それいけ!血塗ちゃん   作:九条空

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2年生たちとの初対面時の話です。
時系列的にとびだせより前。


小話:禅院真希

「これが特級呪物の受肉体か? 思ってたよりちっせえな」

「物扱いすんなよメガネのチャンネー、お前は思ってたよりも胸がでかいな」

「こら血塗! いきなりセクハラすんな!」

 

 お互いに「やんのか?」という顔でガンをつけあったが、にーちゃんに叱られたので、大人しく睨むのをやめる。

 でも向こうも悪いと思います、それパワハラでしょ。

 人間だからって人間以外を見下していいわけじゃねえぞ。

 巨乳だからって貧乳を見下していいわけでもねえんだからな。

 

「禪院真希先輩。ちょっと口悪いけどいい人だから」

「口悪いは余計だ」

「事実じゃないっすか」

 

 なるほど、こうして見るとわかるが本当に呪力がほぼ存在していない。

 一般人並みの呪力だ。持ってる薙刀のような呪物からはやべー呪力感じるけどな。

 

「こっちが狗巻棘先輩。おにぎりの具で喋る」

「しゃけ」

「大変だにーちゃん、俺おにぎり食ったことない」

「マジ!? じゃあ何が具かわかんねえじゃん!」

「それってそんな問題か?」

 

 声のした方を見て驚いてしまった。実際に見てみると、こっちも思ってたよりでかいし。

 

「パンダだ!」

「おう、パンダだ」

「血塗、こっちはパンダ先輩な」

 

 パンダということしかわからなかった。

 まあそれさえわかっていればいいのか。

 

「こんぶ」

「悟はいつも通り遅刻だろ」

「えっ五条悟来んのか!? 俺帰っていいか!?」

「今日の主役だからダメー」

「ギャア! 出たァ!」

「おばけみたいに言わないでよ」

 

 五条悟がおばけみたいにぬるっと登場したからだろうが。

 にーちゃんも話を聞かされていなかったのか質問する。

 

「主役って? 血塗と先輩たちで何すんの?」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「逆に五条悟が俺に何かをちゃんと言ったことあったか?」

「アハハ! ないかも!」

「ないかもじゃねえんだよ、ないんだよ。そろそろ夜蛾に泣きつくからな!」

「ごめんごめん」

 

 これで今日は2年生と任務に行ってもらおうと思って、と言い出したら俺はこの場で学長室に走り込む。

 

「今日は2年生たちと模擬戦してもらおうと思って。ほら、2年生は特級呪霊との対戦経験にもなるし、血塗は強くなれるしでウィンウィン」

「俺はバーチャファイターで強くなる方がいい。帰ってゲームやろうぜにーちゃん」

「ダメでーす。ちゃんとやろうねー」

「ヤダーッ! 俺は平和主義なのー! なんで誰の命もかかってないのに殴り合いしなきゃいけないんだよ! 痛いの嫌いだ!」

 

 やーだーとじたばた暴れて抵抗したものの、五条悟の長い腕で首根っこを掴まれると手足を振り回しても誰にも当たらない。

 クソッ、マジで不便だなこの幼女ボディ! リーチの短さがえぐすぎる!

 

「かかってるよ、命」

「誰の!? 俺のか!?」

「うん。弱いと死んじゃうし、僕の言うこと聞けないなら危険分子だと見なされちゃうかもな〜」

「この外道! 呪術師なんか、人間なんか嫌いだ! 嫌いだー!」

「バーチャファイターもストリートファイターも人間が作ってるんだよ血塗」

「やっぱ好き。嫌いなのはお前だけだ五条悟」

「誰がゲーム買ってあげてると思ってんの?」

「クッ……! うう……! ウッウッ……わかった、やる……」

 

 俺は完全に脱力し、まさしく母猫に首をくわえられて運ばれる子猫のようになった。

 五条悟みたいな母猫はいやだ。五条悟も嫌だったのか、ポイとにーちゃんに俺を投げた。

 俺は脱力したままだったので、にーちゃんがキャッチしてくれなければ地面に転がっていただろう。

 

「よーし話はまとまった!」

「まとまってねえだろ泣いてんじゃん」

「おかか」

「だよな、嫌がる子ども殴るのはこっちも気がひける」

 

 俺は鼻をすすった。

 

「泣いてないし! 五条悟になんか泣かされないもんね!」

「よしよし、血塗は強い子だな」

 

 やめろにーちゃん、慰められると涙がこぼれちゃうだろうが。

 強くないもん、という弱音を涙とともになんとか飲み込んだ。

 

「……禪院お前何級?」

「四級」

「よし」

「おいてめえ今私を舐めたな」

「ふっ、俺を舐めてるのはお前だ。先に聞いておくがそれは血で汚れてもいい服か?」

「へえ? 私を血まみれにするって?」

「してやるよ、俺の血でな!」

「お前のかよ」

 

 なんか既視感のあるやり取りだな。

 模擬戦はだだっ広い運動場でやるらしい。特に障害物がないので、搦め手を使うのが難しい。

 マジで純粋に殴り合いするんだったら勝てると思うけど、向こうは普通に呪具の薙刀を構えているので違うよな。

 

「言い忘れてた。私のことは名前で呼べ」

「そうか真希。俺は血塗だ」

「よろし、くっ!」

 

 踏み込みは右。そっちが利き足か?

 直線的な突っ込みだったが、俺を驚かせるには十分だった。

 

「はやっ! お前も宿儺の指食ってる!?」

「誰が食うか!」

 

 その発言、にーちゃんへの罵倒になるからやめてくれ。俺が言い出したのが悪いけど。

 さっき純粋な殴り合いなら俺が勝つって言ったけどちょっと自信なくなった。

 こいつ相当な馬鹿力だ。この長さの薙刀を軽々と振り回せるんだから当たり前とも言えるか。

 

「逃げてばっかか?」

「いや、俺って模擬戦どころか近距離戦やったことないからどうしていいかわかんないだけ。こういう時殴る感じ?」

「おい! お前もっと基礎からやれよ!」

「五条悟に言え!」

「悟!」

「メンゴ!」

 

 場外から五条悟のふざけた声が聞こえたので、俺はちょっとだけ殺意を覚えた。

 俺が経験したことのある近距離戦は、にーちゃんを殺そうとした時のだけだ。

 あれだって基本逃げっぱなしからのカウンターで決着がついたからな。

 カウンター狙えばいいのか? クロスカウンター……幼女の俺の腕の長さでは圧倒的に不利である。

 

「とりあえずキック!」

「おせーわ!」

 

 攻撃を繰り出すのがか、あるいは俺の蹴り自体のことか。

 真希は薙刀の柄で難なく俺の蹴りを止めると、そのまま返す刀で斬りつけてきた。

 

「呪霊相手に峰打ちにしてるのか!? お前優しいな!」

「はあ!? 模擬戦だって言っただろ!」

「フリかと思った」

「フリじゃねえ……そういうのは京都校の十八番だ」

「へー」

 

 真希のテンションが下がったのを感じつつ、本当に殺す気がないようだと納得した。

 初手に結構な敵意を感じたのでうっかりを装って殺しにかかってくるかと思ったけど、意外にも優等生らしい。

 まあにーちゃんもいい人だって言ってたからな。

 

「俺も峰打ちにしたいんだが、人間ってどのくらいの強さなら蹴っても死なないんだ?」

「蹴りに峰はねえよ」

「比喩だわバカッ!」

 

 家入なら大抵治せるからいっか、で思考放棄するのが怖い。

 当たりどころが悪くて即死とかありそうだからだ。

 俺は昨日、手に力を入れすぎてスイッチのコントローラーを潰してから自分の力が怖くなっている。

 半分呪霊製の体が人間の筋力と違うってことをまだ測りかねているのだ。

 

「そもそも一撃入れてから考えろよ」

「うーん一理ある」

「それより先に私がお前を伸すけどな」

「おっと! 今のはあぶね——オワッ!?」

 

 横薙ぎの一振りを避けるために後ろに跳ぶと、鋭い踏み込みとともに下から上への振り上げが追いかけてきた。

 俺は峰打ちなのをいいことに、()()()()()()()

 

「カンフー映画かっつの」

「人のこと言えねえだろ」

 

 リハなしでこれは李小龍(ブルース・リー)成龍(ジャッキー・チェン)もびっくりだよ。

 真希は俺を乗せたまま薙刀をさらに上に振った。俺はバランスを崩す前に、薙刀を足場に自分からさらに上に跳ぶ。

 空中だと身動きが取れない、というのは古い考えだ。大抵なんとかなる。

 

 俺は触手状に伸ばした血液で、薙刀を掴んだ。

 基本的にロープとしてくらいしか使えないが、インディ・ジョーンズにできることなら俺にもできる。

 これを起点に真希のところにライダーキック付きで戻ってやろうと——

 

「おもしれーじゃん。綱引きか?」

「……ヤベ!」

 

 ()()()なら負ける!

 真希の馬鹿力に体ごと振り回され、俺は地面に叩きつけられた。

 縄状の血液で遠心力が加わった。その追加ダメージ分は自滅だ。

 ズズッと鼻をすすり鼻血を血管の中に戻すと、俺は鼻ではなく目から別の液体が出そうになった。

 

「俺よわ……」

 

 弱いのは頭だ。

 ところで綱引きの掛け声がなんでオーエスっていうか知ってる?

 フランス語でそれ引けって意味らしいよ、諸説あるけど。

 現実逃避がてら、このまま負けを認めちゃおうかなと思ったが、にーちゃんの声が聞こえたのでやめた。

 

「血塗ー! 頑張れー!」

 

 運動会で兄に応援されて頑張らない弟はいない。

 いいとこ見せてやる。だからこそ、繋げたままの血液は()()()()

 

「もっかいやるか? 力比べ!」

「だぁああお前もうカツオ漁師に転職しろぉおお!」

 

 繋いだままの血液を真希が引っ張ると、俺は一本釣りされたように再び宙に舞った。

 もう一本血液の縄を伸ばして真希の右腕を搦めとる。

 右腕と左腕から伸ばした血の縄でブランコのように体勢を整えて、今度こそライダーキック——

 

「あっそ。じゃあやめだ」

 

 真希は薙刀をポイ捨てした。俺は軸の一つを失うので、当然体勢が崩れる。

 俺と繋がったままの右腕だけを引き、真希は空いた左腕で拳を作った。

 引っ張られた俺はその左フックを避けられない——

 

「そうかよ。じゃあこっちもやめだ」

 

 血液を縄状にしているのは俺の呪力だ。供給をやめてしまえばそれはただの血液に戻る。

 ただし戻すのは、真希の右腕に巻きつけた方だけだ。

 真希の使っていた薙刀を血の縄で素早く引き寄せて握り込む。これでリーチ差は逆転だ。

 

「これが峰ってやつか、初めて使う」

「てっめ、絶対壊すなよ!」

「それフリか?」

「フリじゃねーつってんだろ!」

 

 殴り合いもしたことがないのだから、当然薙刀なんか使ったことがない。

 言ったものの峰なんか使えない。だから俺がやったのは、薙刀をしっかり握り締めて、先ほどの勢いそのままの刺突だ。

 刃に包帯巻いてあるし大丈夫だろ!

 これこそ思考放棄かもしれなかったが、先ほどまでの真希との応酬でこの程度が決まるわけがないことはわかっている。

 

「どんどんアクション映画になってくじゃん」

 

 左の人差し指と中指の2本だけで刃を掴み、刺突の勢いを全て止めた真希に呆れる。

 俺は薙刀を掴んだままなので、宙に浮いて足がプラプラしている。

 真希は指一本の腕立て伏せとか余裕なんだろうな。俺にもできんだろうか。

 

「返せよ」

「返すよ、使えねえし」

 

 薙刀から手を離し、真希の腕に巻きつけていた血液も回収する。

 俺は無手、真希は薙刀。最初の形に戻る。

 

「もう終わりじゃダメか?」

「ダメだろ、どっちも一撃だって入れてねえんだから」

「入れたじゃん! 真希入れたじゃん俺に!」

「はあ? あの程度攻撃に入んねえだろ」

 

 じゃあさっきの俺の鼻血は何!? チョコの食いすぎとでも言う気かよ!?

 真希を納得させるには俺が一撃入れるしかあるまい。

 俺が決定的な一撃を食らっても終わるだろうが、にーちゃんの前でそんな無様を晒したくはない。

 まあいいや。俺ってまだ全然手札見せてないしね。

 

「じゃ、一撃入れたら終わりだからな。それでいいか?」

「できるもんならやってみな」

「いいねそのセリフ、俺は絶対言いたくない。負けフラグじゃん」

 

 真希の斬撃を避けながら、俺は血の縄を伸ばし続ける。

 だが真希もさすがに警戒しているので全て避けられた。

 俺の血液操作はゆっくりなので、真希ほどの動体視力があれば攻撃しつつ避けるのも容易だろう。

 こういう時もっと多くの本数操れたらいいんだろうが、俺ってそんなにマルチタスク得意じゃないからな。真希の攻撃を避けつつだと2本が限界だ。

 

 俺は左足で大きく踏み込むと、右足で足払いをかけた。

 真希は後退することでそれを避け、俺に突っ込んで、は来なかった。

 

「下だろ? バレバレ」

「マジでバレてんじゃん」

 

 左足の裏から地面の下に潜行させていた血の縄は、跳躍で避けられた。

 

「まあ次の手あるけどな」

 

 俺は手のひらに作っておいた血液の水球をぶん投げた。

 フハハ! 空中なら逃げ場はあるまい! 俺のクソエイムでも当たるんだよォ!

 

「マジで血で汚すのかよ!」

「有言実行はいい子の証だろ!」

 

 狙ったのは顔面だ。真希はメガネをかけているので簡単に視界不良になる。

 いや逆か? 目の中に血液ぶち込んで蝕爛腐術展開した方が有利取れたかもしれない。

 でもそれ外道すぎるかな……目が腐るってそんな、慣用句じゃあるまいに。

 

「棒立ちしてんなら見えなくても当てられんぞオラ!」

「オラつくなこえーわ!」

 

 薙刀を構えての落下攻撃をその場で待ち構える。

 俺は一撃くらう前に、再び薙刀を血の縄で絡め取った。

 

「今度の綱引きは俺が勝つ!」

「負けず嫌いがよぉ!」

 

 薙刀を手放さなかった真希を地面に叩きつけ、俺はやり返してやった感でいっぱいになった。

 だがさっきの真希の言葉を借りるなら、あの程度攻撃に入んねえので追撃だ。

 直線で突っ込み、俺は真希の顔面に拳を叩き込もうとするが、その間にも真希は体勢を立て直している。

 

「芸がねえな」

「本当にそう思うか?」

「! この場所……ッ!」

 

 真希を叩きつけたのは、さっき俺が潜行していた血の縄を地上に出した地点だ。

 つまり、まだ動かせる血の縄がそこにある。俺が棒立ちだった理由はそれだ。

 絡め取れたのは真希の足だけ。だがその場から真希が動けないというだけで攻撃は格段に当てやすい。

 狙いは変えずに顔面、俺は直前で握り込んでいた拳を開くと中指だけを折り曲げ、真希の額にデコピンをぶち当てた。

 

 しばしの静寂の後、空を見上げていた真希が、口を開いた。

 

「結構やるな」

「そっちもな。あの一瞬で受け身取られると思ってなかった」

 

 俺が額を狙ったのがわかった瞬間、真希は首を後方にのけぞらせた。

 俺の指の長さ(リーチ)が、指にまとわりついた血液によって()()()()()いなければ、衝撃を弱くするどころか当たっていなかっただろう。

 

「へなちょこだったが一撃は一撃だ。しょうがねえな」

「わーい! 初めての模擬戦勝ったー!」

「血塗お疲れー。じゃあ次パンダとね」

「終わりじゃねえの!?」

「2年生と模擬戦って言ったじゃん。あと2人いるだろ」

「ヤダー! あんなもこもこ殴りたくないー!」

 

 俺はねねちゃんじゃない。ぬいぐるみを殴ってストレスを解消するような趣味はないのだ。

 

「殴るよりもふもふしたい……」

「模擬戦終わったらさせてやるよ」

「マジ!? じゃあ頑張る」

 

 パンダとの模擬戦だが、もこもこしているのに殴られたら痛かったので不思議に思いました。

 




血塗ちゃんは未だに力のコントロールができていません(例:伊地知)。
もっと長く模擬戦をやっていれば血塗ちゃんはもっとボコボコにされています。
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