今宵は素敵なスターナイト。皆寝てしまったね。
ここからは僕たちの時間だ。
「恋バナをしましょう!」
きらきらと輝く笑みのアントワネット。夜空の星にも負けていない。
「せっかく女の子ばかりだもの、恋バナしたいわ!女子会トーク!」
「いいわねマリー!楽しそうだわ!」
「恋のことなら
庶民宿のベッドで少女達は笑う。隣の部屋から残りの三人も呼んできて、さあお茶を淹れましょう。
「その・・・私、女子会というものは初めてで・・・」
「ノン!大丈夫よ楽しくお話するだけだから!ねぇエリー、話してくださらない?生前の恋の話とか」
マシュがカップを抱えて呟き、マリーが言葉を続ける。
エリザベートは少し照れた風に視線を上に向けた。これはいつかの思い出。
「生前・・・は結婚してたけど、今のアタシはその前の姿だし・・・。でも一度だけあったかな・・・ここじゃない何処かで・・・」
「私も力を取り戻したついでに記憶も戻って・・・。その・・・はい・・・。とても恋しい人がいます・・・」
「えージャンヌが!?気になる・・・!ちょっと詳しく聞かせてよ」
「マスター・・・!恥ずかしいです・・・!」
今まで見たことのない顔を見せる二人に空気が甘酸っぱくなっていく。
これが恋バナの魔力なのか・・・!?
「では私もお話しましょう。生前まさに燃えるような恋をしました」
「ほほう・・・」
清姫がおもむろに語り出す。
マシュは身を乗り出し、立香はあれ?という顔をした。
「お相手は安珍様という旅の僧侶の方。
「ふむふむ」
「ですが安珍様は会いに来て下さらなかった。私を恐れ逃げたのです。嘘をつき裏切ったのです」
おや・・・雲行きが・・・?
「だから私追いかけました。追いかけて追いかけて、悲しみで怒りで憎しみで、いつの間にか
立香は天を仰ぎ、ジャンヌとマシュは顔を覆った。
「そして追いついた先の御寺の鐘に隠れた安珍様を、竜の火炎で鐘ごと焼き尽くしたのです」
(これじゃない・・・っ!!)
(こういうやつじゃない・・・っ!!)
「そういうんじゃないわよ!もっとポップでキュートなのにしなさいよ!」
「失礼な!逃げ惑う安珍様は
なかなかハードな経歴である。いやそれは大概の英霊がそうなのだが。
「マ、マリー。何か無い?」
「え、ええ・・・」
立香が話題を投げると、受け取ったマリーが咳払いをして話し出す。
それは初恋の話。マリーが6歳、相手が7歳だった頃。
「緊張していたのかしら。彼は床に滑って転んでね。わたしが手を差し出すと、キラキラした目で見つめてこう言ったの」
シェーンブルンでの演奏会で二人は出会う。幾つもの始まりの、それは一つだった。
「“ありがとう素敵な人。もし貴女のような美しい人に結婚の約束がないのなら、僕が最初でよろしいですか?” そう言ってくれたの!あんなにときめいたのは生まれて初めてだったわ!」
「キャーッ!なにそれなにそれ!」
「すごーい!御伽噺みたい!」
「それでそれで!?彼とはその後どうなったの!?」
寝静まった町に歓声が響いた。隣人もいないから気楽なものだ。
「それっきり何も。7年後にはわたしは結婚してしまったし、
「・・・え?」
「・・・それってまさか・・・」
「うふふ♪」
今度は絶叫が響いた。・・・流石に住人が起きてしまいそうだ。
ガァン!と蹴飛ばされた椅子が跳ぶ。
魔女の感情を受け止められる者はここにはおらず。ただ虚しいだけの沈黙があった。
「何よ・・・!」
脳裏に浮かぶのは田舎娘。忌々しい敵のサーヴァント。このフランスを救うだとかいう人間共。そして――――。
「あの男・・・!何なの・・・!?」
“おまえにはけして、届かぬ人だ。”
「・・・っ」
体重をかけて踏みつぶされた椅子が壊れる。
怒りは殺意となり、屈辱は殺意となり、恐怖は殺意となり、びりびりと空間を振るわせた。
どんな感情も憎しみに変わる。
“魔女、おまえはどうする?”
(うるさい)
“憎悪の具現として作られて、そのまま生きるのか?”
(うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!!)
私が、私は!ジャンヌ・ダルクだ!
苛烈な感情が燃える。魔女を魔女たらしめる矜持がかえってくる。
それは愚かで、愚直で、でも真っ直ぐだった。
どんな偽善であっても、死ぬまで貫き通したのならそれが真実善であるように。
玉座に腰掛ける彼女は確かに、竜の魔女であったのだ。
(・・・残るサーヴァントは二騎・・・。足りませんね、追加で召喚しないと・・・)
いつの間にかアーチャーも消えている。しかしこちらには聖杯があるのだ。焦ることはない。
必ず
「駄目よ」
「・・・・・・・・・?」
ふわり、と声が落ちる。女の声だ。
布の擦れる音。
前から誰かが見つめている。・・・誰だっけ?
「それ以上は王様の機嫌を損ねるかも。貴女だって嫌でしょう――――?」
「・・・・・・・・・・・・」
「サーヴァントの召喚はしないわ。貴女はこのまま彼らを迎え撃つの」
顔を両手で包まれて目線を合わせ・・・。
目が・・・?目・・・?
視界がぼやけていく。目の前にいるのは誰?顔が見えない。
このサーヴァントは誰・・・?
「貴女は自信満々でいればいい。必ず勝つと思っている。考えればいいのはそれだけよ」
「・・・・・・」
「ね?」
ぐにゃぐにゃと視界が回って。
見えない。見えない。
あなただれ・・・?
「――――――ジャンヌ。ここにいましたか」
「・・・ジル?」
・・・すこしぼんやりしていたみたいだ。声をかけられるまで気づかないなんて。
「かの者達が近づいてきています。数時間後にはオルレアンにはたどり着くでしょう。ご采配を」
「竜たちを集めて。迎え撃ちます。恐れることなどありません、私が勝ちます」
「おお・・・!それでこそ我が聖女・・・!」
二人分の靴音が響いて、やがて遠くなった。
それだけのこと。
決戦は間近。オルレアン郊外に駒を進める。
避難民を安全な街まで護衛するゲオルギウスといったん別れ、立香達は竜の魔女を目指していた。
「おいおいマリアの奴、シェーンブルンでのこと話したのか!?どうりで視線が生暖かったわけだ・・・」
「先輩ですらにまにましてましたからね・・・。お疲れ様です・・・」
夜の見張りはマシュとアマデウス。
ぱちんと火花の飛ぶたき火を囲んで、二人は声を潜めて話す。
「でも、まぁそうか。楽しそうで何よりだよ」
「・・・アマデウスさんは楽しくないのですか?」
「そういう訳じゃないさ。ただ少し、感慨深くなっているだけだよ」
地上から眺める星は遠く、小さく。
「マリアが現界して最初に合流したのが僕だった。彼女は少しだけ、この聖杯戦争が歪んでいることを喜んでいた。自分が・・・殺し合い願いを叶える為ではなく、人々を守る命として呼ばれたことに・・・」
「・・・・・・」
「今度こそ間違えず大切な人々と大切な国を守る為に、正しいことを正しく行うのだと。そうマリアは誓ったんだ・・・」
けれど輝く。地上の喧騒など知らぬように。
光だけを与えている。
「正しいこと・・・ですか?」
「そうだよマシュ。君にとって正しいと思うものはなに?」
「それは・・・多くの生命を救い、多くの生命を認めること、でしょうか」
「大雑把だね。じゃあ仮に、立香君がそういう人でなかったら?」
「それは・・・・・・」
夜風は冷たくて、手をかざす炎は暖かい。
カルデアのシュミレーターとは違う。世界の温度だ。
「すまない、意地の悪い仮定だった。でもその迷い、不安を忘れないことだ。マシュ、君はたぶん自由を得たばかりの人間だろう?」
「・・・はい」
「だから選択することの恐ろしさに足が竦むことが多くある。これから形成されていく自分の在り方に迷うこともあるだろう」
「・・・そう、なのかも知れません。わたしは、その・・・あまり外を知らなかったので」
あの一面の雪景色を見ない日があるなんて。
人生はなんて数奇なんだろう。
「君は真っ白だな。なにも書かれていない楽譜のようだ。・・・いいかい、人間は多種多様だ。同じ価値観は1つもない。僕たちはそうやって多くのものを知り、多くの景色を見る。そうやって君の人生は充実していく」
「・・・」
「君が世界を作るんじゃない。世界が君を作るんだ。そして成長した君はいつか、この世界を越えなくてはいけない」
「世界を・・・?」
「ああ、どのようなカタチであれ、自分がいた証を残すんだ」
「だからアマデウスさんも、多くの曲を残したのですね」
アマデウスは笑おうとして、苦笑に留めた。
そんなに真っ直ぐ見ないでくれよ。僕はそんなに立派じゃない。
「それも、大した事ではなかったけどね・・・」
「?」
「だって、たったひとりの、初恋の女の子の死に際にさえ立ち会えなかった男だよ?僕の人生なんてどうでも――――」
「・・・どうでもいいなんて、本当は、思ってないでしょう?」
マシュが息を吸う音は、静かな夜に響いた。
風はいつの間にか止まっている。
「貴方の音楽は幾人もの人の心を動かしました。勇者リンクの生まれ変わりと、当時の人々が噂したのも頷けます」
「噂だよ」
「はい。でも――――。後悔はないのでしょう?貴方が選んだ、貴方の人生です。どうして否定するようなことを言うのですか?」
明日の事なんて分からないけど、分からないなりに生きたいと思ったのだ。
なのに、どうしてそんなに悲しいことを言うのだろう。
どうしてそんなに、悲しい顔をするのだろう。
「・・・・・・ははははは!」
「!?」
「いやはや、慣れない事なんてするもんじゃないな。サリエリみたいな教師にはなれないかぁ・・・」
「サリエリ・・・、アントニオ・サリエリ?」
まさかこんな反撃をくらうとは。
先輩面しようとしたバチが当たったかな?
「そうだね、マシュ。後悔なんてしてないよ。どんな場所であっても、誇りをもって
「はい!」
「戦闘能力ゼロの僕がそれでも英霊になったのは、マリアに会いたいだけじゃない・・・。勇者リンクに、会えるかも知れないと思ったのさ」
「勇者に・・・」
「万が一、億が一会えたのなら――――。彼の生演奏を聴きたくて、僕の曲を聴いてほしいと思った。ろくでもなくて、多くの人を狂わせた悪魔の、唯一誇れる音楽を―――――!」
○バードマスター いい話じゃん・・・
○騎士 年をとると涙腺が緩いんだよな・・・
野営地から少し離れた場所にリンクは居た。
マシュとアマデウスの会話をこっそり聞きつつ、手持ち無沙汰に髪をいじる。
岩に足を組んで座りながら視線を下に向ければ、やたら低い体勢で悶えている男が居た。
「・・・・・・ジークフリート。そろそろいいか?」
「待ってくれ!・・・待って・・・。ちょっと待って・・・。待ってほしい・・・。待って・・・」
「一単語しか話せなくなったのか?」
タルミナの刀鍛冶に打たれた、時の勇者の愛刀である“金剛”。
そして言わずもがなマスターソード。
この二振りを見せてほしいとジークフリートに頼まれ、まあ見せるだけなら・・・と了承したのはいいが。
○ウルフ 先代の顔と武器を交互に見て永遠に感動し続けるのやめろ
○うさぎちゃん(光) 顔を赤くして口元を両手で覆うのは片思い中の少女の仕草なんよ
○海の男 そろそろ寝たら?
「ジークフリート、そろそろ俺は眠いから休むぞ」
「えっああそうだなすまない・・・」
「まだ何かあったか?」
「えっいやそのないですないです」
「そうか?おやすみ」
「(ヒェッ)はい」
不思議そうな顔をしながらも、武器をしまって青年は戻っていった。
あとに残ったのは顔を覆ってうずくまる男だけ。
(あああああ~~~~!!変装しててもかっこいい!!)
抑えきれなかった感情のままに地面を叩く。
深夜にしていい行動ではない。野営地に聞こえなくて良かったな・・・。
このあと数分悶えた後、サインをもらい損ねたことに気づき心底悔しがることになる。
明日が決戦の日とは思えないテンションだが、本番にはきっちりシリアス顔できるのがプロの英雄というものかもしれない。
多分。