「なんだぁ? 客かぁ?」
「血塗おかえりー」
アラサーの俺が手をひらっとさせて迎えたのは、
それは俺ではなく、呪術廻戦の原作に登場する姿のままの。
俺が受肉した時の姿の、血塗だ。
「客っつか住人だよ。帰ってくるのは久々だが」
「そうなのかぁ? 遊んでくれるのかぁ?」
「そりゃ遊んでくれるだろ! なあ? ……おーい? ロリの俺ー?」
アラサーの俺と話している時は、多少違っていても「俺」であるという確信があった。
反応が予測できるし、口調やギャグセンスも一緒だ。
だがこれは——こちらの血塗は明確に違う。
「そ、の、血塗は、俺ではないんだよな?」
「難しい質問だよなそれ。自分のこと血塗だと思えてないわけじゃないが、それはそれとして俺は俺ってさっき言ってたろ。てなるとまあ、血塗も半分くらい俺なんじゃねえの?」
「わけわからん……」
「俺も言っててわけわからん」
俺がわからねえならもう終わりだよ。
「血塗が……血塗がいるなら、俺はいちゃダメだろ」
「なんだぁ? 帰るのかぁ?」
「帰らん帰らん。なぜならここが家だからだ」
帰る場所はどこにもない。強いていうならここだ。そう、ここだ。
俺がこっちにいればいい。
「血塗と
「ダメだ。だって死ぬもん」
誰が、と聞かなくてもわかる。
原作通りにするのならば、死んでいるキャラたちのことだ。
それは
「自信持てよ。少なくとも血塗にとって、俺が知ってるのよりは多少良い未来になってるぜ。壊相は死んでないし、血塗も死んでないし。ってことは脹相も悲しんでないし」
「けどこんなのって……あんまりじゃないか?」
「立場を奪って生きてるみたいで?」
アラサーの俺が「今更だろうに」と言った。
それも、そうだ。何度も考えたことがある。
自分の立場が血塗であるとわかった瞬間から何度だって。
ずっとどこかで不安に思っていた。
俺は許されざる簒奪者なのではないかと。
「だから言ったじゃん。
クソみたいな暴論だ。
そもそも前世がなければ、自分が立場を奪って生きていることなど認識しないで済むって話か。
クソみたいな暴論だが、一理以上はあると思っている自分がいるのは、目の前の俺が証明している。
だって俺も、
「血塗はそれで良いのか?」
「何がだぁ?」
「肉体の操作権が俺にあることだよ。兄者たちに会いたくないのか?」
「俺がここにいれば兄者たち守ってやるって約束だしなぁ」
……兄弟人質に取られてないかそれ!?
「■■が遊んでくれるから暇じゃないしなぁ」
「アラサーの俺に思い切り言いくるめられてねえか!? 大丈夫なのか!? おい血塗!? しっかりしろ!」
「はっはっは! アラサーの口車をなめるなよ!」
「お前! いたいけな特級呪霊に何をしてんだ!」
「三食食わせて一緒に鬼ごっことかしてるな」
「めっちゃ普通に遊んでるなァ〜!」
何それ俺もやりた〜い!
ってちげえんだよ! クソ悪役じゃん俺!
「本当は高い高いとかしてやりてえけど血塗ってイメージの3倍はデカいし重いからアラサーの俺には無理だ」
「はァ〜!? じゃあ俺がやるんですけどォ!?」
血塗の青い肌に触れる。触った感じは普通の人間の皮膚っぽい。
血塗の下の口のちょうど横あたりを両手で持って、俺は持ち上げた。
「ほーらたかいたか〜い!」
「低いなぁ」
「低いな〜」
「クソッ! 力はあっても身長がねえ!」
俺は血塗を離すと、悔しすぎて地面に拳を叩きつけた。
せっかく念願のご本人登場が行われたのに、俺は血塗を喜ばせてやることもできねえのか!
「普通に桃鉄やろうぜ」
「友情破壊ゲーやめろ」
まだ築いてもいない友情を叩き壊そうとするな。
「しょうがねえな。マリパでいいか?」
「やるなら別の部屋に行け」
キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!
いやさっきも喋ってたか、でも宿儺パイセンがまだ聞いてると思わなかった。
え!? てか普通に話の内容まで聞いてるじゃん!? え!?!?
「しょうがねえな〜。まあ俺の部屋にテレビあるからそこでいいか。お前も来いよ4人でやったほうがマリパは面白いし」
「化け物と一緒にゲームなんかやるわけないだろ!?」
聞いたことのない声が聞こえたので、俺は即座に振り返った。
先ほど血塗が入ってきた玄関に近い方のドア、そこからひょこりと頭がのぞいている。
ツーブロックの髪型をしたどこにでもいそうな男だが、前世の俺の知り合いでもない。
「……いやお前は本当に誰ェ!?」
「だはははは!!!!!」
俺の生得領域に知らねえ男いるんだけど!
不法侵入されてない!? 家主の許可ちゃんと取ってェ!
爆笑していたアラサーの俺の頭が一度爆発して、すぐに再生する。
顔のパーツは認識できないが、笑顔は真顔になっていた。
「この体の持ち主だよ。元は人間だっただろ。ほら、受肉の礼でも言っとけば?」
「言えるわけねえだろバカかァ!? 俺が殺してんだぞ!?」
どのツラ下げて礼を言うんだよ!
あなたを殺したおかげで人生ハッピーですってか!? 獄卒ですらそんな煽りかまさねえよ!
不法侵入は俺の方じゃねえか! 勝手に体ぶんどってごめんな! ごめんじゃすまねえなあ!
「まあ良いじゃん、ここでのんべんだらりと過ごせるんだし。夢のニート生活だぜ。俺の生得領域なんだからいつだって
「魔王みたいなこと言うなよ」
「血塗は敵役なんだし間違ってねえだろ?」
「かわいくなって人間の同情を誘うとか言ってなかったか?」
「それはロリの俺担当。アラサーの俺はそれ以外の汚いところ担当」
頭が痛くなってきた。
俺が担当しているらしいかわいさ、まるで体現できてないんだけど。
少なくともアラサーの俺の汚さをカバーできるだけのものじゃないだろ。
「同じ悪事を働いても、悪巧みしてそれやってんのか、悪気なくそれやってんのかで全然印象違うだろ」
「悪事を働く前提をやめろ」
「安心しろ。再三言うが俺は俺でしかないんだから、どっちの認識だろうが、やるときはやるし、やらないときはやらない。だから安心して、悪事を働けよ!」
「だから悪事を働く前提をやめろ」
いや、やることなすこと、全て悪事かもしれないと思っておけと言う忠告か?
嫌だよそんな人生。嫌でも続けなきゃいけねえのが人生だけどさ。
「俺はこれから、良かれと思ってやった事が人を傷つけるかもしれないことに怯えなきゃならねえってこと!?」
「それは元よりしてろよ」
「百理ある」
よく考える。
予想外のことがこの生得領域でたくさん起こったが、それは俺にどんな影響がある?
「は? じゃあ別に今までの生活と何も変わらねえじゃねえか」
出した結論はこれだ。
「そうだよ。変わると思ったのか?」
「思ったよ。手札を開示するとか言ったろ。なんかこう、新しい必殺技が手に入る強化イベントじゃねえのこれ」
「一個も必殺技持ってないのに?」
「言うなそれを」
俺がクソザコナメクジであることを自覚させるな。
「これがババ抜きだとしたら、持ってる手札は
「むしろ弱体化イベントじゃん……」
この後めちゃめちゃマリパした。
※ ※ ※
「くだらん茶番は終わったのか」
「一旦はね。俺が死ぬまで続くけどな」
起きて早々新田新に突っかかる俺を内側から眺めながら、宿儺サマと話す。
「やっぱ俺と違ってロリの俺かわいいな。見た目とかでなく」
「どちらも変わらんではないか」
「さすが呪いの王は判定ガバガ……おおらかでいらっしゃるな〜」
またうっかり頭部でいちごジャムを作ってしまった。
「貴様の領域はうるさすぎる」
「賑やかって言って欲しいな」
「口が1つでも過分なのに、増やすなど愚か者め」
「血塗に至っては2個ついてるもんな。あっはっは」
クソ面白くない冗談だったが、声量が小さかったので宿儺サマ的にはセーフだったらしい。
「でも俺を
「ゲームならやっとるだろうたわけ」
「俺は罪悪感とのうまい付き合い方知ってるんで」
彼らは俺の罪悪感の具現化だ。
自分から分解して切り離すことで、罪悪感を客観視している。
蝕爛腐術の拡張術式で自分自身の人格を分解できるのは本当だが、それで作り出された人格はロリの俺とアラサーの俺だけではない。
前世の記憶を人格から分解して、それっぽくなるように形成しただけだ。
だって血塗が存在していたら、ロリの俺が言ったように、死ぬとわかっていても体の主導権を渡している。俺は原作厨だからな。
まあ、そうじゃなかったから、俺は俺の生まれた意味を考えて、じゃあ原作厨なりに原作改変でもやってみるかと重い腰を上げたのだ。
男の人格を作るのはもっと楽だった。
何しろ、受肉の際に男の記憶は全部読み取っている。
その記憶だけ分解すれば、よくできた遺言みたいなのは作れる。
罪悪感とうまく付き合うとはそういうことだ。
俺と血塗をどちらも変わらんと称した宿儺サマのいうことは正しい。
結局のところ、受肉前とやっていることはさほど変わらない。
最初から最後まで、ずっと俺の一人遊びだ。
だって俺、遊びにしか興味ないもんね。
「本当は人に好かれなくてもいいんだ。俺が俺を好きでいられるならな」
生まれて来たことを後悔している人間が、幸せになってはいけない道理などない。
前世でも、そう思って生きてきたのだから。
そのための努力なら欠かさない。
俺って健気でかわいいな、と俺は思った。
成り代わり主人公定番の悩みですよね(よく知らない)(多分そうという決め打ち)