それいけ!血塗ちゃん   作:九条空

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ウボォーさん聞こえますか? オレから読者へのホワイトデーの贈り物です(クロロルシルフルのポーズ)


がんばれ!血塗ちゃん

 

「俺がなんのために長々()()()()()()()()()()()()と思ってるんだよ——こういうことがあるかと思ってだぜ? だからと言って、マジでこうなるとは思っていなかったわけなんだが」

 

 半分笑いの入った声で、()が言った。

 それに追随するように、()()宿()()が答える。

 

「いい、許す」

「……は?」

 

 真人は、呆然とした。

 

「疾く去れ。目障りだ」

「うわはは! エラソーに言っちゃってなんも出来ないくせにすグァバッ」

 

 男の頭を、宿儺が片手でトマトのように潰す。

 宿儺の視線がこちらに向く前に——真人は慌てて、()()()()()()()から出た。

 

 

※ ※ ※

 

 

「嘘だろ! あははははははは!」

 

 突如響き渡った真人の狂った笑いに、歌姫はドン引きしていた。

 

「突然なんなのよこいつ……」

「呪霊に常識と理論を求めない方がいいぜ」

「アンタが言うな」

 

 えなんで!?

 歌姫に簡単な助言をしただけのつもりだった俺は、そっけない歌姫に驚きすぎて、思わず一歩下がってしまった。今もしかして俺、真人と同列扱いされた!?

 ケタケタ笑ったままの真人が、勢いのままに俺に話しかけてくる。

 

「信じらんないよ、()()()()()()()()()()なんて!」

「知るかよバーカ。こちとらてめーと違って陽キャだ、心の扉は常にフルオープンじゃボケ」

 

 先程俺に触れた真人はしばらく呆然としていたので、俺はすぐさま距離をとったが、その間に真人はおそらく俺の生得領域を見た。

 そこにきっと、宿儺がいるのが見えたらしい。

 

 実のところ、俺は()()()()()()()宿()()()()()()()()いる。

 一緒にいると総理大臣と添い寝してる気分になるから嫌だと言ったな? もう慣れてきたから今は都知事と添い寝してるくらいの感覚なんだぜ。

 

 理由と方法について。

 まず方法。

 かつて宿儺の指を自分の体に取り込んだ後、俺は自分の術式によってそれを分離、分解した。その際に、宿儺の指から呪力のほとんどを指側に残して、ほんの少しばかりの宿()()()()()みたいなものだけを俺の中に残した。

 

 次に理由。

 これは俺と両面宿儺の間に作られた縛りの一つ——縛りの一環で俺は少しばかり記憶があやふやになっているが、俺と宿儺はお互いに利のある縛りを結んだ、らしい。

 

 宿儺は俺に、『目』であることを望んだ。

 外界に対する情報蒐集の装置。限定的に言うと伏黒恵を監視する役割、なのかもしれない。

 

 しかし俺は宿儺との縛りの内容を十全には覚えていないようなので、他にも何か条件があるのかもしれないし、ないのかもしれない。

 ただ今の俺にわかっている内容はこれだけだ。

 宿儺に対して、俺が何を望んだのかすら覚えていない。状況から言えば俺の生存、あたりだろうが。

 

 宿儺を縛りの一環とはいえ生得領域の中に入れたのは、対真人用のつもりが少しあったのだ、と思う。

 自分よりはるかに格が上であると感じる宿儺がいれば、真人は俺の魂の形を変えないのではないかという、それほど期待はしていなかった仮説だ。

 

 だって俺の中に残ってる宿儺は食べカスみたいなもんで、真人がにーちゃんに領域展開かましちゃった時みたいに魂斬りつけるような芸当、できないと思うんだよな。

 まさか本当にエロ同人展開を防げるとは思っていなかった。ありがとう宿儺様。生きて帰れたら神棚を作ります。あ、要らない? はい……。

 

「ははっ血塗——しかもそれ、中に()()いるの?」

「意味わかんねーこと言うな死ね」

 

 立てた人差し指から血球を乱射すると、真人は大きく飛びのいてそれを避けた。

 もう俺に触れる気がなくなったのか、頭の後ろで両手を組んで世間話を始めた。

 

「ってなると、どうしようかなあ。女にしたらいけるかもって言われたけど、血塗妊娠させる方法ってちゃんと聞いてないんだよねー。人間みたいにしたらいいのかな?」

「はぁーっ! あーもう気持ち悪いだめだいやだ会話代わってェ! 加茂ォ!」

「私!?」

 

 俺に突き飛ばされてしりもちをついていた加茂が素っ頓狂な声をあげる。女性陣に代わってもらうわけにいかねえだろお前しかいねえんだよ!

 人間みたいにするってなんだよ、いや、なんだよじゃないよ、意味はわかるよ、でも意味わかんないくらい気持ち悪いんだよ、なんなんだよ!

 魂に触れられなくなったから気持ち悪さが薄れるかと思ったら倍増してんじゃねえか。さすが特級、一筋縄ではいかねえな。

 

「こないだ俺、血塗の血にまみれて帰ったら脹相と壊相が怒ってさあ。殺し合いになっちゃったんだよね」

「……そりゃそうだろうな?」

 

 半泣きになっていたが、お兄ちゃんたちの話題が出たので少し気を取りなおす。

 

「うっかり2人とも殺しちゃった。ごめんね?」

「あ゛?」

 

 向こうから来ないなら、俺から行くだけだ。

 踏み込んで殴りかかる。大振りだったので簡単に避けられてしまったが、勢い余って地面を殴り、大きく罅割らせてしまった。

 

「くだらねえ嘘つくなよ」

「あははは! ごめーん!」

 

 俺は兄たちのことを言われると冷静でいられない。

 明らかな挑発であっても、どうしても受け流せないのだ。

 

「でも殺しあったのは本当だし、そのまんまどっか行っちゃったんだよね。血塗のとこには行ってないんだ?」

「……ふーん? そうか、お兄ちゃんたちはそっちから離脱したのか」

 

 呪霊の言葉は信用に値しない。

 だからそれが嘘か本当かはどうでもいいが、しかし本当だった場合には非常に好都合だ。

 

「なら、ここでお前を殺す」

 

 拳を握って構える。

 向こうが俺の魂に干渉できないとわかった以上、ここで殺すのが最善だ。

 こちらから触りに行ってもリスクがないのなら、殺しようはある。何しろ俺は魂の形を捉えられる。

 絶対に殺す。そんな決意で睨みつける。

 

「そう? じゃあ逃げまーす! バイバーイ!」

 

 真人がこちらに背を向けて、脱兎のごとく走り出した。

 見事な逃げっぷりである。メタルスライムかあいつ。経験値よこせや。

 

「待て!」

「追うなよ加茂。次は庇ってやれねえぞ」

 

 逃げるというのならそれはそれでいい。このメンツで真人と戦うのは、正直しんどい。

 俺以外足手まといだからだ。そんな状況も珍しいけどな?

 クソザコ半呪霊の俺より強い呪術師なんぞいっぱいいる。

 実際ここにいるのも、俺を殺せる程度には実力者だ。ただ真人には魂特攻しか乗らないし、触られたら即死。

 歌姫の術式は知らないが、この場にいるのが遠距離攻撃もできる呪術師ばかりとはいえ不利がすぎる。

 にーちゃんか釘崎が欲しいところだ。東堂は……うん、協力してくれんならいてもいいけど。

 

「お前は行かなくていいのか?」

「んー? 置いてかれちゃったなー」

 

 真人は逃げたが、()()()()()()()()()()()呪詛師はまだ残っている。

 こいつに関してはここにいるメンツで十分に対処可能だろう。

 むしろ俺は歌姫たちに任せて下がりたい。こいつと戦うなら遠距離攻撃の方が絶対いいぞ。

 腕失くした俺が言うんだから間違いない。

 

「まー、それじゃ仕切り直そうか? まだまだ遊び足りないしさー!」

 

 男の腕が、バナナの皮のようにべろりと剥けていく。

 中から飛び出してきたのは、お前それ対戦車ライフルじゃねえの!?

 

 重火器による物理攻撃。呪霊に効くのかは知らんが、呪詛師が人間を相手にするならそれで問題ないだろう。

 足に力を込めて退避の姿勢をとる——が、すぐに力を抜いた。逃げなくてもよくなったからだ。

 真人がすぐに逃げたのはそのせいか。

 

 瞬間、呪詛師の男が吹き飛ぶ。

 その体はぐちゃぐちゃになっている。一目見てわかる戦闘不能状態だ。

 

「ごめん、待ったぁ?」

「ううん、今来たとこ♡」

 

 目隠しを少し上げて、五条悟がキメてきた。

 俺は口元へグーにした両手……はなかったので左手を添えて、きゃるんとかわいこぶりっこして答えてやる。

 

「来たのは向こうだろう……?」

 

 加茂、天然すぎる。俺はお前が今後やっていけるか心配だよ。

 デートの待ち合わせでのテンプレセリフも知らないのか?

 

「うわ。血塗腕ないじゃん。どこに落としたの?」

「そいつの腹の中」

「マジ? あー、そういう術式か」

「どういう術式か知らんけど俺の腕戻ってくる?」

「ちょっと無理」

「マジ!? ヤダーッ!」

 

 誰にも麦わら帽子を託していないのに隻腕になってしまった。

 これから俺はどうやってゲームをやれば!?

 いや、血液操作でなんとかなるか。じゃあ問題ないな。

 

「今すぐはって意味ね。こいつに術式使ってもらわないと中に入ってるものは取り出せないから」

「そもそも生きてるの、それ……?」

「やだなー色々聞きたいんだから殺してないって!」

 

 西宮の疑問ももっともだ。そんな四肢ねじれまくった状態で、普通人間は生きてられねえのよ。

 五条悟が、俺に紙袋を差し出してきた。

 

「そうそう。これ、血塗にもあげる」

「なにこれ」

「名古屋土産、カエルまんじゅう」

 

 俺はずる、と崩れ落ちそうになった。というか崩れ落ちた。

 地面に倒れなかったのは、隣にいた加茂が慌てて俺の腕を引っ掴んだからだ。

 うなだれたままに問いかける。

 

「五条悟、あのさ……それ、ここに車で帰って来る途中で買ったのか?」

「そうだよ?」

 

 だろうな。だって俺と共同墓地に来るまでの間には、買ってなかったもんな。

 そのタイミングしか、ないよな。

 

「そう……そうか……」

 

 俺が加茂と西宮に殺されそうになって、そのあと呪詛師に腕持ってかれて、真人に犯されそうになっていたその間のどこかで、五条悟はカエルまんじゅうを買っていたんだな。

 

 いや、知っていた。

 俺は五条悟がこういうやつだと、知っていたはずなのだ。

 しかし俺はショックを受けていた。五条悟が俺のところにすぐ来てくれなかったことにショックを受けてしまった、ということ自体にショックを受けていた。

 信用すまい、好くまいと思っていたのに、心のどこかで俺は五条悟に期待してしまっていたのだ。

 

 喜久福見せられた伏黒の気持ち、今すごいわかる。

 しかし喜久福に罪はない。カエルまんじゅうにも。

 てかカエルまんじゅうって何……有名なの……ごめんな俺名古屋のこと知らなくて……味噌煮込みうどんしか知らない……。

 

「五条先生、それはあまりにもひどいのでは」

「いいんだ加茂、五条悟にとって俺はカエルじゃないただのまんじゅうより価値がない」

「いやいやそんなことないって。血塗ならダイジョーブと思ったからだって」

「アンタね、仮にもこいつのこと生徒って呼んだんだからもっと責任持ちなさいよ」

「言っても無駄だぞ歌姫、こいつ前に伏黒にも同じことした」

「もう教師やめろ」

 

 もっと言って。

 呆れた西宮が言う。

 

「見てらんないな……京都来れば? 歌姫先生の方が絶対いいよ」

「ダメダメ、血塗がおじいちゃんに殺されちゃうでしょ」

 

 五条悟のところにいたとて別に守ってはもらえないって知ったけどな。

 

「確認だけど血塗、襲ってきたのはツギハギ呪霊?」

「うん。呪詛師の中からびっくり箱してきてすげえキモかった」

「襲われる心当たりは?」

「……それどういう質問?」

 

 お前は痴漢被害者に、痴漢された心当たりはありますかって聞くのか?

 ターゲットにされた理由なんぞ知るか、犯罪者の考えることなんてわかるわけねえだろ。呪霊の考えることなんて……俺も呪霊だった。でもわからん。

 

「あいつ俺のことおもちゃだと思ってるんだよ。最初に遊んでやったのがダメだったんだろうな」

「会いたくて会ってるわけじゃないんだ?」

「なんでそう思ったんだよ!? ざけんなよ!? 誰が好き好んで無理矢理孕まされてーんだ!?」

 

 なに!? ずっとそう思ってたの!?

 向こうから来てんだよなんで俺から会いに行かなきゃいけないんだよ! こっちは会いたくなくて会いたくなくて震えてんだよ! 君想うほど遠く感じてえんだよ!

 

「二度と会いたくねーわ!」

「そ。じゃあこうするのが手っ取り早いよ」

 

 五条悟の腕が俺の腹を突き破っていた。

 

「……は?」

 

 突然のことに、何も対応できない。こぷ、と口の端から血が垂れる。

 予想外だったのは俺だけではないようで、京都の連中からも驚愕の声が上がる。

 

「なにを!?」

「ちょっと、なにしてんのよ!」

「いいからいいから、えっとこの辺かなー」

 

 ぐちぐち、腹の中を探られる。

 無遠慮に内臓をかき混ぜられる感覚に怖気が走る。やめさせようと五条悟の腕を掴むが、その程度で動きが止まるわけがなかった。そもそも俺は五条悟に触る事すらできていない。

 

「あったあった。これ無ければ早々会わないでしょ」

 

 ようやく引き抜かれた五条悟の腕には血の一滴もついていない。

 代わりに俺の血は地面にぶちまけられたわけだが。

 それよりも、五条悟の手にある、俺の腹から取り出されたものの方が気になる。

 

「それ、何?」

「ただの小石だけど呪術が仕込まれてる。この残穢追って血塗のこと追跡してたんだろうね」

 

 腹の中。五条悟が腕を突っ込んだ位置には覚えがある。

 まさしく、真人が俺の腹を突き破った時と同じ場所だ。

 心当たりは、ありすぎる。激情に任せて、俺は血反吐とともに吐き捨てた。

 

「加茂憲倫ィ!」

「私!?」

 

 漢字違いだお前じゃない。

 こういう小細工を、比較的生まれたばかりの真人が知っているわけがないのだ。あいつしかいない。

 

「……それさ、俺の腹にあるのいつから知ってた?」

「血塗が腹に穴開けて帰ってきたあと」

 

 最初からな。それもそうか。六眼で呪力が見えないわけがない。

 俺は今度こそ、完全に脱力した。「君、大丈夫か!?」と加茂が肩を支えてくれたので、地面に転がることはなかった。でも、もはやそうしたかった。

 

「ごめんな、五条悟」

「いやおかしいでしょ、なんでアンタが謝んのよ」

 

 歯を食いしばる。

 己の不甲斐なさが悔しい。自分の体の中のことくらい把握してろよ俺。

 触られなかったから油断していた。俺の腹に穴開けた時、()()()きたのか。

 

 狗巻と共に襲われたあの時、真人がすんなりと引き下がったのはこの仕込みが終わったからだったのだ。また俺と遊べる、と確信したから。

 この場で真人らに襲撃されたことを責められるとしたら、俺以外にいない。

 五条悟のせいでも、ない。悪いのは全面的に俺だ。

 

「俺のせいだろ。俺が呪霊たちと内通してると思ったから泳がせてた」

「お、正解」

「高専の内部情報筒抜けじゃん……俺のバカ……」

「これにそこまでの機能はないよ。せいぜい位置がわかるくらい。視覚情報はおろか音も拾えないだろうね」

「そうかよ。そりゃよかったって言うべきか?」

 

 五条悟に開けられた腹の傷から流れる血を止める気力もなかった。

 右腕からも出血が始まったくらいだ。腹に穴開けるなら俺が無傷の時にして欲しかったが、なるたけ早く体からなくなった方がいいに決まっているので文句は言わない。

 

「逆になんで今とってくれたのかがわからん。俺は信用に値しないだろ」

「血塗の中に、別の呪力が二種類あったからさ。どっちと内通してるのかなと思って様子を見てたんだよ。でもこの様子じゃ、()()()()()()()()()ね」

 

 俺の腹から取り出した石を、五条悟は指先ですりつぶした。

 

 二種類の呪力。

 片方は、先ほどまであった小石から発せられていたものだろう。

 一体誰の呪力が込められていたのかは知らないが、大方真人だ。嫌すぎる。死んで欲しい。

 

 もう片方は、両面宿儺だ。

 少なからず俺の体の中に、呪力として見えるんじゃなかろうか。俺としては宿儺の魂の上澄みだけすくって自分の体の中に残したつもりだったが、六眼での見え方なんざ知らないからな。

 

 俺が宿儺と内通していない、と五条悟が思った理由は定かではないが、概ね当たっている。

 俺は宿儺と共同戦線など張っていない。宿儺のために何か行動を起こす気もない。

 記憶にない縛りの内容があるので、迂闊にそう発言することはできないが。

 

 ……宿儺と内通していないと思った理由がわからないと言ったが、真人たちと内通していないと思った理由もよくわからないな。今回で五条悟は何がわかったのだろう。

 呪霊側にはお兄ちゃんたちがいるし、俺は高専で兄たちが好きだと散々アピールしたと思う。

 

「僕言ったでしょ。『殺しちゃってもいいよ』って」

「……そういう意味かよ、あれ……」

 

 なるほど、俺に京都校の連中を殺してもいい大義名分を与えた時、どう行動するか見ていたのか。

 もしかすると、任務中の五条悟の離脱も俺が加茂たちを殺しやすい状況のお膳立てか?

 呪霊側ならそりゃ殺すよな。

 いやどうかな。殺さなかったからといって呪霊側でないとは言えないと思うが……加茂たちを殺すことが目的と合致しなければやらないだろ。

 

「話が見えないんだけど」

「はいはい、歌姫は呑気でいいね」

「しばき倒すわよ」

「どうでもいいから早く帰るよー、血塗は硝子のとこまでもちそう?」

「東京まで何時間かかると思って……無理」

「あはは! やっべ! 血塗死ぬかも!」

 

 かもじゃねえよ死ぬんだよクソバカ。

 お前のせいでこないだ死にかけた時よりも重傷になったんだよ。

 

「今遺言考えるからちょっと待て……えーと、体に悪いから大人になってもタバコは吸わないようにってにーちゃんに……」

「そもそも大人になれるかどうか心配してあげたら?」

「最悪なこと言うんじゃねえ五条悟……最期の力振り絞って呪い殺すぞ……」

 

 死に際ににーちゃんが死刑宣告受けてること思い出させるな。お前ほんと最低だな。

 

「待ちなさいよ。死ぬ気になるのが早すぎるわ、まったく。ウチの1年が近くまで来てるから、そこに向かうわよ」

 

 京都校の1年に反転術式使えるやつなんかいんの?

 いたとして俺に使ってくれんの。歌姫が言えばやってくれんのかな。

 

「ほら血塗、起きて起きて。寝たら死ぬぞー」

「んー……まだお兄ちゃんと兄者に遺言残してないから……もうちょい……」

「めちゃめちゃ死ぬ気じゃん、よし急ごう。ほら早く何してんの担いで担いで」

「私!?」

 

 加茂の服血まみれにしちゃうからいやなんだけど。

 無下限で弾けるんだし五条悟が責任持って担ぐべきだと思う。

 いや、でも五条悟に触られたくないから加茂でいいや。

 

「弟たちの……ことよろしくって、伝えといてくれ、んー、会えたらでいいし……話聞いてくれるか、わからんけど……」

「もう喋らないほうがいい」

「えなんか加茂が俺のこと心配してんのウケんね」

「なぜ!?」

 

 ウケちゃったせいで、かなりギリギリなのに流暢に喋ってしまった。

 おいやめろ笑わせるな、腹筋動かすと血がより吹き出るだろうが。

 

「喋らせといて。意識無くなったほうがやばいよ」

「うるせー、元凶は黙れ」

「腕は僕じゃないって」

「腹のがダメージでけえわクソが」

 

 六眼あるならもっとピンポイントでえぐれなかったのかよ。

 ガサツな男は嫌われるぜ。そうでなくとも嫌われてんのに。

 

 俺はまた笑いを我慢する羽目になった。

 なぜなら、加茂が俺を慎重に抱きかかえたからだ——それもいわゆるお姫様抱っこで。

 さっきまで殺そうとしてきてたくせに何やってんのこいつ。

 

「ふふ、俺なんか、死んでもいいじゃん。任務達成できるよ」

「君は……命の恩人だ。加茂家の嫡男として、恥をさらすような真似はできない」

「そうか、んふふ。加茂家的には、俺に恩を返すほうが、恥だと思うぞ、ふふふ」

 

 目は霞んでもう見えないが、体の振動が変わったので車にでも乗ったのだろう。

 

「お前が、言ったんじゃねえか、俺、加茂家の汚点、なんだろ。お前さ、俺に助けられたとか、絶対、言わないほう、いいって。俺も別に、恩着せようと、したわけじゃ、ねえしさ、誰にも、言わねえよ」

「ではなぜ——私の——、——」

「んーわり、よく聞こえん……あとで……生きてたら、な……」

 

 耳も聞こえなくなってきたし、心拍も薄弱になってきた。

 ここで死んだら最期に聞いたの加茂の声になるな、とかしょうもないことを考えながら、俺は意識を失った。

 

 

※ ※ ※

 

 

「聞いてよ夏油。血塗ったら胎の中に宿儺飼ってる!」

「へえ、そりゃまた器用だね」

 

 ハイテンションで扉を開けた真人の第一声がそれだった。

 パイプをふかしていた漏瑚が「やかましい」と顔をしかめる。真人はそれを全く無視した。

 

「今のまま孕ませたら、宿()()()()()()()のかな? ねえ夏油、試したくない?」

「私はいいかな。子供はもういるし」

「うわ! 夏油って子持ちなんだ」

「はは、まあね。むしろ()()()()()()()だよ」

「子孫繁栄してんねー」

「真人も頑張れ」

「じゃあ夏油、質問! 赤ちゃんはどこからくるの?」

「甲子園球場と東京ドームの地下に赤ちゃん製造工場があるんだ」

「マジ!? じゃあ関西人と関東人って工場の違いなんだ」

 

 漏瑚は無言で、その場を去った。

 




【今回のモブ】
河竹 依夢(かわたけ いむ)
自らを皮として、なにものかに被せる術式。中に覆ったもの(有機物・無機物)は河竹と肉体的に同化する形で存在を隠され、痕跡は残らず六眼でも見通せない。この術式は自らを皮にしてものを隠蔽する際と、皮から中身を出す際にのみ呪力を使用し、隠されている間のものは河竹の肉体の一部として世界に存在するためである。
自らを革手錠で縛るという縛りにより内容量を底上げしている。真人によるインスタント呪詛師(吉野順平みたいな)のひとり。
名前の由来は術式がかわ(革・皮)を主軸としていること、「依」の漢字は昔ながらという意味の方。「かわた()()()」で刑務官。元刑務官、不祥事で懲戒免職を食らっている。
刑務官時代の職場はもちろん、みよし市にある名古屋刑務所。
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