呪霊狩りの夜   作:夜須ふじ

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星漿体護衛編


呪霊狩り2 夕闇

タン

 

乾いた銃の音。

だが、狙い通りに星漿体の血がその場にぶちまけられることはなかった。何故なら――

 

「――‼‼」

 

星漿体と伏黒甚爾の間に割り込んだ女が、脇腹でその弾丸を受け止めたからだった。

星漿体が声にならない悲鳴を上げる。護衛の呪霊躁術使いも呆然と固まってしまっている。

甚爾は小さく舌打ちをした。ここで星漿体を仕留められれば、後々楽だったんだが…。

脇腹を撃ったはずの女も、さほどダメージを受けなかったと見える。

 

「面倒だな…」

 

五条のガキや呪霊躁術使いと違って、この女からは()()()()()()血なまぐささを感じる。

 

――血まみれの狩人。そんな印象を受けた。

 

小さくつぶやいた甚爾の声にハッとした様子の呪霊躁術使い――夏油傑が鋭くこちらを睨みつけながら、構えをとった。

 

「悟はどうした?」

 

「殺した」

 

殺気が膨れ上がる。夏油傑が呪霊を出して女より前に出る。

女の呪霊――だが、甚爾は出し惜しみするつもりはなかった。星漿体はまだ殺せていないのだ。

 

「――ガ」

 

一瞬のうちに男とその呪霊を切り伏せる。その勢いのまま、星漿体へと振り下ろした刃は、やたらとごつい鉈で受け止められた。

夏油傑を攻撃している数瞬の間に、しっかり体勢を立て直したらしい女は、脇腹を撃たれ、目の前で仲間を倒されたにもかかわらず、痛みも動揺も全く感じていないとでもいうのか、平気な顔で甚爾の攻撃を何とかいなしている。

 

「これで動揺してくれりゃあ、ちったあかわいげもあるってのによ。冷たい女だな」

 

口ではそう軽口をたたきながら、甚爾は内心舌を巻いていた。女はフェイントにもかからないし、星漿体への攻撃も、自分自身への攻撃も全く通さない。お互いに攻め切れない状況になってしまっている。

 

「よい狩人の条件は、狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っていること。…ならば私は無慈悲なのだからよい狩人ということだ」

 

女は甚爾の攻撃をいなしながら、そんな軽口まで返してくる。

状況は全く動かなくなってしまった。このまま、この女が銃創からの出血で弱るのを待った方が確実かもしれない。今は衝撃で動けていない星漿体が逃げたところで、甚爾にとって見つけ出すのは容易なことだ。

だが、この女も馬鹿じゃない。俺よりも先に限界が来ることはわかっているはず…

 

ガキン

 

どうしたもんかと考えながら、攻撃を繰り返していると、女の持っている鉈から不自然な金属音がした。いやな予感に慌てて体をひねる。

鉈の刃が蛇腹のよう広がってしなり、鞭のような動きで襲い掛かってきたのだ。直撃はかわしたが、かなり切れ味がいいようで右太ももをわずかに抉られた。

体勢を崩してわずかな隙ができる。

そして彼女は、その隙を見逃さなかった。

 

「天内!!」

 

女が星漿体に目をやり、叫ぶ。

すると星漿体の足元から、手に麻袋を持った奇妙な大男が湧き出てきた。

呪霊だろうか?

大男は流れるような動作で星漿体を麻袋に包むとちょうどサンタクロースのように担ぎ上げ、そのままの勢いで奥の通路の方へ走っていく。

 

だが、甚爾も彼女の隙を見逃さなかった。

 

甚爾は体術においてなら五条悟すらしのぐ実力を持っている。一瞬とはいえ、自分から目を離した相手を仕留めそこなうことはない。

 

ゾブリ

 

甚爾の持つ呪具は胸の中心――心臓を過たず貫く。乾いたうめき声。そのまま下へと肉を引き裂きながら刀を振りぬいた。

女の断末魔。

それを最後に女はどちゃりと膝から崩れ落ちて、そのまま動かなくなった。

――厄介な相手を仕留められた。

そのことに甚爾は安堵のため息を一つだけついて、そのまま先ほどの大男を追いかけて走り出した。奥の通路を曲がる。先ほどの大男はおそらくあの女狩人の術式だ。ならば、彼女が死んだことで消えていてもおかしくないはず――。

しかし、通路を曲がった先には大男の姿はもちろん、星漿体の姿も見当たらない。もっと奥まで逃げてしまったのか?

 

「(…いや、いるな)」

 

何もいないように見える通路。だが、何かが確かにそこにいる。

優れた五感を持つ甚爾には、生き物の息使いがはっきりと感じられた。

甚爾から見て、右斜め前の空間。おそらく、そこに――

 

「わりいな」

 

ちっとも悪いと感じていないような声でそう言うと、甚爾は呪具を振りぬいた。

目の前にヨーロッパの貴族のようなドレスを着た半透明の女が現れた。首から血を流して、両腕を縛められた女の呪霊は甲高い耳障りな悲鳴を上げる。まるで泣き女(バンシー)だ。

泣き女(バンシー)が拘束された両腕でナイフを振り上げるが、もう一度呪具で切りつければ簡単に崩れ落ちて解けるように消えた。おそらく透明化はこの泣き女(バンシー)の術式だったのだろう。

その後ろにて絶望した星漿体の顔。

 

銃弾の一発であっけない幕引きとなった。

 

いささか手間取ったが、五体満足の星漿体の死体が手に入ったので良しとする。死体を担ぎ上げてエレベーターを待つ間に、地に伏した護衛をちらりと見た。

夏油傑は呪霊の暴走を警戒して死なない程度にとどめてやったが、この様子では復活するまでには時間がかかるだろう。次に甚爾を翻弄した女の死体に目線をやる。先ほどの変わった呪具を回収できれば、今後の仕事に役立ちそうだと思ったのだ。だが、呪具はどういう原理か先ほどの泣き女(バンシー)と同じように溶けるように消えてしまっていた。服もマントの端から消えかかっている。

 

甚爾は肩をすくめてふと考えた。

はじめ甚爾は星漿体の頭を狙ってこの女狩人に阻まれた。だが、結局星漿体は頭をぶち抜かれて死体となっている。多少時間は稼いだのだろうが、この女の働きは結局無駄だったな――と。

 

「残念だったな」

 

そうつぶやいて、甚爾は死体を担いだまま悠々とエレベーターに乗り込んだ。

 

*****

 

天内は薄汚れた牢屋の中にいた。

 

石畳の隙間からは雑草が伸び放題で、檻自体も歪んでひしゃげているほど朽ちている。隅のほうには骨壺のようなものが無造作に放置してある上に檻の中心には干からびてミイラ状になった死体まで放置されている。

 

いかにも不衛生的で、まるで悪夢のような場所!

 

けれどもここにいる限り、自分が守られているということを天内ははっきりとわかっていた。

ここが先ほどいた場所とははっきり隔てられた空間だと。

 

エレベーターの扉が閉まる小さな音がして、どれほどたっただろうか?天内は牢屋の扉を震える手でそっと押した。キィと小さな音を立てて扉が外側へと開かれる。幸い、鍵はかけられていないようだ。そのまま牢屋から廊下に出ると、天内のいた牢屋の光景は揺らぎ、蜃気楼が解けるようにして現実の廊下へと戻る。

天内はふらふらと嗚咽をこぼし、壁にすがりながら歩き出した。

 

彼女はすべて、中から見ていた。

 

女狩人が呪具に心臓を貫かれて、背中からその切っ先が突き出てきたところも。

廊下の角を曲がったときに大男の隣に空気から湧き出るように女の呪霊が現れたところも。

その女幽霊が天内の()()を連れていて、曲がり角近くで姿を消したところも。

袋を担いだ大男が作り出した、元の廊下から隔絶された牢屋の中から、ずっと。

暗殺者が天内の偽物の死体を担いでいくところまで、ずっと――。

 

壁にすがりながらなんとか曲がり角のところまでたどり着いた天内は、エレベーター近くに血濡れで倒れている夏油の姿を見止めると、転がるように走り寄る。傷だらけではあるが、夏油にはまだ息がある。

 

「…っ!!げ、夏油!……起きて…よ!夏油!!」

 

必死に揺さぶり、しゃくりあげながら夏油を起こそうとする天内は、気づいていなかった。

――先ほど女狩人がいたはずの血だまりに彼女の死体がないことに。

 




だいぶ場面が飛んでしまいましたね(汗)
もう何話か投稿したら、設定も投稿しようと思います。

女狩人の装備
仕掛け武器:獣肉断ち
重い鈍器。変形することで、鞭のようにしなる。
防具・銃器は前話と同じもの。

閲覧ありがとうございました!
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