どうか気長に付き合ってくださいませ。
ふわふわ…………
ふわふわ…………
何もない、真っ白な空間を私はゆらゆらと漂っている。
キレーションランドが壊されて、私は終わりを迎えようとしている。
由比鶴乃。
彼女を思う魔法少女たちの手によって、由比鶴乃は私から切り離された。
鶴乃に憑依して色々なものを見た。
鶴乃の実家が経営する中華料理店「万々歳」のこと。
そこで料理の腕を振るう姿はとても楽しそうで、あの笑顔に元気付けられているものは少なくないだろう。
七海やちよの自宅たるみかづき荘にも鶴乃は頻繁に食事をしたり、泊まったりしていて何てことはない日常のはずなのにキラキラ輝いていて私からすれば目を背けたくなるほどに眩しかった。
そんな日常を心底大事に思っていたに違いない。
だけど、私はそれを壊してしまった。
それは私の意思で行ったことではないけれど、自分が大きな要因となってしまった事実は変わらない。
僅かに残った感覚を頼りに、右手をじっと見つめる。
死人じみた白い手。
戦闘用の服も、髪も鶴乃とはかけ離れた緑がかったものになっている。
最後に残された鶴乃を象った姿に、胸がズキンと痛むのを感じた。
強い強い罪悪感が私を襲う。
謝りたい。
そしてあわよくば、彼女たちの助けになりたい。
今すぐにでも駆けつけて…………
でも、それは無理な相談だと頭を振ってその思考を消し去ろうとする。
私はウワサだから。
彼女たちは受け入れてくれないかもしれない。
受け入れられないだけならまだいい、それは至極当たり前のことでしょうがないこと。
もしも私があの人たちの前に現れることがあれば、まず間違いなく殺されるだけだ。
────────────────本当に?
…………え?
何処かから声が聞こえた気がした。
とても可愛らしく優しい声で、私に誰かが問うた気がしたのだけれど…………
「モキュ」
再び誰かの声。
今度はどちらかと言えば獣の鳴き声みたい。
首だけを動かして声のしたほうに振り向くと、白い何かがいた。
どうしてここに?
ここで何をしているの?
そんな疑問がちらつくけど、私は目の前の小さいキュゥべぇから目が離せないでいた。
「モッキュ!」
小さいキュゥべぇが差し出す小さい手、または前足を私はじっと見つめていた。
これは…………触れろということなのかな?
ほとんど動かなくなった右腕になけなしの力を込めてなんとかキュゥべぇに触れると、小さいキュゥべぇの全身から眩い光が溢れ、視界を埋め尽くした。
◆◆◆◆◆
とても強い光に目をやられ、閉じていた瞼をそっと開けると…………
私は驚愕のあまり、横たえていた身体に鞭をうって飛び起きた。
小さいキュゥべぇは既に消えていて、見覚えのある風景が広がっていた。
そこは何処かの廃屋の屋上のようで、全方位見渡せるのは助かる。
鶴乃の記憶を呼び起こすと、私がいるここは調整屋八雲みたまのいる廃墟。
ソウルジェムの『調整』を行ってくれる場所。
…………でも、私には関係がない。
情報を得ようにも、鶴乃の姿でいることを加味しても警戒心を抱かれるだけだろう。
目的はハッキリしているのに、私の足はちっとも動いてはくれない。
何でここにいるのかも、そもそも何で今だに生きているのかも分からない。
……誰か…………
「…………助けて」
じわりと目尻から涙が溢れて、頬を伝っていく。
この涙の意味に私はすぐに気づいた。
ウワサの私にこんな感情があったことにも驚いたけど、そんなことは些細なこと。
もしもあの子達に刃を向けられたら?
魔法を撃たれたら?
想像しただけで怖くて怖くて堪らない。
膝を抱え、顔を埋めると何も見えないことに安堵してかどんどんとさっき以上に勢いよく大粒の涙が溢れ出してくる。
「あら~? こんなところでどうしたの? 可愛らしいお嬢さん」
間の抜けたような声音に恐る恐る目を向けると、調整屋こと八雲みたまがにこにこ笑顔で傍らに立っていた。