狗巻棘の髪型が0巻仕様じゃなかったら俺は腹を掻っ捌いて死ぬ。
※謎時空です
「はいみんな注目ー」
目元に白い包帯を巻いた五条悟が、教卓の前で手を叩く。
それに対峙するのは3人と1頭——禅院真希、狗巻棘、乙骨憂太、それからパンダだ。
「新入生を紹介しまーす。特級呪物の受肉体、血塗ちゃんでーす!」
そんでもって紹介されているのがこの俺、呪胎九相図3番にして血塗。意味わかんね。
乙骨以外の全員から戦闘の構えを取られたけど、そっちの方がまだわかる。
呪術高専に入学する特級呪霊、なに? 意味わかんね。
「みんな仲良くするようにー! って僕が言う前から喧嘩売らないでよ」
「おい、私は憂太の時に言ったよな。ここは呪われてる奴がくる学校じゃねえんだよって」
「しゃけ」
「だからって呪い本人がくる学校でもねえだろ! なんだよこいつ!」
首元に薙刀突きつけられたまま、俺は天井を見上げて腕を組んだ。
「俺が聞きてえよ、なんでこんなことになってんのか。でも一言で解決する言葉を教えてやろう——五条悟の気まぐれ」
あー、って顔をする3人と1頭。
信頼関係が透けて見えるね。もちろん五条悟は信頼されてないって意味だ。
「気まぐれで生かされてんだから感謝してよね」
「気まぐれで殺されるかもしんないからヤダね」
「拾ったペットは最後まで面倒見るタイプよ? 僕」
「うるせー、どうせたまごっち放置して殺すタイプだろ」
「残念〜デジタルモンスター派で〜す」
絶対バグ技使ってるタイプじゃん、って言いそうになったけどそれって最悪の暴言な気がしたので言うのをやめた。俺は優しいんだ。
「イカレたメンバーを紹介するぜ! まず禅院真希! 呪いが見えないぞ! 次に狗巻棘! おにぎりの具で喋るぞ! 次に乙骨憂太! めっちゃ呪われてる! 最後にパンダ! パンダだ!」
「最悪の紹介で草」
パンダの紹介が一番マシまである。
「お前らの担任これなの? すごい可哀想」
「お前の担任も今からこれだぞ」
「俺めちゃめちゃ可哀想じゃん」
人に同情しようとしたけど自分のことが一番可哀想だった。
人間そういうもんだよね、半分しか人間じゃねえけど。
「まあいいじゃん、これでクラスが5人になるわけだし。男女比もマシになるし」
「こいつ女なのか?」
「いや男だよ」
「そう言ってっけど」
「え? でも血塗って女だよね?」
「……いや! 男だよ! 俺は言い張るからな!」
女児の姿形だけど! 俺は男だからな! なぜなら弟だからだ! そして兄だからな!
「まいいや、血塗はその席ね」
指さされたのが乙骨の隣だったので、大人しく座ろうと近づいた。
ああそういや、唯一俺に戦闘意思を見せなかったのが乙骨だ。帯刀はしているし、抜けなくはなかっただろうに。
その点に礼でも言っておこうかと、声をかけようとしたら、俺は空を飛んでいた。
「は?」
正確には、教室の窓をぶち破った上で空を飛んでいた。
要するに攻撃されたらしい。後頭部に突き刺さりまくったガラス片とコンクリート片で正気にかえる——が空中で身動きなんか取れるかぁい!
おいおいこのままだと高専の敷地外までぶっ飛ぶぞ、と青い空を眺めながら思っていたらいつのまにか五条悟に抱えられて教室に戻っていた。その瞬間移動みたいなの何、無下限?
つうかそんなことできるなら俺が飛ばされる前に止めろ。教師だろ。
学級崩壊だぞこれ、リアルに教室崩れてんだから。
『リカ このこ きらーい!』
「初対面で嫌われた! 俺が一体何したっていうんだ!?」
「リカちゃん!?」
俺を突き飛ばしたのは、乙骨に憑いている特級呪霊、祈本里香ことリカちゃんだったらしい。
「憂太、早いとこ引っ込めないと死刑になっちゃうよ」
「リカちゃん、お願いだから! 落ち着いて!」
「どうどう! 落ち着けリカ! 俺は乙骨の敵じゃねえからゴバッ」
再び跳ね飛ばされて、俺は2、3枚教室の壁をぶち破りながら転がった。死ぬ死ぬ。
そしてしれっと避けてる五条悟は何、やっぱ俺のこと気まぐれで殺すじゃん。
どうどうがいけなかったかな。馬扱いだもんな。
やっべ、俺に女児の扱いなんかわかんねえよ。中身独身アラサーだぞ。
「……いや、呼び捨てが悪かったのか? 人間の距離感ってつかめねー」
「どっちも呪霊だろ」
「でも俺たち結構、人間色強いからな」
「お前ならまだしも、あっちはねえだろ、人間色」
鉄骨が体にぶっ刺さったまま、寝っ転がって考えてたら真希に突っ込まれた。
俺は前世あるし、半分人間だし。リカ……ちゃんも、人間だった頃の記憶があるみたいだし。
似た者同士だと思うんだけどな。人として死んだ後呪霊になったのは一緒だろ。
「ええと、なんだ。とりあえず距離取ればいいのか?」
「ごめんね、えっと、血塗ちゃん? リカちゃんの機嫌が悪いみたいで……」
「いやいいよ、お前優しいなおっこブフェッ」
「り、リカちゃーん!?」
振りかぶられたリカちゃんのこぶしが俺の後頭部にクリーンヒット、俺は顔面で教室の床を罅割らせた。
フゥ! 俺って結構石頭……いやダイヤモンド頭だね! これで砕けねえんだもんな!
『憂太ぁ゛とらないで』
「呼び捨てがダメなのそっちだったか……」
鼻血をだらだら流しながら床に頭擦り付けて謝ることにした。
擦り付けるというか、もはやめり込んでんだけどな。
マジすんませんリカちゃん先輩。今後は乙骨さんって呼ばせていただきやす。
「ナマ言ってすんませんした……ゴハッ」
「わああ! 大丈夫!?」
「いやおまっ、寄るな! その方が大丈夫じゃなくなるから!」
「でも反転術式……」
「え使えんのォ!? 俺も使えないのにィ!?」
顔を上げて曲がった鼻を手動で定位置に戻しながら、乙骨……さんを見る。
今俺ができるのは折れた骨を折れたまま手で移動させてそれっぽい位置に置くくらいなんだけど……やっぱ特級呪術師ってすげえや。
「でも乙骨さんはリカちゃん……さんの制御できてからで……はい……」
「あはは! そうだね、血塗は硝子のとこ持ってくから憂太はちゃんと仕舞うように!」
「そしてお前は状況を説明するようにな、悟」
一連の騒動を受けてやってきた、背後に般若を背負った夜蛾、この中で一番怖いかもしれない。
五条悟が俺たちを指差す。
「憂太と血塗がやりました!」
「どっちもお前の管轄だろう!」
「僕、正論って嫌いなんだよね」
俺はお前が嫌いだけどな、五条悟。
酒を抜いた後に読み返して整合性取れるように頑張って考えたけど、この時空の血塗ちゃんは受肉させられた後、兄たちが受肉させられる前に兄たち持って逃げ出してんじゃないかな。
そもそも兄たち受肉させなければ死んだままなんだから死なないやんけ。「好き好んで弟を地獄に送り出しはしねえよ」の兄バージョン。
忌庫から特級呪物盗み出せるのはそれこそ加茂憲倫しかいないからそれとして、受肉体が女なの……女なのは……加茂憲倫の性癖かな……いや無理、もう無理、どう頑張っても言い訳できない謎時空です。そもそもこの時間軸だと真人生まれてすらない可能性あるしきっつ、TSの呪詛師を連れてこい。
……TSの呪詛師って俺か?