白亜の城。玉の間にて。
「只今戻りました陛下。補佐官殿より火急の任が入り、帰還が遅れた事、お詫び致します」
「良い。卿に命じた任務は聖抜に適う人間を保護する事だ。それが達成されているのなら、私から下す罰はない。面を上げるがいい」
玉座の後ろから差し込む朝日が、後光のようにきらめいた。瞬きを一つ。
ゆったりとした仕草で、紫の騎士は言われた通りに顔を上げ、バリトンを再び響かせる。
「は。有りがたきお言葉。陛下の御心を汚さず済んだ事、このランスロット至上の喜び」
騎士――ランスロットは思う。この部屋はこんなにも静かだったか?
「聖抜に適った者は十二名。既に聖都に入場し、管理室に引継ぎを行いました。――――しかし」
いや、現実逃避だ。
今の自分は、想定されていた戦果を挙げられなかったどころか、逃げ帰ってきたようなものなのだから。
「叛逆者達はまだ生きています。王の光が、防がれたのです」
「聖槍の一撃を防いだ、だと!?奴らにそんな手駒はいなかったぞ……!?」
聖槍は最終段階に入り、ついに最果ての塔は開かれるだろう。
だが王の眼差しの届かぬところで、戦局は刻一刻と変わっている。
追い詰められているのは誰だろうか。
この特異点が盤上だとするのならば、誰がプレイヤーなのだろうか。
「それがひとり、いたのです。アーラシュ・カマンガー。彼の宝具が、裁きの光を相殺しました」
「…………!!」
隊を引き上げるのに気を取られていたランスロットは、
まあそうでなくとも――――ザントは叛逆者たちの手駒ではないのだが。
「叛逆者たちは砂漠に向かったところまで、かろうじて確認できました。おそらくオジマンディアスと手を組むつもりでしょう」
「これは……!お前の不手際でもあるぞ!ランスロット!」
「………………無論、責任はとる。叛逆者を追い、これを捕らえる」
重くなる口を開いて、騎士は続けた。
アグラヴェインが怒りと動揺で口元を歪めるのを、どこか他人事のように眺める。
「処罰はその後に。汚名をそそいだ後、王にこの首を預けるのみ」
「要らぬわ、たわけ!追撃は他の者に任せる!貴様にかける温情はない!」
激情が隠せないまま、アグラヴェインは言葉を吐く。
清廉な空気をまぜっかえして、体温が上がっていく。
「ガウェイン卿、ランスロットを捕らえよ!翌朝をもってその任を解き、幽閉刑と――――」
「――――間に合うのか、ランスロット。叛逆者たちの星は速く、また自由だ」
熱くなった騎士を冷ますように――――あるいは、冷や水を浴びせるかのように。
王は口を開いた。
「貴公にその星を捕まえられると?」
相も変わらず、淡々とした口調で。
「無論。我が宝剣、アロンダイトにかけて」
「王!」
「叛逆者の追撃を命じる、ランスロット。急げよ。王城の壁はじき現れる。その前に戻るがいい」
「は!」
身を翻して、残るのはマントの羽ばたきだけ。
「っ……!」
「そう猛るな、アグラヴェイン。ランスロットであれば間違いない」
「…………そう、でしょうな。貴方はいつも、そう信じていらした。……出過ぎた発言でした。お許しください、我が王よ」
結局一度も発することはなかったガウェインは、視線だけで扉を見た。
そういえば、トリスタンはいつ戻ってくるのだろうか。
「抵抗するのなら容赦はしない。降伏か
「――――マスター。わたし……あの人を、良く知っているような気が……」
「……え?そうなの?」
ぽつり、と零された言葉に立香はそっとささやき返す。
ささっと立香の肩に跳びうつったフォウ君が、ぴくぴくと鼻を動かした。
「降伏するつもりはありません。ですが、戦いの前に問いただしたいことがある」
一歩、ベディヴィエールが前に出た。
止むことのない砂塵の中でも、ランスロットの驚いた顔は良く見えた。
「サー・ランスロット。卿はいかなる理由で、今の王に仕えているのかと」
「――――これは幻か、幻術か?ベディヴィエール……ベディヴィエール卿なのか!?」
動揺で上ずった声。瞳孔が開く。
「馬鹿な、有り得ない!貴方がこの場にいるなど、ある筈がない……!?」
「(……ねえ立香。ベディヴィエールが離反したからって、さすがに反応が過剰過ぎない?)」
「(有り得ない、か……)」
「仮に私が幻であったとしても、我が問いの真実は変わらない」
お互いの剣にかけられた手に、力が籠る。
「答えよ、サー・ランスロット。卿ほどの騎士が今の獅子王に仕える理由を。
ガウェイン卿は何であれ王を信じると言った。トリスタンは王の采配を、慈悲ある行いだと断言した。
貴方はどうだ。あの光を、人々の村を焼き滅ぼさんとする愚行を、アーサー王の所業だと語れるのか!」
「――――――」
沈黙は短く。鋭く息を吸った。
「――――総員、戦闘準備。これより叛逆者たちを拘束する」
「ランスロット!答えを聞かせなさい!」
「――――断じて、あれが王の所業などとは語れるものか!私が剣を預けた者は騎士王だ、獅子王ではない!」
〇災厄ハンター 言っちゃうんだ
「だが、それと諸君らを捕らえる任務に関係はない!申し開きは王の御前でするがいい!もっとも、アグラヴェインが卿の参列を許せば、の話だがな!」
「……そこまで分かっていながら戦うのですね。いいでしょう!私も、貴方には言いたいことが山ほどあります!」
〇オルタ ☆ベディヴィエール、キレた――!
〇バードマスター おやめ
「サー・ランスロット抜剣!すごい分からず屋です、なぜか分かります!」
「ええ、王様が間違っているって認めているのに戦うとか、これはもう説法ものね!行くわよ、立香!」
土煙と地鳴り。しなる竹のごとき一刀。
受け止めたベディヴィエールが歯を食いしばる。重い!堅い!ランスロットがさらに踏み込む前に、問答無用で首を狙ってきた矢を避ける。鍔迫り合っていた剣を弾き、矢を剣で叩き落し、神速の踏み込み!
「……!」
「行かせません!」
盾を構えたサーヴァントが立ちふさがり、剣を受け止めた。盾、盾。盾――――?違和感。相手の顔を見る。知らないはずの紫の少女が、こちらを睨んでいる。
「撃つよー!」
「ぐわーっ!」
「ほわちょーっ!」
「わーーっ!」
一瞬、思考の波に攫われそうになった意識を引き戻す。周囲を包囲しようとした騎士たちが、ダ・ヴィンチの光弾に列を乱されて
「怯むな!逃がすわけにはいかん!」
大盾の少女と距離を取り、部下を鼓舞する。このままでは村の二の舞だ。最初から、全力で――――!
愛剣に魔力が籠る。太陽光を反射した、湖水の水面の如き輝き。
「
「
剣が盾を削るように振り下ろされる。本来なら切断面から溢れるはずの魔力は、盾を滑るように、あるいは弾かれるように周囲に飛び散った。過負荷をかけられた剣の甲高い共振。斬撃未満の魔力が砂漠を抉り、砂嵐を吹き飛ばし、二人の足元に大きなクレーターができる。
「くっ……」
「眩しい……!」
マシュの動きを追っていた立香は、光と化した魔力からとっさに目を覆う。
トータはすぐに矢を番え、ランスロットを追撃した。
「(この気配、まさか…!まさか…!?)」
乱れた集中のまま矢を回避する。足にまとわりつく砂が重くて、動きづらかった。
「立香ちゃん!そろそろ……!」
ダ・ヴィンチが言い切る前に、最後の乱入者が現れた。
ドドドドドド―――――ッ。と神殿の方向から走ってくるスフィンクスと共に。
「何をやっているのです、この不埒者ども!ここが太陽王ご執心の地と知っての狼藉ですか!」
とも、に……?
「我が名はニトクリス!太陽王にこのアトラス院を任されたファラオなり!」
かんかんと怒る声。朗々。
その場全ての人々の頭上から降り注いで、雨のよう。
糸に釣られるように見上げた者達はみな揃って、ぽかんと口を開けた。
「我を畏れよ!我を崇めよ!さすれば命だけは助けよう!」
砂嵐よりももっと高く!不埒者どもを見下ろす偉大なるファラオ!
「――つまり具体的に言うと、立ち去るか降伏なさい!見て分かる通り、私はとても強いのですから!」
「おっ…きいニトクリス!」
「あわわ……如来さまクラスの英霊だわ……だって大きいもの!すごく!」
〇小さき爺 三蔵法師が無垢すぎて心配じゃよ爺は
「勝てない、勝てないと思うのあたし!立香、逃げましょう!」
「そうだね!走れー!」
「なっ…、追え!」
掛け声に合わせて一目散に駆けだした立香たちと、すれちがっていくスフィンクス。
「ららら、ランスロット卿……!」
「何だ!?」
「獅子王曰く、遙か一万四千年の過去、砂漠には滅びの巨人が居たと聞きましたが、まさかこやつが……!?」
「馬鹿者、よく見ろ!あれこそ魔術による幻影だ!本人はここにはいない!遠隔操作にすぎん!」
GUOoooooooooooo!!
「うわあ――――!?ランスロット卿、スフィンクスです!」
「見ればわかる!慌てるな!総員、方陣を組め!まずはスフィンクスを殲滅する!」
あっという間に、砂漠は人影を呑み込んだ。
砂粒を蹴とばして走っていく立香たちを見送って、手のかかる事だとファラオはため息をついた。
「――――ここだぁ!跳びこむよ!私に続けー!」
「えーーーっ!ダ・ヴィンチちゃんが、消えました!」
「落とし穴!落とし穴なの!?トータぁ!」
「えーいままよ!」
「フォーウ!」
「行きまーす!」
「続きます!」
ザアアアアア
――――。
砂が流れて、落ちていく重たい音。浮遊感は数秒?目を瞑って跳びこんだ立香を、影から伸びた両手が受け止めた。優しくお尻から地面に降ろされて、そっと目を開ける。真っ暗だ!そういえばキミ居たね。あとでありがとうって言おう。
方向感覚はまだ定まらない。――――ぱっと、光がうまれて。目をしぱしぱさせながら人を探す。
明かりを掲げたダ・ヴィンチが、砂を払って立ち上がった。
「全員いるね?無事かい?」
「藤丸立香、元気です!」
「マシュ・キリエライト、お尻から落ちてしまいました……」
「華麗に着地できました。ベディヴィエール、ここに」
「……
「ずいぶんと落下したな……。それにしては空気があるな?」
「フォウ」
立香も服を整えて立ち上がる――――。ダ・ヴィンチが、妙な顔をしていることに気づいた。
「ダ・ヴィンチちゃん?」
「暗闇の中の七人目か。さながらミステリーだね」
「はは。そう警戒しないでくれ。今明かりをつけよう」
「……ん?誰……?」
聞きなれない男性の声がしたあと、空間が明るくなる。
パイプタバコを片手に、男は微笑んだ。
「やあ、こんにちは諸君。そしてようこそ、神秘遙かなりしアトラス院へ!」
涼し気な顔立ちをした男は機嫌よく、優雅に一礼をした。
「私はシャーロック・ホームズ。世界最高の探偵にして唯一の顧問探偵」
最後の役者が舞台に上がる。
真実という名の剣を携えて。舞台裏さえ暴くために。
「探偵という概念の結晶、“明かす者”の代表――――。キミたちを真相に導く、まさに最後の鍵という訳だ!」
〇災厄ハンター 楽しそう
〇ウルフ ウキウキで草
〇銀河鉄道123 次元に構ってもらったからね