「全部上限までください」
「43,350QPだ」
「えっ…高くないですか…?」
何処からともなく出て来た長机とその上に並べられたグッズ類。買い物客を一人でしかし的確に捌くザント。これでパイプ椅子と電卓でもあれば完全にライブの物販である。
しかしそういう光景と公式グッズの相場について詳しくないマシュは、オリジナルデザインの紙袋に入れられたグッズをダ・ヴィンチの代わりに受け取りながら困惑した。
「マシュ。この出来のフィギュアが税込み一万なんてむしろ安すぎるくらいだよ。人気アニメの美少女フィギュアなんてもっとするんだから」
「な、なるほど…?」
「それに一つずつなら1万五千を切るからね。しかも紙袋つきだから帰り道にも困らず、持ち歩くだけで宣伝になるという一挙両得。まるで気分はコミケ帰りの戦士だよ」
「先輩?」
オタクの人格はいついかなる時も死なず、供給があるたびに床下から顔を出すのだ――――。
「家宝にするか…」
「トロイアの???」
ちゃっかり現場に出て来たヘクトールの一言に、思わずイアソンは突っ込んでしまった。
「部屋にこれが飾ってあったらさ、いい魔除けになりそうじゃない?」
「魔除けっていうか……。むしろ魔を呼びそうっていうか……。いや、うん。お前がいいならいいけどさ……」
何とも含みのある笑顔でにっこり笑ってみたヘクトールに、イアソンは悪寒を感じて身震いした。何か悩み事とかある感じ……?
「アタシも部屋に飾るわ!確か子ジカの国には祭壇?ってやつがあるのよね?それを作るわ!」
「ほう。よくわかっているではないか。真なる王とは神座におわすもの。貴様のその信仰は必ずや届くだろう」
魔王ガノンドロフに対して“ジャンルの違うビッグアイドル”みたいな理解をしているエリザベートは、ウキウキでカルデアに戻っていく。それに気づいているカーミラは一人でハラハラしていたが、ザントといい感じに会話が成立していたので事なきを得た時の顔をして戻っていった。
「先生……僕は果報者だ……。本当に、恵まれている……」
「エンディングで言う台詞か?」
「保管用と観賞用と持ち歩く用にしよう」
「オタクって全世界どの時代でも同じ挙動するんだな」
「持ち歩く用……?」
「わかるよ。時代はぬい撮りだよね」
「先ほどから先輩がわたしの知らない世界を見せてきます」
「あとでマシュにも教えてあげるね…」
最終回を迎えているアレキサンダーに、でもその気持ちは分かる……!と顔をしかめるエルメロイⅡ世。
マシュには“こちら側”にこれる素質があるよ…と囁く立香。
「お主と連絡先を交換したいんだが」
直接口説き始めたイスカンダル。思い思いである。
「なぜ?」
「推しを語りたい」
真顔である。
「直接謁見した者にしか分からぬ視点というものはあるだろう。できれば本人に会って話せるのが一番いいのだが、呼んですぐに出てくる彼の王は解釈違いというか永遠に勇者以外には手の届かぬ存在でいてほしいというか信者のことなんていちいち歯牙にもかけないでほしいというかこのまま偶像でいてほしいというか」
長台詞であった。
「おい我を忘れるな。我抜きでゼルダの伝説に関する話をするな」
『王さまって自分の財布持ってたんだ……』
居ないわけがないギルガメッシュである。
「前向きに検討しておこう」
ザントは頷いた。わかる。
「領収書って書いてもらえる?」
「構わんぞ」
『対応してるんだ…』
筆頭信者は優秀なので、クレジット支払いも可能である。
「グッズの売り上げは製作費と神殿の維持費に回る」
『収益金の使い道も教えてくれるんだ』
『そういえば、この神殿は……』
『空気中の魔力を蒐集しているな。霊脈ではないのは土地へのダメージをこれ以上増やさないためか?』
触れてもいいものかとケイローンが首を傾げると、アスクレピオスが言葉を引き継いだ。その疑問にザントは鷹揚に頷く。やましいことなど一つもないように。
「敷地内で野菜を育てている。聖都から避難してきた民も増えたことで、食料問題が発生したからな。今は解決しているが」
「そういえば、アーラシュさんも言ってましたね」
『……一つ確認なのだけれど、貴方たちは獅子王のことを――』
「我々は獅子王を否定する。主義も、主張も、存在も」
所長の言葉を遮るように、言葉は静かに宣誓された。
「だが、我々が自ら手を下す必要はないと考えている。カルデアが居る故に」
『……なるほど。よくわかったわ』
ばいばーいとすっかり警戒を解いて下山していく少女たちを見送る。昼近くなった日の直射日光がじりじりと、露出している肌を焼いて。
その姿がすっかり見えなくなってから、ザントはゆっくりと神殿の地下へ潜っていく。足音は一人きり。以前は二人いたが、別に居ないなら居ないで静かでいい。
――なんて、ユガが聞いていたらちょっと涙目になりそうなことを思いながら、
「――――嗚呼」
渦巻く熱。
溶解する黄金。
発動するのは魔法か魔術か。
「もうすぐ、もう一息です。神よ――――――」
飲み込んだ粛正騎士を砕いて。
特異点の余剰魔力を吸収して。
新たなホーリーグレイルは造られる。
「貴方様に捧げる聖杯――――。万能の釜の主。魔女の弟子よ。貴方様こそが、魔の杯で世界を飲むのに相応しい――――」
ザントとユガの真の目的。聖杯鋳造。
その杯がもたらす騒動にカルデアが巻き込まれるのは、いまだ未来の話である。
「おう、今夜もお疲れさん!山での戦いも慣れてきたな、マシュ、立香!」
「お帰りなさい、立香姉ちゃん、マシュお姉ちゃん!」
「ルシュド、ただいま」
「ただいまです、ルシュドくん。今日は何をしていたんですか?」
ザントに親子共々保護されて、一足先に村に来ていた少年――ルシュドは、駆け寄ってきて明るい笑顔を見せた。
「今日はみんなで新しい水場を作ってた!もうすぐ、西の村から馬がやってくるんだって!」
「馬用の水飲み場かぁ。それはともかく、俺にお帰りはないのかルシュド?」
「アーラシュの兄ちゃんかぁ……。まぁお帰り」
もうすっかり暗くなった。山陰に静かな風が舞って。
「なんだいそりゃ。待遇違いすぎないかー?」
「だって嘘の名前なんだもん。アーラシュだなんて、そんなハズはないじゃん」
「ばっか、正真正銘のアーラシュだぞ俺はー!そういう疑り深い子供は、こうだーっ!」
「ひゃ――――!?脇腹もしゃもしゃするのやめて、くすぐったい――!」
蛍の光のように点々と灯る明かりが、隠れ里に夜の訪れを告げる。
きゃっきゃっと戯れる二人を見て、夕食の準備をしていた母親は自然と笑みを浮かべた。
「アーラシュさん、子供のあやし方が上手いんですね。ルシュド君、アーラシュさんといるといつも笑顔です」
「マシュの時もそうだよ」
「だとしたら嬉しいです。私たちも夕食にしましょうか、先輩。ダ・ヴィンチちゃんの作業は順調ですかね?」
村に滞在して一週間。
アーラシュ曰く、カルデアと一緒に戦ってくれそうな現地召喚サーヴァントを二人知っているらしい。現在彼らは少し離れたところにある村に物資を届けに行ってくれているらしく、帰ってくるまでは村の手伝いをしながら過ごすことにした。
「こちらでしたか立香さん。今日の狩りも無事終わったようで何よりです」
「ベディもお疲れ」
「……それと、マシュ。お休みになる前に、少しだけ宜しいでしょうか?」
「え……先輩ではなく、わたしにですか?」
少し戸惑った様子のマシュに、不思議そうな顔の立香を見返して、ベディヴィエールは話を続けた。
「はい。個人的な話なので場所を変えましょう。立香さんもどうぞ」
山の麓よりも空気が澄んでいるけれど、星は見えない夜空の下。
「マシュ・キリエライト。貴女の名乗られた姓名でしたね」
「はい。わたしの名です。それが何か……?」
「不躾ながら重ねてお尋ねします。その名、英霊としての真名でしょうか?」
「それは……」
銀色の騎士が踏み込んで、桃色の騎士は言葉に詰まった。
「本来ならばサーヴァントに尋ねるべき事柄ではないと理解しています。ですが、敢えてお尋ねします。無礼をお許しください」
「……」
「……マシュ。私は言った方がいいと思う」
嘘をつく必要も誤魔化す必要もないだろう。
立香の方をそっと伺ったマシュは、小さく頷いてベディヴィエールに向き直った。
「サー・ベディヴィエール。わたしは……正しいサーヴァントではありません。デミ・サーヴァント。正確には、人間と英霊が融合したモノです」
ベディヴィエールは真剣に、少女の言葉に耳を傾けていた。
「マシュ・キリエライトはわたしの人間としての名前にすぎません。真名は……。わたしに融合した英霊は、それを告げずに消滅しました」
〇奏者のお兄さん そういえばそうだったな
〇ウルフ オレらと情報に差があるんだった
「ですので、わたしは自分が一体どういう英霊なのか、自分だけではなく宝具の真名さえも分かりません。ですから、宝具の出力も……著しく低下しています」
「……そうだったのですか。話して頂き、ありがとうございます」
〇いーくん ところでザントが聖杯をつくっている件については
〇ウルフ 作るだけじゃ罪には問えないから
〇奏者のお兄さん せやね
「重ねて、無礼をお詫びします。私の中にあった疑念は消え失せました」
「いいえ、気にしないでください。わたしも……自分自身の特殊性を失念していました」
『そうだね。デミ・サーヴァントがどんなものなのか、不思議に思うサーヴァントがいてもおかしくない。むしろ今までの英霊たちのが珍しいだろう。すんなり受け入れてくれたんだから』
風に乗って夕飯の香りが流れてきた。
山の民にとっては何事もなく、今日が終わっていく。
『マシュはサーヴァントでありながら英霊じゃない。ベディヴィエール卿。キミはその違いにずっと戸惑っていたんだね』
「……はい。正直、敵なのか味方なのかさえ迷っていました。ですが、今の答えで私の迷いは晴れました。改めて、レディ・マシュ」
「は、はい」
騎士はするりと片膝を突いた。誠意を形にするように。
「フォーウ、フォーウ!」
「無礼の詫びではありませんが、できうるかぎり敬意を示します。立香さんと、貴女のこれまでの戦いに。貴方たちは真実、世界を救うために現れた方だ」
「い、いえ……先輩はともかく、わたしは先輩に守られているだけのデミ・サーヴァントで……」
「いいえ、レディ。それは違いましょう」
「そうだよ。マシュがいないと困るよ」
少女騎士は照れたように頬を染めた。
「……貴女に力を授けた英霊が語らぬ以上、私が語ることはありません。それでもあえて伝えましょう。同じ円卓の騎士として、貴女に」
「!」
「そうなんだ……」
驚いて逆に冷静な相槌を打ってしまった立香を追い越して、マシュが慌ててベディヴィエールに詰め寄った。
「待ってください、ベディヴィエールさん。貴方は、わたしと融合した英霊をご存じなのですか!?」
「もちろん。私だけではありません。貴方と対面した円卓の騎士たちは、例外なく感じたでしょう。貴方にその宝具を預けた騎士は、それほど特別な騎士なのです」
月光の代わりに白銀が輝いた。
「最も強き騎士、最も堅き騎士、最も猛き騎士――――。それぞれ誇るものが違う円卓において、ただひとり武を誇らず、精神の在り方を示した騎士」
グリーン・アイが優しく少女を見つめている。
「その真名を他ならぬ貴女自身が見つけ出せる事を祈ります」
「……教えては、くれないのですね。この宝具の持ち主を」
「はい。もう答えはでているようなものですが、それを探すのは貴方たちの使命です」
己のように迷わぬように、答えを誤らないように。
「……ただ、貴方の中の英霊が円卓の騎士である以上、問題は他にもあります。かつて同胞だった騎士たちと戦えるのか、という問題です」
「それは……」
「そうか、それで、ガウェインとの戦いの時は……」
まだ思い出せる生ぬるい記憶に、立香が苦い顔を浮かべた。
どうあがいても美化されぬ、“負けた”記憶。
「……はい。聖都の壁を見た時も、ガウェイン卿と戦った時も、体が叫んでいました。“これは違う。こんなものはアーサー王の仕業ではない”って……」
「……ええ、その通りです。この地で行われている王の行いは、決して我らの知るアーサー王のものではありません」
しかしはっきりさせなくてはいけない。
何を犠牲にしても、何を置き去りにしても、己はアーサー王を倒すことを。
「その為にここまで来た。その為に、今まで生きてきたのです」
でも、彼女は?
彼女たちは?
「貴方たちの目的が時代の修復であるのなら、獅子王と対峙する必要はないかもしれない」
「それは違うよ」
答えたのはマスターだった。
夜闇の中にいても、曇らぬ瞳だった。
「……はい。マスターの言う通りです。わたしたちは獅子王と戦います。これ以上、獅子王の所業を許せない。これは騎士としての責任だけではありません」
息を吸い込む。
冷たい。
だけど体は燃えるように熱かった。
生きている、証だった。
「この地に生きる人々、あの門で命を落とした人々すべてへの、果たすべき贖いです」
「――――――」
そこにいる。
彼の騎士が。
たしかに少女に宿っていた。
「――――お見事。貴方たちになら、彼の騎士ですら力を貸しましょう」
……ああ。
なんてまぶしいのだろう。
「私の話はこれだけです。邪魔をして申し訳ありません。明日、ハサン殿にすべてを打ち明けましょう。その上で彼らの選択に従います」
枯れたはずの心が震えて、ベディヴィエールはなんだか泣きたくなった。
「彼らと共に戦うことを許していただけるのか。我々は、共に手を取ることができるのか、と」
「……はい。ハサンさんなら、きっと!」
〇騎士 いい子だな
〇Silver bow 心が浄化される ハサンもそう思うよね?
〇海の男 そうハサね 断るわけないハサね
〇Silver bow 帰れエセ野郎
「……………………むう。職務とはいえ、盗み聴きなどするものではないな……
……まことに難儀。これでは断れないではないか……」
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