「こ――こんな場所に野営地が!?それに、それに――――」
「人がいっぱいいるわ!山の民、砂漠の民、それに聖地の人たちまで……」
生きる喜びすら乾いてしまうような砂漠でも、ここには活気があった。
色とりどりの布が靡いて、まだ色彩を残している。
「それに昨日今日できたものではない!もうこれは難民たちの村と言えよう!」
「ランスロット卿、貴方は――――難民たちをここに避難させて、匿っていたのですか!?」
砂嵐に息を潜め、生活を続ける人々がそこにいた。さわさわと笑い声。風が水桶を波立たせて。布の向こうから生活音がする。
息がしやすいと、軽やかに。
「……聖抜に選ばれてしまった者は聖地に輸送する他なかったがな。選ばれなかった人々をどうするかは私の自由だ。王は処罰しろ、とは命じなかった」
「あの騎士たちは、貴方のやり方に賛同しているの?」
「王命に背いて放浪する騎士たちも少なくはなかった。彼らにも居場所は必要だ。なので
「もう、すっごい詭弁ね!これ、立派な反逆罪よランスロット!」
〇海の男 反逆の騎士!!!!
〇騎士 いいんだけどよくないんだけどいやいいんだけど
〇バードマスター これを面目躍如と呼んではいけない(戒め)
「でも素敵だわ!ほらマシュ、ヘビィーな感想、言ってあげて!」
『あ、良かった。ようやく繋がった。砂漠地帯から戻ってきたようだね』
「穀潰し!顔に似合わずやりますね、お父さん!」
「だから、その呼び方は止めなさいと……」
『おおお父さん!?!?どこの馬の骨よ!!!!』
『うわああああマシュが!!マシュが悪い男に引っかかってる!!』
「ごめん。ちょっと時間貰うね」
「あ、ああ……いや…………」
何時間ぶりに繋がった特異点では、マシュに父親が出来ていました――――。
村に響く悲鳴のデュオ。所長とロマニが静かになるまで10分かかりました。
『コホン!失礼したわね、ランスロット卿。それからマシュ、貴女と融合した英霊の真名がついに分かったのね』
「はい所長。アトラス院でホー……ホームラン級の当たりを引きまして。わたしに力を委ねてくれた英霊の真名も、獅子王の正体も判明しました。聖槍についての情報は今からお送りします」
『ありがとう。すぐに確認するわ』
「(……先輩、ミスター・ホームズの頼みでしたから、ドクターにはカルデアを調べた事は黙っておきますね)」
「(うん。ひとまず伏せておこう)」
所長とロマニがレポートを確認している間、立香たちは日陰に移動した。
そこにのんびりと近づいてくる男。ゆったりとしたトーブに、白い頭部布。ありふれた背丈。
「よっ、姉ちゃん。また会ったな」
「正門にいた盗賊団……!」
「あの時は世話になったな、娘さん。今はここで小遣い稼ぎしてるのさ」
セルハンは立香たちとは別方向に逃げた難民たちを指揮して、逃走させた一流の盗賊なのだとか。
「その後、これ以上は面倒みきれない、と難民たちをここに押し付けてきてな……」
「やり手だねぇ。私が雇いたいくらいだよ」
「はっはっは。あんたは小金持ちのニオイがするぜ」
「うふふ♡」
セルハンはわざとらしくゴマすりをしながら去っていった。ああいう逞しくも強かな人間こそが、長生きするのだろう。
「さて、味方も増えたところで。我らが所長がレポートを読み終わったところで、改めて状況を整理しようか」
ぱんっと軽く両手を合わせて、ダ・ヴィンチが衆目を集めた。
「聖槍の真実。聖抜とは人間の選択。何をしても、どんなに悪に触れても善からブレない精神……。属性で言うところの秩序・善の人間を聖都キャメロットに集めて、キャメロットごとロンゴミニアドに吸収、どのような隔絶空間にあっても存在し続けられる宇宙コロニーのようなものにする」
『確かに、それなら魔術王による人理焼却にも耐えられるわ……』
椅子にぐったりと背中をつけるオルガマリーは、もう心労がたっぷり溜まっている。
雪だるま式に増えていく。驚愕、絶望、脳疲労。もうイヤ……なんなのこの状況……。
ロマニがバタバタと氷嚢を持ってきて、そっとおでこに乗せた。気遣いは感じるので、オルガマリーはされるがままだ。
「………………そうだ。その理念自体は正しいものであると、我々は思っていた」
「……………………」
「ベディヴィエールさん、そこは言っていいのよ。ランスロットさんは間違っていたって」
「え?い、いえ……私はそこまで追い打ちをかけられないというか……」
耳元でひそひそ…ということは特にしないのが三蔵である。
「そ。優しいのね。そういう人大好き。じゃあ、代わりにあたしが続けるわ」
砂漠の果てを見た者として、三蔵が言う。
「獅子王の理念は間違っている。人々から選択の余地を奪うのは良くない事よ。でも円卓の人たちはみんなそれを受け入れている。いえ、受け入れるために己を殺している」
それはもう、立香やベディヴィエールだって分かるほどだ。彼らはこの選択が最善だったと思い込み、最善にしようと足掻いている。たとえその代償が、己一人で済まないとしても。
「それは昔のアーサー王を信じているからよ。でも今のアーサー王はもう違う。別人よ。ねえ、どうしてアーサー王は獅子王なんかになっちゃったの?」
「……それが分からないのだ。我々が召喚された時、王は既にあの姿だった。君たちの言う魔術王とやらに侵された気配もない」
草臥れて肩を落とす男は、到底立派な騎士には見えない。
「乱心したと背く騎士もいたが、そもそも、王が乱心する理由がどこにもなかった」
「――――乱心じゃないさ。正気がないどころか理性すら、今のアーサー王にはないだろうからね」
「理性すらない……では傀儡だと言いたいのか?アグラヴェインの言葉に従うだけの人形だと!」
しかし、アグラヴェインもアーサー王が召喚したサーヴァントだ。
彼にそんなことができるのだろうか。
「アグラヴェイン?ああ、アーサー王の補佐官か。セルハンも言っていたね。“補佐官である事を隠れ蓑にして、商人ギルドを奪い、私腹を肥やしている”と。でも違うよ。アグラヴェインが何を考えているかはともかく、アーサー王がなぜ獅子王になったのかは説明できる」
彼女はもう
聖槍を長く持ちすぎた結果、属性が変化している。
「属性が変化……している?」
「そう。もともと地に生きる伝説だった彼女は、聖槍によって天に属する伝説になってしまった」
アーサー王はブリテン土着の伝説である。でも、獅子王は違う。
今の彼女に故郷の郷愁なんてない。生前の暖かい思い出を追憶することもない。
「人の理性であればどんな理想都市を目指そうと、そこには生活を向上させる理念が生まれるだろう。でも彼女はそれを選ばなかった。考えもしなかった」
だって、もう人間じゃないから。
興味がないのだ。そんなこと。
「『永遠に残る人間世界』を維持する為に、人間の幸福をすべて否定した。それは冷徹を通り越した、超越者的視点だ。彼女は本気でこう考えている」
『人間は価値あるものだ。だが、人命に価値はない』と。
「その結果が聖都キャメロット。まさに神の視点だ。理性がない、とはそういうことさ」
『……属性変化か。あり得る話だ。つまり、その特異点に現れたアーサー王は英霊ではなく……』
「神霊……神の類だと言うのか……!」
だからブリテン島ではなく、遠く離れたエルサレムに現れたのだろう。
降臨したのか。たどり着いたのか。それはまだわからないけれど。
時代を崩し、人間をやめ、名前を捨てて、槍を手に取った。
人間世界を保護する為だけに。他の一切を薪にして。
それが彼女の使命/意義/機構であるが故に。
神とはそういう生き物/システムだ。
「つまり女神さま?」
「……あたしたちでいう神さまじゃないけどね。御仏は慈悲深くなくちゃなれないもの」
「だが何故だ!なぜそんな事になった!アーサー王が目指したものはブリテン島の平和、人々の穏やかな営みだった!その騎士王が、なぜそんな姿になったという……!
「…………………」
掠れる声が悲痛に響く。ランスロットの心情を慮っているのか、あるいはそれ以外の理由か。ベディヴィエールの口は堅く結ばれている。
『アーサー王の変質の話は後よ。その状況はマズすぎるわ。その時代はとっくに崩壊しているばかりか、人理に含まれない人間世界を作る、ですって!?』
「そんな事になれば、ソロモン王を倒して人理焼却を無かった事にしても、人類史はメチャクチャになるだろうね」
『獅子王の聖槍――――聖都キャメロットは人理修復後の癌よ。何としても止めないと……!』
氷嚢を額に押し付けながら、オルガマリーが言う。
立香とマシュはこくこく頷いた。
「……私が王に謁見し、逆賊になる。それで聖槍は停止するのではないか?」
「それは無理。ランスロット卿、獅子王からギフトを受けてるだろう?なら獅子王に剣を向けた時点でキミは燃え尽きる。……こんな事を言いたくはないんだけどね」
ギフトを受けた時点で、円卓の騎士たちは獅子王に逆らえなくなっているのだ。
「…………………っ!」
「……ハサンさんたちと合流して、正面から聖都を攻めるしかないんですね、でも……」
「ガイコツの偉い人が来てくれるって言ってたけど、それだけじゃ獅子王の軍勢には勝てないわ。まだ兵力の差が圧倒的だもの。おまけに、獅子王には裁きの光がある」
〇オルタ 蟻のように湧いてくる兵もいるしな
〇騎士 いつの時代も数の利は大きい。だから暗殺者なんてのがいたのだが……
〇銀河鉄道123 というか、聖都の正門を開けられなくないですか…?
「……今のままで戦うのは自爆行為よ。自爆、ダメ、絶対」
オルガマリーも頷く。
「あたしはともかく、あたしの前でそういうコトされると、泣いちゃうから」
「…三蔵ちゃんもダメだよ。私、泣いちゃう」
「…ええ、ええ。わかっているわ、立香」
安心させるように、彼女は笑った。
「聖都を攻めるには兵力が足りない……。ですが、もうそんな余力はどこにもなく……」
「うーん、そうかな?」
「立香?」
「暇そうな人が、いますよね」
暇そうな人……?
皆が一斉に思案に耽り、すぐにあっと思い出す。
「オジマンディアス王……!先輩はあの太陽王に協力を要請すると!?」
トータがそういえばいたな……。の顔をした。普通に忘れていた。
「ありえません。あの傲岸不遜王が我々に手を貸すなど!」
結構言うのね?という顔で三蔵ちゃんがベディヴィエールを見た。
「んー。流石の私も反対かもだ。むしろ獅子王を倒した後、彼とどう戦うかを考えるべきでは?」
「……いや。盲点だったが、有り得ない話ではない」
この中では付き合いが長い方であるランスロットが、顎に手を当てながら考える。
「獅子王を放っておけばエジプト領も消える。それが分からぬ男ではない。条件さえ示せばオジマンディアスは我々に協力する。エジプトの王は、益のある交渉を無下にはしない」
まあオジマンディアスはリンクがカルデア側に付いていることを知っている(獅子王は勇者の敵)ので、断ったりなどしないのだが。
「立香ちゃんの身柄を寄こせ、とかになったら話にならないが?」
「その心配はない。奴はああ見えて単純だ」
「フォ?」
フォウくんがダ・ヴィンチの疑問を代弁するように、首を傾げた。
「奴は勝算のある方につく。我々には共に戦うに値する
玉座で、オジマンディアスが小さくくしゃみをした。
「よし、砂漠越えの準備は整った。そろそろ行こうか立香ちゃん」
「はーい」
髪を綺麗に結び直して、立香は立ち上がった。しっかり休んで、気力も十分。
メンバーは立香、マシュ、三蔵、トータ、ランスロットとその配下の精鋭だ。
「オジマンディアス王の軍勢と戦う可能性もある。ランスロット卿たちには張り切ってもらわないとね」
「うん…、あれ、ベディヴィエールは?」
綺麗な銀色が見当たらなくて、立香はきょろきょろとあたりを見回した。
まだ、来ていないのかな?
「彼には山の民への連絡を頼んだよ。一足先に東の村に行ってもらった。呪腕のハサンと面識もあるし、適任だろう?」
「それはいい。ベディヴィエールにはいい休息になる」
こちらも準備を終えたようだ。トータと三蔵も集まってきた。
「ベディヴィエールさんからハサンさんたちに、太陽王と協力する方針を伝えてもらうのですが……。ザントさんが来てからは敵対していなかったとはいえ、納得してもらえるか、ちょっと心配です」
「そこは納得してもらうしかなかろうよ。んじゃ、オレも行ってくるぜダ・ヴィンチ女史」
「ああ、よろしく頼んだよセルハン殿?こればかりはキミの草の根ネットワークが頼りだ」
セルハンはちゃんと依頼を貰ったらしい。懐がほくほくだ。
「はいはい、厄介な演説になりそうだがね。そこの娘さんをダシにしていいなら半々だ」
「わたし?」
「ああ、アンタだ。なんとか口八丁手八丁でオジマンディアスの軍勢を借り受けて来てくれよ?」
のっそりと熊が巣から出ていくようなそぶりで。男は片手を振りながら出発していった。
「ランスロット卿。遊撃騎士隊40騎、出撃準備整いました」
「よし。他の騎士たちはこの場に残り、ベディヴィエール卿からの知らせを待て。山の民との合流許可が下り次第、ここの軍勢を聖都付近の隠し谷まで移動、待機だ」
「ハッ!卿もご武運を!」
〇騎士 腹を括ったか
「……獅子王と、戦うんですね?」
「……ええ。あまりに遅くなりましたが」
立香の最終確認に、ランスロット卿は迷いのない瞳で頷いた。
「私は王に忠誠を誓った身。この剣は王の為に振るうと決めていた。だが、王が人ならざる者になったのであれば、これを糾すのが臣下の役目」
ああ、ようやく胸のつかえがとれた。
正しい荷物を背負えた。
「たとえ獣身と蔑まれようと、今こそ、最後の忠節を果たす時です」
「はいそこ、湿っぽくならない~。まずは太陽王へのアピールが先だからね」
『そうそう、思いっきり強がって、“こっちに負ける要素はないぞ”と売り込むんだ。例によって砂漠では通信できなくなるけど、気をつけて、立香ちゃん、マシュ』
「うん。所長をよろしくね。ドクター」
なんで私を名指しするのよーとロマニの後ろから聞こえたが、立香は微笑んでスルーした。
「さあ、新しいオーニソプターに乗り込みたまえ、立香ちゃん!これが大改造のすえ四人乗りに生まれ変わった陸海空万能移動ツール――――
「ネコミミだーーーーー!!」
「かわいい~~~~!!」
〇影姫 フーン なかなかだな
〇ウルフ 犬耳もいいと思うんですけど
〇影姫 なんだ嫉妬か?かわいいやつめ
「ダ・ヴィンチちゃん。エジプト、好きなんですか?」
「人類はね、猫耳に抗えないのさ」
バステニャンが意気揚々とエンジンをふかし、立香たちも村を出発した。