西の村からやってきた。えっほえっほと三人衆。
「敵が一人いなくなったのだろう?いいことではないか」
「まあ………………………」
そうなんだけど……みたいな顔を仮面の下でしながらも、百貌のハサンは頷いた。アレを味方だと思ったら駄目だよな……。
「あたしは玄奘三蔵!よろしくね!」
「俵藤太だ。よろしくたのむ」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしく!戦力が増えたね!」
というわけで合流合流。さっそく
「さて。それはそれとして百貌の。例の件はどうなっている?」
「……あれか。進展はない。このままでは死を待つだけだろう」
随分人数が増えたな。
自然と半円になって座った後、立香はお茶を飲みながら思う。
太陽が燦燦としていても、日よけのお蔭で暑くない。
「……あやつにかぎり口を割るコトはないと思うが……。円卓には拷問の達人もいると聞く。あやつが死ぬ前に我らの計画を漏らせば、もはや反撃の機会はなくなるだろうな……」
「うむ、それは困った、実に困った。ちらり」
「口で言うんだ」
「先輩。わたしたちでお力になれる事があるようですよ」
ハサンたちが輪に加わる。冷えたお茶を一口飲んで、呪腕のハサンが口火を切った。
「はい。率直に言いますと、山の翁の一人が敵に捕らわれているのです。これが他の山の翁であれば心配はありませぬ。敵に捕らわれた時点で命を絶っていましょう」
だが、今回囚われた山の翁は年若く、また、自分で自分を殺せぬ厄介な体質である。
「救い出さねば、いずれ我々の情報を漏らすかもしれないのです」
「しかし、あの者が収容さえた砦は円卓の砦。攻め落とすのは難しいのだ。少数精鋭による侵入も試みたが、帰ってきた者はいまだにいない」
「任せて」
「即決か!」
「やる気あります」
思い思いのジェスチャーでやる気をアピールする立香とマシュを見て、百貌のハサンは面倒そうに手をパタパタと振った。
「わかったわかった。砦には私が案内する。出発は夕食後。人選はお前に任せる」
「了解!」
「俺は村に残る。また円卓の騎士が来ないとも言い切れないしな」
「私も残りましょう。村には指導者が必要です」
「ふむ。ならばこちらはベディヴィエールを残していこう。ねぇ立香ちゃん」
「うん。ベディのような騎士が居てくれるなら安心だな」
水を向けられたベディヴィエールは戸惑いつつも、特に反論する気はなさそうだった。
「確かに私は隠密行動が得意なわけではありません。村の防衛の方がお役に立てるでしょう」
「よし決定!三蔵ちゃんと藤太は……」
「あたしとトータも行くわ。こう見えて結構
ハサン1人。カルデアの3人。助っ人2人。選抜メンバーが決定した。
日が沈む前に出発し、緑の少ない山道を下る。
枯れた大地をいくばくも行かないうちに、風が少女たちの視界を塞いだ。
「砂嵐だ。逸れるなよ、お師匠」
「むー子供じゃないわよ」
「風が出てきたか……ククク。我らにとっては砂嵐など揺籃の習い。まさに吉兆よ」
『楽しいパーティだなぁ』
じゃりじゃりと音の鳴る足元。身体にまとわりつく砂を払いながら、一行は進んでいく。
「わたしたちだけでは迷子になる砂嵐ですが、ハサンさんがいるなら安心ですね」
「スピンクス号を出せないから徒歩だけど……。これなら聖都軍に接触する確率も低いだろう」
風はごうごうあっちこっち。背中を押したり、向かい風。
人気もなく、沈黙を守る必要もないので、少女たちはぽつぽつとおしゃべり。
「半年前!?随分前に召喚されたんだね」
「ええ。正直、英霊としてのあたしは天竺から帰る途中のあたしだから、面倒だなって思ったけど」
「本当に正直だね」
話題は自然と新入りの二人へ。
なぜ国も年代も違う2人が師弟をやっているのかと、ダ・ヴィンチが訪ねてからの話である。
「でも、御仏の導きだもの。それならあたしは行かなきゃいけない。だから来たの。この末世の地、砂嵐吹きすさぶシャンバラにね!」
「伝説上の仏教王国のことだね。君は獅子王の聖都を知っているのかい?」
「ええ。もちろん知っているわ。だって賓客扱いで二か月くらいあそこにいたし」
「せ、聖都に滞在していたんですか!?」
〇奏者のお兄さん 三蔵ちゃんは立派な法師さまだし、門を越えられるだろうね
〇ウルフ 獅子王に客をもてなそうという感性が残ってるんだ
〇奏者のお兄さん もてなしたのは部下じゃない?
〇小さきもの この師弟は…
「ええ。とんでもなくカイテキな都だったわ。みんな伸び伸びしてて、笑顔で、悪人が一人もいなくて。でも、あたしの居場所じゃなさそうだったから出てきたの。他にも見てみたいところはあったしね」
「藤太さんとはどこで?」
「砂漠を歩いている時に会ったの。聖都にも一緒に行ったわよ。あたしの弟子としてね」
鮮やかな翠色を持つ青年が、のんびりと言葉を引き継いだ。
「しかし、
「誉め言葉として受け取ろう。お前たちが村に来てくれたおかげで、生活はかなり向上したしな」
「そうかそうか!僥倖なり!」
「……着いたぞ。あれが騎士どもの砦だ」
燃える松明だけが灯りとなる夜半。息をひそめた少女たち。
「守備こそ固いが、なに、見張りは夜目も効かぬカカシども。恐れるに足りぬ」
「……哨戒の兵士は外壁にそれぞれ十人、城壁の上に十人、といったところでしょうか」
「ロマニ、中の様子は?」
ダ・ヴィンチに問われて、職員たちから上がってきた報告に目を通す。
『……ずいぶんと広い構造物だね。大きな建物が二つ、小さな建物が一つ……これは馬小屋かな』
「馬を逃がしたらパニックにならないかな……」
「立香ちゃんって意外と容赦ないよね」
『それと、地下にも空間があるようだ。地下牢と見て間違いない』
突然不穏なことを言い出したマスターに突っ込みつつ、ダ・ヴィンチが周りを警戒している。
「地下牢か。さぞ惨い真似をしてきたのだろう。魔術師、サーヴァント反応は?」
『地下に一騎だ。すまない、それ以上はなんとも。地下は古い遺跡を利用しているようだ。通常のエコロケでは詳しくは分からないな……』
「どうしましょう、先輩。わたしたちなら城門に飛び乗れますか、うまく見張りの兵士の目を盗めば……」
まだミッドナイトブルーを保っている空の下で、藤太が目を細めた。
「待て。どうも気配がおかしい。兵士たちが緊張しているように思う」
「警戒されているというのか?……確かに、円卓の騎士は一人落ちたが……」
『みんな隠れて!近くに兵士の反応だ!』
一瞬で口を噤んで、三方向にばらけて逃げた。
どうにも気の抜けた話し声が近づいてきて、立香はそっと耳を澄ませた。
「まったく勘弁してほしいよな。こんな夜更けに全員で出張るなんてよ」
「仕方なかろう。円卓の騎士さまがお忍びでいらっしゃるのだ。失礼があっては我らの首が飛ぶ」
「それだよ。事前の連絡もなし、いきなりの来訪だろ?しかもただの円卓さまじゃねぇ。獅子王陛下の補佐官、鉄のアグラヴェインときた!」
〇Blue 抜き打ち視察……!?
〇銀河鉄道123 おっ身構える単語。労基かな
「聖都から決して離れない円卓のナンバー2が、こんなしけた砦に何用だってんだよ?」
「……あれかもな。先日、ランスロット卿に馬をお譲りしただろう?砦の物資はアグラヴェイン様の許可なしに運用してはならない。その事でお咎めにきたのかもしれん」
「マジかよ。うちの団長、処断されるのか……?いやまあ、難民たちにひでぇ仕打ちをするクズだ。クビになってくれりゃあ俺たちも助かるが……」
〇銀河鉄道123 聖都の騎士とは意思の相違があるようだね
〇海の男 まあ見るからに下っ端っぽいし、そこまでコントロールせんのか
「あるいは……、地下牢に収容されているという山の翁目当てかも。たいそう美しい娘と聞く。しかし口が堅い。拷問管たちも音を上げていたが……。アグラヴェイン様は円卓随一の尋問管……拷問技術の巧みさは
〇Blue 拷問技術とか言わないでほしい こわい
〇銀河鉄道123 カバをいじめるな
「マジかよ、河馬がタスケテって鳴くのかよ。どれだけ残酷なんだよアグラヴェイン様」
「いやいや、あるいは……」
「マジかよ、マジなのかよ……」
足音は遠ざかっていく。声は小さくなっていく。
息をゆっくりと吐き出して、立香は肩の力を抜いた。
『生命反応、遠ざかっていくね……。もういいよ、みんな』
「大変なことになったね……」
「はい。今の話が事実なら、砦の緊張も頷けます」
「事情が変わってしまったようね。アグラヴェインが来るなら急がないと」
さささっと集合しなおして、ひそひそ声で話し合う。
「あいつは円卓の騎士以外のサーヴァントを認めないわ。あの時のあたしは客人だったから、礼を尽くしてもらえただけ」
「はい。捕らわれているハサンさんも危険です。幸いアグラヴェイン卿は砦に到着していません。
彼が来る前に救出しましょう!」
――――あれは、どれほど前の出来事だっただろう。
私は多くのものを見て、多くのものを忘れた。
その中でも未だに胸に残るものが、その記憶だ。
「今年の冬は一段と厳しいそうだ。いくつかの村を解体しなくてはなるまい。
ようやく
その日、王は物見の塔で黄昏ていた私の元に現れた、共の従者も連れず、ひとりで、ふらりと。
王は少年の姿に見えるが、その実、この時の私とあまりかわらない年齢だった。
王は16歳の時に岩に刺さった選定の剣を抜き、ブリテンを統べる王になった。以後、王の肉体は年をとらなくなったという。
……精霊の加護というが、私には
まるで彼の勇者のような軌跡をたどっているのに。彼の肉体が“大人”になることはないのだ。
それにどうしてか、うすら寒いものを感じて。
だが、いま王冠を戴けるのはこの方しかいないのだ。
この方がいなければ、ブリテンはとうの昔に滅びていただろう。
「だが、国土は変わらず荒廃している。豊かなのはキャメロットと、その周辺だけだ」
ブラッドオレンジのような夕空が、世界を広く染めていく。
「村を失った人々をキャメロットに収容するにしても、それでは人の生活とは言えまい」
その視線の先に映る、城下は美しくありますか。
「土地を耕し、日々を重ね、子を育ててこそ後の繁栄につながる。人々を庇護するばかりでは未来がない。狭い輪は、必ず閉じていくものだからな」
連日の勝利と栄光に浮く円卓の騎士たちと違い、王は常に険しい顔をしていた。
……キャメロットが復元する前。
まだ王が正体を隠して島を旅していた頃はよく笑ったものだ、とケイ卿は言っていた。
しかし、今はその面影はない。王はひとり、島の未来に待つ暗雲を見据えていた。
夕暮れ時の郷愁からか、私はこの時、王に気弱な質問をしてしまった。それは円卓の席を許された時からの疑問であり、不安だった。
「なぜ私のような取り柄のない騎士を、円卓の騎士に選ばれたのです?」
「他の騎士たちに劣っているから相応しくないと?ばかもの。それは私も同じだ。単純な強さ、弱さで人の繋がりを計ってはいけない。敵と味方、善と悪、利益と不利益。それらすべてが別のもののように、円卓の騎士の役割もまた違うものだ」
味方と敵。善と悪。
味方とは善であり、敵は悪である。
だが、それらは違うものだと王は語った。
意外な言葉だった。この戦乱の時代、その観点で全体を俯瞰していた騎士はこの方だけだったろう。
そして王はおそらく、今の言葉を他の騎士たちには語っていない。これは私にだけ語ったものだった。それも当然だ。王は今、こう語ったのである。
“
そんな事を口にすれば、騎士たちの多くは王を批判するに違いない。
「……そうだ。彼らとて生きる為に、この島に土地を求めてきた。我らにとって彼らは敵だが、その行為は悪ではない」
弱肉強食ではなく、生存競争で。
我らにとって彼らが敵であるように、彼らにとって我らは敵で。
食料がなく、発展がなく、行き止まりの時代であることがそもそもの原因で。
「私たちは今、どちらかが滅びなければ立ち行かない、冬の時代にいる。そんな中に強さだけで結ばれた円卓を作るなど、私は考えたくもない。それでは悪に落ちる。我々は敵を倒すために結束したのではない」
まだ覚えている。
あの青い瞳を。
まだ覚えている。
私を苛む青。
「我々は、同胞たちの明日の為に剣を取った。だから――――。だから、多くの役割が必要なのだ、ベディヴィエール」
擦り切れるほど繰り返し繰り返し繰り返し。
「このキャメロットが華やかなのは力で作ったものだからか?ちがうだろう?ここは多くの人々の夢でできたものだ。いつかこのような理想の都を人間の手だけで作りたい。そういった願いでかろうじて成立しているものだ」
もう戻れないことに慟哭する。
「だから卿のような騎士が要る。私やガウェインでは見落としてしまう人々の暮らしを、つぶさに感じ取れる心細やかな騎士が」
この時の王がどれほどの絶望を抱いていたか、後に、マーリンの口から聞かされるまで知らなかった。
私たち円卓の騎士は誰も、王の悲しみに寄り添えなかった。
愚鈍で、軟弱だった当時の私はこう答える。
「私には難しい話です。ですがキャメロットの暮らしは私も好きです。先日もトーマスの家で子供が生まれました。双子の、とても愛らしい姉妹で――――」
なんと平凡な返答だったのだろう。思い出の中の私は、それを満足げに、楽し気に語っている。
「――――まったく、純朴なベディヴィエール卿らしからぬ悩みを聞いたものだから、心配してしまったが――――。卿の日々が充実したものであるなら私も嬉しい。日々を生きる糧になるというものだ」
夕暮れに、金砂のような髪が揺れている。私はこの時、ようやく王の真実に触れた気がした。
騎士たちはもうずいぶんと王の笑う姿を見ていない、と恐れていた。
そうではない。そうではないのだ。
この王は己の事で笑うのではなく。
己の罪深さに胸を掻きだしたくなる。
それを覚えていながら、なお、私は王に不忠の剣を向けている。
ああ――――お許しを。私は、貴方の騎士にあるまじき行いを致しました。
どうか、我が過ちに裁決を。いくつもの夜。私はただ、その為に――――。
「アーラシュ殿。ベディヴィエール殿の具合はどうですか?」
「うなされてるなぁ。マスターたちの言った通り、
夜色、静かなり。
獣も眠る長夜。
立香たちがベディヴィエールを置いて行ったのは、彼を休ませるためであり、宝具を使わせないためだ。
もちろん、戦力として数えた時、決戦の時まで温存しておきたい気持ちが(ダ・ヴィンチとロマニに)ないわけではない。ただそれ以上に、立香とマシュが心配したのだ。
明らかに無理を押して立っている騎士を。
今にも崩れてしまいそうな、その心を。
「ま、いくら味方がちゃくちゃくと増えてはいるとはいえ、相手は女神だ。慎重になるカルデアの気持ちも分かる。あの兄さんは明らかに、獅子王に対するカウンターだからな」
「カルデアにも、強力なサーヴァントはいるようですが……」
「ああ。神殺しの一騎くらいいるだろう。だからこそ、問答無用の――対話を諦めることになる切り札は最後まで伏せておきたい。円卓の騎士だって、まだ4人もいるしな」
納得したように頷く呪腕のハサンに、今度はアーラシュが問いかけた。
「というか、呪腕の兄さんは行かなくてもよかったのか?」
「問題ありません。百貌は捻くれておりますが、優秀です」
ならいいかと笑って、2人は見回りに戻るのだった。