あと前作に少し加筆してます。
海は誰も拒まない。
全てを呑み込み、全てを許し、時に全てを映し出す。
その黒い瞳もまた、同じように。
「邪魔するよ。キャプテン・エドワード」
見回りに行かせた船が乗せてきたのは、女神エウリュアレでも財宝でもなく。
ある意味この世でもっとも貴重な、一人の少年だった。
「へえ・・・。良い船じゃないか。うん、大きさも申し分ない」
迷い無く船室を進み、向けられる4つの視線に笑みを返す。
目を見開いてその一挙一動を焼き付ける大男に、腰に手を当て、にやりとしながら話しかけた。
徐々に、徐々に――エドワード・ティーチの体が震えを見せる。掴もうとしたジョッキは指先が蹴飛ばした。
酒が飛び散って、アルコールのニオイがぶわりと広がる。
「オイオイ・・・」
「ん?」
「ここは海賊船だぜ・・・。ガキが来る所じゃねぇ・・・」
「膝震えてるけど。ガキが怖いのか?」
「ハハッ!」
普通に会話しているようだが、黒髭の顔は汗まみれだ。
立ち上がろうとして椅子の肘おきに手を置いているが、一向に中腰から動けない。
あ、転んだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・やってくれるじゃねぇか」
「何にもしとらんが。いい加減突っ込むけど緊張してる?まあお前儂のファンだもんな」
「はあ!?してませんけど!?大体まだ本物だとは決まってないし!拙者をダマそうとは良い度胸・・・」
「おいで、マスターソード」
「ヒッ」
手の中に愛剣を呼び出す。
眩いばかりの光を纏い、退魔の剣は現れる。
思わず漏れた悲鳴は四方から聞こえてきた。なんだ皆疑ってたのか?失礼な奴らだな。
「これで証拠になるな?儂は風の勇者・リンク。
「あ、あぁ・・・!メアリー・・・メアリー!」
「おっ、おちっ、おちついてアン僕を前に出そうとしない見てる!」
いや見るだろ。そんなにテンパってたら。
お互いにしがみつきながら段々と声量を上げているのは、金髪のアン・ボニーと銀髪のメアリー・リード。
槍から手を離さず、しかし震える手を隠せていないのはヘクトール。他の三人とは違い警戒を解いていない。・・・ふうん。
「お前は聖杯の所有者だな。女神エウリュアレを探しているらしいけど、目的は」
「・・・目的ぃ?」
問われてゆるりと顔を上げた海賊の顔は、不敵に剛腹に染まっていた。
「
「・・・違いない。確かに海賊は
「ないね!どうしてもってんなら、拙者達を倒してみせ・・・」
「ああ、そういうのはいい」
しかし美しい笑みに躱される。こつ、こつ、とリンクが黒髭に近づく。
未だ膝をついたままの海賊は、気圧されて動けない。す、と美貌が近づいた。
「海賊に善悪の押しつけなんてしないさ。好きにしろ、エドワード」
「―――――」
至近距離で囁かれた声は、匂い立つような色気を放つ。
どう考えても十代の少年が持ち得るものではなく、しかし相手が“勇者リンク”であるならば納得してしまうような、溺れてしまう瞳だった。
放心した黒髭から離れ、次は女海賊達のもとへ。
「あっアッあっこっちくる」
「なななななに僕たちなにも知らないよ」
完全に腰の抜けた二人の近くでしゃがみ込み、視線を合わせる。
「アン・ボニーとメアリー・リードだな」
「!? しっ、て・・・」
「同業者だろう?当然だ」
「・・・・・・ひっ、ひっ。うっ・・・・・・ぐすっ」
○奏者のお兄さん 風も俺の気持ちを味わって
○ウルフ やーい泣かした~
○銀河鉄道123 先輩イケメンに慰めてほら
「なにがそんなに悲しいんだ?それとも・・・嬉しいのか?」
こくこくと頷く二人。
暗い夜道からようやく抜け出せた、迷子のような泣き顔だった。
「わっ、わたしたち、みたいな、海賊まで・・・。勇者リンクの・・・耳に・・・」
「憧れてたんだ・・・本当だよ・・・。あなたと、キャプテン・テトラに・・・」
「テトラの名前を出すとは、見る目があるじゃないか。しばらく世話になるから、よろしく」
「ばい゙」
「ゔん゙」
震える手で握手をすると「もう洗わない・・・」とえぐえぐと泣くアンが言いだした。メアリーは縋るように握った手を抱きしめている。落ち着いてほしい。
「ほらハンカチ」
「私物!?!?!?」
「無理い゙!!!!!」
「・・・そう言わずに」
「イヤアアアア!!良い匂いする!!!!」
○Silver bow 無理って意味じゃない無理・・・?(thinking face)
○いーくん おじいちゃん頑張って
なんとか二人にハンカチを押しつけ(なんかこっちも意固地になった)、ただひとり緊張を解かない男に向き直る。
「外で話そうか」
「・・・ええ」
男の表情は固い。
ほんの僅かな時間でこの船を掌握してみせた少年は、大人びた笑みを崩さない。
真昼の太陽が甲板をじりじりと照らし、サーヴァントたちを熱気で包む。
「・・・・・・」
タクトを構える。身長差ゆえ首筋を差すだけだが、抑止力としてこれ以上のものはない。
「誰の手先?」
「・・・お見通しですか」
「兜輝くヘクトール。今までの特異点の傾向からして、黒幕の指示を受けてるサーヴァントがいるな?・・・教えてくれるか?」
「すいません、勇者リンク。雇い主を選べない戦争屋でも、義理くらいは通します」
内心の感情を消し、脳天気にへらりと笑う。
なるべく軽薄に見えるように、不真面目に感じるように。それが自分の仕事なので。
リンクはぴくりと眉を動かして、やがてゆっくりとタクトを降ろした。ふう、と息を漏らす。
「仕方のない子」
「おや、見逃してくれるんですか?」
「海の上くらい、お前の
「・・・・・・」
ひらりと手を振って、手遊びにタクトを揺らしながらリンクは船内に戻っていった。
一気に汗が噴き出して、ずるずると手すりにもたれかかりながら尻餅をつく。
思い出したように心臓が騒ぎ出した。痛い。・・・破裂しそうだ。
「(なんだあのプレッシャー・・・!? ・・・・・・あれが、風の勇者・・・)」
ヘクトールが無理矢理従っているわけではないから、リンクも引いたのだろう。
あんな少年の体からこんな凄まじい圧が出るのか。決して舐めていたわけじゃないのに、しばらく足腰に力が入らなそうだった。
「(世界を救った勇者。海を制した海賊。新生ハイラル王国の初代国王・・・。なんて、偉大な)」
涙が出そうだった。押さえていた感情が溢れだし、混じり、ぐちゃぐちゃになっていく。
顔をとっさに手で覆う。漏れる嗚咽を堪えられない。
人生の手本だった。子供の頃からの慰めだった。夢と希望と、勇気の詰まった物語。
こんな形で会いたくなかった。・・・なんて。
贅沢すぎるだろう。こんな悩み。
○うさぎちゃん(光) せんせーー!!!!!ヘクトールくんが泣いてる!!!!!
○災厄ハンター 許せねぇよ・・・風の勇者・・・!
潮風が慰めるように、肩を抜けていった。
「な、な、な、な」
「えっえっえっえっ」
「なっ・・・・・・なんで」
駆ける、駆ける、駆ける、駆ける。
迷宮の中を走り回る。後ろを時々振り返って、叫ぶ。
「なんでリザルフォスがいるのーーー!?」
緑色の肌をした、爬虫類のような姿の魔物が追いかけてくる。
パニックになった思考のまま立香たちは逃げる。
キィキィと嘲るような声。バッと勢いよく顔を向けると、一つ目の翼をもつ魔物、キースが大量に横から来ていた。
剣と盾を構えた石像の横を通り過ぎる。すぐに聞こえたのは石を引きずるような重い音。しかも二つ。
『アモスだ・・・・・・』
呆然としたロマニの声が、静まりかえった管制室に響いた。
幾多もある曲がり角を越え、階段を駆け下り進む。子供が遊びで作ったような、滅茶苦茶な配置の
ようやく振り切ったところで立ち止まった。ぜいぜいと息がきれる。
『どうしてゼル伝の魔物たちが、このダンジョンに・・・?』
『壁の意匠を見る限り、ギリシャの建造物であると思う。ギリシャで迷宮っていうと・・・』
「ラビリンス・・・だね」
クレタ島にはかつて迷宮が建てられており、その奧には人の体に牛の頭を持った怪物がいたという。
決して、魔物ではなかったはずだ。
「・・・思わず逃げてしまいましたけど、倒せるんですか・・・?」
『・・・わからない。なぜ魔物が生息しているのかも判明していない以上、無用な攻撃は避けるべきだと思う』
「でも、また追われたら逃げれないよ・・・、!」
複数のリザルフォスが動き回っている。ブーメランや槍、盾を構えながらうろつく姿は、まさしく迷宮の番人だった。
咄嗟に身を隠すものの、あそこに居られては奧に進めない。
迷宮を照らす燭台の火が妖しく揺れ動くのを、マシュは視界の端で捉えた。
影。
「・・・っっ!! キャプテン!!」
「うおっ!?」
「なに!?どうし・・・・・・!」
巨大な手首の形をした魔物、フォールマスター。
天井から落下して獲物を捕らえ、ダンジョンの入り口に戻してしまうというモンスターである。
ドレイクがマシュに引っ張られて避けたことにより、本体だけがボトッと落ちる。ガサガサと巨大な虫のように蠢きながら闇の中に消えていった。しばし荒い息だけが響く。
「ありがとう、マシュ。助かったよ・・・」
「いえ、ご無事でなによりです・・・」
「ここも危ないのか・・・」
『・・・先に進みましょう。フォールマスターの縄張りから出ないと・・・』
ずん、と地響き。
一度だけではなく、連続的に。
不審がったリザルフォスたちが音の元に駆けていく。
ファイアキースが火の粉を撒き散らしながら飛んでいった。
耳を劈く雄叫び。思わず立香は膝をつく。
衝撃的な出来事の連続で、精神を摩耗していた。
「オオオオオオオオオオ!!」
ダンジョンが揺れる。石畳を伝って、びりびりと衝撃が体に響く。
「・・・行くよ。マシュ、立香。怪物が出るか魔物が出るかだ」
「キャプテン・・・?」
「ダンジョンのボスを倒さなきゃ、外に出ても意味が無い。ゼル伝で習っただろ?」
「・・・・・・!」
「・・・倒せるかな」
「弾が当たるなら倒せるさ」
先の見えない道の真ん中で、それでもドレイクは勝ち気に笑った。
立香はマシュに支えられて立ち上がる。汗を拭って、水分補給をして。
「・・・先輩、手を繋ぎませんか。少しのあいだだけでも」
「! ・・・うん」
咆哮はまだ聞こえている。
三人は周りを警戒しながらゆっくりと、しかし確実に進んでいった。
「オオ・・・!オオオオオオオオ!!」
やがて開けた場所に出る。
飛び散る瓦礫に当たらないよう様子を伺うと、暴れ回っている巨体が見えた。
顔には仮面を着け、全身は傷だらけ。牛頭人身の怪物――――。
「ミノタウロス・・・!」
『すごい・・・!魔物達を圧倒してる・・・!』
テリトリーに踏み込まれた怒りか、はたまた別の感情か。
片刃の斧が振り回される。ボコブリンを吹き飛ばし、リザルフォスを壁に叩きつけた。
「こ・・・ろ・・・す」
「こちらに気づきました!」
「戦闘態勢!」
「こ、ろ、す・・・!」
仮面の向こうでらんらんと目が光る。間髪入れず斧が振りかぶられる。
殺意と殺戮を召し上がれ。ようこそ我がラビリンスへ。
「ぐぅぅっ!?」
「・・・えっ?」
けれど背後から、巨体を襲う一撃。
なすすべもなく崩れ落ちた怪物の後ろに、あらゆる計測機をぶっちぎる存在がいる。
その場の全ての意識の外。カルデアの観測さえも欺いて、その魔人は現れた。
「迷宮を作れるとは、便利な能力ですね」
「・・・・・・・・・・・・なんで」
艶やかな髪を揺らし、紫のマントを揺らしながら。
ドレイクの掠れた声の問いかけに、魔人グフーはにこりと笑って答えた。
「この特異点には聖杯が二つあるのでしょう?一つくらい、ワタシが貰ってあげますよ」
『なっ・・・なっ・・・』
「ああ、なかなかですね。それではさようなら」
いつのまにか石化したミノタウロスは、当然ぴくりとも動かない。
その影響で迷宮は元に戻る。間にドレイクの体に腕が突っ込まれる。何も反応できなかった。
ねがいのぼうしが無くとも、元々グフーは武術と魔術の天才。
きらりと輝く聖杯を眺めながら、魔人は姿を消した。
「・・・・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
沈黙が支配する。何を言えば良いのか、しばらく誰にもわからなかった。