「いたいた、血塗〜」
「これから任務とか言ったら殴るぞ」
「違うよ。任務はそうなんだけど明日ね。準備しといてー、って言っても血塗はすることないか、あはは」
「……え!? 事前に告知をする五条悟!? 明日は血の雨が降るのか!?」
「しっつれいだなあ。僕が社会人何年やってると思ってんの?」
こいつ何年社会人やってんだ、とは前々から罵倒の意味で思い続けていた。
本当に社会に出てきちんとやっているやつは目元に布なんか巻いてないから実質0年だよな。俺以下め。
「聞いてないぞ五条悟ゥーッ!!」
「え? 言ったじゃん昨日」
そんなやりとりがあってから次の日。
訳が分からず、されるがままにおめかしさせられた俺は五条悟に外へと連れ出されていた。問答無用で引っ張ってこられたのは、駅である。
「県外とは聞いてないんだよッ!」
「ここ東京だから都外ね」
「そこに厳密求めるんなら昨日言っとけーッ!」
「まあまあ落ち着いて、シウマイ弁当食べなよ」
現在位置はのぞみ号のグリーン車……つまり新幹線の中である。
何が悲しくて五条悟の隣に座って駅弁食わなきゃいけないんだよ。
文句を足そうと思った俺の口に、五条悟が無許可でシウマイを突っ込んでくる。
もの食いながら喋るのは行儀が悪いとにーちゃんが言っていたので、俺は大人しく咀嚼することにした。クソッ、こいつ物理的に口を塞ぎにきやがって。あ、うまい。
五条悟は呑気に「へー、コーヒーリニューアルしたんだ。おねーさんひとつお願いしまーす」とか車内販売買ってやがるし。そしてリニューアルを気にした割にアホほど砂糖入れてるから味わかってなさそうだし。
ようやくシウマイを飲み込んだ俺は、文句を言うのではなく質問することにした。
「行き先はどこだよ。京都とか言わねえだろうな」
「惜しい。名古屋」
「どこが惜しいんだっつの」
「京都校の生徒と合同任務だから」
「うっわ」
蘇る原作の記憶。京都姉妹校交流会で、楽巌寺学長の指示の下京都校の生徒たちに殺されそうになるにーちゃん。
蘇る真希との会話。模擬戦のフリして殺しにかかってくるかと思ったと言う俺に対する「そういうのは京都校の十八番だ」……うっわ。
「俺殺されんじゃないの?」
「大丈夫、とは言わないよ。自分の身くらい自分で守れるでしょ?」
「守れねえ〜! でも下手に大丈夫って言わないのはいい心がけだな五条悟、褒めてやるよ」
手を伸ばしてよしよしと白髪頭を撫でてやる。
「守らなきゃいけないのが自分だけってのは楽だ。五条悟、お前のことは守んなくてもいいんだもんな」
「あはは! そりゃそうでしょ。僕最強だよ?」
そういうドヤ顔をされると頭撫でたこと後悔するからやめてほしい。そもそもの疑問を思い出す。
「合同ってよくあんの?」
「いやー? いくら東京と京都の中間地点である名古屋とはいえ、ないかなー。呪術師は全国どこでも派遣されるしね。学生のうちは近隣の任務が多いけど」
「へえ」
「そもそもこっちから指定で呼び出されてるのが生徒じゃなくて血塗だけだからね」
「じゃあ俺殺すためだけに呼んでない?」
「アッハッハ」
「アッハッハ、じゃねえ〜!」
十中八九そうじゃねえか。ふざけるなよ。
なんで殺されるために向かわなきゃいけないんだよ。
「いろんなしがらみがあって断れなくてさ。こういうことがあるかなと思ってパンダと模擬戦させたりしてたんでしょ」
「聞いてねえわバカ」
「言ってなかったっけ?」
ちょっとムカついたが、やってること自体は悪くないので我慢した。
なんでこいつ、最初からそうだと説明しないんだよ。わざと自分の好感度下げてんのか?
「あーもーいいよわかったわかった。でも俺、五条悟が言う、対人だと弱くなるらしいやつ克服できてねえぞ」
「そうなんだよね、僕もそこがちょっとネックかな。ま、いざという時は相手殺しちゃってもいいからガンバ!」
「そんなんで教師やってていいのかよ」
五条悟ってほんとに倫理教える資格持ってないんだな。いや、免許とかではなく人格的に。
殺しちゃっていいよじゃないんだよ。俺がよくねえんだよ。
それに、俺の暗殺任務を提げてやってくるとしたらあいつしかいねえじゃん。
五条悟に引っ張られて新幹線から降りる。
途中、ご老人に「ごきょうだいですか?」と声をかけられて、五条悟が「義理の妹でーす!」とか言いやがったので思い切り足を踏んでやった。意味わかんねえ冗談を言うな。どうやったら俺が五条悟の義理の妹になるんだよ、にーちゃんと兄弟の盃でも交わすつもりなんか。それか⋯⋯親同士で再婚? なんだそれ怖⋯⋯。
向かった先で、さっきの俺の予感は的中した。
「加茂憲紀だ。よろしく頼む」
「西宮桃よ。思ってたより人っぽいのね」
現地集合だったらしいので、俺たちは集合墓地の手前で挨拶を交わした。
ほらぁ……加茂じゃん……。魔女っ子もついてきたけど加茂じゃん……。
「ちょっと、よく見てよ。どう見ても人じゃなくて虎でしょ!」
五条悟が俺の肩を掴んでぐいと前に押し出す。
新幹線に乗る前、俺は五条悟に突然服を着替えさせられた。
虎がモチーフのパーカーだ。
虎の柄だし、被らされたフードには虎の耳がついているし、腰のとこにしっぽまである。下はショートパンツにタイツ、赤いスニーカーだ。
目にはなぜか丸いサングラス。外を歩くのには目立つ瞳孔を隠すためかもしれないが、五条悟とお揃いみたいで嫌だ。
サイズがちょうどの子供服だったので、わざわざ俺のために用意したらしい。意味がわからない。怖い。なんで俺の体格がわかってんの。それも怖い。六眼ってそういう機能もあるんですか。
「なんで虎なのよ……」
「歌姫には言ってないよ」
「いちいちムカつくわね」
京都校からも引率の先生がついてきた。相手は三人か。
準一級がふたりと二級がひとり。俺一人相手取るなら多いが、五条悟相手なら少なすぎる。まだ何かあるんだろうな。
「そういえば聞くの忘れてた、なんで虎なんだよ?」
「血塗知らないの? 悠仁の苗字は
「……それだけ?」
「それだけ」
怖い。行動理由がわからなくて怖い。
それ今日やる必要あったか? その理論で行くならこの服見せるの京都の奴らじゃなくてにーちゃんじゃない?
俺今日はにーちゃんに挨拶すらできずに新幹線に放り込まれたんだけど。
「あのさあ、本当にそれだけの理由で俺を脱がせてこれ着せたの? だったらマジでやばいよ五条悟」
「かわいいからいいじゃん」
「よくねー! 俺を無理矢理裸に剥いたの廊下じゃん! ついにセクハラ超えて性犯罪が行われるかと思っただろ!」
「うっわ」
ほらー! 京都の連中も全力でドン引きしてんじゃん! 俺がおかしいんじゃないよな!?
無理矢理脱がせなくても言われたら着るんだよ……いや着なかったかもしれない。意味がわからなくて怖いから。
「はーい僕はご存知
向こうは絶対仲良くする気ないんだからそういうこと言わないでくれ。
呪霊の俺はもちろんとして、さっきのやりとりで五条悟とも仲良くする気なくなったと思う。
「私は……」
「こっちは歌姫だよー。血塗より弱いから安心してね」
「自己紹介奪うな! 何勝手なこと言ってんのよッ!」
あ、伊地知枠の人だ。かわいそう。そして俺は好きかも。応援しちゃお。
「糸目のやつと、魔女っ子と、かわいそうな人こんにちは。俺は血塗です」
「誰がかわいそうな人だ、誰が」
「んー、歌姫だっけ。五条悟は構ってあげると調子に乗るから無視したほうがいいぞ」
「……あんたも苦労してそうね」
歌姫から同情がこもった目で見つめられる。
なんだ、やっぱいい人そうだな。もしかして今回の俺暗殺計画に関わっていないかもしれない。
交流会でにーちゃん殺すときの計画にも噛んでなさそうだったし。
「呪霊の階級と数は?」
「二級相当のが一体は確定。あとはそれ以下のが群れてるみたいね」
「あっそ。わざわざ僕たち呼ぶほどのことじゃないと思うけどなー」
「呼ばれたのアンタじゃないでしょ、無理矢理来たんでしょうが」
無理矢理来た、という表現に引っかかる。
五条悟、もしかして俺のために強引に名古屋について来たのだろうか。
不覚にも少し嬉しくなってしまった。ちょっとだけいいとこあんじゃんか……俺一人で名古屋に行かされてたら暗殺されるよりも先に心細さで死んでたかもしれない。
「で、血塗。感想は?」
「なんのだよ」
「向こうのメンバーの、かな。血塗とどっち強い?」
「初対面で、しかも本人いる前でなんてこと言わそうとしてんだ? 言うけど。歌姫と魔女っ子はわからん。でも糸目になら勝てるかな」
「なっ」
「へえ。自己評価低い血塗が勝てるなんて言うのは珍しいね」
初見で勝てるかどうかなんて、俺は三級以下の呪霊相手くらいじゃないと判断できない。
特に相手が人間ならば、どんな術式を持っているかわからないからだ。呪力や立ち回りが弱くとも、術式による初見殺しを決められてしまう可能性を考えると、簡単に勝てるとは言い切れない。
だが、加茂に関しては
「術式割れてるし。感覚的に遠い親戚のあんちゃんって感じだな。てかお前夏油に顔似てて嫌いだ」
「し、親戚!? 嫌い!?」
「ちょっと血塗、全然似てないって。目の細さだけじゃん」
「その目の細さが気に入らねえっつってんだよ。お前ヒゲとか絶対に生やすなよ、死ぬほど似合わないからな。何より気に入らないのはお前が弱いことだけど」
脹相お兄ちゃんと同じ術式を持ってるんだからもうちょっと頑張って欲しい。
現状じゃ完全に下位互換だろ。
「まだ名前交換しただけなのにボロクソに言われてておもしろ」
おもしろがるな。五条悟が聞いてきたから正直に答えたんだろうが。
「なんで急にヒゲ? まあ、似合わないとは思うけど」
「魔女っ子もそう言ってるから生やすなよ、いいか絶対だぞ」
「なぜ急に私のヒゲの話になったんだ……」
そう言いながら加茂は顎のラインを触った。
違う、そこじゃなくて鼻の下に生やすなって言ってんだよ。ちょび髭には絶対にするなよ、殺したくなるから。
「じゃー帳、血塗お願い」
「は? やったことねえけど」
「あれ? 教えてなかったっけ?」
もうそれ何回目だよ。いい加減飽きたよ。
「五条悟が俺に教えてくれたことは、こんな大人にはなるなってことだけだな」
京都校の連中が一斉に頷いたので、ちょっと笑いそうになってしまった。
いかん、これから絶対殺伐とするのに和んじゃダメだ。
「まいいや、見よう見まねでいいならやってやるよ」
「お? やって見せてよ」
「伊地知がやってたのはこんなんだったよな」
左手の人差し指と中指を立てて、口元に持ってくる。
ん? 右手だったっけ? いいや、どっちの手でも一緒だろ。
「闇より
空から雫のように夜が落ちてくる。多分成功か?
「いいねー! 僕の生徒ってみんな優秀!」
「俺いつから五条悟の生徒になったの!?」
「細かいこと気にしないで、行くよー」
「待ちなさいよ。私とアンタはここで待機」
俺の手を取って墓場に入っていこうとした五条悟を歌姫が止める。
「なんで?」
「そういう指示よ」
「ふーん? じゃあ歌姫はそこで棒立ちしてれば? 僕には関係ないね」
「アンタねえ!」
「やーい歌姫のカカシ〜! 言われた通りのことしかできない石頭〜! 自分の生徒より階級低〜い!」
「ぶん殴るわよ!」
なんだか俺は恥ずかしくなってきてしまった。
共感性羞恥というやつだろうか。五条悟の存在が恥ずかしい。好きな子いじめる小学生男児か己は。
「ウチの五条悟がごめんな……」
虎耳のフードを深く被るように引っぱって、顔を隠しながら代わりに謝った。恥ずかしくて五条悟を直視できない。
「子どもに謝らせてんじゃない!」
「そうだよ血塗、こんなのに謝る必要ないよ。貧乳だし」
歌姫は先ほどの宣言通り五条悟をぶん殴った。もちろん無下限に阻まれたが。
今のはマジでない。人がセクハラを受けているのを見るのってこんな気持ちなのか……。
「おっぱいの大きさ関係ねーだろ。この空間には貧乳しかいないのによく言えたな」
「アンタもアンタで失礼だっつの!」
「私まで巻き込まないでよ」
「身体的特徴を
「なんなら僕が一番おっぱい大きいまであるもんね」
「テメーはいい加減黙れ!!」
五条悟のは
加茂は両手でスッと自分の胸を隠した。
「比べないでくれ」
「うーん⋯⋯五条悟の勝ち!」
「イエーイ!」
五条悟の腕をとって高々とあげる。
WINNER! おっぱい選手権名古屋大会優勝!
「ダメだこいつら」
「東京校ってアホしかいないの?」
「先が思いやられる⋯⋯」
ハッ! ヤベ、ついうっかり悪ノリしてしまった。
このままでは五条悟と同レベルだと思われてしまう。
京都の連中って意外と頭固いしノリ悪いんだな。夜蛾だったらもっと前の段階で俺たちの頭にゲンコツ落としてる⋯⋯いや、その場合夜蛾の方が頭固いしノリ悪いってことになるのか。でもちゃんとツッコミはしてくれるんだけどな。
スマホの着信音が鳴る。歌姫と五条悟、同時だ。
画面を確認した歌姫が、緊迫した表情になる。
「一級相当の呪霊が発生したらしいわ。場所はみよし市」
「みよし……こっから車で30分くらいか。他に呪術師いないの?」
「準一級以下しかいないわね。特級の出番でしょ」
準一級以下か。一級の東堂はいないってことでいいのか?
とりあえずこれが向こうの作戦なわけだ。俺と五条悟の分断。順当だな。
これ、東堂が俺の方に不意打ちで現れたら嫌すぎるな……。
いや、そういうことはしない性格、だろうか。頼む、この時間に高田ちゃんのテレビ番組とかやっててくれ。東堂来たら俺勝てないから。てか三対一も自信ない。頼むから歌姫はかかってこないでくれ。
「じゃあ一瞬で終わらせて帰ってくるから、血塗はそれまで生きててよ」
「まあ、この虎ちゃんをにーちゃんに見せるまでは死ねないな。いってらっしゃい」
服についている虎のしっぽを掴んでぶんぶん回す。
僕の生徒、って言ってくれるんなら信じるぜ五条悟。お前、自分の生徒は死なせないんだもんな。
「んじゃ歌姫はここに残るって言ってたから、3人で行けばいいのか?」
「そうなるわね」
「じゃあ糸目、俺、魔女っ子の順番で行こーぜー」
「なんで君が仕切るんだ」
「お? 仕切りたがりか? ヤダヤダ⋯⋯魔女っ子は見たとこ中・遠距離だろ。俺は中距離、そんでお前の赤血操術はマルチに対応可能なんだからこの順番でいいじゃん」
「⋯⋯わかった、それでいこう」
ちゃんと全員味方だってわかってるなら俺が先頭もらうんだけどな、丈夫だし。背中から刺されることがわかってる今は無理だ。
それでも後ろを一人に譲ったのは、お互いの妥協点がその辺りだろうからだ。俺ってば話が早くて素敵、五条悟より社会人に向いてるかもしれない。
「じゃあ歌姫、今のうちに遺言だけ伝えておくんだが」
「縁起でもないわね……」
「……。……思いつかなかったからいいや」
「思いついてから言いなさいよ!?」
いや、すぐ思いつくと思ったんだが、思いの外何にも出てこなくて自分でもびっくりしちゃった。
にーちゃんすごくない? 死ぬってわかった時にあんなスラスラみんな長生きしろよーみたいな事言えるの。俺今マジでなんも出てこなかったぞ。
強いて言うならにーちゃんは健康に気をつけて頑張れとか……? 脹相お兄ちゃんと壊相兄者には歌姫に言ったところで伝わらないだろうからな。
「よーし張り切って呪霊殺そう……あ! 前みたいに実は呪詛師でしたっていうひっかけ問題あるか?」
「ないわよ、何よそれ。それは補助監督が伝達しっかりしなさいよ」
「伊地知を悪く言うな。あれは普通に上層部からの圧力だから」
俺が一番最初に任務を受けた時、情報を伝える伊地知が妙に申し訳なさそうにしていたのはそのせいだったと思われる。俺に嘘は教えられていないが、わかっているだけの情報を意図的に隠蔽していたのだろう。
そうじゃなかったら、目標が学校に逃げ込んだ、という情報が事前にわかっていたくせに、どうしてそれが呪霊ではなく人間だとわかっていないのだ。そんな状況ありえんからね。
伊地知は本当にかわいそう。いろんなところから板挟みで圧力かけられてる。
「ま、いいや。どうせ聞いても意味ねえよな。行くぞ糸目、魔女っ子!」
「糸目と言うのはいい加減にやめてほしいのだが……名乗っただろう」
その名前が丸々俺の宿敵と一緒だから呼べねんだよ馬鹿野郎。
「なぜわかったんだ?」
加茂を先頭に、勇者パーティが如く墓地の奥へと歩いて行く。
西宮はまだ飛ばないらしい。もしかしてギリギリまで俺に術式の一切を見せないつもりなのかな。
「何が?」
「西宮の術式だ」
「は? いや知らんけど」
「中・遠距離と言っただろう」
「ブラフに決まってんじゃん。否定されなかったからそうなんだろ」
「加茂君、それすっごく迂闊なんだけど」
「……すまない」
本当にすっごく迂闊なんだけど……大丈夫かこいつ。
西宮は魔女っ子、加茂はドジっ子なのか?
「親戚というのはどういう意味だ」
「えっ国語の時間か……? 辞書持ってないぞ俺」
「違う」
俺が加茂を遠い親戚のあんちゃんみたいなもんだって言ったことか。
「どういう意味も何も、そのまんまだよ。俺とお前、血の繋がりがあるぜ」
「なっ!?」
「すっげー新鮮なリアクション。マジ? 知らないのか? それって加茂家に伝わってねえのか、お前には伝わってねえのかどっち?」
「……君は呪霊と、呪霊の子を孕める女との間に生まれたのではないのか」
「そうだよ。その
「……なんのことだか……」
えっ!? ごまかし方、下手ッ!
こいつ腹芸絶対できないじゃん! 1秒でバレるとぼけ方をするな!
これで次期当主ってマジ? 加茂家滅びるんじゃないのか? いや、俺的には全然滅びていいんだけど。
「センチメンタルな話はそこまでにしてくれる? 呪霊が来たわよ」
「どこがセンチだったんだよ。あーはいはい、群れの方ね」
全員で構える。
西宮も特に出し惜しみはせず、箒に乗って空を飛んだ。
「本物の魔女だ〜! すげ〜!」
「よそ見するな!」
加茂に怒られてしまった。
どうせ俺のこと殺そうとするんだから俺がよそ見してたらむしろ嬉しいんじゃないのか。変なとこ真面目だな。
「grrrr……」
腐った犬のような呪霊がさん、よん……まあ、十はいないかな。
口元からボタボタとヨダレを垂らしている。飢えてますアピールに事欠かないね。
というかこんなんバイオハザードで見たな。ゾンビ犬じゃん。
「あ、俺向いてないかも。俺が腐らせる前から腐ってんだもん。術式使ったらどうなるかわからんな……いいや、面白そうだしやってみるか」
「面白さで決めないでくれ」
丁寧なツッコミを入れてから、加茂が弓を構える。
ゾンビっぽいし噛まれるのは不吉だもんな、近距離戦闘は選ばないのが当たり前だ。
俺も嫌なので、両手を開いた状態で、指先を犬の方に向けた。
「糸目、邪魔だからもっと右寄ってくれる?」
「じゃ、邪魔……」
別に当たって血まみれになったところで困るのは向こうなので、いいか。
指先からホースのようにではなく、水鉄砲よりもさらに短い感覚で、弾丸のように血液を放出する。
数が多いので人差し指一本の霊丸じゃ間に合わない。拳銃じゃなくてマシンガンをイメージ。
——
今回は幽☆遊☆白書じゃなくてHUNTER × HUNTERのほうでやってみました。作者同じだしこんなんでいいだろ。
血液のばらまき方としてはまあまあの効率。霧吹きの方が省エネだが、やるにはもう少し近づかなきゃいけなくなるからな。
「蝕爛腐術『朽』……ああ、腐るんだ。まっ、もともと腐ってても、さらに腐敗は進むもんだしなあ」
ゾンビ犬はあちこち皮膚が剥がれ落ちており、どこに当てても
ヒュン、と風を切る音がしたので、俺はそちらに手を突き出した。
「あのさあ、やるならあと3秒早くやれよ。今のどう言い訳すんの? 呪霊祓った後に、俺に向けて矢射ったのをさ」
俺が掴んだのは加茂の矢だ。そのままだと俺の頭蓋に刺さっていただろう。直球で殺しにきている。
「言い訳はしない。君を祓うのが我々の任務だ」
「いいね、潔い方が好きだよ。お前嘘めちゃくちゃ下手だし」
「そうね。加茂君の寒い言い訳をもう聞かなくていいのは助かるわ」
「……なぜ味方からも攻撃されているんだ?」
それはお前が西宮の術式についてうっかり口滑らしたからだろ。
「雑魚祓っただけでよかったのか? 二級呪霊いるんじゃなかったのか、あれ嘘?」
「いや、本当だ」
肯定した加茂が、懐から取り出した笛を吹く。
「ただし、調教済みの準一級だが」
それが合図になったのだろう、鈍感な俺でも感知できる呪力が滲んでくる。
加茂に嘘がつけるとは思わないので、本当に調教済みの準一級呪霊だろう——こないだ交流戦で花御に潰されたのに、よくもまあポンポン用意できる。調教師過労死してねえだろうな。
呪霊の階級分けはかなり雑だが、二級と準一級の間には明確な区分けがある。
「二段構えだったか。あちゃー、掴まずに避ければよかった」
しかし、この矢には加茂の血がついていて遠隔操作が可能なので、避けたら避けたで追撃があっただろう。
加茂の矢、握った時に妙にベタついたと思ったんだよな。
これはあれだ、
矢を掴んだ方の手のひらの皮膚剥がしたら何とかなんねえかな、無理?
俺の相手は準一級呪霊と、準一級呪術師と、二級呪術師。ちょっとしんどいな。
だが勝たなくてもいいってのは気分が楽だ。
これはイベント戦闘で、五条悟が戻ってくるまでの耐久戦。
俺はもともと耐久戦をするタイプの術式使いなんだぜ。
それに五条悟から、相手を殺しちゃってもいいと許可はもらっている。
別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう——いやこれ死亡フラグだった。
「一応言っておこう。俺はお前らを殺したくない」
「そう。じゃあ大人しく祓われてくれる?」
「ヤダ。死にたくないからな。交渉決裂ってことで」
何も交渉できた気がしなかったが、一応試みるってことが大事なんだ。
最初から会話を諦めたら、言語を話せる意味がないからな。せっかく半分人間なんだし、歩み寄る精神は必要だろう。向こうにはなかったが。
「じゃ、呪い合うか」
前に加茂、後方上空に西宮。
加茂が呼んだ準一級呪霊は、気配はすれど未だ姿が見えない。
ふはっ。四面楚歌にはまだ一面足りないな——なら大丈夫だ。