呪霊狩りの夜   作:夜須ふじ

4 / 10
星漿体護衛編3
別名・解説祭

捏造設定も多いので、苦手な方はご注意ください。


呪霊狩り4 甲夜

呪術高専に戻ってきて数分がたった。

傑は彼女がこのメンバーを同じ空間で待たせようと考えたことを心底恨んだ。

 

場所は校庭。流石の悟も術師殺しを校舎に踏み入れさせることに抵抗があったようで、校庭で並んで待つことになってしまっている。校庭は先ほどの戦闘の後、片付けも何も終わっていない。あちこちに穴と、黒ずんで変色した血痕(おそらく悟のもの)がそのまま放置されている。

 

階段のところに、左端から傑・理子ちゃん・黒井さん・悟・そして後から合流した夜蛾・伏黒甚爾と並んでいる。殺そうとした奴と殺されそうになったやつが並ぶって、なかなかにシュールな絵面だなあと傑は現実逃避した。

 

合流した夜蛾は女狩人の言った通り彼女から事前に(傑にはそれがいつのことなのかさっぱり分からなかったが)話を聞いていたようで、甚爾を見て顔をしかめはしたものの、捕縛しようとはしなかった。

傑も悟も天元様のこともあって夜蛾を見て身構えたが、夜蛾はそれを手で制して

 

『天元様のことなら、心配するな。()()()のおかげで、何とかする目処が立ちそうだ』

 

というのみにとどまった。

 

先ほど悟を理詰めで追い詰めたときのことを考えると、『あいつ』とは言わずもがな女狩人のことだろう。

しかし妙な話だ。

沖縄で悟と一緒に理子ちゃんを彼女自身が望むなら同化から逃がすことを決めてはいたが、女狩人はそれに対して反対することも賛成することもなく、ただこちらを静観していた。だから彼女には協力する気がないのだろうと悟も傑も思っていたのだが、先ほどの様子からその考えはどうやら間違っていたらしい。

だが目処が立ったとはどういうことなのか?

 

傑はちらりと傍らの時計を見上げた。夜蛾が合流してからかなりの時間がたっただろうと思ったからだ。しかし、時計の針は夜蛾が合流してから5分と立っていないことを告げている。

ここまで時計の進みを遅く感じることがいまだかつてあっただろうか?

 

傑はスンと真顔になった。

 

イライラしているのだろう悟と伏黒甚爾からの空気が重くってしょうがない。爆発寸前の核爆弾が両脇にあるような心地だ。

夜蛾も同じように感じているようで、

 

「あいつは、まだ…戻ってこないのか…」

 

と疲れ切った声で呟いた。よく見ると胃の辺りをさすっている。

傑はいつも夜蛾はこんな気持ちなのかと普段の自分の行いを、0.1ミリくらい反省した。

 

ほどなくして、彼女は布の塊を抱えて戻ってきた。

別れてから時間にして15分。永遠に続くように思われた地獄が終わったことに傑は内心涙ぐんだ。

彼女が抱えているものは布で覆われてはいるが、その布に血がにじんでいることで明らかに人間の死体が包まれていると分かるものだ。それを彼女は迷いなく夜蛾に手渡す。

 

「夜蛾先生、これで…」

 

「ああ。天元様にも確認を行った。まず大丈夫だろう」

 

その返事にほっと安堵のため息をついた。

一方で二人だけが分かる会話を目の前でされて、散々待たされている2人の最強――フィジカル最強と呪術界最強は、ますます不機嫌そうな顔になった。傑もちょっとイラっと来た。

こんなに殺気を放っているのに我関せずといった様子の彼女には脱帽する。

実はすでに正気を失っているのでは?

 

「天内。これであなたは、星漿体として天元様と同化する必要はなくなった」

 

「え…」

 

その衝撃的な言葉に理子ちゃんも黒井さんも意味のある言葉を発することができなかったようだ。傑も自分で気の付かないうちに立ち上がっていた。いつの間にか彼女の特徴的な帽子を見下ろしていたことで気が付いた。

 

「驚く気持ちはわかる。待ちきれない二人もいることだし、順を追って説明しよう。

…ほら、座って」

 

呆然としている理子ちゃん、黒井さんの二人を無理くり座らせてようやく彼女はこちらに向き直った。

 

「とはいっても、何から話したらいいものか…。ああ、そうだ。『私のしたことについて()()()()()()()()()説明する』といったからね。質問に答えていく形にしよう。

――さて、何から聞きたい?」

 

その言葉を契機にその場にいた全員が女狩人に我先に質問をぶつけ始めた。

 

*****

 

――おまえ、あん時殺したはずなのに、なんで生きてんだよ。

「私の術式は、『夢幻喚術式』。夢や幻想を現実に持ってくるものだ。今回、私が()()()()際に使ったのは、いわゆる反転術式と同じようなもの。『死』という()()()()にした。つまり、あの時起きた『死』は夢だったということになった、というだけのことだ。

…夢オチにしたといったら、わかりやすいかな?

私はあなたに殺された後、寮の自室で目覚めた」

 

――理子ちゃんはどうやって逃がしたんだ?こいつがそうやすやすと逃走を許すとは思えないんだが…

「天内を逃がすために、私は隙を見て『人さらい』を呼び出した。そう、天内が見た袋を担いだ大男をね。

この『人さらい』は捕まえた人間を現在地から『隠し街ヤハグル』の監獄に連れていくという特性を持っている。だが、この現実に『隠し街ヤハグル』という場所は存在していない。この矛盾を埋めるために『人さらい』は現実に『ヤハグルの監獄』を現在地から()()()()()()()として作り出して、天内をその中に入れた。

天内は現実とは隔離された空間の中に入ることになるから、呪力やその他五感を用いても感知することはできなくなる。

それが、伏黒甚爾の目をごまかせた理由の一つだ」

 

――いつ星漿体をニセモノとすり替えた?

「あなたは気づかなかっただろうが、あの天内のニセモノは『泣き女』(バンシー)と一緒に『人さらい』を呼び出した際に一緒に呼び出しておいた。『泣き女』(バンシー)には透明化の能力があったから、それでごまかしたのさ。

…昨日の夜に珍しく獣ではなく天内が出てくる悪夢を見ていたから助かった。

あれがあったから、天内のニセモノを呼び出すことができた。悪夢もまた良し悪しだな」

 

――なぜ、理子様のニセモノを殺させるようなことをなさったのですか?

「『人さらい』で天内を手出しできない場所にかくまったとはいっても、伏黒甚爾はターゲットが見つからなければとことん探しただろう。そうなれば何か違和感に気が付かないとも限らなかった。

直前の戦いや悟が一度追い詰められたことを考えると、過信しすぎるのは危険だと判断した。

それくらいこいつは()()()()と感じたからな」

 

――おっさんを殺すのを邪魔したのはなんでだよ?

「結果的に邪魔をしてしまったことは謝るよ。高専から出た際に致死量の出血痕は残っていたけれど、五条の遺体はなかったから、五条が何らかの方法で回復したのはわかっていた。でも、どの程度回復していったのかはわからなかったからな。

私の予想としては回復したばかりの五条が押されているだろうと思っていたから、急いで戦いに介入して伏黒甚爾と交渉しなければと考えた。だからこそ事前に夜蛾先生へと話を通してから現場に向かった。

だからまさか五条が伏黒甚爾にとどめを刺そうとしているところを邪魔してしまうとは思ってもみなかった。申し訳ない」

 

――お前が五条のクソガキの真横に来るまで全く気配を感じなかったのはなんだ?

「先ほど言ったとおり、急いでいたから『古い狩人の遺骨』を使った。

あの呪具――いや、呪物といったほうが正しいか――あれは速い速度での移動を可能にする、いわば加速装置のようなものなんだが、文字通り使用している間は『目にもとまらぬ速さ』で移動することができる。

あまりに一瞬で接近することになるから、突然真横に現れたように感じたのではないかな」

 

*****

 

「あの…」

 

全員で寄ってたかって女狩人を質問攻めにしていたが、理子ちゃんがおずおずと口を開いたのを皮切りに周りはひとまず口をつぐんだ。

おそらく理子ちゃんが一番訊きたくて、でも期待を裏切られることが恐ろしくて訊けなかったことをついに質問しにかかったのだと、周りにも分かったからだった。

 

「天元様と同化しなくてもよくなったというのは…本当か?」

 

その質問に女狩人は即座に

 

「もちろん、本当だ」

 

と答えて、穏やかにほほ笑んだ。相手に安心感を与えるその笑顔を見て、傑はこんな顔もできたのかと純粋に驚いた。

今まで傑が見た彼女の笑顔といったら、呪霊か呪詛師の返り血をたっぷりと浴びているときに浮かぶ陶然とした狂気に満ちる笑顔か、でなければギリギリの死闘のさなかに見せる獣のような獰猛な笑顔くらいのものだったので、さもありなん。

 

「伏黒甚爾に殺されて部屋で目覚めたときに思いついたんだ。

天元様の肉体の更新には肉体は必要だろうけれど、『天内理子』の魂や意思は必要ないのではないか・・と。だったらおとりに使った天内のニセモノの遺体でも代用は可能ではないかと考えた。

伏黒甚爾をしのぎ切ったとしても、五条や夏油が万全でないのなら、天元様と交戦することも厳しいだろうと思ったのもある。

あのニセモノは私が夢から呼び出したものだが、単なる呪力の塊というわけではない。…()()『夢幻喚術式』はちょっと変わっていてね。

夢から現実に()()()()()際には呪力を消費するが、維持には特に呪力を消費しない。現実に持ってきた時点であれらは現実に存在する物質、あるいは生き物になる。

天内のニセモノは現実に存在するもう一人の『天内理子』といっても過言ではないから、星漿体として天元様と同化することができる。その要素はしっかりと押さえているからな。

だから、夜蛾先生から天元様へ確認してもらえるようにお願いしていた。

天元様のお墨付きももらえたことだし、もう安心して大丈夫だよ」

 

理子ちゃんは女狩人の説明を聞いて、ようやく自分がこれからも生きていけるのだという実感が湧いてきたのだろう。黒井さんと一緒に手をつなぎ、ぽろぽろと泣きながら笑っている。

 

「おい、ちょっとまて」

 

突如、甚爾が声を上げた。

 

「んだよおっさん?今いい雰囲気のとこなの分かんねえわけ?邪魔しないでくれる?」

 

割って入ってきた甚爾に悟が「KYかよ」と容赦なく毒を吐く。だが、甚爾はそれに対して特に反撃することもなく、

 

「なんだもクソもねえよ!

今の言い方だと、あの死体はモノホンの死体だったんだろ?さっきは消えるとかどうとか言ってなかったかよ」

 

そう言って女狩人を睨みつける。その言葉で気づいた様子の悟も睨みつけるまではいかないが、納得がいかないという表情になった。

そんな伏黒甚爾に対して女狩人は飄々と

 

「ああ、あれは嘘」と答えた。

 

「はあ?」

 

「『だまして悪いが』というやつさ。なに、装備を盗んだわけでも高所から突き落としたわけでも何でもないのだから、これくらいかわいいものだろう?ま、過ぎたことだ。大目に見てくれ」

 

そうあっけらかんという彼女に伏黒甚爾は

「おま…まじで…おま…ざけんな…」とぶるぶる震えていたが、動じない彼女には怒っても無駄だと分かったのだろう。やがて大きなため息をついて肩を落とした。

 

 

 

こうして星漿体護衛任務は幕を下ろした。

天元様は予測通り安定し、任務は一応の成功と相成った。

天内理子、黒井美里の両名は、戸籍をごまかしての生存が許され、国外へ飛ぶこととなった。

そして『術師殺し』伏黒甚爾はこの任務後、忽然と姿をくらませた。

おそらく隻腕になったことで報復が増えるのを憂いてのことだったのだろう。

――腹いせに、悟に自分の子供二人という厄介な置き土産を押し付けて。

 

しかし、ここですべてが終わったわけではなかった。

少なくとも夏油傑、天内理子、伏黒甚爾の三名にとっては。

 

――その夜、3人は月の香りの夢を見た。

 




捏造設定マシマシの回でした。
一部夏油君視点です。
今回、質問部分はだらだら描写すると長くなりそうなので、この形式になりました。だれがどの質問をしているか、分かるといいのですが…。

『だましてわるいが』を使えたので心残りはもうありません(笑)


術式:『夢幻喚術式(むげんかんじゅつしき)
夢や幻を現実にする術式。
女狩人の場合ちょっと特殊で現実に持ってきたものを維持するのに呪力を消費しない。
召喚するもの(物体も生き物も)について知っていればいるほど強化されていく。

ちなみに女狩人は血の意思稼ぎでかなりの数の『人さらい』を狩っている。


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