「
「そーれ、どっかーん☆」
「撤退だーっ!」
「は?」
この拷問室は確かに蛇の腹の中かもしれない。だが、悪食も過ぎたるは及ばざるが如し。
その
説明しよう!万能の天才、ダ・ヴィンチは歩きながら考えた。
たとえハサンの救出が上手くいっても、脱出するのは難しい。ここは地下。閉鎖空間。出口を塞がれて囲まれたり、罠を仕掛けられていたとしても避けて通ることはできない。またもしも――――アグラヴェインが手段を選ばない男であるのならば。毒を撒かれたりすることだって、可能性としてはゼロじゃないだろう。
あちらは
ではどうしよう?時間と体力を余分に消耗してしまわぬように、初見殺しの罠を作ろう。
人体を模しているのなら内臓があり、声が出るのなら呼吸をしている。
人間の動きを確実に止めるもの。痛み、光、予期せぬ事故。その上で、アグラヴェインの裏をかけるもの。
――――――う~ん。あっそういえば、以前技術部で防犯カラーボールをつくったなぁ。これを改良できないかな~~。出来た!
――――説明終わり。
視界が曇ってもう見えない。目が痒くて何も見えない。何だ?何が起こったのだ?
アグラヴェインの目の前でサーヴァントが分裂した。…待て、このサーヴァントは先ほども相手どらなかったか?我々が地下に来るまでのわずかな時間に合流した?それとも、ここにいるのが本体なのか。花火が弾けるように人型が部屋に溢れかえって、動揺する騎士たちは対応できずに人波に飲まれた。
煙……、煙が発生したのはサーヴァントの手元から。煙玉か?白く染まる地下室。掛け声とともに放たれたナニか。破裂音は無かった。ニオイ。鼻が痺れる。何を吸った!?一瞬、肉体が止まる。活動が?呼吸が?仮初の喉が緊張。辛い――…?
その刹那が命取り。もう追いつけない。もう追いつけない!
「お…ゴホッ!ゴホッ!エホッ」
「ゴッホゲホゲホ」
「かっら、ハクシュン!ハクション!ハックション!」
同じサーヴァントが同じ時代に二体いるだとか、カルデア技術部は“迅速な人理修復!”を名目として日々珍アイテムを作っているだとか、流石のアグラヴェインも知るわけない。
知るわけないので対処ができない。歯噛みしても咳は止まらない。どこまでいっても運が悪い、鉄の男。堅い手のアグラヴェイン。――――また、取りこぼした。
走って登って。半刻後の空。まだ変わりなく。けれど暗闇に慣れた目には、冴え冴えとした瑠璃。
水底から顔を上げた時のように、息が楽になる。呼吸を意識して深くした。汗をかいちゃったな。
「遅いぞ!立候補して何だが疲れたわ!」
「ごめんごめん。ちゃんと助けてきたよ」
「え、2人?……あっ、分割能力ですか?」
「いや私だ。お疲れ私」
「ああ、私もな」
「???」
疑問符を飛ばしまくっている静謐のハサンを馬に乗せて、立香たちは急ぎ村に帰っていくのだった。
〇影姫 アレ欲しい
〇ウルフ 危ないぞ 何に使うんだ
〇影姫 ザントに投げる
〇ウルフ ほなええか…
バーベキューはいかが?
串焼きお肉に焼き立て野菜。新鮮な魚はコトコト煮込んで。お米でできたお酒で乾杯!
「かんぱーい!」
「先輩、その中身はまさかお酒じゃ……」
「大丈夫!野菜ジュース!」
「なら大丈夫ですね。わたしもいただきます」
夜明け前に戻り、ベディヴィエールたちと再会し、そして今夜は慰労会!
めでたいときはお祝いを。分かち合おう喜びを。笑い合える時間を、なくしては生きていけないから。
「これが宝具なんて…トータはすごいね。お蔭で村人がどんどん増えても、一人も飢えなかったんだって」
「……ええ。でも、戦闘には使用できませんね」
言葉のわりに、口元には笑みが浮かんでいた。星を見上げたまま、少女たちは寄り添う。
「戦えない宝具。サーヴァントのスペシャルアーツ。でも、あの宝具の評価はEXランクです。戦闘……、戦わず、ああして人々の飢えを満たす。そんな宝具もあるのだと、初めて知りました」
風がマシュの頬を撫でる。
「……凄いですね」
フォウくんがあくびをした。
「ネロさんの言葉を思い出しました。笑い声のない国があってたまるものか――。神祖ロムルスとの戦闘前に、彼女は先輩にそう言っていました」
「マシュ、聞いてたの?」
「はい。聞いていました。ただ、あの時、すぐには出ていけなくて」
目を瞑らなくても思い出す。食卓を囲む、誰も彼が笑顔だったこと。
「あの米俵は、
「うん」
「でも――――」
心を満たされた人々の、その空間の、なんと温かなことか。
「いえ、すみません。言葉にできません。分かってはいるつもり……です。特異点で発生するすべての事象は、本来は有り得ないはずの歪。わたしたちが聖杯を入手すれば、すべては修正されます。事象も記憶も、すべて」
幼虫は蛹になった。少女はデミ・サーヴァントになった。
今、栄養を貯めている。羽化の時まで。
「カルデアにとって、先輩にとって、本当に意味がある行為は人理定礎を復元する事だけ。だから、こんな風に特異点で苦しむ人々と交友する行為には、本質的に意味がない。けれど……」
「でも、嫌だと思ったんでしょう?」
横を見る。横顔を見る。
月を探す、マスターの顔を。
「傷ついている人を見捨てるのは。手が届くのに伸ばさないのは」
きれいだ。と思った。
群青が映り込んだ、あなたの瞳が。
「マシュ。キミも、きっともう気づいている。私達は正しい道じゃなくて、後悔しない道を選んでいるんだ。あの勇者たちのように。意味がなくても、立ち止まれる」
「…………」
「たとえ忘れてしまうとしても、消えてしまうとしても。この感情は嘘じゃない。世界を救ったことすら、なかったことになっても――――」
必ず報いはやってくる。必ず春はやってくる。
あなたが、希望に向かって歩み続けるかぎり。
「――――そう、ですよね」
ああ、また。この心に火が灯る。勇気が道を肯定する。
「わたしも、今までに感じた喜び、悲しみに――嘘をつきたくないです。たとえ終わりが見えていたとしても。誰かの為に立ち止まることを、ためらいたくない」
希望という朝が、キミの手を引くだろう。
「全隊、礼!円卓の騎士、トリスタン卿、ご来訪――――!」
そして幕間は終わる。研ぎ澄まされた唐紅。
「……歓迎、ありがとうございます。ですが、今はそのような気持ではありません」
しじまの夜。
騎士が音を置いてけぼりにしたのか。
騎士が音に置いて行かれたのか。
トリスタンにはわからない。ただ清夜と思い込む。
「現場を見させていただきます。……どうか案内を」
「は!こちらでございます!」
崩れた砦。踏みあらされた地面。昨夜はまるで悪夢だった。アグラヴェインは呟いて、円卓の騎士と言うカードを切った。
「以上が昨夜の出来事です。叛逆者の奇襲により兵力は七割減少。現在、この砦は砦としての役割を果たすことができない状態です」
「……なんと痛ましい。聖都の騎士が毒による窒息死とは……」
正確には呼吸器官にダメージを受けて窒息したわけで、毒ではないのだが。今は些事だ。
「このような非道を、王が聞けばなんと嘆かれることか……」
「……は。犠牲になった兵士三十余名、アグラヴェイン様がお連れになった騎士二十六名。この葬儀を執り行うため、砦の兵士たちも一丸となって動いております」
それは人として当たり前のことだ。死体に鞭打つなど言語道断。どうか眠りは安らかであれと、見送るのは当然のことだ。
「獅子王陛下であればこう言われるでしょう。弔いを済ませ次第、この雪辱を全力で果たせ、と」
「……悲しい。私は、本当に悲しい」
目の前にいるのが、人の心を失った獣だなんて。一介の兵士に
「――――そのような判断しかできない貴方たちに、この砦を任せていたなどと」
鋭い
人間が二つに裂けた。
「は――――れ?」
返り血を浴びることも無く、指先は淡々と動いた。
1人、2人、3人。
「同僚の死を悼む時間など誰が与えたのです。ああ……貴方たちの無能さが、私は悲しい」
「ト、トリスタン卿……!おお、お許しを、お許しを……!」
重力したがって落ちた肉塊。汚らわしい血袋。もはやなんの価値もない。
トリスタンにとっては、生きていても“そう”なのだけれど。
「至急、追撃部隊を編成いたします!名誉にかけて、山の民どもを殲滅いたしますので……!」
「急ぎなさい。彼らは馬で逃げた。であればその足跡、我が妖弦で辿るのみ。一日前のものなら十分に追跡は可能です」
彼を表現するのに最適な言葉はなんだろうか。
残忍。鬼畜。人でなし?
「このような仕事は遊撃部隊の仕事ですが、これも獅子王陛下の思し召し。虫と言えど、未だに燻り続けるのは見るに堪えない」
もしも次元の勇者が居たのならば、彼を指してこう言っただろう。
「ああ、本当に――私は悲しい。この指でまた、彼らの命を摘み取らねばならないとは」
泣くこともできなかったトリスターノ――――と。
“悲しみ”という名を持つ騎士は往く。破滅から目を瞑りながら。声高らかに歌奏で。
さあ、因果が追い付くぞ。
FGOくん。十周年おめでとう。