「こんにちは、
「こんにちは。竜の魔女になった私」
ワイバーンが空を覆い尽くし、大地はとうに焼け野原。
「この竜を見よ!愚かな人間共!今や我らが故郷は竜の巣となった!」
ここはオルレアン。夢の残骸が眠る場所。
ファヴニールの上から声がする。
羽根も持たない生き物達は、ただ地面でそれを聞いた。
ありとあらゆるモノを喰らい、このフランスを不毛の地にする声を。
「それでこの世界は完結する。それでこの世界は破綻する。無限の戦争、無限の捕食。
それこそが真の百年戦争――――邪竜百年戦争だ!」
それでも焔は灯っている。
「何・・・!?」
「フランス兵・・・!」
雄叫びがする。
無力を嘆き、それでも進んできた人間の声が。
「撃てーーっ!」
「ここがフランスを守れるかどうかの瀬戸際だ!全砲弾を撃って撃って撃ちまくれ!」
「恐れることは決してない!何故なら我らには――――」
砲声が空に響く。弓が天を目指す。
フランス軍はワイバーンを蹴散らしながら、たった1つの勝利を目指す。
「聖女がついている!」
『立香ちゃん!マシュ!前に進め!』
「露払いは
「マスター、背中は任せろ!」
「うん!」
清姫の炎が風穴を開け、エリザベートの歌が竜を吹き飛ばす。アマデウスの魔術が拘束した敵を、マリーの馬が打ち砕いた。
ジークフリートとジャンヌを先頭に立香達は駆ける。
「ファヴニールが降りてくるぞ!」
「私が!」
巨大な体躯が腕を振るうだけで、地面はあっという間に陥没する。
ジャンヌの宝具が背後の味方を守らんと発動した。
地震。地割れ。轟音。
『・・・すごい・・・!これがジャンヌ・ダルクの宝具か・・・!』
『見とれてる場合じゃないわよ!口腔部に魔力集束!』
黒い魔力が集まっていく。
自身の
自分達だけでなく、オルレアン一帯すら吹き飛ばす攻撃を見ても、不思議とマシュの胸に恐怖はなかった。
“わたしが皆を守る。”
ただそれだけだった。
「真名、偽装登録。
通信が雑音を立てて乱れる。
バリバリと不快な音を響かせる画面から、誰もが目を離さない。
永遠とも思える時間が暴風と共に過ぎた。
・・・光。
青い光が土煙を裂く。
『これは・・・真エーテル!?』
「―――隙を見せたな。邪竜」
ジークフリートの宝具が発動する。
相殺しようと開いた口にリンクのフォローが叩き込まれた。ほんのわずか、衝撃に体が硬直する。
それで十分だった。
「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。
撃ち落とす――
光が全てを飲み込んでいく。
「馬鹿な・・・!ファヴニールが倒される・・・!?」
光が全てを飲み込んでいく。
「・・・終わりです。竜の魔女」
「ぐっ・・・!?」
死角から振るわれた旗が魔女を吹き飛ばす。
もんどり打って倒れた体は、しかし即座に起き上がる。
聖女をにらみつけながら魔女は吠えた。吠えた。
「田舎娘が!!調子に乗るなぁ!!」
旗がぶつかって鈍い音を立てる。炎を纏いながら豪腕で襲いかかる魔女を、手数の多さで捌いていく。
勢いに押されどんどんと後退していく聖女が、ふいにひび割れた地面に足を取られた。
鋭い穂先が心臓を貫かんと動く。嘲る笑み。
「フッ―」
「がっ・・・!?」
体勢を崩したかのように見えた聖女は、膝を曲げて懐に入ると旗に添うように拳を振るった。
向かう力同士がぶつかり、下半身をしっかり固定していた聖女はそのまま。魔女だけが背後に跳ねていく。
腹に響く重みを飲み込めない内に追撃。ジャンプからの両足踏みつけ。腹に追加ダメージ。
ためらいなしの容赦なしである。試合なら既にゴングが鳴っている。
「ぐっぇ・・・!」
「最後に勝敗を決めるのは戦術です。貴方は力に頼りすぎましたね」
かっこいいこと言っているがこの女、袈裟固めをキメているのである!
純粋な戦闘経験の差がここにきて出てしまった。もう魔女は動けない。
「ジャンヌ・・・!おお・・・なんということだ・・・!」
オルレアンの中心に立つ城。かつての絢爛さはもうない。
レンガの頑丈さだけを伝えながらそこに立っている。
城にたった一人残ったサーヴァント。ジル・ド・レェは絶望した。
またしてもこの国は彼女を拒む。彼女の救済を拒む。彼女の存在を拒む!
許されない許されない。そんなことは許されない。許さない!
激情は思考を鈍化させ、視野を狭めていく。なんていいカモなんでしょう。
「―――――じゃあ、どうするの?」
するり。布の擦れる音。
さらり。注ぎ込まれる声。
「・・・・・・・・・・・・ぁ?」
「貴方のジャンヌは負けてしまったわ。この状況をひっくり返すには、もう聖杯の力じゃないと」
積み木はあっけなく壊された。遙かなる深淵で、手を叩いて悪意が笑う。
なんて
女はただ笑って、引き金を引かせるだけ。
「ねぇ、そうでしょ?―――ジャンヌの為よ?」
「ジャンヌ・・・ジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
絶叫。
城が吹き飛んだ。
「何だアレは!?」
「・・・兵士の皆さんは避難を!戦いはもう終わりです!後は私達にお任せを!」
城の内側から生まれてきた化け物は、タコとイカが合わさったような見た目をしていた。
後方でフランス軍のカバーに回っていたゲオルギウスにも、その異形の姿が届く。
巨大で醜悪な姿に顔を顰めながらも、立香達のもとへ馬を走らせた。
「・・・・・・悪魔は、どちらかという話だな」
「!? 貴方は・・・敵ですね」
「左様。だが、戦う気はもう無い。・・・その姿、その威光。聖ゲオルギウスだな」
目の前に立ちふさがった男に歩みを止めるも、戦意がないことに気づき剣を降ろす。
「守護騎士に屠られる余は、
「・・・貴方の誇りは、悪魔と呼ばれることをよしとするのですか?」
「否!・・・彼のようなことを言う。ならばやはり、余はここで去ろう」
微笑みのままに男は両腕を広げた。
憑きものが落ちたような、穏やかな顔だった。
「頼む」
胸が貫かれ、霊核が崩壊する。
エーテルの光となって、男は去って行った。
「・・・彼、とは誰のことでしょうかね」
ベイヤードを走らせながら、ゲオルギウスは独りごちる。
狂化を受けているはずのサーヴァントがああも安定した精神で最後を迎えた。
もしかしたら、カルデア側も把握していないサーヴァントがまだ居るのだろうか?
「・・・いえ、後にしましょう。今はあの怪異です」
呆然と立ち尽くす味方達を見つけ、ベイヤードは加速した。
「ジャンヌ!」
「マスター!皆さん!」
『なんて魔力だ・・・!計測機が振り切れてる!』
後方から追いついた五騎のサーヴァントと、立香とマシュ。そして二騎のセイバー。
彼らが城に一番近い場所にいたジャンヌの元にたどり着くと、膨大な魔力の余波が体に叩きつけられた。
「ジル!ジル!ねえどうしちゃったの!?ジル!」
「竜の魔女!ここにいては巻き込まれます!もっと下がって!」
「離しなさいよ!・・・きゃっ!?」
「どうしたの!?」
ジル・・・怪物の元へ行こうとする魔女と、それを引き留めている聖女。・・・だったのだが突然、がくんと二人の体が揺れた。
「体が引っ張られる・・・!?ジル・・・!?」
「ダメ・・・!私だけじゃ引きずられる・・・!」
「魔女さん!」
マリー、清姫、エリザベートが慌ててジャンヌの体を掴む。
それでも引っ張られる勢いは止まらず、五人は徐々に怪異に近づいていく。
「おいおい何が起こってるんだ!?僕の拘束魔術でも止まらないぞ!」
「周囲の魔力を吸収している・・・?これが聖杯の力だとしたら・・・」
「ゲオルギウス!何か分かったの!?」
今にも飛び出して行きそうなマシュをジークフリートが、立香をゲオルギウスが抑え、状況を分析する。
明らかに聖杯の力によってサーヴァントは暴走している。だからと言って竜の魔女を取り込もうとするのか?
・・・いや、可能性はある。
「竜の魔女、貴女は――――。聖杯の魔力によって作られたのですね」
「・・・えっ」
「それなら辻褄があいます。本来は存在しないはずの聖女の
「聖杯が使った魔力を取り戻そうとしているのか・・・!」
「・・・そんな」
その声は前方の少女達にも届く。
もう怪異は目の前だ。蠢く触手に、このままでは絡め取られる。
手を離して逃げないと。
「アンタやっぱりジャンヌじゃないじゃない!」
「今その話しますかエリマキトカゲ!!」
「ジャンヌ!離さないで・・・」
「・・・離しません!」
何で離さないの?訳が分からない。
なんなのこいつら。意味わかんない。
「離して・・・」
「嫌です」
「離しなさいよ!哀れんでるんでしょ私のこと!?見下してるんでしょ!?どうせ私は作り物よ!!」
「貴女!!死にたいんですか!!」
怒鳴り声は空間を響かせる。
はっとして誰もが白いジャンヌを見た。黒いジャンヌも見た。
「貴女が誰であろうと!救うことを諦めない!それが私だ!
貴女は!?ここで消えて無くなりたいんですか!?」
鼓膜を振るわせる声にぐちゃぐちゃの思考が弾けた。
残ったのはほんの一匙の恐怖。感情は言葉になって滑り落ちる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・消えたく、ない・・・」
「――――――来て、アーチャー」
唇から零れた言葉が立香の耳に届いたとき。
立香の口からも言葉は飛び出ていた。考えるよりも前に、心が決まっている。
「
「あの怪異を倒します」
「・・・それは命令か?雑種」
幾多の魔力が浸食し、反発し、オルレアンは崩壊していく。
立香は息を吸って、背後に出現したギルガメッシュを振り返った。
「あの怪異を倒すために、黒いジャンヌを助けるために、貴方の力が必要だ。
私達に力を貸して。アーチャー」
「なぜ魔女を助ける」
「声が聞こえたんだよ。―――聞こえないふりなんてしない!」
空間が歪んだ。
空が点滅し、莫大な魔力が渦となって巻き上がる。
宝物庫からその剣は来たる。赤い光を伴いながら、周囲の風を巻きこんでいく。
「・・・ふっ。雑種にしてはよくやったものよ。その必死さに免じ、人類最古の宝物を見せてやろう」
『とか言って本当は勇者っぽいことできて嬉しいくせいでででで』
『余計なことを言うなキャスターあっち行ってろ!』
ちょっとなんか聞こえたが皆スルーした。
令呪が輝きサーヴァントに力を託す。輝くは王の一振りよ。
「裁きの時だ。世界を裂くは我が
・・・・・・受けよ!
真空波の渦が全てを、世界を切り裂いていく。
それは当たり前のように勝利をもたらし、このフランスの戦いを終わらせるだろう。
深淵の悪役達は、ご都合主義にため息をつき。
まぁ余興にはなったと、おざなりな拍手を送った。