長髪男士はダメです。気が狂います。
水たまりを跳ね飛ばして、辿り着いたのは絢爛の城。
「この道で間違いないのだな、荊軻?」
「皇帝への道を行くのはこれで二度目だ。案ずるな、間違いなく貴殿たちを玉座へ案内しよう」
牙を剥く敵性生物なんのその。怪物を叩きのめし少女たちは進む。
その背中に迷いは見えず、瞳には希望の炎が宿る。
滴るレモンの雫も溶けてしまうような、真紅の炎が。
「・・・・・・来たか、愛し子」
「うむ、余は来たぞ!誉れ高くも建国成し遂げた王、神祖ロムルスよ!」
「・・・・・・良い輝きだ」
眩しそうに目を細めた男から、鋭い敵意を感じるか?
立香はずっと妙な違和感を抱いていた。この人はどうして優しい目をしているんだろう。どうしてそんなにプレゼントを待ちわびた子供のような顔をするんだろう。どうして――――。
「過去も、現在も、未来であっても。余こそが、ローマ帝国第五代皇帝に他ならぬ!故にこそ、神祖ロムルスよ!余は、余の剣たる強者たちでそなたに相対する!」
「許すぞ、ネロ・クラウディウス。
ゆっくりと構えた男から、強大なプレッシャーが届く。
それを遙かに超える、大きな慈愛を見た。
「見るがいい。我が槍、すなわち――
上段からの唐竹割りは、大木のような槍に阻まれる。
打ち合いは輝線となり絡み合った。槍の突きを右下から弾き、踊るように薙ぎはらう。舞うように斬撃が飛ぶ。
「はああっ!」
裂帛の気合いと共に放たれた裟斬りを、槍は真正面から受けとめ、重い振りで吹き飛ばす。
体勢を崩して転げるネロの前に、マシュが滑り込むように割り込んだ。
鈍い音を立てて盾が皇帝を守る。攻撃ではなく、防御に徹した盾裁きはロムルスを後退させた。
「ネロ、応急手当!」
「すまぬ!」
「
星の欠片が砕けたような輝きを纏って、すぐさま立ち上がったネロの剣が襲いかかる。
対応しようと動いたロムルスはしかし、マシュのスキルに引っ張られた。盾と槍がぶつかり合う衝撃。真紅の剣の三連撃!
「むうっ・・・!」
追撃。
流星のような右薙ぎは建国王の胴を捉える。
しかしすぐさま盾ごと刺突で振り払われた。二人の少女が重ねて倒れる。
「ぐ・・・流石だな・・・。しかし、まだまだ!」
「マスター、問題ありません。まだ行けます!」
「うん・・・!」
まるで大きな岩に斬りかかっているかのようだ。
揺らがず、ひび割れず、朽ちることもなく。ただそこに在り続けるものを、どうやって動かそうか。
「――――そうだ。全てを見せよ。全てを委ねよ。
『魔力上昇!宝具警戒!』
『立香、マシュ!来るわよ!』
「はい!」
まるでローマを焼きつくした大火のよう。広がる魔力は神祖の覇気。
槍が地に突き立てられる。呼応するように大地は揺れる。大樹に変ず。
「すべて、すべて、我が槍にこそ通ず」
「マシュ、宝具を!」
「はい!真名、偽装登録――」
枝を伸ばし葉を生やし、大樹は奔流となり。怒濤のごとく押し流す!
「
「
際限なく成長する大樹を白亜の壁が受け止める。鼓膜を通り過ぎる轟音。
しかし余りの質量にじりじりと足が下がっていく。壁ごと後ろに押されていく。
ちかり。
遠くで原初の火が灯った。
「緊急回避、瞬間強化・・・!」
回避を利用した瞬間移動。大木をすり抜け、目の間にネロは現れる。
「
弧を描いた剣は炎を纏って斬撃となる。ロムルスは避けなかった。
赤い突きは心臓を貫くために放たれた。ロムルスは防御すらしない。
それどころか両手を広げて、懐に飛び込んだネロを受け止めた。
「・・・・・・!?」
火花が弾けたかのように大樹は消える。
たくましい神祖の腕に抱かれたことを理解して、ネロはそろりと顔を上げた。
「眩い、愛だ。ネロ」
「ぁ・・・・・・」
「・・・ロムルス、貴方は・・・」
ゆっくりとネロの頭を撫でて、神祖はただただ微笑んだ。
「永遠なりし真紅と黄金の帝国。そのすべて、お前と、後に続く者たちへと託す」
「っ! ・・・もちろんだ。・・・神祖よ」
「星見の子らよ。お前たちもまた、ローマである。進め、歩め。ありのままに、
「・・・はい」
「忘れるな、ローマは永遠だ。故に、世界も、永遠でなくてはならない。心せよ・・・・・・」
穏やかに、堂々と、建国の王は座へと還っていく。
目元を拭うネロに、二人の少女はそっと駆け寄った。
『敵性サーヴァント、ランサー・ロムルスを撃破。・・・ふぅ、よかった』
「はい、わたしたちの勝利です」
「・・・ああ。これで、ローマは元あるべき姿へと戻るだろう」
晴れやかに笑うネロは、青い鳥を見つけた子供のよう。
しかしまだ聖杯が見つかっていない。宮廷魔術師もだ。
「・・・! 誰か居ます」
ふいに響いた足音は、どうしようもない嘲笑を含んでいた。
見下した喝采。間延びしたエンドロール。
「いや、いや。ロムルスを倒しきるとは。デミ・サーヴァント風情がよくやるものだ。冬木で目にした時よりも、多少は力を付けたのか?」
「・・・!」
「だが所詮はサーヴァント。悲しいかな、聖杯の力に勝ることなど有り得ない」
黄金の杯を携えて、レフ・ライノールは現れた。
『宮廷魔術師が王の危急をあえて見逃すとはね。すっかり裏切りが板についたんじゃないか、レフ教授?』
『というより、それが素なんじゃないかい?カルデアにいた頃より活き活きとしてるよ?』
『・・・レフ・ライノール。聖杯を渡しなさい』
「ほう。言うようになったじゃないか。オルガマリー」
こちらを睨む視線など、羽虫を払うように落とされる。
その羽虫に邪魔をされておいて、随分呑気なことだ。
「そこのお嬢さんも、フランスでは大活躍だったとか。おかげで私は大目玉だがな」
「・・・いい気味」
「ほざけ!聖杯を相応しい愚者に与え、その顛末を見物する楽しみも台無しだ!」
「神祖は人類の滅びなど望んでいなかった。節穴だな。器の底が知れる」
「カス共が・・・!」
ぎりぎりと聖杯を握りしめて、醜悪な顔が露わになっていく。なんと異様で、・・・無様。
「あなたの目的は何?なぜ人類を滅ぼすの?」
「目的ならとうに済んでいる。最も、問われたところで答える道理も権利もない。そして何より、おまえたちは思い違いをしている」
掲げる器に注がれるのは、性悪で邪悪な泥の意志。
「人類を――人理を守る?バカめ。貴様たちでは既に
『・・・どういう意味だ?』
「抵抗しても何の意味もない。結末は確定している。貴様たちは無意味、無能!哀れにも消えゆく貴様たちに!今!私が!我らが王の寵愛を見せてやろう!」
変ずる。
生々しい肉の柱。品のない。潰れたドラゴンフルーツのような無数の眼球。
悪意を固めた黒が思考を焼いて、怖気を呼ぶ。
汗が冷たい。
無遠慮に玉座をぶち壊し、我が物顔で世界に現れる。怪物よりも醜い悪魔。
『・・・この反応。この魔力・・・!』
『サーヴァントでもない、幻想種でもない!おいおい、まさか本当に悪魔かい・・・!?』
「改めて、自己紹介しよう。私は、レフ・ライノール・
七十二柱の魔神が一柱。
魔神フラウロス――王の寵愛そのもの!
「おぞましい・・・。悪逆そのものではないか、これは!」
「この大量の魔力は・・・ドクター・・・!」
「き、気持ち悪い・・・」
「フォウ、フォーウ!」
地響きが不快な浮遊感をうんで、少女たちの体を揺らした。
『・・・フラウロス。七十二柱の魔神と、確かに彼は言った。なら、彼の言う王とは――』
『・・・まだ情報が足りないね。そもそも魔神なんて実在するのかい?』
「・・・フォウ!キュキュキャー!」
威嚇するように鳴くフォウくんを抱きしめて、立香は魔神を見上げた。
城は砂のように崩れていく。天井を突き破って、肉の柱はぎょろぎょろと目を回す。
「邪魔者は地獄へ!ネコには小判を!ご主人、お待たせしたナ!」
「キャット!?」
「なんだこれは・・・!?気味の悪い・・・!」
ぴょんぴょんしゅたっ!
キャットが華麗にキュートに参上!
スパルタクスと呂布を呼びに行った荊軻も戻ってきた。バーサーカーたちは明るく笑う。
「ご主人、今こそアタシの真の力を見せるとき。さあ、魔力を回すのだ!」
「未だ圧制者ならざる者よ。今こそ、その権能をスパルタクスに示す時が来た。命じるのだ。民を守れと」
「■■■■■■■■■■■■」
「みんな・・・」
かわいらしいエプロンドレスを揺らして、肉球はもふりと頬を撫でた。
筋肉の詰まった手が肩を叩き、白い歯がきらりと輝く。
サムズアップ、呂布が頷いた。信じてくれと言うように。
「・・・うん。信じるよ。キャット、スパルタクス、呂布!」
令呪が輝いた。一画、二画、三画。
「あの魔神を倒して!」
この痛みを刻み込め!この叛逆を叩き込め!
「うむ。というワケで皆殺しだワン!
「ふあぁぁあはははははは!行くぞっ!我が愛は、爆発するぅ!」
「■■■■――!!」
獣の爪が襲いかかる。膨れあがる体が爆発する。雷のような魔力を纏い、巨大な矢が放たれる!
三方からぶつかった宝具は、肉の柱を削り抉り吹き飛ばした。
耳障りな断末魔を上げて魔神は身をよじる。下卑た視線を含む眼球が、なすすべもなく貫かれた。
分厚い肉片が飛び散る。轟音が響く。
「・・・不明の敵性生物、撃破です!」
「やったぞ!さすが余の剣たちだな」
「スパルタクス、なんか爆発してたけど大丈夫!?」
「うむ、案ずるな。この程度で、スパルタクスは滅びはせぬ」
飛びついてきたキャットを受け止めながら、立香は思わず叫んでいた。なんか膨れてたよね!?
でも本人はピンピンしている。元気そうでなによりである。
「・・・馬鹿な・・・。たかが英霊ごときに・・・我らの御柱が退けられるというのか・・・?」
呆然とした声が聞こえて、ネロは冷たい目を向けた。
荊軻は油断せず武器を構えている。
「いや、計算違いだ。そうだ、そうだろうとも。なにしろ神殿から離れて久しいのだ。少しばかり壊死が始まっていたのさ」
「・・・見苦しいな」
「同意する」
「しかし、私も未来焼却の一端を任された男だ。万が一の事態を想定しなかった訳でもない」
「まだ、何か・・・?」
ぶつぶつと呟きながら立ち上がるレフを、呆れた目でオルガマリーは見る。
こんな惨めな姿を見せられるなんて、本当に分からないものだ。
『気を付けて!聖杯の活性化を感知した!また何かが起きるぞ、マシュ、立香君!』
「・・・古代ローマそのものを生け贄として、私は、最強の大英雄の召喚に成功している。喜ぶがいい、皇帝ネロ・クラウディウス。これこそ、真にローマの終焉に相応しい存在だ」
「ローマは世界だ。そして決して世界は終焉などせぬ!」
そうだ、
王の言葉がどれだけ尊かろうと、この定礎は壊せない。
なぜなら―――――。
「いいや、終わりだよ。レフ」
すとん。
首が斬られる。誰も反応できない。
ごとり。
聖杯が落ちる、鈍い音。
「―――――――?」
「その大好きな王に伝えておくといい。オレらに喧嘩を売っておいて、ただで負けられるとおもうなよ」
マスターソードは煌めく。正しく勇者の手の中で。
青年は勝ち気に宣言した。滑り落ちた顔が、驚愕に歪んで消えていく。
その姿を見つけた誰もが、安堵に肩の力を抜いた。
「リンク!」
「リンクさん!」
「フォウ!」
○Silver bow レフこれまだ生きてるよね?
○バードマスター うーん・・・。マスターソードの退魔判定は入らないか
○騎士 あれは元々魔王(と書いてガノンドロフと読む)専用だろ
わあっと盛り上がる声が勇者を迎えた。
ひらりと手を振って合流した後ろで、女神ものんびりとくつろいでいる。
「ほい聖杯。ちゃんと持ってるんだぞ」
「うん」
「あとマシュの後ろから出るな」
「え?」
耳を劈く、甲高い金属音。
その刃を視認できたのはリンクだけ。浅く受け止めてはじき飛ばした。
「ここで来るとはな。アレの命令?」
「いいえ、私の意志よ」
『・・・・・・!?』
『だっ、誰!?何!?』
「えっ、えっ?」
一拍遅れて動揺が広がる。
ほとんど反射で構えたサーヴァントたちには見向きもしない。
純白の着物を纏う、蠱惑的な姿態。上品で幼げな笑み。
無垢な女性を人型にしたらこうなるであろう、艶やかな玉体。
「こんにちは、カルデアのマスターさん」
「・・・は、い」
「私は両儀式。突然で悪いけど――――殺しにきたわ」
「させるわけないだろ?」
両儀式、と名乗る女性の言葉が受け止めきれなくて、カルデアの面々は途方に暮れた。
○小さきもの オイオイオイオイ
○守銭奴 ヘイヘイヘイヘイ
○奏者のお兄さん あっこの子リンクと戦えてはしゃいでるな!?
リンク達も騒然としていた。