それいけ!血塗ちゃん   作:九条空

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「こちら故人の釘崎野薔薇です」「はい、オッパッピー!」という展開をずっと待ってたんですが来ねえので痺れを切らして投稿しました。

濃味もち粉様から血塗ちゃんのイラストをいただきました! ご紹介が遅れてすみません!
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かわいいね


なんとか!血塗ちゃん

 

 俺はしばらく京都預かりになった。

 なんでやねん、と思ったが、俺の右腕を腹の中に収納している呪詛師が京都預かりである以上、俺もこちらにいた方が腕の返還が早く済むだろうから、俺にとってもさほど異論はない。

 異論があるとしたら、肝心の俺の腕について一週間音沙汰がないことと、五条悟が初日で「僕仕事あるからあとはガンバ!」と東京に帰ったことくらいだ。

 

 これで俺が京都連中に集中砲火されて暗殺されたらどうするんだよ。

 その場合暗殺じゃないな、だいぶ派手に死にそうだ。俺の暗殺を画策しているのが楽巌寺学長だった場合、京都校は彼の庭のため、いくらでも隠蔽できそうだし。

 

 事実、奇妙なことにそうなってはいない。

 五条悟が俺を置いて行ったんなら、それなりに計算があってのことだろう。

 あるよね? あってくれ。でもカエルまんじゅうのトラウマもあるし……まあ、なかったら俺が死ぬだけだしもうどうでもいいね!

 

 ここにきてから何人かと新しく知り合ったが、京都にもいい奴は多いので悪い生活ではない。

 いや、冷静に思い返すと、自信を持っていいやつだと言い切れるのは三輪だけだったかもしれない。

 

 俺は名古屋で右腕を失ったが、意外なことにさほど困っていない。俺が今最も困っているのは、俺の半身であるニンテンドースイッチが手元にないことだ。右腕より半身失う方がダメージでかいに決まってるだろ! 常識的に考えて!

 ちなみに俺のもう半身はプレイステーションだ。体は玩具でできている(I am the bone of my toy.)

 

 スイッチもプレステもない以上、俺には両手を使った精密動作を行う機会(機械)がないため、片腕がないことの不便さをイマイチ実感できていないというのが正しい。

 

 一周回って東京に帰りたくないという気持ちさえ湧いて来た。

 ゲームをやりたくてたまらないのに、いざやったら腕がね〜うまくできね〜って落ち込むかもしれない。

 あんだけ自分を大切にしろと教育されてたのに、自分で腕ぶった切ったとバレたらにーちゃん達に叱られるかもしれない。

 ヤダー! 俺はもう京都の子になるー! と叫びたくなる衝動にかられるが、いやいや俺は呪胎九相図の子なのでノーセンキュー、とギリギリ理性を保つ日々だ。

 

 総合すると京都での生活はまあまあ快適——と思っていたのだが、俺の前に知らねえ補助監督がやってくるとなると話は変わってくる。

 大げさなほどオドオドしている。どう見てもやましいことがありそうだ。

 

「その……任務が入っていまして……」

「その任務が今からってお前が言ったら、俺はどうすると思う?」

「え!? ど、どうするん、ですか?」

 

 その反応から言ってわかった。今からなんだな。

 安心しろ、俺はこういった出来事には五条悟で慣れている。

 ニコ、と笑いかけると、補助監督も歪んだ愛想笑いを浮かべたので、俺は続きを言った。

 

「殴る」

「ひ、ひええ!?」

 

 拳を握ってもいないのに、大層怯えられた。

 ムムッ、俺は危険物扱いされてんのかな。初対面だし仕方ないか。

 もう少し柔らかく接するとしよう。むやみに人を脅かしたいわけではない。

 

「お前をじゃねえよ」

「で、では誰を……?」

「フッ……誰だろうなあ」

「ひええ!?」

 

 だからなんでそんなに怯えるんだろうか。

 

「も、申し訳ありません……! 命だけは……!」

「ええー? 俺人殺したこと一度もな……ごめんそれは嘘」

「ひええ!?」

 

 受肉の時に殺してるゥ〜フゥ〜(空元気)

 

「殴るのはお前じゃなくて五条悟だから安心しろよ」

「安心できませんよ……! ごめんなさいごめんなさい!」

 

 伊地知といい、補助監督ってみんな申し訳なさそうにしているのがデフォルトなのか?

 新田はそんなことなかったんだがな。

 あ、そういや新田弟は語呂がいいので新田弟って呼ぶことにしたけど、新田も新田姉にした方がいいのかな。新田姉もそこそこ語呂がいいな。

 

「どんな任務を誰と行けばいい? まさか俺一人で行かすわけじゃなかろう」

「あ、その、一級呪術師の方と……はい、目的地はダムでして……」

「へー、ダム。てなると山の上か」

 

 そんでもって一級呪術師か。俺が知ってる一級呪術師なんて限られてんだよ。

 その中で京都……ってなると一人しかいねえんだよな。

 仲良くできるかなー。にいちゃんのブラザー……俺の好きなタイプ、今からちゃんと考えなきゃか。

 そもそも今から考えている時点で信念がないとか言われそう。でも俺赤ちゃんだし……仕方ないよね?

 

 などと考えていた俺だったが、予想を裏切ってやって来たのはななみちゃんだった。

 

「血塗さん、お久しぶりです」

「ななみちゃん、久しぶり! 一緒に行ってくれるのか〜!? ヤッター!」

 

 ななみちゃんは通常運転だった。

 通常じゃないのは片腕無くなったままの俺の方だ。おかげさまでななみちゃんと久々の再会を果たした喜びを、諸手を挙げて表現するつもりが、片手しかあげられなかったぜ。

 

「ええ。五条さんに脅されましてね」

「はあ!? ななみちゃんに何やってんだ五条悟許せねえ! 今から一緒に——今から一緒に、殴りに行こうか!?」

「いえ。半分アナタのせいですから」

「俺ェ!?」

 

 俺はどうやら、いつのまにかななみちゃんのことを苦しめていたらしい。

 なんてこった。そんなことをしたいわけではなかった。

 一体何をしたせいで俺がななみちゃんを苦しめてしまったのかはわからないが、そのストレスの受け皿になるくらいのことならばできるだろう。

 俺は粛々と提案した。

 

「俺のこと、殴っておくか?」

「結構です」

 

 ド、ドライだ。乾き切ってるぜ。ドライもんって呼ぼうかな。

 素っ気なくされていじけた俺のことは拗ね夫って呼んでくれ。

 

「ま、ななみちゃんにどうにもできないことを、俺がどうにかできるわけねえしな」

「どうにかできることがあります」

「マジ!? なんだ、なんでも言ってくれ!」

 

 ななみちゃんに何かしてあげられることがあるならなんでもしてあげたい気分だ。

 

「五条さんに、必要以上に近づかないように」

「任せろ! 今だってやってることだぜ!」

「なら無理のようですね。諦めます」

「エエーッ!?」

 

 流れるように諦められてしまった。一体何故なのか。

 俺はバカだ。だからななみちゃんが、俺が五条悟に近づくことを何故嫌がっているのかわからない。

 わからないままでも、ななみちゃんが望むならそうしようと心意気を新たにしたというのに。

 出鼻くじかれちゃった。

 

「ななみちゃん、俺は言われたら結構努力するタイプだぜ? やってほしいことほら、もっと具体的に言ってくれたら、できるかも、だぜ?」

 

 チラチラ視線を送りながら、他にやってあげられることねえかなって探ったら、ななみちゃんがため息をついた。

 

「ではこの任務を定時で終わらせましょう」

「マカセロー! 俺に労働基準法は適応されないから、ななみちゃんだけ定時で帰っていいぜ!」

「いいわけないでしょう」

 

 ハッ! 監督責任があるから帰れないのか……なら手早く終わらせるしかねえな。

 俺はななみちゃんの腕を掴んで引っ張った。

 

「じゃあ早く行こうぜ。あっ他に誰かメンバーいるのか?」

「いいえ。私と血塗さんだけです」

「マジ? ランデブーじゃん」

 

 ななみちゃんは無感情な目で俺を見下ろした。

 

「意味自体は間違っていませんね」

「そうなんだ。俺ランデブーの意味知らねえ」

「そういったスタンスはいずれ取り返しのつかない事態を招きかねません」

 

 スタンスの意味もちょっとよくわかんねえな、とは言わず、俺はニコッと笑ってうなずくだけにした。

 

 未だにビクビクしている補助監督の運転する車に乗り、目的地へと向かう。

 チャイルドシートがないというのは新鮮だ。

 そういえば死にかけて運搬された時にもなかった気がするが、死にかけてたからあんまり覚えていない。

 

 俺はダムに行ったことがないため、ダムに駐車場が併設されていることに感銘を受けていた。

 なんなら山の獣道をエッサホイサと歩いていかなければならないのかとまで想像したぜ。

 よくよく考えたらダムは日々整備しなきゃいけないんだから道路くらい繋がっとるわな。

 

「今回の呪霊って強め? 弱め? ななみちゃんいるからやっぱ強め?」

「呪霊の階級が事前にわかっている場合はそれほど多くありません」

「マジ? じゃあ急に特級出てくるかもしれないのか。まあ特級ならここにいるけど、な〜んつって!」

 

 完全に滑った。

 

 俺は若干凹みつつ、気持ちを切り替えることにした。

 呪霊の強さはわからずとも、ここに『いる』ということは確実にわかっているのだ。すん、と鼻を鳴らしてみる。

 

「なんかカレーの匂いしない?」

「しません」

 

 なんだと……? 俺の特級嗅覚は確実にインド的スパイスを捉えているというのに。

 

「血塗さん」

「はい」

 

 ふざけるのも大概にしろという圧を感じたので、俺は背筋を伸ばして地面を見た。

 残穢があるのだ、明らかに。見ないふりを少しだけしたくなってしまう、俺の知っている残穢が。

 

「うーん、俺って嘘下手なんだよな」

「知ってます」

「エ!? 俺ななみちゃんに嘘ついたことあったっけ!?」

 

 ざっくり思い出しても特に思い当たる節はなかったが、どうしてか知られているらしい。

 一体どこから情報が漏れたんだ……そもそも受肉してからあまり嘘をついた記憶ないんだが。

 

「とりあえず誤魔化せないから言うけど、この残穢は俺のお兄ちゃんだな」

 

 正確にはお兄ちゃん()()の残穢だった。

 

「今回の呪霊ってどんな悪さしてるかすら聞いてねえんだけど、人殺してんの?」

「この場での死亡事件は起きていません。報告があるのは物損ですね。舗装された道路に大きなクレーターができており、その場に大量の血痕が残されていたというものです」

 

 ええ? お兄ちゃん確定じゃんそんなん……。

 なんでそんなことしたのか知らんけど、何かとの戦闘痕だろうか。

 

「この返答次第で案内するかどうかを変えるわけじゃあねえんだけど、心構えをしたいから聞くぜ。ななみちゃん、これを追って俺のお兄ちゃんとぶち当たったら殺すのか?」

「状況次第ですね。話し合いが可能であればそちらを優先します。無駄な労力を払いたくないので」

「そうか!」

 

 ななみちゃんの手を掴んで引っ張った。

 

「じゃ、追おうな! 残穢はこっち、ななみちゃんにもわかるだろうけど!」

「そうですね」

 

 ななみちゃんの返答を聞いて俺は決めた。

 お兄ちゃんたちでなく、()()()()()ことを。

 

 この残穢は間違いなくお兄ちゃんたちのものだったが、しかしこの残穢を追った先にお兄ちゃんたちはいない。

 何故なら俺は、お兄ちゃん達の居場所がだいたいわかるからだ。

 血でわかる。俺たちは繋がっているからな。

 

 ななみちゃんの返答がどちらにせよ正しく()()()()()が、()()()()()()()かは俺が決めさせてもらうというわけだ。嘘じゃないもんね。

 

 ちなみにこの機能については、五条悟にも内緒だ。だって案内しろって言われたら、困るもんね。

 とはいえ、お兄ちゃん達の居場所がGPS並みの正確さでわかるわけではない。せいぜい方位磁石くらいだろうか。なんとなくこっちかな〜という方角と、めっちゃ離れてるかそこそこそこ近いか程度の距離くらいまでしか判断できない。

 もしかするとお兄ちゃんと兄者は兄パワーで俺よりも精度が高いのかもしれない。でも俺、下6人の弟達の居場所ほぼわかんないから兄弟の上下はあまり関係ないんじゃねえかな――いや、弟たちが受肉したらまた変わるのか? いつか検証できるといいけど。

 

 ななみちゃんは話し合いが可能であればそちらを優先すると言ってくれたが、肝心のお兄ちゃん達の方が話し合いが可能な状態なのかわかんねえんだよ。だからダメだ。

 

 無駄な労力を払いたくないってんなら尚更会わない方がいいだろう。

 戦闘の有無に関わらず、無駄かどうかもわからないが、絶対に労力は払うことになるぜ。向こうは特級呪霊が2人なんだから。

 

 原作では見られなかった脹相・壊相vs七海という対戦マッチ内容には興味あるけど、実の兄達vs引率の先生は絶対に見たくないです。勘弁してください。

 

 にーちゃんにひっついて呪術高専に来てこっち、これほどまでにお兄ちゃん達と接近するのは初めてだ。

 こりゃ真人がお兄ちゃん達は向こうから離脱したと言っていたのは本当かもしれないな。

 ま、近えっつっても、多分10km以上は離れてっけど。

 

 ここにななみちゃんがいなかったら間違いなくお兄ちゃん達との合流に向かっていたが、そもそもななみちゃんがいなければ俺は外での行動を許されていない。

 もうちょっとお兄ちゃん達が近い場所にいたらななみちゃんを振り切って逃げるという可能性も……? いや、俺がななみちゃんの目の届かないところに1秒でもいられる想像ができない。ななみちゃんはおれがかんがえたさいきょうの引率の先生かよ。

 

 ひとまず、俺から能動的に行動するのは避ける。

 お兄ちゃんたちが俺に会おうとするのなら、向こうから行動があるだろう。たぶん俺がきょうだいのなかで一番馬鹿だし……俺が下手に動いて不都合が起きるのが一番嫌な展開だ。一旦、待ちの体勢ということで。

 

 だとするのなら、今回のお仕事は誰とも接敵せず平和に終わるだろう。気楽に行こうぜイエイイエイ。

 

「ななみちゃん、結局ランデブーってどういう意味?」

「宇宙船同士が近づくことですよ」

「――俺とななみちゃんは宇宙船だった……!?」

 




フランス語のランデブーには待ち合わせ場所や会合とかいう意味もあるのですが、日本ではデートという意味の(やや)死語か、宇宙関係で耳にする単語です。
ななみちゃんは真顔でボケるタイプだと俺がうれしい。
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