呪霊狩りの夜   作:夜須ふじ

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呪霊狩り1 宵の口

女学生は片肘をついた姿勢でかがみこみ、地面に手のひらをあてる。

その足元に一面の血だまりを幻視した。

 

「我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う」

 

彼女が歌うようにつぶやくと、瞬きの間にその姿が変化していく。何の改造も施されていない高専制服を着たおとなしそうな女学生だった彼女は、今や皮のコートに身を包み、帽子を目深にかぶる、ゴシックホラーを思わせるような格好に変わっていた。

 

「知らぬものよ――かねて血を恐れたまえ」

 

そう締めくくって立ち上がった彼女の右手には奇妙にねじくれた形のナイフが、左手には年季の入った細ながい短銃がいつの間にか握られていた。

 

「魔法少女かよ」

 

つまらなさそうに様子を眺めていた悟が毒づく。

 

夜蛾が突如連れてきた少女――。

彼女は夜蛾が任務先で見つけてスカウトしてきた非術師出身の新たな呪術師だ。今はもうすでに5月も半ば。傑とも硝子ともようやくなじんできたところで現れた新たな異分子の登場に悟が苛立つのもまあわからなくもない。

 

それを「まあまあ」と適当になだめながら、傑もじっと彼女を観察する。同級生の実力を知っておくことは大事だ。

『変身』という意味では、悟の魔法少女発言も間違ってはいないが、それにしては何となく血なまぐさすぎるきらいがあった。

彼女は手にしたナイフを少しふって具合を確かめると、準備ができたのか夜蛾に向かって右手を前にして頭を下げる独特な礼をした。

 

「では、始め!」

 

夜蛾の宣言とほぼ同時に呪骸が女にむかって突進していく。女は呪骸から遠ざかるのではなく、逆に接近して懐へ入ることでその攻撃をかわす。そしてそのままナイフですばやく2回切り付けて横にローリング。少し距離をとる。

呪骸はひるむことはないが、攻撃が空振りになったことで少々体勢を崩し、硬直した。が、すぐに持ち直して次の攻撃に移る。呪骸が攻撃をしようと右手を大きく振りかぶると、彼女は左手に持った銃をぶっぱなし、衝撃でのけぞった呪骸へあっという間に接近する。

 

そうして呪骸の無防備な腹へ右腕を貫通させた。

 

観戦していた硝子から「おお」思わずといった声が漏れる。

彼女はそのまま呪骸の核をつかみ、握りつぶしながらぶちぶちと引きずり出す。

そこで勝負はついた。

 

呪骸であるファンシーな人形は綿をぶちまけられて、とてもかわいそうな状態でそこに転がっている。これが呪霊や呪詛師であったら、かなりグロテスクなことになっていただろうから、呪骸でよかったといえよう(夜蛾にとってはその限りではなかっただろうが)。

あっという間に終わってしまったなというのが傑の感想だった。

術式を見るも何もない。最初こそ何もないところから呪具を取り出すということをして見せたが、それ以外はほぼ呪具と体術のみで簡単に呪骸を壊してしまったのだ。悟や傑よりは弱いだろうが呪術師の中では強い方だろうなということぐらいしかわからなかったのである。

悟もそれは同じようで、不満げな顔のままだ。

夜蛾もやや不満そうな顔をしている。まあ、先生の場合、自分の呪骸を惨たらしく破壊されたせいもあるだろうが…。

 

「…手加減はなしだといったからな…」

 

と夜蛾はあたりに飛び散った綿を悲しそうに見ながら呟くと、気を取り直して彼女に話しかけた。

 

「よくやった。…だが、以前出会ったときに出していたアレは使わなかったな。どうした?」

 

その言葉に彼女はしばしきょとんとしていたが、やがて意味が分かったのかハッとして

「わすれていました」と言って夜蛾を脱力させた。

 

「……。…まあ、いい。じゃあ、とりあえず出してみろ」

 

「はい」

 

答えて彼女は近くの地面に目をやる。

つられて傑もそちらに目を向けると、いつの間にかそこには毛むくじゃらの大きな獣がいて、ぎょっとさせられた。

 

その獣は黒く長い毛の中にらんらんと光る眼がのぞいていて、顔のあたりはオオカミのようにも見える。だが尾はなく、骨格もいささか変わっていて、四つ足の獣というよりは人間が四つん這いになって歩いているといわれた方が納得できるような形をしていた。

硝子はもちろん、さすがに悟も驚いたようで固まってしまっている。

 

――当たり前だ。彼女は掌印を結ぶことも何かを唱えることも、ましてや手を動かすことだってしていないのだ。ただ道のわきにある石を何気なくふと見るように視線をやっただけだ。なのに、それだけでここにいる獣は召喚された。

 

「これは一体?」

 

「なにこれ、どーなってんの?」

 

その言葉に「悟でもわからないのか?」と驚いて悟を見ると、

 

「別に、術式自体はわかる。こいつの術式は『夢幻喚術式』つって、夢とか想像のものを現実に持ってくるヤツ。前に見たことある」

 

「なるほど。それであの服や呪具を出しているわけだね」

 

便利そうな術式だと傑が一人頷いていると、悟は首を横に振った。

 

「そんな簡単で便利なもんじゃねーんだよ。人間の想像なんてあいまいで不確かだから、ぱっと出そうとすると、ガワだけのただのハリボテみてーのしか出せねぇし、ちゃんと使えるようなものだそうと思ったら時間がかかんの。ああいう銃なんかは構造とかちゃんと勉強するかしねえと使い物になんねーし」

 

前言撤回。なかなかに使いにくい術式らしい。

 

「それに、生き物はまともに動くようなの出すのが無理って話だぞ。出せたとしても動きカクカクな操り人形みてーなのか、じゃなかったら蜃気楼みてーに実体のないものとかなるらしいし」

 

なるほどなと頷きながら、傑はもう一度獣を見る。…ぴんぴんして歩き回り、時折空中のにおいを嗅ぐようなしぐさまでしている。地面を爪でひっかきながら歩いている「カチカチ」という音がすることから実態もちゃんとある。

なかなかの生き物っぷりである。

 

「だからどうしてこんなにスムーズに出てくんだよ?さっぱりわかんねぇ!どーいう仕組みだこれ?」

 

そういいながら悟が獣をつつこうとすると、近づいてくる五条の腕に反応したのか噛みつこうとした。だが、無限に阻まれて獣はかみつけず、その様子を悟が指さしながらゲラゲラ笑った。

 

「よく知っているから…だろうか?」

 

首をかしげながら答えた彼女に悟は、

 

「だーかーら、『よく知ってる』で片付くようなことじゃねえんだよ」

 

と納得のいく答えが得られないことにイライラしている。

そんな悟を「まあまあ」と適当になだめながら、

 

「なぜこれらをよく再現できているのか、心当たりはないのかい?」

 

と質問すると、彼女は心当たりがあったのか小さく頷いた。

 

「この服も、銃も、獣も…すべて、私が見る夢のものだから」

 

「夢?」

 

「そう。夢。幼いころからずっと、毎晩見ている悪夢。だから、よく知っているのは当たり前だ。だって――」

 

そう言ってうっそりと口元に笑みを浮かべた彼女の顔はひどく恐ろしく、

 

「何回も殺したし、――何回も()()()()んだから」

 

また美しかった。

 




あとがきで女狩人の装備を記載しておきます。

女狩人の装備

防具:ヤーナムの狩人シリーズ
銃器:獣狩りの短銃
仕掛け武器:慈悲の刃


閲覧ありがとうございました。
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