魔術の使えない魔力使いの魔術講義~空き巣から始まる学園生活~ 作:運命羊
「……金がねぇ!」
拳にこれまでの人生で一番と言える程の力を振り絞り、その手に握られた財布を床に投げつける。そこからチャリンとこぼれる銅貨2枚、これが俺――魔力使いアッシュの全財産である。
「雀の涙にも程があるよ? お兄ちゃん」
妹のピリアは椅子に座り高級そうなお茶をすすりながら、俺の姿を憐れむように見つめる。逆には俺はその姿を見て、不満を募らせる。
「クソ…お前と俺、いったい何が違うっていうんだ? なぜお前には金があって俺には金がない!?」
「仕事やってるかやってないか、この差だよ」
「俺だってなぁ! 働く気はあんだよ、仕事がこねぇんだ!」
俺は魔力使いを本職として生きている。魔力使いとはその名の通り、魔法ではなく魔力を専門に扱う職業である。魔術師が魔力を使って何かを具現化する人ならば、魔力使いは魔力その物を扱う人の事を言う。
魔術師はその魔力で派手に炎や水、雷を放ったりするが、魔力使いは目に見えない魔力を動かしたり操ったりする。つまり、ありとあらゆる面で魔術師に劣っている不遇職なのだ。
妹はここ、ファルディスタ王国の王立魔術学院で教師を務めている歴とした魔術師である。その名は外の国にも及び、世界の枠でも一位二位を争う程の実力だ。そんな妹に対して兄である俺は魔力使いとしては非常に優秀な力こそ持つだろうが、魔術師の影に埋もれ仕事が無くなってしまった哀れな男である。実力は同じなのになんだこの天と地の差は。不公平だ。
「働く気がない奴らよりはマシなんだ、世の中の人間は俺の才能に見向きもしないんだ! わかるかこの気持ち!」
「う~ん、分からないかも?」
「クッソ、この最強魔術師女め! これだから魔術師ってのは嫌いなんだ」
「あ、誉め言葉ありがとう」
なんだかんだ兄妹仲は良い方である。まぁ本当は喧嘩になればそれこそ街一つ巻き込みかねない程の大惨事と化すから、お互いに喧嘩しないように努めているだけなのだが。
「明日街へ出て何か働き手がないか探すしかないな。さすがにこの銅貨2枚じゃ明日はすごせねぇ、何とかしねぇと本当に命の危機に瀕する」
「おぉ、そう? じゃぁ可愛い可愛い妹の私が、昼用のサンドイッチでも作ってあげようか?」
「嫌いな魔術師に養ってもらう程落ちぶれていないわ!」
ピリアは素直じゃないなぁという顔をしつつも、うんうんと頷く。頑張ろうとする俺を見ると、しっかり応援してくれるをの見る度に、俺は良い妹を持ったと喜びを覚える。が、その都度俺は失敗をしてきた為、その応援をいつも無駄にしてしまっているのである。
情けない兄だよ、本当に。
だが、そんな日も今日でお別れだ。明日こそ、明日こそ、良い働き先を見つけてやるんだ。
〇
ファルディスタ王国。北は帝都ギルエスタ、南は魔術都市ファンティウム、東は農区ムーンゼルタ、西は王都シオン。この4つの都市と女王のいる城で形成された大王国。
女王が代々魔術師という事もあるように、昔からこの王国は魔術師によって繁栄の道をたどってきた。噂によっては、王国が作られたこの大地も魔術師によって作られたのではと言われている。
俺と妹の住むここ南の魔術都市ファンティウムはそんな王国の中でも更に魔術で栄えている、それを裏付けるかのように、都市の中央部にはファルディスタ王立魔術学院が設置されており、その学院を卒業した優秀な魔術師が、この街の更なる繁栄に努めている。
翌朝――俺はそんな魔術馬鹿な街に駆けだし、手あたり次第に職を探し出した。
「魔力使いの俺、仕事にどうっすか!? 重い物持てるぜ! 早く走れるぜ! 水中で常に息を止められるぜ!」
『あぁ? 知らねぇ、帰った帰った』
『んなもうもう普通の魔術師だけで十分だ、お前なんかいらねぇ』
『え~? 魔力使いって何~? しょぼそう』
まぁ結果は予想通りだった。どこへ行っても、ショボいだの、魔術師の方が使えそうだの、かっこいいだの、色々文句を投げかけられる始末。
マジでこれからどうすりゃいいんだ? どこもかしこも魔力使いだからって理由でハブりすぎだろ。いやまぁ確かに魔術師の方が仕事の効率は良いけどよ、人手は一人くらい多くてもいいだろうに。
いっその事都市を出て西の王都シオンにでも行くか? 行くとしても王国領を通過しなければならない事もあり、馬車を使っても乗り継ぎで3日はかかるし、妹と離れ離れになって一人孤独にならなければならないという悲しさも背負わなければならない。
そんな度胸俺にある筈がない。
「じ、時間がやばい! ……きゃ」
「うわっと?」
そんな恨み言を心の中でボヤきながら歩く惨めな俺に、一人の少女が俺の胸あたりに強く激突する。
背中まで伸びた綺麗な金髪に碧眼、そして白と黒を基調とした制服姿をしたその少女は、顔を手で覆いながら『す、すいませんっ!』とぶつかった俺に謝罪する。
「あぁ、魔術学院の生徒か? 遅刻しそうってんなら早いとこ行った方が良いぜ。謝罪はいいからよ」
「え、あ、ありがとうございます、すいませんでした!」
少女は再び俺に一礼をし、俺に背を向け中央の学院に向かって再び走り出す。
俺は手を小さく振りそれを見送ったが、俺の現状は変わらぬままであった、が――少女のおかげで一つヒントを得る事が出来た。
「魔術学院、か。へぇ」
俺はニヤッと怪しげな笑いをこぼす。――学院、学費、金庫! 考えつく事はどれも外道と言わざるを得ない物であった。
だが外道で何が悪い! 外道だってなぁ、生きるのに必死なんだよ! しかも王立だろ!? ちょっとくらいならバレやしないだろ。
一か月、一か月の生活費くらい。と、俺は淡い期待を込めながら少女の後を追い、その魔術学院へと走った。
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