二つ名は多分「高嶺の花」か「デイム・エポナ」。
「チッ、なんだあの愚かなバーサーカーは」
足音荒く。
服の埃を大げさに払いながら宮廷魔術師が戻ってくる。
・・・同じ深緑の装いでも、こうも不快感を抱くものか。ロムルスは人ごとのように男に視線を向けた。
「聖杯は・・・無事だな?召喚者を敵と誤認するとは・・・。バーサーカーが愚かであるのは自明だったか」
「・・・カリギュラは」
「外で伸びているよ。まったく、余計な労力を使わせてくれる」
黄金の器はただ煌めき、
「令呪がないのが口惜しいが、奴にはとっておきの術式を用意してある。悔やみながら己の姪を手にかけ、この時代の全てを破壊し尽くすだろう」
芝居がかった口調からは、根本的にこちらを――人類を見下しているのがありありと窺えた。
形だけ恭しく退室した男を見送って、ようやくロムルスは相好を崩す。
「勇者よ。――おお、麗しき狼」
「わふ」
浜に寄せられた波のごとく。ふわりと広がった影が目の前に浮きあがる。
ぴこん、と三角の耳がお行儀良く鎮座した。黒狼が現れる。
「
「・・・・・・」
「カリギュラは暴走したのではない、私の指示だ。愛しき弟が如きローマよ。無茶をさせた・・・」
「・・・で、その隙にオレを召喚したと?この使い魔に何をお求めで?」
するすると影は動く。パラティーノの丘がごとき瑞々しい緑を纏い。
狼から人の姿に戻ったリンクは、床にあぐらをかいてロムルスを見上げた。
瞳は好奇心にらんらんと輝き、微塵も深淵なぞに染まっていない。
「緑の勇者よ。黄昏を友と呼び、影を従えた牧童よ。聖杯よりも古き光であるその身が、使い魔であるはずがない」
「まあそうだな。呼ばれたから来てやっただけだ」
「我が声に応えていただいたこと、感謝する。故に私はこう言おう。――ローマを救ってほしい」
「あの魔術師は自分が引きつけておくから?」
「ローマこそ世界であり、世界こそローマである。故にローマは永遠であり、世界は永遠でなくてはならない」
「人理崩壊には加担しないってか。うん、嫌いじゃないぞ、そういうの」
ぐぐっと伸びをして青年は快活に笑う。
広い地中海をあまねく照らす、太陽のような明るさであった。
「任せておけ!なんとかしてやる」
○Silver bow 大丈夫じゃないだろ。0.5秒でモロバレだろ
○うさぎちゃん(光) わんちゃんはわんちゃんにしかなれないのにどうして安請け合いしちゃうの?
○いーくん なんとかって具体的にどうするんですか?そんな抽象的な指示で人が動きますか?
○奏者のお兄さん 取りあえずこの建物から離れた方がいいと思うよ
連合首都を離れ、マッシリアを過ぎて駆ける。
狼の健脚は軽々と山を越えガリアへとたどり着いた。
人々の噂は存外役に立つ。
影を伝って情報収集したところ、ガリアが連合と帝国の戦いの最前線の1つのようだ。
ざわめきを木々の影から窺いながらリンクはくん、と鼻を動かした。
(・・・なんか変だな?)
野営地の賑わいだけでは収まらない、剣呑な雰囲気を感じる。
人の波を影越しにすり抜けて騒ぎの中心にたどり着く。空気がピリピリと震えていた。
「どうするんだ・・・」「ブーディカ将軍が・・・」
「・・・一体どこから・・・侵入して・・・」「・・・ネロ皇帝に連絡を・・・」
(へぇ?)
右往左往する兵士達は皆一様に頭を抱えている。
話を盗み聞きする限り、ブーディカという将軍が敵にやられてしまったようだ。
だが敵の正体は不明。侵入経路も不明。姿の見えぬ脅威に、みな心身を疲弊させている。
○ファイ 古代ブリタニアの若き戦闘女王。ローマ帝国に叛乱するも、最後には皇帝ネロの軍に敗れ去り落命。後年、ブリテンの「勝利の女神」の伝説となりました。
○バードマスター 彼女が帝国側についていたってこと?サーヴァントだよね?
○騎士 時期的にもそうだろう。でも倒されたみたいだな・・・
(う~~ん、不穏!しかしチャンスでもある)
ここに上手いこと滑り込もう。
ぱたぱたと尻尾を揺らして機会を窺う。とはいえ油断は禁物。
勇者の服は脱いでトアル村にいたときの服に着替えたし、マスターソードではなく連合軍から借りてきた剣を背負っている。
これでぱっと見て“リンク”だと分かるのは少数だと思うが・・・。どうやって味方だと判断してもらおうか。
「お待ちください!スパルタクス将軍!」
(おっ?)
「愛!叛逆の時だ。我が愛で!圧制者を滅ぼすべし!」
「将軍!将軍!ああっ、・・・ど、どうしよう」
のっしのっしと巨漢が移動していくのを遠目に見つける。
体を縛り付けているような形の鎧。古傷を持つ鋼の
バーサーカー・スパルタクス。古代ローマの剣闘士であり、反逆の戦士である。
狂化を持っていても会話が可能であるが、彼は”常に最も困難な選択をする”という思考で固定されているため、正確な意思疎通は不可能である。
引き留めようとする兵士達を振り切って単身首都に向かおうとしているようだ。
リンクもすぐに後を追いかける。
影を伝いながら跳ぶように走れば、あっという間に前方に躍り出た。
「わんっ!わんっわふわふっ(ストップ!あっちょっと待て狼のままだった待って待って)」
「ローマの母なる獣よ。悪逆の気配に気づいたか」
「スパルタクス!ストップ!陣営に戻ろう!な!」
「戦場に招かれた闘士がまたひとり。叛逆の勇士よ、その名を我が前にしめすがいい。共に自由の青空の下悪逆の帝国に反旗を翻し、叫ぼう」
「リンクです。スパルタクス、叛逆ってのはタイミングが大事だ。知ってるだろ?さ、今は陣営に戻ろうな」
○りっちゃん これ認識されてる・・・?
○銀河鉄道123 まず狼から変身したことに対するツッコミもないんよ
スパルタクスの手をぐいぐい引っ張って野営地に戻ってきた青年の姿が発見されたのは、数分後のことである。
カルデアの朝は早い。朝食はとても美味しい。
「うまっ・・・!?何これおいし・・・!?アンタたちこんなもの毎日食べてんの!?」
「エミヤさんおかわりです!」
「先輩、今朝のご飯も美味しかったですね」
「うん!ごちそうさまでした!」
第一特異点を復元し、新たに召喚されたサーヴァント達で食堂は賑わっていた。
ふわふわのスクランブルエッグを掻き込んでいるのは竜の魔女――ジャンヌ・オルタ。
野菜たっぷり、栄養たっぷりのスープをおかわりしているのは白き聖女――ジャンヌ・ダルク。
無言で焼きたてのパンにたっぷりジャムを塗っているのは
食後の一杯を飲むマシュと立香に近寄ってきたのは救国の槍――ヴラド三世である。すでに朝食は終えているようだ。
「マスター、マシュ。所長の娘が探していたぞ。管制室に来てほしいそうだ」
「所長が?」
「レイシフトの準備が出来たと言っていた。余は先に司令室に向かう」
「わかった。行こう、マシュ」
窓越しの白い日光をくぐり抜けて管理室に向かう。
「おはよう。二人とも」
「ふぁーあ・・・や、おはよう~。回収した聖杯は技術部で解析、のちカルデアの運営リソースに使うよ~」
「ロマニはシャルル=アンリ・サンソンと共に救急セットの準備中です。今回向かう先は一世紀ヨーロッパよ」
部屋にいたのはオルガマリーと眠たげなダ・ヴィンチである。
第二特異点の場所は古代ローマ。イタリア半島から始まり、地中海を制した大帝国だ。
転移地点は帝国首都であるローマを予定している。
「存在するはずの聖杯の正確な場所は不明。歴史に対して、どういった変化が起こったのかも。悪いわね、まだ観測精度が安定してないみたい」
「問題ありません。どちらも、私と先輩で突き止めます」
「頼もしいわ。・・・くれぐれも、無事に帰ってくるのよ。これは命令です」
「うん、頑張ります」
「――はい。必ず、カルデアに帰還します」
コフィンに入る。二度目。
この瞬間はいつも空気が緊張する。
深呼吸。
狭い箱のなかで、ゆっくりと呼吸を落ち着かせる。
『アンサモンプログラム スタート
霊子変換を開始 します』
「・・・キアラ。立香のメンタルチェックは」
「問題ありません、所長。立香さんのメンタルは安定しています」
「ならいいの。・・・あら、オルタも来たの?」
「何よ?私がマスターの様子を見に来てはいけませんか?」
『レイシフト開始まで あと3、2、1・・・・・・
全行程
グランドオーダー 実証を 開始 します』
第二特異点 永続狂気帝国 セプテム
風薫る丘で二人は周りを見渡す。
柔らかい風の感触、土の匂い――――どこまでも広く青い空。
自然とマシュは深呼吸していた。服がひらひらとはためく。
「景色が綺麗だね、マシュ」
「はい、先輩。やはり映像で見るのと実際の大地は解像度が違います。――――すごく、まぶしいです」
「フゥー・・・・・・ンキュ、キュ?」
「・・・フォウさん!?」
マシュの盾からひょっこり現れたのは、カルデアもふもふ代表のフォウだ。
実は前回のレイシフトの時もこっそりついてきていたことが後々判明した。憎めない毛玉である。
「フォウさんは外の世界の方がいいんですね。その意見にはわたしも同意です。戦いは怖いですが、こうして新しい世界を知れるのは嬉しいので」
「・・・・・・! マシュ、みんな。空に・・・・・・」
立香に倣ってマシュも空を見上げる。
天に浮かぶ光の輪が二人を覆っていた。フランスの空に存在していたものと同一であるようだ。
『光の輪、か。相変わらず、こちらからはしっかりと観測できていないんだよ』
『けど気になるよねぇ。調査は引き続き進めていくよ』
『ところで、そこは首都ローマ・・・、ではないわよね?』
オルガマリーの言葉に再び周りを見渡しても、見渡しても丘陵地。
繁栄の都市など視界にも入らない。
「転送座標の調整ミス・・・・・・ですか?」
『うーん、おかしいな。どうして首都からズレたんだろう?』
「フゥー、フォーウ!」
「フォウくん?どうしたの?」
小さな耳をぴょこぴょこと動かし、フォウが何かに反応する。
耳をすませば戦闘音。多人数での戦いの気配だ。
この時代に首都ローマで本格的な戦争があったという歴史はない。つまり――――。
「あれが歴史の異常ですね」
「行こう、マシュ」
「フォウ!」
片方は大部隊。もう片方は極めて少数の部隊だ。
大部隊は〈真紅と黄金〉の意匠。少部隊もまた〈真紅と黄金〉だが、意匠が異なる。
少部隊を率いているのは年若い女性であった。真紅の
遠目に見える首都方面になだれ込もうとする軍団を、たった一人で抑えていた。
「助太刀いたす!今こそあの謎のバーサーカーの力を見せるとき!いっけーっ!」
「oooooa!」
「
会話が通じない、素顔も見えない、たぶんなんとなく真名の予想はつくがそれにしたってよくわからん、の三拍子をもつ謎の全身鎧男。ランスロットの登場である。
「峰打ち宝具!」
「Arrrthurrrrrr!!」
彼の宝具は空より来たる。
近代を代表する鋼の鳥――戦闘機が。
本命は装備されている機関銃。「バルカン」の名称でお馴染のガトリングである。
大部隊の足下を狙って銃弾が吠えていく。爆音とバーサーカーの雄叫びが合わさって異様な光景と化した。
流れ弾が少部隊に飛ばぬようマシュが盾でフォローし、ついでに近くの兵士達を峰打ちで叩きのめした。腰の入った一撃である。
突然の状況にぎょっとした軍団が戸惑い、怯え、訳も分からず逃げていく。
・・・虫避けスプレーで家から追いやられている虫のようである。立香はちょっと哀れに思った。
「剣を納めよ、勝負あった!そして貴公たち。もしや首都からの援軍か?」
そしてこっちは動じていない。すでに貫禄を感じる佇まいである。
「たとえ元は敵方の者であっても構わぬ。余は寛大ゆえに、過去の過ちぐらい水に流す。そしてそれ以上に今の戦いぶり、評価するぞ。少女が身の丈ほどの獲物を振り回す・・・・・・」
「?」
「うむ、実に好みだ!なんとも言えぬ倒錯の美があったな!」
『わかる』
『それな』
『否定はしないわね』
『ダ・ヴィンチ、座りなさい。アマデウス、カーミラ、静かに』
なんか余計なモノも釣れてしまった。今日もカルデアは花丸です。