃんに関する俺の供述が意味不明だってことを事前に聞いているらしかった。
その辺りに大して突っ込むことなく次の質問に移る。
「お前の優先順位はなんだ? 呪胎九相図か、虎杖悠仁か」
「どっちもだよ。順位はつけない、同率だ」
「全てを守れると思っているのか?」
「思ってねーがやる前から諦めるやつは何も守れねえだろ」
「切り捨てる覚悟のないものは中途半端に終わる」
「おいおい、切り捨ててきた大人のセリフだな。生まれたての赤ちゃんに夢くらい見させろよ」
こういう哲学的やり取りって苦手だ。
どこに終着点があるかわからないし、自分の納得と相手の納得が違うところにあるから。
「虎杖悠仁が呪胎九相図を殺そうとしたらどうする? その逆は?」
「説得する。あ、それって妨害に入るか? じゃあお兄ちゃんの方だけ止めよう」
できるかな……。
最悪の場合でも、脹相お兄ちゃんがにーちゃんを殺す一歩手前まで行けば、原作の流れを踏襲して止まると思うが。
そうしたら公認で兄弟になれていっそいいかもしれない。
だがお兄ちゃんが洗脳されるのをまざまざと見過ごすわけにもいかないな。止めるしかない。
「人間と呪霊、どちらとして生きるつもりだ」
「それって決めなきゃいけないことか? どっちもだよ。自分の半身を否定しやしないさ」
外国人のような国境をまたいだだけのハーフじゃないんだ。
籍をどちらかに決めなきゃいけないってこたないはずだ。
人間の俺も呪霊の俺も、どっちも俺だし、どちらかが欠けたら俺ではない。
「中途半端に生き、中途半端に死ぬ気か」
「ふはっ。何が悪いんだ? いいじゃんそれで。白黒はっきりつけたがりだな、パンダかよ。何もかもを決め切って生きて、物事に例外はなしか? つまんねー。俺にその生き方を強要するなら殺せよ。それで構わないぜ」
命乞いって自主的にするものだと思ってるんだよな。
したくないならしないぜ俺は。たとえ生きていたいと思っていたとしても。ムカつくもん。
「俺の目的は兄弟の生存と加茂憲倫の殺害で、達成されれば死んでも構わない。目的の達成にはむしろ俺だけ生き延びても意味ないからな。自分よりお兄ちゃん達とにーちゃん生かしたほうが圧倒的に加茂憲倫の殺害も達成されやすいよ——ただ俺を殺すとお兄ちゃん達の復讐の対象になって永遠に協力関係結べなくなっちゃうことだけは覚えとけよ。要らんかもしれんけど」
加茂憲倫を殺すのは俺でなくとも構わない。
あわよくば死ぬとこを見たいが、無理なら無理で致し方ない。
あーもう結局生まれて数日で死ぬのかよ。最終的に死ぬなら、もうちょっと長く生きられるんじゃないのっていう期待を持たせるのやめてくれ。五条悟を恨んで死の。
「いいだろう」
「なにが?」
「呪胎九相図、血塗。君を東京都立呪術高等専門学校預かりとして、生存を認める!」
「えいいのぉ!?」
だからこういう哲学的やりとりは苦手なんだ。
一体どこにどう納得されたのか推し量ることが難しい。
しかし生きてていいっていうなら喜んでおくか。わーいわーい。
もう一回脹相お兄ちゃんと壊相兄者に会える可能性が発生したぜ。
そんなこんなで高専内での平穏を手にした俺だったが、四六時中五条悟からもらったゲームをやっているわけではなかった。
何しろ、ここは一応学校であるのだ。お勉強というやつを俺もやっていた。
教師役は夜蛾だ。え? 五条悟? あいつには無理に決まってるだろ!
五条悟はむしろ普段から生徒の方に面倒見てもらってるようなもんじゃねえか。
「社会が壊滅的だが国語は飛び抜けているな」
「そら言語はお前らと会話できてんだから当然だろ。そして社会を知らないのも当たり前だ、ついこないだまで羊水の中だぞ」
小学生用のテストを解いた結果を眺められながら俺はぶーたれた。
「ていうかペンが上手く持てない! 血で書いていいか?」
「ダイイングメッセージにでもする気か。ダメだ」
鉛筆よりも血液の方が上手く操れるのでいい案だと思ったのだが。
時間経過で酸化して変色するからダメなのだろうか。
1時間配分のテストを30分で解いたが、血で書いていいなら15分で終わっていたと思う。
この紅葉のような手が憎い……頭の中で考えていることのスピードに、文字を出力するスピードがまったくついてこない。
いっそのこと血液を触手みたいに伸ばして、それでペン持った方が上手く書けるかもしれないな。
「数字もわかるのか」
「+とか×とかの記号の意味については最初に聞いたしなあ。てか初見殺し多くね? なんで棒を境に数字を上下に並べんの」
分数なんて概念すらちょっと忘れかけてたぞ。確率の方がわかるな。
算数はそれほど問題ないが、理科はあんまり覚えてなかった。てか英語はないんだっけ? 中学生からか?
小学生用の問題を解くのは知能テストの一貫な訳だが、なにかとんでもないボロを出してしまいそうで怖い。
未来の知識とかうっかりで出しちゃわないよな? 筆記テストでそれは大丈夫だよな?
時事問題が出たら怖いな……。でも政治ニュースについてなんか、マジで覚えてないし平気か。
「それって100点取れたほうがいいのか? だったら適当な本読ませろよ、覚えといてやる」
「そうだな、手配しよう。血塗、君はもっと世界を知るべきだ」
世界て。壮大だな。
社会の教科書読んで総理大臣とか戦国武将の名前覚え直すか。
それよかもっと先に覚えなきゃいけないことがある気がするけどな。
ああ、それで思い出した。夜蛾に聞いておきたいことがあったのだ。
「そういや夜蛾、聞いていいか?」
「なんだ」
「赤ちゃんはどこからくるの?」
夜蛾はグラサンの下で視線を泳がせた。
「保健体育の本を注文しておこう」
「あごめん、そういうことじゃなく」
ここでコウノトリが運搬するとか、キャベツ畑から収穫できるとか言わないあたりはさすが教育者だ。
五条悟だったら嬉々としてデマを吹き込んでくるぞ。
「
「……どちらにしても答えにくいことに変わりはないが……」
夜蛾、一人で思春期の女児育ててる男親みたいでウケる。
相手はただの特級呪物の受肉体だぞ、肩の力抜けよ。
「君の体は人間としては未成熟だ。今後成長するのかはまだわからないが可能性としては十分ある。そうなれば生殖機能も備わるかもしれない」
「裏を返せば今はまだ赤ちゃんはできないってことだな。よし、オッケー」
問題の先送りかもしれんが、人生ってとりあえず今さえ良ければいいところある。
何もかもにまだ大丈夫って言い聞かせながら今日をやり過ごすもんだよな。
「硝子は……その辺りを濁していた。世界最年少出産は5歳7か月21日だからと……」
「ウワッ……俺が人間でいうと何歳に該当するのかわからんが、それ言われると全然デキそう。半分呪霊で丈夫だからな……ウッワ……ええ……? 人間って怖……」
様々な想像が脳裏をよぎり、鳥肌が立つ。
呪霊ってみんな、人間の負の感情とかからできてるんだもんな。なるほどな……。
本当に怖いのは人間っていうの、陳腐な言葉だと思ってたが、言い得て妙とも思えてきた。
「高専にいる間はそういうことから守ってやれる」
「え? レイプされないようにってこと?」
「言葉を濁せ」
わかりにくい言い回しされたからちゃんと聞き直したのに。
「俺を使っての繁殖実験なんて尖ったこと、保守的なお前らがやると思ってないよ。わざわざ加茂憲倫を
「呪霊か」
「そう。どちらかというとありえそうなのはそっちだし……1/4呪霊の何かより、3/4呪霊の何かが生まれる方が歴史的にもやばそう。ただどうやって呪霊の子どもが生まれんのかわかんなくてさ」
俺のママは呪霊の子どもを孕める特殊体質だった。
俺にその性質が受け継がれているかは未知だが、ことあるごとに血が重要になってくるこの呪術界では、能天気に受け継いでいるわけないだろと断じるわけにもいかない。
ただ、俺は具体的に母親がどうやって俺たちを孕んだのか知らないんだよな。
「呪霊ってみんなちんこあるのか?」
ゆっくりグラサンを外すと、夜蛾は目頭を押さえた。深いため息も添えて。
「そちらの方が詳しいんじゃないのか。弟がどうやってできたのか見てなかったのか」
「はあ? 両親が子作りするところなんか気まずくて見てるわけないだろ、常識ないのか?」
「君の倫理観はわからないな」
レイプものはフィクションだから楽しめるんだよ。
現実に起きてたら泣いちゃうだろ。見てられんわ。
はあ……お兄ちゃんの手前、孕む心配なんかしてねえぜ! って言ったけど、お兄ちゃんがいない今はめちゃくちゃ心配だ。
俺弱いし手篭めにされちゃう。そうなったらお兄ちゃんが泣いちゃ……泣いてるところ想像できねえなオイ。いや原作で泣いてたっけな……うーん。
怒りに燃えて血の涙くらいは流すかもしれない。普通に
相手殺せないなら自死する覚悟もしといた方がいいんかな。
でもなんかめちゃくちゃ悔しいなそれ。自死するくらいなら自爆する方法考えてやる。
自爆技ってロマンだよね。俺ドラクエの敵だとばくだんいわが一番好きだもん。
ドラゴンボールだと?
「まーいいや。一応そういう理由で、俺がお兄ちゃん達以外の呪霊と関わりたくないって思ってることくらいは理解しておいてくれよな」
いつ呪霊側につくかわからんと思われているだろうし、利己的な理由として呪霊と敵対しそうな条件を示しておく。
あんまり意味なさそうだけどな。向こうの認識として、俺のこと呪霊は呪霊と思ってるだろうし。
「他にテストないなら俺は帰ってぷよぷよテトリスをやるぞ」
「ああ。本はいくつか見繕っておく。読めそうなら図書室にある本も読むといい」
「図書室あんの!?」
「ここは学校だ」
学校なの!? と言いそうになったが学校である。知ってた。
あとで図書室行ってブラックジャック探して読も。
学校には大抵、手塚治虫とはだしのゲンが置いてあるからな。
パパになってほしいキャラランキング堂々一位(脳内主催)