最近は暑くなったり雨が降ったりで体調管理が大変です。
『貴女は何者ですか?』
「私?私は殺人鬼よ。通りすがりのね」
ぴりりと胡椒のきいた空気に、ため息をつけるのは一人だけ。
「お前ら、手を出すなよ。オレの獲物だ」
「リンク・・・」
「大丈夫だ。すぐ戻る」
空気の弾ける音。
踏み込みは深く。刃鳴と共に火花が散る。
そのまま力任せに両儀を吹き飛ばして、リンクはその場から離脱した。
天使が通る間もなく、計器がけたたましく異様を訴える。いつの間にか空が暗い。
『警戒!これは・・・。待て、何だ・・・これは・・・』
『ロマニ、どうしたの?』
『異常な速度で魔力濃度が上がっていきます!立香ちゃんの礼装が耐えられるかどうか・・・!』
『!? ・・・立香!戻ってきなさい!今すぐに!』
「・・・・・・・・・・・・」
その言葉は、呆然とする立香の耳を素通りした。
彼女だけではない。マシュもネロも荊軻もステンノも、バーサーカーたちも天を見上げている。
暗雲が空を覆い、太陽の光を遮っていく。かすかに光るのは落雷の兆しか?
まるで悪夢が流れ込んだかのように、空間は魔の気配に染まっていく!
「・・・っ!」
「マスター!?」
「ご主人!」
「フォウ!?」
『真エーテルがどんどん満ちていく・・・!強制
『・・・ダメだ!
『立香!しっかりしなさい!立香!』
苦しい・・・!
肺が握りつぶされる。圧迫されて呼吸が阻害された。ひゅうひゅうと鳴る呼気すら不快。
崩れ落ちた少女をタマモキャットが受け止める。背中を撫でても治まらない痙攣を見て、女神はおもむろに立ち上がった。
「・・・仕方のない子ね」
「・・・は、っ! ・・・はぁー、はぁー」
「・・・ネロ皇帝、平気なのか?」
「う、うむ。余はなんとか・・・少し息苦しい気もするが・・・」
口づけ1つ。女神の加護。
柔らかな慈悲を得て立香の視界がぱっと晴れる。何度も瞬きを繰り返して息を整えた。
「■■■ー!」
初めに気づいたのは呂布。
「・・・むう」
次に声を上げたのはスパルタクス。
「・・・影の魔物?」
信じられない、という気持ちを詰め込んで荊軻が言う。
『・・・トワイライト?』
『うそ・・・』
『待て、どういうことだ。なぜ奴らが現れる・・・?』
ギルガメッシュの問いに答えられる者など誰も居ない。
分かるのは四方八方を魔物に囲まれているということだけ。
影の世界に、閉じ込められたということだけ。
振るわれるのは無垢の刃。迎え撃つのは翼を広げる鳥の剣。
攻める刀は容易く人の速度を超える。切り裂かれた空気が哀れに叫び、空間を衝撃波で揺らした。
しかし青き剣は全てを受け止める。
身体に刻み込まれた戦いの記憶が、音速の刃を押さえ、受け流していく。切っ先が描く輝線は羽根が舞っているかのよう。
ほんの数秒で目まぐるしく技が交わされた。
有り得ない精度で振るわれる刀を、有り得ない経験値で捌いていく。
先ほど押し出されたことからも分かるように、純粋な腕力では負けている。体力もあちらの方があるだろう。
だから攻めるのなら此処。
「・・・!」
踏み込んで横薙ぎ。素直に後退した青年を突進して追いかけた。
左下から跳ね上げて返す刃で叩き落とされる。逆らわずに膝を曲げ逆袈裟。受け止めた剣を起点に跳び上がった。
着物がはためく。くるりと白猫は背後に降り立つ。リンクが振り返って構えるのと、宝具を展開したのはほぼ同時。
「全ては夢と───これが、名残の花よ」
名残の花が舞う。眩むような朝焼けの世界で。
これは夜が明けて、朝がくるまでの僅かな夢。彼岸より来る安寧の刃。
直死の魔眼と共に放たれるこの一太刀から、逃げられる者など―――――。
「えっ、」
両儀が声を上げたのは、腕をリンクの手に掴まれたからだ。
瞬きなどしていないのに懐に飛び込まれた。まだこんな速度がでるの?
マスターソードが刀を絡め捕り、重心が滑って体がぶつかった。しっかりと筋肉のついた青年の肉体に受け止められて、そのまま地面にひっくり返される。
頭はぶつけなかった。大きな掌に庇われたので。
「はい終わり」
「・・・・・・」
するっと外された掌は、乱れた金髪をかきあげた。
起き上がれないように体を跨がれる。
○Silver bow 写メった
○海の男 送った
○災厄ハンター 秒で殺すじゃん
「・・・どうして躱されたのかしら」
「オレは影の世界の加護を得てるから、幽世の力に耐性があるんだよ。あとは気配の隙を縫って飛び込んだだけ」
「・・・すごいわ。私の負けね」
○小さきもの お呼びしました
○影姫 しばらくワタシに近づかないで
無言で両儀の上から退くと、蕩ける様な笑みを携えて起き上がる。どうやら満足したらしい。
こっちのメンタルは今死にましたが。色んな意味で直視できねぇ。
だから反応するのが僅かに遅れた。
「・・・おっと」
首を掴むために伸ばされた手を紙一重ではたき落とす。
野生の獣を思わせる俊敏さで飛び退いたリンクを、立ち上がった女が見つめている。
否。
両儀式がこんな冷笑を浮かべるものか。
揶揄っているのは憑依した男。
「ガノンドロフ・・・!」
「女に跨がって楽しそうだな」
「誤解しか招かない言い方を止めろ!?!?」
○フォースを信じろ あんまりそいつに味方したくないんだけど跨がってはいたよ
○影姫 最低
「何しに来やがった。お前の出番はねぇぞ」
「遊んでやっているんだ。むしろ感謝して欲しいくらいだな」
「なに・・・。・・・・・・! トワイライト・・・?」
城の跡地を覆うのは黒い壁。金色の雲。
かつて僣王ザントが、影の結晶により光を奪った領域と似通っている。
あの空間では、影の存在以外の生物は魂だけの存在となってしまう。つまり立香たちではどうしようも出来ない。
「・・・嫌がらせしにきたってこと?」
「鍛えてやっているんだ。世界を救うんだろう?」
「・・・・・・バァ゙!゙?゙ 誰も頼んでませんけど!?虚数に引きこもりすぎてコミュニケーションが出来なくなりましたかぁ!?っていうかカルデアには手を出すなって言ったよな!!」
「ああ、言ったな。処刑される前の時代の俺が」
「クソが!!」
○銀河鉄道123 クソじゃん
○奏者のお兄さん 逆に聞きたいんだけどクソじゃないときあった?
○バードマスター きみがそれを言ったら終わりなのよ
「おまっ、後で覚えとけよボコりに行くからな吠え面かかせてやるあっもう1回、いや4回オレに負けたっけ!?ざまぁねえな!!」
黒狼がすっ飛んでいくのをガノンドロフは鼻で笑って見送った。
ぎりり、びりり。不協和音。
空間が歪む。
しかしそれは男の手によってではない。
壇上に割り込むヒトの形をした悪魔。存在するだけで領域を圧し潰すかもしれない支配力は、魔王に鬱陶しげに払われた。
「貴様がガノンドロフか。第六特異点を荒らす侵入者共の長」
「・・・」
「あのリンクとかいう男はカルデアと共に潰せばいい。だが貴様は別だ。私の事業を邪魔するのならば、滅びの運命に逆らうのならば、此処で無様に殺してやろう。玉座に王は二人も要らぬ」
「・・・・・・」
裂けた傷口のように痛々しく、駄々を捏ねる人の子よりも幼稚。
不死であるが故に人間を理解できず。愛を知らぬが故に憎しみも知らぬ。
かつて“終焉”と呼ばれた魂とは似て非なる獣。魔神王ゲーティア。
野心、邪悪、怨念、憎悪、厄災。ガノンドロフを動かす漆黒の感情を、ゲーティアは嫌悪する。
無価値、無価値、無価値!ボロ雑巾よりも哀れ!
「・・・アレらが俺の意志で動いていると?見当違いの当て擦りだな。気に喰わぬのなら直接罰したらどうだ」
「フン。言われずとも、直に全ては芥のように焼却される。だがその前に貴様だ。何度滅んでも惨めに蘇る負け犬の王。次は私が殺してやる」
女の体に宿った男の、内心などゲーティアは知らぬ。
ただこの男が存在するということは、勇者も存在するということ。その可能性を潰すだけ。面倒な事柄を1つ片付けるだけ。
「では死に給え」
あらゆる魔術が惨殺し、あらゆる呪いが呪殺し、あらゆる暴虐が蹂躙する。
サーヴァントの霊基などあっさり壊れた。もう誰もいない。
踵を返すゲーティアは気づかない。既に楔は打たれたこと。
虚数空間に隠れる時間神殿の中に、魔王の思念エネルギーは入り込む。わざわざ空間を開いて来たせいで。
高濃度の魔力と獣の霊基に誤魔化されて、誰も侵入者には気づかない。
ゲーティアの運命はガノンドロフではなく、また逆も然り。
だから救いなど与えられない。答えなど教えてもらえない。彼の心境に触れるなど、星が死んでも有り得ない。
ただこの一手が破滅の一歩。
魔王の気配が宿ったということは、聖剣・マスターソードの力が発揮されるということであり――――――。
エーテルの肉体が解けていく。
巨躯の男も、暗殺者の女も例外なく。
大地に崩れ落ちるころには霊子の粒となりて。
あっけなく。
「フォウ!フォーウ!」
「呂布!スパルタクス!荊軻!・・・タマモキャット、貴女も・・・!?」
「・・・体がパスタマシンに入れられたみたいだワン・・・。ご主人、すまぬ・・・」
「ネロさん!わたしの後ろへ・・・!女神ステンノ、貴女は・・・!」
「古い土着の神を侮らないでちょうだい。まだ私は耐性があるわ」
ステンノが微笑めば、光と共に魔物は吹っ飛ぶ。
腕を振るえば、どこからともなく戦士が現れて剣を振るう。
演舞のごとく純白のドレスを揺らせば、その麗しさに魔物は後退する。
「ほら見て・・・きらきら、受け止めてくださいましね?」
ハートのビームは影の侵攻を阻む。
ワンステップ、トーダンス。誰も女神に触れられぬ!
『バイタル安定しません!術式で治癒するにも限度が・・・!』
『女神はよくやってくれてるけど・・・決定打にはならない・・・!』
『これが本当にトワイライトだとしたら・・・勇者リンク以外には・・・』
マシュの肩が揺れる。足下が覚束なくて、膝に力が入らない。
鎧を外せと霧が迫る。
盾を降ろせと、無力な人に戻れと囁く。
「ぅ・・・」
「マシュ?」
「立香、前に出るな。余とマシュの間にいるのだ。後ろからも来ているぞ」
「で、でも・・・」
『・・・立香。令呪も魔術礼装も使ってしまった以上、今の貴女に出来ることはありません。自分の身の安全を最優先しなさい』
「・・・ぅ、ぐ・・・・・・」
力が奪われる・・・。戦う力が・・・。
マシュの脳裏で、憑依した英霊が遠ざかっていく。顔すら見えないのに
待って・・・行かないで・・・。
貴方がいなくなったら・・・わたしは・・・。
【わたしは? どうなるの?】
戦えなくなってしまう・・・。
【別に良いじゃないか。キミが戦えなくなったって、マスターは怒らないよ】
でも・・・。
【・・・・・・】
でも・・・。それは・・・。それじゃ・・・。
【戦うのが嫌いなんだろう?本当は怖いんだろう?】
・・・・・・! それは!先輩だって同じです!
震える足で大地を踏みしめる。霞む視界を、重い頭を無理矢理上げる。
先輩だって!所長だって!恐ろしいはずなのに・・・!でも逃げなかった!わたしの手を握ってくれた!
・・・・・・守りたい・・・。強くなりたい・・・!
勇者リンクのように・・・!
大切な人を、カルデアの皆を・・・。
守るための力を、貸してください――――!
【・・・うん。いいよ】
輝きは唐突に。
立香は眩しさに思わず目をつぶって、そろりと開いた。
マシュの腕を覆うアーマー。足を守る鋼のブーツ。体に纏う黒き誇り。
『マシュと英霊の、融合係数が上がっている・・・』
『霊基の・・・再臨・・・?』
「やあああ!」
固き盾に魔物は阻まれる。
わたしは・・・、わたしは、負けたくない・・・!わたしだって、大切な人の、力になりたい・・・!
甲高い音を立てて霧が晴れるのは一瞬だった。この領域を展開していた男が消滅したのだ。
突如明るくなった視界に皆が動きを止める。照らす光は祝福のよう。
「マシュ」
「・・・ぁ、リンクさん・・・」
「強くなったんだな。格好良い鎧じゃないか」
「・・・はい!わたしの中に眠る英霊が、力を貸してくれました・・・!」
○いーくん いい話っぽくまとめようとしてるけどコイツ何もしてなくね
○うさぎちゃん(光) マシュの根性に感謝しなよ
○りっちゃん 急にしおらしくなってる
○小さきもの どう思いますか
○影姫 帰ってきたらどう折檻してやろうか考えてる
「マシュ!」
「マスター、ご無事ですか?」
「うん!マシュが守ってくれたから・・・。ステンノさまもネロもありがとう」
「全く、女神を働かせるなんて・・・。高くつくわよ、貴方たち」
「・・・む!おまえたち、なんだか足の先から薄くなっているぞ!?」
ようやく特異点は修正される。
聖杯とかけがえのない旅の思い出を手に入れて、立香たちはカルデアに帰るだろう。
「正直に言って残念だ。無念だ。まだ、余は何の報奨も与えていないというのに」
「・・・うん」
「おまえたちであれば、きっと。余にとって、臣下ではなく、もっと別の――。・・・いや、やめておこう」
この旅路の先にもローマはあり、ローマとは世界に他ならぬ。
「だから、別れは言わぬぞ。礼だけを言おう。――ありがとう」
「うん。ありがとう、ネロ。ステンノさま」
「ありがとうございます。皆さん」
「・・・さて、じゃあオレも帰るかな」
全員が勢いよくこっちを見た。
「とっ、ころで!リンクは・・・カルデアとか・・・」
「ああああのリンクさんはカルデアにご興味とかいや別に無理にとは言わないんですけど」
「・・・待て!もしかして勇者と会った記憶も消えてしまうのか!?えっ!?なんとか・・・なんとかならんのか!?」
『勇者貴様には先ほどの現象について説明する義務があるなのでいますぐ雑種と共にカルデアに来るがよいここまで来て帰るなど許さぬ許さぬからな!!』
『必死すぎる』
『王様!息継ぎを!息継ぎをしてください!』
○バードマスター カルデア行くの?
○バードマスター そうだねきみは怒られるね。ミドナ姫と温泉行ったら?
○影姫 温泉は行きたいな。連れてけ
○騎士 マジで尻に敷かれてんな
「カルデアには行くけどもうちょい後かな~。今の現象十中八九ガノンドロフの野郎なので先にしばいてくる」
『ガッ』
「ガッ」
「人理焼却はアイツも見過ごせないと思うんだよ。支配する世界がなくなるし。だからといって余計な茶々入れるなって言ってくるからまた会おうな」
『ガッガガガガガノンドロッ、フ』
『ハイ・・・』
「ふぇ・・・」
「勇者、余ともまた会ってくれるか?」
「もちろん。またご飯作りますよ。なのでステンノ様、カルデアに居た方がオレに会える確率は高いです」
「・・・もう」
全霊の感謝と薔薇を捧げよう。
その旅路に、さらなる幸運があらんことを。
――――あの大地と空を、ずっと忘れない。
第二特異点 永続狂気帝国セプテム 定礎復元