シャレにならん地震きたので小説書いてる場合じゃなくなってしまいました。祝い事の時に飲もうと思ってた棚の上のウイスキーが割れなくて本当に良かった。俺も家もフィギュアも無事です。
余震が続いて心穏やかでないので更新ペースゆっくりになるかもしれません。
「だからおにぎりを作ることにした!」
「だからの使い方イカレてるぞ」
伏黒の指摘で気がつく。
おっといけない。圧縮言語を使ってしまった。ちゃんと解凍してから喋らなきゃな。
にーちゃんの部屋にやってきた伏黒と釘崎の前で、俺はもう一度説明した。
「俺はこないだの任務で狗巻にめちゃめちゃお世話になった。だからお礼として狗巻に贈るためのおにぎりを作ることにした!」
「随分端折ってたな」
狗巻は俺におにぎりを買ってくれたし、逃げろと言ったのに一緒に戦ってくれたし、まだ人を殺す覚悟ができていなかった俺のケツを持ってくれた。
狗巻がいなければ俺は改造人間に首をへし折られてお陀仏になっていたかもしれない。
感謝してもしきれないので、何か形にして贈ろうというわけだ。
「もっと可愛らしいもの作りなさいよ。クッキーとか」
「釘崎。クッキーの材料の数とおにぎりの材料の数を比べてみろ」
「面倒なのね」
「面倒なんじゃねえよ! 不器用だっつってんだよ!」
「でかい声で言うことじゃないだろ」
いいや、でかい声で言うことだね。
恩人に対するお礼を面倒だからという理由で決めたと思われては困る。
不器用だからという消極的な理由も混ざってはいるが、俺はおにぎりを買ってもらったお礼をおにぎりで返すという等価交換をやろうとしてるんだからな。
まあ収入ないので材料費はにーちゃん持ちなんだけど。愛は俺が込めるから……。
「血塗ってそんなに不器用だったかしら? こないだ血で大縄跳びしたじゃない」
「おい釘崎、それが器用の指針になると本気で思ってるのか」
伏黒は真顔で指摘する。
ちなみに俺の血で作った大縄跳びは一年と二年のみんなでやった。俺は回す役しかできないが、反対側はにーちゃんが持ってくれたので、兄弟での共同作業って感じがして面白かった。
途中から俺が血液二本出したのでダブルダッチになったけど。真希のアクロバット跳びはやばかった。
「血でバルーンアートもやるじゃない」
「一旦血から離れろ。呪力操作のうまさと料理のうまさは結びつかないだろ」
伏黒がいると楽だ。全部ツッコミを担当してくれる。俺は頷いた。
「そうだぜ。俺は手先がうまく動かん。ぐちゃぐちゃな字しか書けないから最近は血で鉛筆持って書いてる」
「ほら、器用じゃない」
「そういう器用さは今役に立たないんだよ」
実際のバルーンアートをやろうとしたら百発百中で風船を割ると思う。俺の指先は尖ってるし。
「血塗ーエプロンあったぞー」
「にーちゃんおかえりー」
部屋に戻ってきたにーちゃんが手にしていたのは、フリフリのエプロンだ。
成人サイズなので俺のために用意してきたわけではないだろう。
「そんなフリル付きエプロンどっから持ってきたのよ」
「五条先生が貸してくれた」
「怖」
五条悟はなんでフリル付きエプロンを持ってんだよ。
オイ待てこれ使用済みか!? 誰がなんの要件で使ったんだよ!?
五条悟が着てたら嫌すぎるなと思いつつも、にーちゃんがエプロンを着せてくれるので拒否できなかった。それに、にーちゃんから借りてるパーカーを汚すより、五条悟から借りたエプロンをボロボロにする方がマシだからな。
「で、結局俺たちはなんで呼ばれたんだ」
「え? 一緒に握っていくだろ?」
「一緒に握ってく? なんて誘い初めて受けたわよ、やばいわね。握るわ」
「握んのかよ」
「伏黒もやるわよ。狗巻先輩に日頃の感謝を込めなさい、米だけに!」
「ハッ! 釘崎……お前!」
「なによ」
「座布団をあげよう」
「オホホホ、苦しゅうないわ」
引っ張ってきた座布団に釘崎を座らせた。
そんなことをやっている間に、にーちゃんが皿とボウル、炊飯器をまるごと持ってくる。
「とりあえず具は梅とおかかとツナマヨを用意しといた。しゃけは高かったから今日はなし!」
「なんだ、普通ね。もっと面白いもの用意しなさいよ」
「お礼でゲテモノ食わすわけにいかないだろ」
まったくもって伏黒の言う通りである。
ロシアンおにぎりやるなら五条悟を相手にするぞ俺は。
釘崎がツナマヨをひょいとつまみ食いする。
「これマヨネーズ以外にもなにか入ってる?」
「めんつゆ!」
「あー、通りで和風っぽいと思った」
「おにぎりの具にするならこの方が好きなんだよな〜。ちなみに梅には砂糖とみりん入ってる。酸味和らぐから酸っぱいの苦手な人でも食いやすいんだ」
「アンタの料理の腕舐めてたわ。たかがおにぎりでそんなに発揮されるとは思ってなかったわよ。あ、ホントだおいしいわね梅」
俺もつまみ食いしたい欲求に駆られたが、おにぎりになってから楽しみたいので我慢した。
全員で手を洗うと、にーちゃんがおにぎりの作り方を教えてくれる。
「そいじゃ血塗、見本見せるな。まず手ぇ氷水で濡らして」
「なんで?」
「炊きたての米握ると熱いから手の方冷やしとくんだよ。そんで軽く水ふき取って手に塩乗せて、米乗せて、具も乗せて、三角に握る。こんな感じ」
「にーちゃんはなんでも知ってるな。おにぎり博士の称号をあげよう」
「やったー」
「そんなんで喜ぶな」
俺はにーちゃんが教えてくれた手順通りに手を冷やして⋯⋯火傷しても丈夫だからこの工程はいらない気もするが、手の上の米をぎゅっと握った。
3人一斉に叫ばれる。
「力強すぎ!」
「わかんねえって! 初めてやんだから!」
叫びに驚いて、握っていた手を開く。
俺の手の中を確認したにーちゃんが言った。
「いやこれもうモチじゃん」
うっかりでおにぎりを
不可逆圧縮なので解凍はできない。
クッ……こんなところでお兄ちゃん譲りの力を披露してしまうとは……。
俺の体はいつのまにゴリラと化してしまったんだ。握力500kgあるのか? ダンベル何キロ持てる?
「こんな力手に入れたくなかった……」
「力を手に入れてんじゃなくて手に力を入れすぎなんだよ、バカ」
「⋯⋯!」
俺は手のひらにお米がついていたので、慌てて血を伸ばして座布団を引っ張った。
「はい伏黒」
「座布団はいらねえよ」
でもめちゃめちゃ上手いこと言ったから……。
いつの間にか米を握っていた伏黒が、皿の上に出来上がったおにぎりを置いた。
俺と釘崎で出来栄えを確認する。
「まあ普通よね」
「普通だな」
「おにぎりに上手いも下手もあるか」
「あるから俺のはモチになったんだけど?」
「極端すぎる」
俺は進化しすぎてモチになってしまったおにぎりを、ひょいと口の中に入れた。進化キャンセルに失敗してしまったな、Bボタンはどこにあったんだ。
不思議だよな、さっきまで俺の拳より大きかったはずの米が、一瞬にして一口で口に入るサイズになるんだもん。
うん⋯⋯なるほど⋯⋯これは俺くらい顎の力がないと咀嚼するのが難しいかもしれない。人間向きではないな。
おにぎりを握った釘崎が出来上がったものを皿に乗せた。
「私のはこう」
「普通だな」
「まあ普通の人間が握った普通のおにぎりだな」
「何よバカにしてんの?」
「さっき俺のおにぎりに普通って言ったのお前だぞ。バカにしてたのか」
「してたわよ」
「おい」
俺もこういう普通のおにぎりが作りたい。
「で、さっきからどんどん握ってるこいつのだけど」
「ん?」
俺たちがひとつおにぎり(モチを含む)を作った間に、にーちゃんは5つおにぎりを並べていた。形もTheおにぎり。
「ソツがないわね……」
「ああ、何よりこの速度で同じ形のおにぎりを量産できるのがな。慣れきってる」
「てか何個つくんのよ」
「余ったら俺たちで食えばいいじゃん?」
「おにぎりだけこんな食べんのしんどいわよ」
「お? それもそうか。豚汁でもつくっかなー」
「いいわねそれ」
「おい、俺たちの飯じゃねえんだぞ」
いや、実の所元々俺たちの飯にもなる予定だった。
だから限界ギリギリまで炊飯器で米を炊いたのだ。
にーちゃんは本当に豚汁を作る気らしく、「おにぎりの方任せたわー」と言ってコンロに向かった。
任された俺だが、まるで自信がない。手のひらを見つめながら呟く。
「こ、こんな繊細なこと俺にはできない……血でやっていいか?」
「不衛生だろ」
「め、滅菌とかする……」
「無理だろ、体液だぞ」
血液をアルコールで除菌したら成分変わって操れなくなるな。
血の上からビニール手袋かなにか被せればいけなくもないか?
しかし⋯⋯そこに愛はあるんか? いや血も俺の一部⋯⋯ううん。
でも伏黒が一言目に不衛生って言うんなら、血で握られたおにぎりは人間の嫌悪感を呼び起こすものかもしれないのでやめよう。
「普段ゲームのコントローラー握ってるだろ。その感覚でやれよ」
「俺が壊したコントローラーの数聞くか?」
「いい、わかった。一回お前の手の上から握ってやる。それで力加減を覚えろ」
「おお。伏黒は頭がいいな」
伏黒が俺の背後にやってきて、俺の手に米を乗せた。そして俺の手を包み込むように伏黒が手を添える。
「え!? 伏黒手ぇでか!」
「お前が小さいだけだよ」
俺の手が完全に覆われてしまうサイズだったので驚いてしまった。高校男児ってこんなもん? でかない?
子犬って足のサイズが大きいと将来大きく育つらしいね。あ、関係ないか。
伏黒が俺の手ごとおにぎりを握る。思っていたよりソフトタッチだったので戦慄した。この出力に握力を調整できるか?
「ほら、自分でやってみろ」
「うん⋯⋯」
コントローラーを握る時のことを思い出す。さすがに毎回壊しているわけじゃないから、人間並みに調整できてんだよ普段。意識するから変になるだけだ。
「手震えすぎ」
「今俺は米のひと粒ひと粒を大事に思ってるんだ、こいつらの未来を潰しちゃいけない⋯⋯!」
「未来は潰してもいいけど米は潰しちゃダメよ」
「いやどっちも潰すな」
はあはあ息を荒くしながら、俺は何とか形にした。
三角にするのは無理だった。歪な丸っぽい感じである。
米が瓦解せず、粒が潰れていないのでおにぎりではあるはずだ。
「できた、見て見て! パンダおにぎり!」
豚汁作りが一段落したのか、にーちゃんはいつのまにかおにぎりでアートまで作りだした。
キッチンバサミで切った海苔を貼っつけて、俵状のおにぎりをパンダに見立てている。
「うっわ。可愛い」
「器用だな」
「にーちゃんすげー! おにぎりのプロだ! おにぎり教授に昇進させてあげよう!」
「やったー」
「教授って博士より上なのか?」
え? 博士号とったら博士って名乗っていいんじゃないのか?
大学院卒業より教授の方が偉いと思ってた。
「なんか面白いことやってる気配がしたので!」
ノックなしで突如扉が開き、五条悟がみくるビームを出せそうなポーズとともにやってきた。
みんなでげんなりした顔をするが、もちろんその程度でへこたれるなら五条悟はこんな性格になっていない。
「五条先生、そういやこのエプロンってなんで持ってたの?」
「ああ、忘年会で着たんだよ」
「ゲェ! 五条悟が!?」
「ゲェってなんだよ。着たのは伊地知だよ」
「かわいそう」
「後輩に何やらせてるんですか」
「サイテー」
「おかか」
「だから弱いものいじめするなって言っただろ」
「なんで僕が強要した前提なの?」
「ちげーの?」
「した♡」
「クズ」
「ロクデナシ」
「ツナマヨ」
「ほら狗巻もそう言って⋯⋯狗巻!?」
バッと全員で狗巻を見る。狗巻は「しゃけ」と頷いた。
悪びれもせず五条悟が言う。
「暇そうだったから連れてきちゃった」
「わざとやってんのか?」
「五条先生ほんとそういうところ」
「空気読め」
「顔以外いい所ないわね」
「家柄も年収もいいよ?」
「デリカシーも倫理観もない性根の腐った鼻つまみ者って言い直せばいいのかしら」
「ボロクソすぎない?」
こうなってはしょうがない。
本当はもっと何個か握ってうまくできたやつを渡したかったが、ひとつしかつくれてないからそれを渡すしかない。
「狗巻、こないだお世話になったからおにぎりをつくった! 不器用ながらにがんばったぞ俺は!」
「あはは、どれが血塗のか一目瞭然だね」
「うるせー! 五条悟にやるおにぎりはねえ!」
「はー? じゃあ自分で作るからいいもんね」
「ちょっと五条先生、手くらい洗いなさいよ」
「無下限無下限」
「そんなことに術式使うな」
あれが許されるなら血でおにぎり握っても良かっただろ。
狗巻が俺のおにぎりを持ち、口元のジッパーを下げた。
俺は固唾を呑んで、狗巻の口の中におにぎりが消えていくのを見守った。
「ツナマヨ」
「うん、それはツナマヨだ」
言いたいことはおにきりの具のことではなかったらしい。
狗巻は「すじこ」と呟いて俺の頭をよしよし撫でてくれた。
気に入ってもらえたようで安心した俺はニヤついた。ついでに今後の抱負も言っておく。
「次はちゃんと狗巻のこと守るからな」
「おかか」
「えーッ!? 俺の好意ー!?」
首を横に振られたのでショックを受けた。
本当に無下限使って自分で握ったおにぎりを食べていた五条悟が俺の解釈を否定する。
「違うでしょ。棘はこないだもちゃんと守ってもらったよって言ってんの。え、この梅おいしくない? どこの?」
「知らんけど。ええ⋯⋯でも狗巻の喉潰れてたし無駄に殺させちゃったし」
「殺しに無駄も何もないでしょ」
五条悟、たまに真理めいたこと言いやがる。
そうだよ、俺は狗巻の手が汚れることから守ってやりたかったんだ。でもそれって狗巻のこと舐めてたかもな。人を殺す覚悟ができてないのは俺だけだったわけだ。
抱負は変えよう。
「俺も狗巻みたいになれるようにがんばるな!」
「こんぶ」
「えーっ、血塗俺は? 俺みたいには?」
「男の嫉妬は見苦しいわよ」
「安心しろよにーちゃん、兄弟は意識しなくても似るからな!」
「なるほどな!」
「虎杖、お前もう兄弟ってところ受け入れてんだな」
「ハッ! まさかにーちゃん記憶が!?」
「いやなんの記憶もないけど。まあ心の兄弟的な?」
「違うって、魂が兄弟なんだぜ」
にーちゃんが前世を思い出すのはまだまだ先のことらしい。
「ねえねえ血塗、僕は? 僕みたいには?」
「血塗が五条先生みたいになったら俺が更生させます」
「学長に締めてもらわなきゃいけなくなるわね。もちろん血塗じゃなくて五条先生の方を」
「高菜」
「血塗はいい子だからそんな非行には走らない! よな!?」
お、おお⋯⋯「だれが五条悟みてーになるかよ!」と俺がツッコむ前にみんなから非難轟々だった。
五条悟、反面教師としてはつくづく優秀だな。
今回の配役:伏黒はツッコミ、虎杖はニュートラル、釘崎はボケ、血塗ちゃんはマルチ、狗巻はヒロイン、五条はクズ