「悪いことは言わないわ。アイツだけはやめておきなさい」
「……?」
再会した歌姫に両肩を掴まれて、必死の形相で諭された。
なんのことか全くわからなかったので混乱する。
「五条よ、五条悟」
「何をやめればいいんだ?」
「あんなのと付き合ってもロクな事にならないわ。真性のクズよ、アレは」
「えっうん。その通りだな」
「じゃあなんでよ!?」
「何がだよ!?」
歌姫にがっくんがっくん揺さぶられて視界がめちゃくちゃになる。
回りかけた目を、真剣に覗き込まれた。
「五条のこと好きなんじゃないの?」
「んー? ずっと嫌い寄りの嫌いだったが、今は普通寄りの嫌いだな」
「だからなんでなのよ!?」
「だから何がなんだよ!?」
再び揺さぶられて視界がぐるぐる回る。うおお、こうして回されてみて初めて分かるが、これは意外ときつい攻撃だ。
しみじみとかつて新田弟の頭部をシェイクしてしまったことを後悔しているぜ。
「おい、順を追って説明してくれ。俺が五条悟と何をするのをやめればいいんだ」
「私に言わせんな!」
「エエーッ!? 言ってもらわなきゃさすがにわからねえだろ!? 俺に心を読む術式はねえぞ!?」
掴まれた肩に、痛いくらいに力が込められる。
ついでに歌姫の眉間にも深いシワがよる。俺の耳元に顔を近づけて、そっと囁いた。
「……子作りよ」
「まだしてねえけど?」
「これからもすんなって言ってんだわッ!」
「あええ? なんでそんなことを言われて……いや、ええ……?」
俺と五条悟が子作りすることが、歌姫になんの関係があるんだ?
歌姫って五条悟のこと嫌いだったよな? じゃあ嫉妬とかじゃないな?
語り口からいって善意からの忠告って感じなわけだが、それって俺に言うことなのか?
「それを言うなら俺にじゃなくて五条悟に言うべきなんじゃないのか?」
「言えるかッ!」
「エエーッ? だって子作りするってなったら俺に拒否権ないだろ」
歌姫は天を仰いだ。
「嫌な想像をさせるんじゃないわよ……」
「何想像したのかわかんねえけどごめんな?」
俺の預かり、一応東京校ってことになってるが、権力関係で言えば圧倒的に五条家なんだよな。
ぶっちゃけ五条悟になんか言われたら俺は逆らえないかな。
唯一逆らう方法があるとしたら自死くらいなわけで。さよなら天さん……。
「アンタね、もっとやりようがあるでしょうが。全身で嫌を表現しなさいよ」
俺は一体何を言われているんだ?
だ、駄々をこねろと? 何に? なぜ?
俺が困惑の表情しか浮かべていないのに気がついたらしい歌姫が、言い直す。
「嫌いな奴の子供なんぞ産まなくて済むように立ち回れって言ってんの」
「そもそも子供を産みたくねえからなあ。産まなくちゃいけねえなら相手が嫌いだろうが、そもそも嫌なんだからもうしょうがねえよな」
「……だから!」
だから、って言われても。
「俺って立場よわよわだからなー。使いたくない手札でも使わなきゃいけねえんだよ、歌姫と違って」
「そうだったわ。血塗、アンタって150年前の生まれなのよね。価値観が違って当然だわ……」
「それ関係あるか?」
「ありありよ。前時代的すぎよ。女も子供も道具ってわけね」
「男も人間も呪霊も道具に成り得るだろ、何言ってんだ」
「時代とかじゃなかったわね」
じゃあなんだったんだ。もう俺歌姫のことなんもわからん。
「もういいわ。とにかくね、アンタと五条の会話聞いてたら
「お、おう……?」
「あっちもくらってたわね、間違いないわ。かわいそうだと思わないの?」
「……?」
歌姫が「なるほどこれがわかんないって顔ね……」と呟いた。
「あたりまえだけど私じゃアンタの面倒見切れないわ。強くなるなり味方つくるなりうまくやんなさい」
「よくわかんねえけどわかったぜ! 歌姫より強いやつを味方につけろってことだな!」
「一言余計よ!!」
側頭部をたたかれた。
「うーん、でも京都って五条悟のこと嫌いそうなやつばっかじゃん? 俺もそれには完全同意なんだが、いわゆる普通の呪術師って感じだから特殊な俺とはあんまし気が合わねえかもな。ゲーム好きいる?」
「……あんまり聞かないわ」
「ダメかも……」
「あきらめるの早すぎよ、アンタにはゲームしか引き出しないんか」
そうだが?
「一年のほうはアンタのこと気にしてたわよ」
「新田弟か? まあ目の前で女児の半死体見たらその後が気になるのは普通だよな」
「それもそうね。元気な姿みせてやりなさいよ、腕ないけど」
「元気に飛び跳ねられる程度には回復したから見せてやるか、腕ねえけど」
歌姫と一緒になくなった腕を見下ろす。えーん、戻ってくるんかこれ。
そうじゃなかったら腕を再生できるほどの呪力があればいけんだけど……まだ全身きちんと治せてない今はその可能性について考えるだけ無駄というものだ。
「あとはそうね……一緒に任務した2人とも仲良くできそうじゃない?」
「エエ……歌姫の目は節穴か……?」
「失礼ね、私の教え子なんだからアンタより詳しいわよ」
加茂と西宮にはめちゃめちゃ殺されかけてんだけど。
私怨ではなく仕事での殺意だからプライベートでは平気ってこと……?
普通の人間だったら事前に殺そうとしたやつとは仲良くできねえと思うんだけど……呪術師だから普通の感覚は存在してねえってことぉ……?
「無駄にかみついたりせず仲良くやんのよ」
「向こうがかみついてこなかったらな」
「真依……」
何も言ってないがなにかが伝わったらしい。
ヒント:実はグループ通話だった
先日夢に脹相が出てきたんですけど、その夢の中で自分が壊相と血塗の死体を材料にキャラ弁作っててもうダメだと思いました(色々な意味で)