勇者リンクS’の人理修復配信RTA   作:はしばみ ざくろ

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鍵が廻る音/窓をくぐった光

青草を蒸すような強い日射しが真上から指している。いつか、この山も緑に覆われる時がくるのだろうか。

時間、季節、昇っては沈んでいく太陽。それらは只人には止められぬものである。

 

「状況を整理し、作戦を詰める」

 

号令をかけたのは百貌のハサン。仮面はすっかり外している。

 

「立香。我らの目的は獅子王の打倒。おまえたちの目的は獅子王との対面。それはほぼ同じものだろう。獅子王は聖都から出てくる事はない」

「そして聖都に入るには聖都の騎士たちを倒し、あの正門を越えねばなりません」

 

呪腕のハサンが続けて言う。大柄な体躯が畏まっていた。

 

「我らは近々、軍勢をもって聖都を攻略する。聖地を奪われ、家族を奪われた者たちによる連合軍だ。その時、おまえたちの助力が欲しい。どうか我々に、おまえたちの力を貸してほしい」

「こちらこそ、みんなの力を貸してほしい」

「ええ。聖都の門はひとりで越えられるものじゃないし。みんなでかんばりましょう」

『……事態は聖都攻略の戦いになったか』

 

キャスターチェアに深く腰掛けて、ロマニが言う。悩める顔がくるくる回る。

 

『全面戦争はアメリカでも体験したけど、あれほどの巨大な都市を攻略するのは初めてだ。はたして上手くいくものかな』

『そうね……。今回は()の助力もありません。ザントも、直接介入してくることはないでしょう。準備は念入りにするべきだわ』

 

第五特異点で別れた緑の勇者は、今どこで何をしているのだろうか。

とても想像…妄想…創作…の余地があるところだが、今は目の前の事に集中しよう。

 

『聖都に攻め入る軍勢はどれほど用意できるんだい?ただ攻めるだけなら返り討ちになるが……』

「フォウ、フォウ……」

「……言ってくれるな。確かに、我らの軍勢は心もとない」

 

現在、攻勢に出ることに賛成している村は半分というところだ。前線に出れる戦士は七千ほど。

 

「聖都の兵士の数も一万に満たないが、我らとは質が違う。聖都の兵士はみな手強い」

「囲まれたら私達でも手こずるんだ。こればっかりはね……」

「ああ。それに加えて円卓の騎士が出てくれば、通常の兵士では歯が立つまい」

 

ほんの少しだけ暗くなった声が、呪腕のハサンの心境を映している。

 

「……それでも、これ以上は待てぬのだ。長く続く緊張は、村人の精神を疲弊させていく。……限界は見えているのだから」

『……そうか。水を差してしまって申し訳ない。兵力ではまだ劣っている、というのは分かったよ』

「ふむ。しかしサーヴァントの数ならこちらが上だろう。生き延びている円卓の騎士は四騎」

 

ランスロット。ガウェイン。トリスタン。アグラヴェイン。

こうして並べてみると、随分少なくなってしまった。

 

「対して、こちらは九人だ」

 

マシュ、ダ・ヴィンチ、ベディヴィエール、アーラシュ。

ハサン、ハサン、ハサン、拙僧、そして三蔵。

 

「いや、戦場になると三蔵は役に立たぬ故、八人か。それでも数は十分。であれば、もう我々だけで聖都に攻め入ってしまってもいいのでは?」

「それは違う、トータ殿。これは聖地を取り戻す戦いだ。俺たちが戦って円卓を倒せばいい、という話じゃない」

 

顎に手を当てて首を傾げたトータに、アーラシュが待ったをかけた。

 

「それに、円卓の騎士の妙な力がな。ありゃあ上手い事対応しないと」

「むう。アーラシュ殿にそこまで言わせるのか。強敵や良し、と喜んでいる場合ではなさそうだ」

 

そういえばトータは円卓の騎士の戦闘場面を見ていないのだった。一番近くまできたモードレッドはあんなことになったので……。

 

「無論。兵力に関しては最後まで呼びかけを続ける。円卓どもも各個撃破すればよい。問題はガウェインだ。ヤツが正門にいるかぎり我らに勝ち目はない」

「日中であれば無敵のガウェイン卿、ですね……。普通に考えて、夜に戦いを挑むしかないのですが……」

『ああ。彼にはもうその弱点はない。獅子王のギフトで、彼が戦場にいるかぎり夜は訪れない』

 

 

守銭奴(紫) 聞けば聞くほど堅牢だな

フォースを信じろ(緑) でも無敵って破られるためにあって…

 

 

「……はい。先ほどの繰り返しになりますが、日中のガウェイン卿は円卓において最強の騎士。ランスロット卿の宝剣、アロンダイトのような特性を持つ宝具でもなければ防戦も叶いません」

「アロンダイト……。"決して刃こぼれしない”という宝剣ですね」

 

話し合い中なので盾をしまっているマシュは三角座りをしている。立香がよくしているので、マシュもたまに真似をしていたのだが、もう自然に出来るようになったらしい。

 

「剣で防御する、という意味ではわたしの盾に近い特性なのでしょうか……?」

「いえ、レディ・マシュ。貴女の持つ宝具は唯一無二の特性ですよ」

 

ベディヴィエールが穏やかに続ける。この幼い後輩に対しては、どうにも助言したくなってしまうようだ。

 

「それと、ランスロット卿の宝剣は対人宝具です。なんというか、ガウェイン卿と戦う、という点ではとにかく相性がいいのです、ランスロット卿は」

 

それにランスロットは、ガウェインの最後にも大いに関わっている。

いちサーヴァントとして強大な存在であるほどに、敵は弱点を見つけようと躍起になるだろう。そしてどのような無敵を誇った英霊であろうとも、英霊である時点で死後なのだ。明確な弱みとなり得る、その覇道を途絶えさせた死因というものは無視できるものではない。

 

「あ、メイアン浮かんだわ!ランスロットを味方にして、ガウェインの相手をしてもらうのはどうかしら!」

 

天才的な閃きをしてしまったと三蔵が声を上げれば、その平たい額がぺちんと叩かれた。

 

「ばかもの、仲間同士でどう戦わせるのだ!握り飯一つで懐柔できるのはお主だけだ!」

「あいたぁ!?」

「ランスロットか~。確かに、アーサー王を裏切った騎士と呼ばれる男だけどねぇ……」

 

トータの肩をぽかぽか叩いて抗議の意を示している三蔵の横で、ダ・ヴィンチがふんわりと髪をかき上げて耳にかける。

 

「戦力としては一級品だ。今は、アグラヴェインが追討のカードとして切ってくる可能性の方が高い」

『うん。それに、懸念材料はもう一つある。エジプト領のオジマンディアスだ』

「……そうでしたな。山の民は彼の王と不可侵条約を結んでいます。故に、領地から出てくることはないでしょうが……」

 

共通の敵である獅子王が倒れ、聖都を攻略できた後は?

ハサンもカルデアも、偉大なる王の内心まで理解しているわけではないのだ。

“おまえたちは必ず、余の首を獲りにくるだろう”

その言葉が真実になるかどうかまでは。選んだ道の先まで、走り抜けなければ分からない。

 

「もう一つ。大きな戦力が必要だ」

 

愛用のペンを片手にダ・ヴィンチが言う。

 

「現状の我々の戦力で、天候を塗り替えるのは不可能じゃない(・・・・・・・)。立香ちゃんの魔力と体力と令呪とカルデアのリソースを使えばね」

「令呪は回復するけど、それには一度カルデアに戻らなきゃいけないんだよね」

「そうそう。ちゃんと覚えているね。つまり使えるのはキッチリ3画分。そして獅子王にたどり着くまで、辿り着いてからのことを想定すると、ガウェインの前で1画以上の消費はできない。立香ちゃんの負担も大きいしね」

「待ってください。立香様を繋ぎとめるには、もう一つ、大きな戦力があればいいのですね?」

 

少女の声が引き留める。立香とダ・ヴィンチが振り向いて、静謐のハサンはおずおずと切り出した。

 

「それなら……我らにも秘中の秘があります。私が捕らわれ、尋問されていた理由の一つでもあります」

「静謐!」

 

鋭い声が百貌の喉から飛び出して。

 

「貴様、まさか――――!」

「……お許しください、百貌さま」

 

されど静謐は止まらない。

 

「ですが、我々も禁忌を破る時ではないでしょうか……?私たちだけでは力が足りないのなら、あのお方の力を借りるしか……」

「………………」

「………………」

 

沈黙。

立香たちのいる頭上の空だけ、突然厚い雲が覆ってしまったような重みだった。

そんなはずはないのに。こんなに晴れているのに。この空気はなんだろうか。

 

「え?なに?ハサンの人たち、急に暗くなっちゃったけど……」

 

三蔵がぱちぱちと瞬き。雲の中の静電気のよう。

 

「……アズライールの(びょう)

 

そよかぜのような一言。聞きなれぬ単語。

無意識にうつむいていたハサンたちの顔が、勢いよく上がる。

 

「それはアサシン教団はじまりの寺院に眠るという、初代“山の翁”の事ですね?」

「な……!?知っているのか、円卓の騎士であるおまえが!?」

 

こんなにも分かりやすく取り乱す呪腕は、ある意味新鮮だった。

大人しく口を噤んでいる立香は、2人の顔を交互に見る。

 

「ここに来る前に、魔術師に言われたのです。

 “アーサー王に対抗するのなら、山の翁を尋ねなさい”

 “歴代のでなく、最初にして最後の翁を”……と」

 

 

騎士 ……ハサンの初代?

バードマスター 寡聞にして申し訳ないんだけど、その方って冠位じゃなかった…?

ファイ イエス。グランドアサシンの資格を持つ英霊と認識しております。

 

 

「……そうか。知っていたのだな、ベディヴィエール卿」

 

雨粒が落ちるような、ぽつりとした声だった。

 

「…………確かに。あのお方であればガウェインなど恐るるに足りぬ。だが、あの方を起こすという事は……」

 

ため息を振り払うように、百貌も言う。

 

「…………貴様には言っていなかったな、静謐。呪腕めは、この時代に生きた暗殺者だ」

「……!」

「その意味が分からぬ山の翁ではあるまい」

「そんな…………。…………ごめんなさい。私、知らなくて――――」

 

先ほどとは違う意味で青ざめた静謐が、震えるままに謝罪した。

 

「良い。お主が気に病むことではない。私も掟に囚われすぎていたわ」

 

呪腕が、疑問を浮かべている立香たちに向き直る。

一呼吸おいて落ち着きを取り戻した白い面が、安心させるように微笑んだ。

 

「立香殿。そしてロマン殿。ガウェイン卿を打倒する手段があれば良いのですな?」

『ああ……』

「では今一度、我が村に参られよ。そこで、我らの秘密を明かしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――来たか」

 

ザントは山陰を見下ろして、他人事のように呟いた。

影を縫うように進軍してくる獅子王軍は、まるでお利口な蟻のよう。ぞろぞろと繋がる列は長く。アグラヴェインの、内なる殺意の高さを窺い知れる。

魔法で映像の窓を展開しながら、筆頭信者は椅子に深く腰掛けた。手酌で注がれる酒が、グラスの中で照明を反射する。きらきら。とぷとぷとぷ。杯は一息で乾かされた。

カルデアが砦を襲撃してから、およそ二日。どれほど早く準備を整えて追いかけてきたとしても、反撃の構えを済ませるには十分な時間だった。

故に、ザントが手を下すことはない。今宵の酒の肴として、高みから見物させてもらうだけ。

 

「精々踊る様を見せておくれよ。騎士ども」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「襲撃だ!」

 

アーラシュの声が村に響いた。

戸を開けて扉をあけて荷物を抱えて、村人たちが飛び出してくる。

 

予定通り(・・・・)洞窟に急げ!まだ時間はある、慌てるな!」

 

緊張に強張った顔をしながらも、村人たちは速やかに走っていく。

赤子を抱えて、妻の手を引いて、年老いた親を背負って。大小さまざまな人が流れていく。

 

「二人でいい、戦える男は俺に付いてこい!騎士たちを迎撃する!」

「襲撃の手伝いだな、任せてくれ!おい、動ける者は避難を手伝うぞ!」

 

声が飛び交う。影が駆ける。磨かれた剣が帯刀される。

 

「アーラシュ兄ちゃん……!」

「おっとルシュド。母さんと逸れず逃げるんだぞ」

「……兄ちゃんも気を付けてね!負けないでね!」

「当然だ!俺を誰だと思っている」

 

小さな頭をくしゃくしゃとかき混ぜて、アーラシュは快活に笑った。

 

「大英雄アーラシュと同じ名前のアーラシュさんだぞ?手早く全滅させてくるとも。それまでみんなを頼むぞ」

「……うん!」

 

駆けていくアーラシュに追随する影は1つ。合図を受けて、四方に散っていったのは3つ。

生気に溢れた緑の目が敵影を捕らえて、矢を番えた。

 

「よし、次!正面は問題ない、東の道はどうだ!?」

「敵影はない、大丈夫だ!アンタは正面の騎士にだけ専念してくれ!」

「おう、任せな!これで二十人目、と――――!」

 

褐色の指先から放たれる矢が陣営を崩していく。鎧を砕いていく。千里眼は見ている。

 

「!?」

 

変化は唐突で明確。放たれる矢が、撃ち落とされていく!騎士に辿り着く前に砕かれて落ちる。まるで矢避けの加護のよう。

 

「どうなっている!?誰も、なにもしていないのに!?」

「やつらの神の加護だというのか!?」

「――――いるか、そりゃぁな……!妖弦使いトリスタン……!――撤退!二人とも、逃げろ!」

 

二人の男が踵を返すのと、金色が飛び出すのは同時だった。

青い上着が翻って、銀河流星剣が唸る!

 

「セイバーホームランッ!!!」

 

アホみたいな掛け声だが、本人はいたって真面目である。

 

「ぐううっ!?」

 

金属と金属がぶつかる、甲高い音が響く。

被っていたシーツを取られたお化けのように、その男は引きずりだされた。

 

「な、に……!?」

「やはりいましたねランスロット卿。まあ残っている円卓で姿を消す宝具を持っており、襲撃に参加しそうなのはあなたしかいないので、直感を使う必要もありませんでしたが」

 

身軽な猫のように少女は降り立つ。スポーティで近未来的な戦闘衣装(バトルドレス)は、鎧を着こんだランスロットと対照的だ。少なくともこの時代の人間ではないし、なんならこの星の人間でもない。

 

「王道も非道もここまでです。私以外のセイバーは斬る。なんだろうとセイバーは斬る。それが昨今、社会的な問題となっているセイバー増加に対応するために派遣された私の役目。対セイバー最終兵器。ヒロインXとは私のこと」

「は?」

「ここが年貢の収め所。私に会ったのが運の尽き。残念でしたね、ランスロット卿」

 

真上から指す日光に照らされて、ペパーミントにもターコイズにも見える瞳は、場違いにも美しくて――。

 

「セイバー、死ね!!!!」

「なあ九割くらい私怨じゃないか?」

 

思わずツッコミを入れてしまったアーラシュは、本当に真面目な男であった。

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