それいけ!血塗ちゃん   作:九条空

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血塗ちゃんが性転換している、ということが終盤までわからないような構成で書いていたので、読者へのサプライズ的に用意していたんですが、ハーメルンでは普通に「性転換」というタグをつけなきゃいけなかったのでセルフでネタバレすることになりウケました。
まあ誰かの地雷だしな。というわけでTSの話です。


小話:壊相

「兄としての尊厳はもう……」

「もうすでに!?」

 

 壊相兄者に言われて初めて気がついた。

 

 全裸の自分の体を見下ろす。

 つるん。ぺたん。

 そして突起のない股の間。

 

 つんつん、とへその下をつついてみる。

 人間にはわからない感覚だろうが、俺は一応半分人外である上に、性質上そういうのに敏感だった。

 

「しきゅうがあるんだけど……」

 

 前世では持っていなかった臓器が内臓に存在している。

 つまりこれはそういうことだ。

 

 女になってんじゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 いつからぁ!?

 いや真人に触られたのはあれ一回きりだから……つまり最初からずっとぉ!?

 俺は驚きすぎて「はわわ……」という声が出た。

 

 え全然見てなかった、人型になった自分の体よりも壊相兄者の格好の方がインパクトあったからかな。

 

「……今気づいたのか」

 

 脹相お兄ちゃんのクソデカため息、聞くの二回目だけど何回聞いても惚れ惚れしちゃうね。

 いやだって、体に違和感があるのは当然でしょ。

 だって俺たち今まで体なんて持ってなかったんだから。

 

 それがあの一応男ではあったカービィから、人間っぽくなった時に、性別変えられてると気づけってのは結構無理があるんじゃないだろうか。

 俺は何より初めて出会う受肉したお兄ちゃんたちの方に気を取られていたわけだし。

 

「血塗を女性として扱っていいのかはわからないけど、女体はそう簡単に晒すものじゃないよ」

 

 なるほど、男体なら壊相兄者くらいは晒していいってことですね。

 

「じゃあやっぱ服着なきゃじゃん! 俺夏油——」

「行くな」

「ダメだからね」

 

 はい。すみませんでした。

 お兄ちゃんたちにはテンドンという概念がないらしい。

 まあ生誕初日でお笑いの手法を知れというのは無茶だよな。

 

「一旦私の服を貸すから……」

 

 壊相兄者は自分の服に手を掛けた。

 

 ファ!?

 

 俺はめちゃくちゃ動揺した。

 すでに兄者の体すら隠せていないその服でどうやって俺は自分の体を隠せばいいんだよ!?

 

 どこをどう!?

 女体的にはどこ隠すのが優先事項!? 上!? 下!?

 てかそれどうやって着てどうやって脱ぐの!?

 

「んぶはっ!」

 

 突如上から降って着た黒い何かに視界を全て持っていかれる。

 

「俺の方が布はある」

 

 そうだなお兄ちゃん。

 壊相兄者は全然布面積持ってないよな。

 

 でも服のこと布って言うのやめような。

 しかしお兄ちゃんが貸してくれたこの黒い部分の服飾は、俺も布って言う以外に表現方法知らねえわ。

 ……袈裟?

 

 脹相お兄ちゃんに布を巻きつけられてワンピースみたいになった。

 すんすん、と匂いを嗅いでみると線香みたいな匂いがした。

 

 この服って死体から追い剥ぎしてるのだろうか。

 いや、だったら死臭がするか。

 

 墓場から持って……なんで墓場に着物落ちてるんだよ。

 寺の住職殺して持って来てる?

 血の匂いはしないし、なにより俺脹相お兄ちゃんみてえな服着た坊さん見たことないけどね。

 

 てかお兄ちゃんの履いてる靴ブーツだからな。俺ブーツ履いてる坊さん見たことないかな。

 そんでもって壊相兄者はなんで裸足なんだろう。靴のサイズなかったのかな。

 

 そうじゃなかったら夏油が買ってきてんのかな。

 服の趣味どうなってんの? どこで売ってんだよ、自分プロデュースのファッションブランドでも持っとんのか。

 

 それから、お兄ちゃんはなんで俺のことを無言で見つめているんだろうか。

 俺また何か怒らせるようなことをしたんだろうか。

 顔に怒気はないと思うが、基本的に無表情なので把握が難しいんだよな。

 

「服を持って来る。壊相、血塗を見ていてくれ」

「任せて、兄さん」

 

 そんな監視が必要なほどの幼児じゃないんですけど。

 とは言わないでおいた。前科あるからな。

 

 ふと思いついて、すんすん、と壊相兄者の匂いを嗅いでみる。

 

「血塗?」

 

 急に近づいて来た俺の意図を察しかねた兄者が不思議そうな顔をした。

 

 ああそっか。

 受肉したから逆に、不思議なテレパシーでぼんやりとだけ感情が伝わる、みたいなことがなくなっちゃったんだな。

 だから俺はちょっと大げさに自分の口角をあげながら言った。

 

「兄者の匂いってなんか安心すんなー」

 

 俺の術式がものを腐らせる性質を持っているからだろうか。

 壊相兄者からする腐臭じみたそれは、実家のような安心感を覚えさせる。

 

 もしかして俺の実家って三角コーナーなのかな。

 ゴミ捨て場とかに行ったら落ち着くんだろうか。

 

 んー、でも今自分の腕すんすん匂って思ったけど、俺からは腐臭全然しないな。

 

「真人に匂いも兄者に似せてって言えばよか……」

「血塗」

「アッハイゴメンナサイ」

 

 真人が名前を呼んではいけないあの人みてえになってる。

 

「そういえば兄者の背中ってさ」

 

 あまりにもナチュラルに後ろ歩きしていたので完全にスルーしていたが、俺はまだ壊相兄者の背中を見ていない。

 というか見ない方がいいのはわかっているのだが、兄者の背中について誰からも説明をしてもらっていない。

 

「見ないでね」

「見るとかではなく」

「見ないでね」

「アッハイ」

 

 圧がすごい。

 顔と格好も相まって圧がすごい。

 

「私の背中は、そうですね、俗にいうコンプレックスというやつです」

「俗に」

 

 生誕一日目から俗世を知ってるなんてさすが兄者だぜ。

 それから突然の敬語は何。

 

「わかるぜ! 俺も全身コンプレックスだった!」

 

 あ、そうだ。

 

「俺自分の顔見てない!」

「今気づいたんだ」

「……自分の顔ってどうやって見るんだ!?」

「鏡というのがあってね」

 

 いや違う、俺はそんな原始人じゃないってば。

 ちょっと焦って言葉のチョイスを間違えただけで、鏡という概念のことを忘れていたわけでは。

 

「ほら、ご覧」

 

 というか兄者はなんで鏡を持ってんだよ。

 ないと思ってたから俺は慌てていたのに。

 

 向けられた鏡を、大人しく覗き込んだ。

 

 セミロングくらいの青い髪。

 透き通るような白い肌に、まろい顔の輪郭。

 ぱちくりと大きい白黒が反転したお目目。

 鼻のあたりを通る、横一文字の刺青っぽい何か。

 半分開いている口からは、白い歯と真っ赤な舌がのぞいている。

 

 鏡の向こうからは、そんな感じのちょっと間抜け面をした女の子が俺を見ていた。

 

「かわいー!」

 

 なんだよ真人、兄譲りの美形ってところはマジでちゃんと注文を受け付けてくれてるんじゃねえか。

 性別が変わっているからイケメンではなく美少女……いや下手をすると美幼女だが、これはこれであり。

 いや、むしろこっちの方がいいまである。

 

 そうか、俺ってゲームやるとき大抵男キャラ使ってきてたけど、今初めて女性アバターを使う男の気持ちがわかったかもしれない。

 全然ありですね。だって鏡見たときに毎回かわいい幼女が見返してきてくれるんだろ?

 

「あ。兄者もまひっ……あれになんとかしてもらったら?」

「血塗がこれだからね……」

 

 俺のこと失敗作みたいな目で見るなよ!?

 かわいいはかわいいだろう!? かわいいは正義だろう!?

 

「私も女になったら困るよ」

「あいつそんな女に飢えてんのかな」

 

 ハーレムでも築きたいんか。

 まあ呪胎九相図侍らせられるなら俺は魅力的に感じるけど……てかそれハーレムじゃなくてただの家族団らんだな。

 真人もそういう家族に飢えて……いやキモッ! んなわけないだろ!

 

「でも俺はそのまんまの壊相兄者が好きー」

「……そういうことを言えるのになんで……」

 

 いいことを言ったつもりだったのに兄者が頭を抱えてしまった。何故なのか。

 

「あのね、血塗。私たちも血塗に同じことを思っているよ」

「あ、兄者……!」

 

 ギャルゲーだったら攻略されてたなってくらいのときめきを感じた。

 メモリアルが始まりそうだった。

 

「でも俺は気に入ったからこのまんまでいいぜ」

「血塗……」

 

 あごめん、せっかく兄者がいいことを言ってくれたのに今の俺全然空気読めてなかった。

 いけねえ、俺は何回兄者たちに頭を抱えさせるつもりなんだ。

 ちょっと不安になってきてしまった。

 

「今の俺でも、嫌いじゃないよな……?」

「もちろん」

 

 兄者は大きな手で俺の頭を撫でた。

 ちょっと兄者ぁ、弟にナデポ使うのやめろよ。

 撫でられる前から好きなんだからもっと好きになっちゃうだろうが。

 




血塗はスプラだとバケツを使います。

明日血の雨が降らなければ脹相お兄ちゃんの小話があがります。
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