タキオン、勝たせてぇ・・・・・・。
この国に立ちこめた救えない憂鬱を、おいしそうによく噛んであなたはのみ込んだ。
お玉で一緒にかき混ぜて、塩で少々味付けした。
○海の男 野菜洗った?
立香とマシュが野営地に帰ってくると、もう鼻腔をくすぐる香りが漂っている。
西日の下で鍋を見張るリンクを、眩しそうにみんなが見ていた。
「永遠に食える」
「ゔま゙い゙」
「コレタベテイインデスカ」
「これは夢・・・?覚めないでほしい・・・」
皿を前に感情を溢れさせている兵士とギルガメッシュを横目に見て、思わずリンクは苦笑してしまう。
通信機越しの声はまだ興奮に震えている。
『そ、そ、そっ、それ、それは』
『もしかしてトアル山羊のチーズ・・・・・・?』
『その魚は・・・まさか・・・ニオイマス・・・ヒェ』
「トアル山羊のチーズにかぼちゃにニオイマスで合ってるぞ~。あとウチの牛乳な」
『ミ゙ッ゙』
「死んだ!?」
数人の倒れる音が鼓膜に届いた立香は反射的に叫んでいた。今の断末魔何!?
「・・・勇者、これは、ドサンコフのスープか?」
「そ。作り方教えてもらったから」
「ヴヷァ゙!!」
「えっ死んだ?」
ギルガメッシュも倒れた。もう無事な奴の方が少ない。
○フォースを信じろ キャンプの醍醐味は現地調達じゃないんですか?
○バードマスター わ-!美味しそうに作ったね!僕も久しぶりに食べたくなっちゃった
「リンク、バッグの中に色々入ってるね・・・?」
「なんかアイテム以外もいろいろ入ってるんだよな~。一番モノが入ってるのは息吹のシーカーストーンだけど」
「ハヒュ」
おそらく旅の途中で手に入れたモノは大概入っているし、無いものは座にいる友人達から貰うし、それでも無いものは他の勇者達から借りてくる。
という内容のことを話すと全方位からの熱烈な視線をいただいた。この先は有料で~す。
『ほかの勇者達の話も聞きたいし座にいるというハイラル関係者の話も聞きたい所長ボクはどうすれば』
『落ち着きなさいマグカップを置きなさい机びちゃびちゃだから』
「勇者よ・・・・・・。是非・・・我に・・・・・・座での・・・話を・・・・・・」
「後でな~」
○騎士 ・・・腹減ったな
○バードマスター 飯テロだよね~。前世様もかぼちゃのスープ食べます?
○騎士 えっもう作ってる?食いしん坊じゃん・・・
「勇者よ――――。それで、そなたは・・・本物の・・・勇者で・・・?」
「そうですオレはサーヴァント。英霊。知ってる?」
「サーヴァント・・・?」
「・・・説明したっけ?」
「恐らくまだです、先輩・・・!」
一通り食事の準備を終え腰を下ろすと、おそるおそるネロが話しかけてくる。
どうやらまだサーヴァントとマスターのことは知らなかったようだ。立香達が慌てて説明を始める。
サーヴァント。それは魔術世界における最上級の使い魔。死した人間がある種の存在へと昇華されたもの。
「つまり勇者は、魔術師に召喚されたのか?」
「いや、オレは徒歩で座から来ました。だからちょっと時間掛かっちゃって」
「徒歩」
「えっ徒歩で来れるの?」
「えっいやえっ?わたしも初めて聞きました・・・」
『徒歩・・・・・・・・・?』
カルデア側に動揺が広がる。
いやでも相手はあの勇者リンクだぞ。
動揺はすぐに収まった。オルガマリーが身を乗り出す。
『勇者リンク。貴方は聖杯に呼ばれずとも座から離れられるのですか?』
「そもそも聖杯自体がトライフォースの下位互換みたいなモノだろ?英霊の座程度じゃオレたちを縛れない。だからこっちが
『すごい・・・』
『さすが勇者・・・。なんて威風堂々とした姿・・・』
『へへっ、やっぱり格がちげえわ』
「あのスパルタクスは聖杯に呼ばれたみたいだけどな」
「あのご飯いっぱい食べてるサーヴァント?」
「そう、あのマッスル。腹が減っては叛逆ができねぇとよ」
視線を後ろに向ければ、劣勢部隊の野営地とは思えないほど和気藹々とした空気が広がっている。
同じように後ろを見ているリンクの、金髪が夕日に透けて輝いた。立香は思わず目を奪われる。
「・・・おかわり?」
「へっ」
「視線が熱烈だな~。心配しなくても沢山あるぞ」
「い、いただきます」
おそらく見惚れていたことには気づいているだろう、いたずらっぽい笑みが気恥ずかしい。
「勇者よ。我もおかわりを頂きたい」
「やけに静かだと思ったら何?何で皿ごと魔術で保存して宝物庫に仕舞おうとしてんの?食ってねぇのにおかわりをもらおうとすんな」
「王様、ご飯は食べないと失礼だよ」
「もっと言ってやれ立香。ほらマスターがこう言ってるじゃん」
「止めてくれるな勇者・・・!こればっかりは・・・!保存用と観賞用と実用で最低三つは・・・!」
「こいつヤベェな」
○奏者のお兄さん ローマのお風呂見てたら温泉行きたくなったけど温泉ないじゃん
○災厄ハンター ウチのダルケルに掘らせます?
○奏者のお兄さん 何処を!?!?無茶ぶりはダメだよ・・・
「露払いはオレとスパルタクスだ!お前らは皇帝と一緒に本陣へ突っ切れ!兵達は援護!」
「ウオオオオオ!!!」
「ははははは。素晴らしい、此処にはすべてが在る。圧制者の魔手と化した敵兵は幾百、幾千、幾万か」
喧騒の最中で馬は嘶き、朗々とした声が歌うように告げる。
「まさしく勝利の凱旋の時だ。劣勢ではない。優勢なのだ。是より後の我が叫びはすべて、勝ち
「そっちじゃなくてこっちな!暴れてもいいけどはぐれるなよ!」
「ははははは。叛逆の騎士は私に味方した。すなわち今こそ勝利は果たされる。強者の潰える時!」
「・・・・・・うむ。頼んだぞ、勇者よ。色々な意味で頼んだからな」
噛み合っているようでやっぱり噛み合っていない会話が段々と遠ざかるのを、立香は手綱を握りしめて見送った。
偽なる皇帝に支配されたガリアを取り戻すため、ネロ皇帝率いる小部隊は大地を駆ける。
魔術に依る怪物を吹き飛ばし、ゴーレムなど壁にもならぬ。都市の中枢を目指して城壁の守りをぶち破っていく。
退路など自ら切り捨てたと、言わんばかりの兵の気迫。咆哮と突進を止めようと、勇む敵兵を盾の守りが押し返す。
突撃!突撃!突撃!
「・・・・・・来たか」
赤と黄金を纏い、ふくよかな男はため息をついた。
「何という気迫よ。これが今代の皇帝のカリスマか?―――待たされた甲斐はあったようだな」
月桂樹の冠がいい差し色だ。赤に緑は映える。
「美しいな。美しい。実に美しい。その美しさは世界の至宝でありローマに相応しい」
相対したネロは面食らった。第一声が褒め言葉だったので。
「我らの愛しきローマを継ぐ者よ。名前は何と言ったかな」
「――――っ」
「沈黙するな。戦場であっても雄弁であれ。それとも、貴様は名乗りもせずに私と刃を交えるか。それが当代のローマ皇帝の在りようか?」
空気が張り詰めていく。男は笑みを崩さない。
「さあ、語れ。貴様は誰だ。この私に剣を握らせる、貴様の名は」
「――ネロ。余は、ローマ帝国五代皇帝。ネロ・クラウディウスこそが余の名である。
己の名を覚えておけ。己が誰だか教えてやれ。
戦での名乗りこそ英雄の誉れ。声高々に刻み込め。
「良い名乗りだ。そうでなくては面白くもない。そこの客将よ。遠い異国からよく参った。貴様たちも名乗るがいい」
「マシュです」
「藤丸立香です。・・・あの、なんかふくよかですね?」
やっぱりスルーは出来なかったよ。
だって、どう考えてもセイバーには見えないぽっちゃり系サーヴァント。男自身も強めに自覚している。二重の意味で何故?
しかし、なってしまったものはしょうがない。世の中はしょうがないと仕方ないねで出来ている。
「当然だろう。ローマは美食の始まりにして頂点の国。力とは、すなわちふくよかさである」
そうかな・・・?
「その証拠に、そら、五代皇帝も実に豊かだ。我が
そうかも・・・。
身振りと弁舌が当たり前のように説得力を持つ。
権謀術数の渦中へ飛び込み、それを見事御してみせた男の能力が形になったスキルは、もはやある種の精神攻撃に近い。
「・・・むうう。さすがガリアを平らげた謎の男・・・・・・。呼吸をするかのような自然さで女の心を蕩かす・・・・・・。だが余は我が母のような女ではなく、皇帝であり、ひとりの騎士!」
「そうだそうだ!そんな言葉じゃ響かないぞ!」
『口説き慣れすぎてくどいよね~』
「貴方に褒められても嬉しくありません」
「なんと・・・・・・!?」
すでに光の勇者・リンクという良い男遭遇イベントを通過した立香達にはまったく響かなかったが。
『あの、そろそろいいかな』
『貴方には尋ねたいことがあります。連合について。そして、聖杯について』
「ほう。それならば構えよ。貴様らの求める聖杯とやら、よく戦えば教えてやってもいい」
「・・・・・・!」
「よく戦えば、な。――――さあ、此処へと進め、既に、賽は投げられているぞ!」
「はああっ!」
裂帛の気合。真紅の剣が男の首筋を目指す。
甲高い金属音がそれを受け止めて、体型からは予測できないほど俊敏な動きで振り払う。
勢いのまま背後の盾を弾き、だが質量に突き飛ばされて横に跳ぶ。盾の後ろから伸びてくる突きを下から腕を振るう事で捌いた。
上を向いた切っ先に逆らうことなく、回転することで勢いを受け止めたネロと男の間に盾の殴打が割り込む。追撃を防がれた男がバックステップで下がり、風で膨れあがる
剣閃は乱れる。鍔迫り合う剣は黄金と真紅。
「・・・ふうむ。強いな、貴様ら。いいや――」
踏み込んだ腕力でネロを弾いた男が呟く。
「そもそもだ。名将たる私に一兵卒の役割を任せるとは。最適な人材の運用とは呼べんな、これは」
「こんなに強烈な剣を振るっておいて、どの口で・・・」
『流石はセイバーのクラス・・・。相当な手練れのサーヴァントだな、彼は』
・・・でも隙がないわけじゃないよね。
立香は見ている。それが仕事だから。一手を加えるタイミングを。
「――だが、いいな。その美しさと勇気に応えて、我が名を言おう。私はカエサル。すなわち、ガイウス・ユリウス・カエサル。それが私だ」
「な・・・・・・それ、は・・・・・・。初代皇帝以前の支配者の名・・・・・・」
カリギュラと同じく、過去から呼ばれた人間。
共和政ローマの政治家であり軍人であり、紆余曲折を経て終身独裁官となり、後の帝政ローマの礎を築いた。
「肩の力を抜け。笑え。貴様は美しい。実に美しい。その美しさは、世界の至宝に他ならんのだぞ?」
「・・・・・・・・・ッ」
故に男は笑う。
がむしゃらな後輩の輝きに目を細めながら。
「そこのデミ・サーヴァントとマスターもだ。喉笛を食いちぎるタイミングを虎視眈々と狙うその目。美しい。ああ、実に良いな。体も良い」
「セクハラ!!」
「セクシャルハラスメントですよ!!」
「貴様らの勇気・強さ・美しさ。私は感嘆したぞ。故に、ひとつ教えてやろう」
「それは聞こう」
「そうですね、先輩」
カエサル曰く。
聖杯なるものは連合帝国首都の城に在る。
正確には、宮廷魔術師を努める男が所有しているらしい。
『魔術師――。その人物の名を教えていただけますか』
「できんな。貴様らへの褒美は終わりだ。これ以上くれてやる道理はない。・・・ネロよ、貴様の苦難は私の望みではないが」
男は語る。
それでも戦う理由が在るのだと。聖杯を望むほどの願いがあると。
「次は本気だ。黄金剣、起動準備――」
「! この気配――気を付けて下さい、マスター!」
『魔力が上昇している!?いや、自ら抑えていたものを解放しているのか!』
「私は来た。私は見た。ならば、次は勝つだけのこと!」
霊基再臨。
大理石の腕、足鎧を纏って瞬きの間に距離を詰めてきたカエサルに、ネロは反応できない。
所詮素人には、見てからじゃ反応できない。
だから予測を立てるのだ。
「
「緊急回避・・・!」
「
宝具による超連続連撃を受け止めたのは、マシュの盾だった。
回避を利用した瞬間移動。魔力放出の余波が四方八方に飛び散っては衝撃となって吹き荒れる。まともに受けた建物は瓦礫になって崩れ跳んだ。
硬質な腕が光を伴って迫るのを、マシュは目を逸らさずに待ち構える。
「走って!ネロ!」
「―――ああ!」
拳と盾がぶつかる。響く殴打音が鳴り止まぬうちにネロが突進した。
「瞬間強化!」
マシュの盾がぱっと消えた。霊体化である。
驚愕に染まった顔のまま大理石の腕を振り抜く前に、ブーストされた真紅の剣が霊核を貫く。
視界の端から振るわれた剣を受け止めることは出来なかった。瞬時に戻ってきた盾がふくよかな体躯を吹き飛ばす。
「・・・やった、のか・・・?」
瓦礫に突っ込んだカエサルは動かない。
『ああ、反応が弱くなっているのが観測できている。君たちは勝利したんだ』
『よくやったわ、二人とも』
「勝った・・・」
「はい、私達の勝利です」
「・・・うむ、うむ」
やがてゆっくりと体を起こした男は、穏やかな目をして頷いた。
土埃を払って立ち上がる。
「美しい女たちに負けるのも悪くない。そも、俺が一兵卒の真似事をするのは無理がある。まったく、あの御方の奇矯には困ったものだ」
「あの御方――?」
「そうだ。当代の正しき皇帝よ。連合首都で、あの御方は貴様の訪れを待っているだろう」
おもむろに天を見上げるカエサルは、どこか疲れたような顔をして、そして笑った。
「だが――、・・・いや、私が語ることではないな。願わくば、俺も一度お目に掛かりたかったものだが」
「?」
「祈りは届いている。それでいい――――」
「・・・消えた・・・・・・」
なにやら意味深なことを言って、カエサルは座に帰っていった。
後に残ったのは、呆然とするネロだけ。
「これは・・・・・・。なんだ、魔術に依るものか・・・・・・それとも・・・・・・」
「この世界から消えたんだよ」
「何、と・・・・・・?」
「先輩の言葉通りのことです。あのサーヴァントは、この世界から消えました。死を迎えたことによるサーヴァントの消滅。仮初めの肉体が消え、座へと経験が送られるんです」
「そうか・・・」
わずかに言葉を切って、振り払うようにまた口を開いた。
「うむ!見事に皇帝の一人を倒したこと、褒めてつかわす!」
「ネロさん――」
「これでガリアは名実共に余の元へ戻った。強大な連合帝国に、一矢報いたのだ!」
そう言うネロが佇む姿は、やはり輝かしく。
「余の思いのままに、余の民の願いのままに、神祖と神々に祝福されしローマが、今、戻りつつある!」
「ネロ・・・」
「余はローマを我が手に取り戻す!――だから、うむ。立香とマシュも、どうか余に力を貸してほしい。ローマにはまだ、お前達の力が必要だ」
「・・・うん!」
「もちろんです!」
笑う姿は確かに、太陽のようだった。