それいけ!血塗ちゃん   作:九条空

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2回目のピックアップなんで「小話」から「幕間」にしておきました。
別段意味の違いは設定してません。幕間一番乗りが五条悟なのはなんかムカつくな。
そして長! 本編くらいの長さになってしまった。
小話はいつも3000字くらい目指して書いてるのに倍以上ある……。


幕間:五条悟

「血塗ー、ちょっとこっち来れる?」

「は? 無理に決まってんだろ、まだまともに立てねえよ」

 

 通話を終えたらしい五条悟が戻ってくると、いきなり無理難題を言ってきた。

 さっきまで意識不明の重体だぞ。

 今は残りカスのような呪力を振り絞って反転術式を試みているが、呪力なさすぎて何もできてねえんだよ。

 

「おっけ。じゃちょっと血塗借りるけど、2人はここで待っててねー」

「はあ……」

「……わかりました」

 

 五条悟は俺の首根っこを捕まえて、手提げバッグみたいにして運んだ。

 わざわざ俺を連れて行くということは、京都には聞かせたくない内容ということだろう。

 そこそこ離れた場所まで連れて行かれて、適当に放られる。

 

「はい。血塗これに向けて喋ってー」

「……何をだよ?」

 

 五条悟にスマホを向けられて、またしても無茶振りである。

 もっと具体的に言えよ。

 

「悟、カメラの向きが逆だろう。なぜお前の顔を見ながら話さなきゃいけないんだ」

「あ、通話繋がってんの夜蛾か。良かった、五条悟が夜蛾に無断で俺のこと連れてきたのかと思って心配してたんだ」

「その心配は当たっている」

「当たってんのかよ! オイ!」

 

 どうなってんだよ! 京都との合同だろ!?

 夜蛾噛んでないとおかしいだろうが!

 

「その件についてはあとで悟を問い詰める」

「やだー! やめてぇ〜ん!」

「それに関してはマジで問い詰められろ……あー、その夜蛾? 謝らないといけないことが」

「なんだ?」

「夜蛾が買ってくれたらしい服、ダメにしちった」

「……悟。カメラを切り替えろ」

「えー? いいじゃん僕の顔見て話せば。GLG(グッドルッキングガイ)だよ?」

「悟」

 

 それほど渋るなら、そもそもビデオ通話をしなければ良かったのではないだろうか。

 夜蛾の方から言ってきたんかな。……なんで?

 

「じゃ、血塗スマホ持ってー。内カメラになってるからこの向きね」

「ああうん、ウワッ! これ自分の顔も画面で見えんの!? 血まみれすぎて気分悪くなんだけど、いや別に自分の顔見てなくても失血で気分悪かったわ! わはは!」

「……なんでそんなことになっているんだ」

 

 俺って新田弟の術式を施されただけで、ガチでそのまんま放置されていたらしい。

 スマホのカメラを鏡代わりに確認すると、顔とか半分以上真っ赤なんだが。乾燥していたので、軽くこすると固まった血がパラパラ落ちる。

 あっやべ、ここで落とすと汚れが散るわ。

 

「なんでって? この辺の血は全部五条悟が俺の腹に穴開けたからだけど」

「悟」

「いや全部は言い過ぎ! 半分くらいでしょ、もう半分は血塗が自分で腕ちぎったからでしょ」

 

 そう言われると俺の傷、敵からつけられたの全然なくて笑える。

 ここまでくると五条悟は敵に換算してもいいのかもしれない、ははは。

 肩についた透明になれる呪霊からの傷くらいだな。

 呪霊からの傷は手の甲にもついてたけど、それ右腕だったからもう()()しな。

 

「……なんでそんなことになっているんだ……」

「俺が聞きてー! ざっくり言うと京都連中ににーちゃんみたいに暗殺されそうになったんだが、それとは別件の呪詛師と特級呪霊がカチコミ入れてきたから大変だったんだよ」

「腹の傷は」

「五条悟の気まぐれ」

「悟!」

「言い方でしょ」

 

 しかし俺はそれ以上に説明する言葉を持っていない。

 どういう思考回路を経て俺が呪霊たちと内通していないと五条悟が判断したのか、わからないからだ。

 

「元々血塗の胎のなかに呪詛が埋まってて、それを取ってあげただけだよ」

「報告を受けていない」

「言ったらすぐ取れって言うでしょ? 取ったら血塗を囮に使えないじゃん」

「えーっ俺囮だったのか? 何への?」

「特級呪霊でしょそりゃ。実際来たんだし」

「真人かよ。そんなに会いたかったのか? 俺は殺してでも会いたくないけど」

「ま、あとは引き寄せられて来た連中に対する血塗の反応が見たくてね。良かったよ、血塗のこと殺さずに済んで」

「なんでそうなったのかはわからんけど、良かったな?」

「自分の命なのに随分他人事〜。いやあ、血塗の胎にあった呪詛は結構巧妙でね」

「は〜? 五条悟、あれにはGPS機能くらいしかないって言ったじゃん!」

「探知機としてはね。でもそれは残穢追えるならどんな呪術が仕込まれててもできることだから。問題はこれに仕込まれた内容なわけ——石女(うまずめ)って知ってる?」

「知らん」

「石婦、不生女とも書くけど、要するに子を成せない女のことだよ」

 

 俺の胎に仕込まれていたのは、なるほど小()だった。

 しかも位置的に子宮。あー繋がる繋がる話が繋がる。

 

「あの石が胎にある限り、血塗は何も孕めなかった。学長にも言ってたんでしょ。呪霊の子を孕みたくないって。それを交換条件にされたなら、ワンチャン血塗がこっち裏切るのもあるかなって。そう思わせる向こうの策略だろうね。棘と一緒にいた血塗襲った時、向こうは散々セクハラしてきたんでしょ? 僕が六眼持ってるのは知ってるし、どんな術式かすぐ割れるのは織り込み済みだったはずだよ」

「なるほどな。確かに孕まされるのは、死ぬよりは嫌だが……にーちゃんたち裏切るよりは嫌じゃないから、それはないな」

「でしょ? だから取ってあげたわけ」

 

 俺が呪霊、あるいは人間を()()()()()()()代わりに呪霊たちに協力しろ、というようなやりとりがあったのではないか、と五条悟に想像させる策略だったわけだな。

 敵ながら巧妙でムカつくな加茂憲倫。

 

 スマホの画面越しでも強面な夜蛾が聞いてくる。

 

「腹の傷はわかった。腕は?」

「それは俺が切り落としただけ」

「だけじゃないだろう」

「……?」

「あはは! いやマジで理解できないって顔するのやめて血塗、面白いから」

 

 夜蛾の意図がよくわからんのだからしょうがないだろうが。

 あ、腕を切り落とした状況を詳しく知りたいということか?

 

「呪詛師の術式で腕取り込まれちった。邪魔だったから切った」

「……それは治るのか、悟」

「腕取り戻せればくっつけられるんじゃない? 血塗の体はただの人間ってわけじゃないし、硝子と協力すればなんとかなるんじゃないかな」

「取り戻せるのか?」

「拷問上手な呪術師が京都の方にいるっていうから呪詛師はそっちに送ったし、いけるでしょ」

「あそういう理由で? 助かる〜!」

「そうか。血塗、虎杖が心配していたぞ」

「にーちゃんに心配かけてしまった〜もヤダァ〜!」

 

 嫌になりすぎてスマホぶん投げたら普通に五条悟にキャッチされた。

 

「はいじゃあ報告終わり!」

「悟お前は帰ったら報告書——」

 

 五条悟がスマホを操作すると、夜蛾の声が途切れた。

 マナー……と思ったが他人のスマホを勝手にぶん投げた俺が言えることは何もなかった。

 

「で、なんでわざわざ京都連中いないとこで話したんだ? 重要な話なんかなかっただろ」

「僕が学長にどやされてるところ見せたらかっこ悪いじゃん」

「そこかよ〜」

 

 もうすでにかっこ悪いところめちゃくちゃ見せてるだろ五条悟。

 五条悟のかっこ悪い判定どこ? そもそもすでに加茂の前で夜蛾にヘッドロックされてただろうが。

 はあ、まあしかしかっこ悪い、ね。

 

「俺は五条悟のこと嫌いだったけど、今回でそうでもなくなったかもな」

「マジ? むしろ逆でしょ普通」

 

 え!? どの口で普通を語ってんのこの男!?

 イカレた人間しか存在していない呪術界において最強の名を冠する男が!? 普通を!?!? 語る!?!?!?

 そ、そんなことが許されていいのか? 世界の理が崩壊しそうだぞ?

 

「僕って血塗に結構ひどいことしてない?」

「自覚あるのか!?」

「驚きすぎ」

 

 今日は五条悟に驚かされてばかりだな。

 

「そうだよ、五条悟。お前は本当にダメだ、とにかく何事も突然にやろうとするのがよくない。俺がゲームやってる時に乗り込んできて色々ちょっかいかけてくるのはウザいし——」

「いやいやいや、今そういう話してなかったよね?」

 

 は? 五条悟がひどいって話じゃなかったのかよ。

 

「血塗の胎の石、放置してたのについては?」

「作戦としての甲乙は俺にはわからん。そもそも未だに五条悟が俺を敵でないと判断した理由もわからんし」

「まだわかんないの? 鈍感すぎるなー、今日び少年漫画の主人公だってそんなに鈍感じゃないよ」

「だって俺敵側のキャラだし」

「それは無理あるでしょ」

「バカにしてんのか!?」

「ええー? キレどころどこにあったの今」

 

 俺は原作厨だから「血塗は敵じゃないよね笑」って言われたらそりゃキレるわ。

 そもそも出会いからしてにーちゃん殺そうとしてんだからちゃんと敵だろうが!

 

「というか、違うって。作戦としての良し悪しじゃなくて、僕へのほら、信頼とか失ってないの?」

 

 信頼されてると思ってたのか!? という驚愕の言葉は飲み込んだ。

 実際、してたしな。そうじゃなかったらカエルまんじゅうで落ち込んでねえんだよ。

 

「別に。俺が五条悟に期待していることといえば、ちゃんとにーちゃんを立場的に守って欲しいってことくらいで、俺のことはどうでもいいからな……と思ってたけどな……まんじゅう以下なのはちょっと凹んだかな……」

「あそっち? そっちなんだ。でもほら、あげたじゃん血塗にも。カエルまんじゅう」

「あれでフォローになると思ってんのか? お前さ、伏黒にもちゃんとフォロー入れた? あいつ絶対恨んでるぞ、だって俺に愚痴るくらいだもん」

 

 俺がその時の話を原作知識でなく知っているのは、伏黒から「五条先生には気をつけろよ」という忠告のテイでいろんな愚痴を聞かされたからだ。

 五条悟が伏黒に「五条先生に期待するとロクなことにならない」「絶対に見習っちゃいけない」「呪術師としても人間としても基準にするな」とかバカスカ言われてて笑っちゃいそうになったもんな。

 ごめん嘘、普通に笑って聞いてた。

 

「……僕恵に恨まれるようなことしたっけ?」

 

 こいつ喜久福の時のこと忘れてやがるゥ!

 そんなんだから! そんなんだから人の信頼を失うんだぞ!

 

「あのな五条悟。俺は特級呪霊だし、五条悟は教師なんだから、生徒たちの身の安全を優先するべきだろ。京都連中がお前の中でどの立ち位置にあんのかは知らねえけど、少なくとも東京時点での話なら、囮にする予定の俺のそばに生徒置きっ放しだったのはダメだと思う……うん、ダメだ! それは俺にひどいことしてるんじゃなくて、にーちゃん達にひどいことしてる換算だろ!」

「んー……なるほどね」

 

 何がなるほどねだったのかは何もわからなかった。

 

「僕ってもしかして今攻撃受けてる?」

「は!? 新手の特級呪霊か!?」

 

 周囲を見渡すが、何もいない。

 

「新手じゃなくて既存の特級呪霊なんだけど」

「俺ってことか? 俺は五条悟にダメージ入れられたこと一度もねえけど。てか今入れようとすら思ってねえけど?」

「だよねー。でも不思議と痛むよねー……」

 

 五条悟は、自分の胸に手を当てた。

 ……は!? 胸が痛いって意味か!?

 いや、うそうそ。そんなことあるわけないだろ。五条悟に良心なんか備わってねえんだから。

 

「俺を敵だと思うのは当たり前だ。五条悟は俺が()()()()とも繋がってたことくらいわかってたろ」

「まあね」

 

 五条悟が俺の中に見た呪力は2種類と言った。

 片方が真人ならもう片方は宿儺であるはずで、そうくると俺の危険度ってめちゃくちゃ上がるんだよな。

 元々特級呪物ではあるし、宿儺と同じ特級呪霊相当なんだけど。

 

「追及されないことをいいことに黙ってた俺が悪い。いつ殺されてもおかしくないのにここまで生きてる方が奇跡なんだ」

「珍しく素直だね」

「だから五条悟とならこどもつくってもいいぞ」

「待て待て待て」

 

 突然五条悟が片手で顔を覆い、俺にもう片手でストップをかけてきた。

 は? 今隻腕の俺に対して、両腕ありますアピールか?

 

「よし、冷静にいこう。どうしてそうなった?」

「欲しいんじゃねえのか? こども」

「血塗、冷静に。冷静にね?」

「五条悟の方が冷静じゃなくね?」

「うん誰のせいだと思ってるのかな」

「……?」

「だからなんでそんなわかんないって顔できるの」

 

 もしかして俺の考えが間違っていたか。

 そう思った理由の一つを口に出してみる。

 

「俺の生理気にしてただろ」

「フー……冗談通じないね、血塗」

「は? 通じるし! バリバリ冗談言うし!」

「言う方じゃなくて言われる方だって! なんでそうなんの!? 生理周期気にしたら妊娠させたいと思ってるって言われるの冤罪すぎるでしょ」

「……お前今の発言ちゃんと考え直した方がいいぞ? 言うほど冤罪じゃないからな?」

 

 俺に人権があったらセクハラの罪がおそらく成立してるんだからな?

 こいつ今までよく訴えられてないな。御三家の権力か?

 五条悟からのセクハラの数々、俺の前世がアラサー男じゃなかったら泣いてる。いや、だからこそ逆に気持ち悪さが引き立ってるかもしれない。

 俺としては、そんなこと言おうとすら思ったことのない言葉がスラッスラ出てくるんだもんよ。

 

 五条悟俺のこども欲しがってる説に至った理由をもう一つ言っておく。

 

「今日の会話でわかったんだが、真人が俺を孕ませるという発想に至ったのは加茂憲倫の入れ知恵らしい。であれば、俺が母体になれる可能性は少なくない程度にはある上に、生まれたものにそれなりの価値がある——おそらく呪術師にとっても。だから五条悟も欲しいかと思ったんだけど」

 

 五条悟が、深々とため息をついた。がっかり、と肩を落とすおまけ付きだ。

 

「僕、情操教育間違っちゃったかも」

「された覚えもねえよ」

 

 反面教師としてか? ならされてたかもしれない。

 

「色々黙っててごめんな。言い訳させてもらうなら——」

「しなくていいよ。どうせ縛りでしょ」

「——ちょっとくらいさせろよ。そうだけどさあ」

 

 俺と宿儺の関係については、()()()()()()ことになっている。

 五条悟の言う通り、そういう縛りだ。

 

「詳細語ると俺死んじゃうから、そうなってもいいなら拷問していいよ。ただ俺も縛りの内容、あんまし覚えてないんだけど」

「その条件で拷問するやつバカすぎ」

「俺が今嘘ついてるかも知んないだろうが!」

「つけるわけないじゃん、バカなんだし」

「それもそうだな!」

「納得すんのかーい」

 

 五条悟の裏手ツッコミ、堂に入ってるな。漫才経験者なんだろうか。

 

「お前を信用していないと伝えられることは、信用される道を一歩進めたってことだと思う。今まで通りに信用したフリしてた方が楽だもんな」

 

 いや、五条悟は信用したフリなんかしてなかったか。こいつアレでニュートラルだもんな。

 

「俺は悔しかったよ。腹に仕込まれてたのに気づかなくて。そのせいでにーちゃんたちを危険に陥れていたかもしれないと思うとゾッとする。いや、もうしてたか――加茂に謝んなきゃな……」

 

 あの場所で襲われたのは俺のせいだ。

 狗巻の時はまだ追跡されていなかったはずだから違うだろう。それはそれで、どうやって俺の位置を知ったのかわからないが。

 

「だから胎のやつとってくれてありがとう」

 

 腹の傷を撫でる。

 にーちゃんに被害が行かないなら、ひとまずそれでいい。

 五条悟が俺を囮に使うのは構わんが、それに誰かを巻き込むのは心苦しいからな。

 つうか、だから京都連中と合同任務を受けたのか? 俺を殺そうとするやつなら自業自得だし巻き込んでも構わねえってか?

 

 五条悟は、口元を押さえて呟いた。

 

「……なんか健気すぎて引くわー」

「引くな」

 

 俺をもっと長く泳がせておくこともできたろうに、そうしなかったことを感謝しただけだ。

 健気要素がどこから来たのかわからん。

 

「血塗って死にたいの?」

「は? ドチャクソ生きてえが?」

「そのくせ自分のことまるで大事にしないよね」

「そりゃ自分より大事なものの方が多いからな」

 

 自分の命を大事にできるならしてえけど、状況がそれを許さないから仕方ねえだろうが。

 

「俺は地獄でも笑って過ごせるけど、俺の大切なひとたちはそうじゃないだろ。なら地獄に落ちるのは俺でいい」

 

 胎児のころに死んだ。

 亡骸のまま150年、俺は地獄でも遊んで過ごした。

 だからどこでだって楽しく過ごせる。取り柄のない俺が唯一誇れるとしたらそこだ。

 

「それだけ。普通に生きれんならそうしたいが、俺にはそれを選びとるだけの能力がない。取捨選択を迫られたときに自分の優先度を下げておかないと、本当に守りたいものが手からこぼれちまう」

「守りたいものの範囲が広すぎない? 加茂なんて宿敵の家系でしょ、しかも殺されかけてんのに」

「はあ?」

「いや、はあじゃないって。うそ、僕の方がおかしい?」

「いや、俺もお前もおかしい」

「自覚してるんだ。僕はおかしくないけど」

「えっ!?」

「ねえ、一音で罵倒するのやめて」

 

 罵倒じゃなくて純粋な驚きだったんだが、五条悟はそう捉えられなかったらしい。

 

「まず俺が殺したいのは加茂憲倫じゃない」

「まずじゃないんだよね、思いっきり前提から覆してくるよね……」

 

 いや全く覆してないんだが。

 

()()()()()()()()()()()だよ。俺はあいつの最初の名前を知らないから、今のところ加茂憲倫と呼ぶしかないが、要するに殺したいのは()()()()だ。()()()()だ」

 

 それだけなんだ。俺が()()()()()()()()()ことは。他には、()()()()ことしかない。

 母と兄弟たちを苦しめたヤツを殺さなきゃいけない。

 それが終わらないと、ちゃんと人生を楽しめない気がするんだよな。やりたいことをやっても、やらなきゃいけないことが頭をよぎって気が重くなる。

 それだけの理由なんだ。俺が加茂憲倫を殺したいのは。

 

「だから別に加茂()()を恨んでるわけじゃねえ。ニュートラルだよ」

「血塗ってニュートラルに命賭けて人助けするわけ?」

「したことねえけど」

「……記憶、どこで改竄(かいざん)されてんの? 加茂蹴っ飛ばして特級呪霊からかばったんでしょ」

「ああ、あれかよ。向こうの目的からいって一回触られただけでは死なねえと思ってた。死にたくなるような目にはあうかもしんなかったけど、命より大事(おおごと)ではねえしな」

「その理論で行くならニュートラルじゃないでしょ。殺されかけてんだから」

「……?」

「ちょーっと、またその顔だよ」

 

 したくてしてるんじゃねえんだよ、考えてることが全部顔に出ちゃうだけだよ。

 ちょっと待てよ今頭の中整理するから。

 

「呪霊なんだから向こうが俺を殺そうとするのはニュートラルだろ。だから俺もそのまんまニュートラル。むしろ殺そうとしないのがプラス地点からのスタートってだけで、殺意はマイナスじゃない。ニュートラル。だろ?」

「いやー、うん、血塗もちゃんとイカレてるよねー」

 

 五条悟は、スマホの画面をタップした。

 

「てな訳で本当にここで報告終わりね」

「……は?」

「通話切ったと思ってた? 切ってませ〜ん! イエーイドッキリ〜!」

「あのなあ……」

 

 どうやら、今の今まで夜蛾と通話が繋がりっぱなしだったらしい。

 今の俺と五条悟の会話を夜蛾に聞かせたところで、何が変わるとも思えないんだが……五条悟は何がしたかったんだよ。

 

「これからの血塗の目標について教えてあげよっか」

「なんで俺の目標をお前に教えてもらわなきゃいけねえんだよ」

「血塗、呪術師になってね」

 

 言い返そうとしたが、言葉が出てこなかったので黙った。

 俺が設定していた目標と同じだったからだ。図星ってこういう時に使っていい言葉だったっけな。

 

「扱い的にはパンダに近いところにまでは行けるように精進しな。まっ、血塗は下手な人間より人間らしいし、なんとかなるでしょ」

「そういう問題か?」

 

 俺がにーちゃんと一緒にいるだけなら、今のまんまで問題はない。

 ただし、お兄ちゃんと兄者とも一緒にいられるようにするのならば、呪術師になるのが一番いいと俺は思った。

 にーちゃんが呪霊側に来ない以上、俺()()が呪術師側に寄るしかない。

 その時に、特級呪物の受肉体という俺が、呪術師になるという()()を作れていたのならば。

 きっと、脹相お兄ちゃんと、壊相兄者も、()()()()()()()はずなのだ。

 

「僕もサポートするし。遠くないうち、血塗にいい報告ができると思うよ」

「何それ怖……」

「いい報告だって言ってんじゃん」

 

 五条悟の言うこと成すこと、何にも信用できないんだよな。「ともかく」と前置きして、五条悟が言う。

 

「楽しい地獄になりそうだね」

「お前もいるしな、五条悟」

「お、どういう意味? 僕に惚れちゃった?」

「五条悟は地獄に不可欠だろ」

「ねえちょっとそれホントにどういう意味」

 

 お前がいるとどこでも地獄になるって意味だが?

 




【補足】
マナー……と思ったが他人のスマホを勝手にぶん投げた俺が言えることは何もなかった。

五条悟は「マナーがなっていない」と、スマホが夜蛾と通じたまま実は「マナーモードになっている」ということがかかっているスーパー面白ギャグ。
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