「アステリオス!アステリオス・・・!」
洞窟の隙間から飛び出してきたのは、紫の長髪をツインテールにした少女。
白いドレスに黒いワンポイントを揺らしながら、石化したアステリオスにすがりつく。
「貴女は・・・?」
立香がおそるおそる声をかけると、少女は潤んだ瞳でこちらを見た。
「・・・エウリュアレ。アーチャーよ。貴方たち何者?」
エウリュアレは元々別の海賊に追われていたらしく、この島でアステリオスと会い、守ってもらっていたという。
しかし立香達が来たことに気づき結界を張ると、なぜかどこからともなく迷宮に魔物が湧いてきたらしい。
「あんなもの初めて見たって、アステリオスも言ってたわ。・・・てっきり貴方たちが連れてきたのかと」
「いいえ、わたしたちも驚いています。魔物が発生したのは、おそらく・・・」
『・・・この特異点に現れた、魔人グフーに引っ張られてきたんだろう』
空気が改めて重くなる。
勇者リンクが来たのだ。ガノンドロフの存在も仄めかされている。そりゃ魔人も来るだろう。
理屈はわかる。・・・わかるのだが。
『誰か、アステリオスの石化を解く案はありませんか?』
『石化を防ぐ宝具はあるが、解くとなると・・・』
『ルーン魔術は?』
『石化に干渉できそうなルーンはある。・・・が、一つ懸念がある』
クーフーリンがため息交じりに話し出す。
それを通信機越しに、膝を抱えて立香は聞いた。
『いくら時代が変わってスケールダウンしているとはいえ、ハイラルの魔術だ。効くかわからねぇ』
「・・・そうね」
『一先ず船に戻らないかい?いつまでも洞窟の中では寒いだろう』
「そうさね。・・・よし!日が暮れる前に戻るよ!」
仕切り直すかのようにすっくと立ち上がったドレイクに、つられてみんなも立ち上がる。
アステリオスはマシュが背負い、森の中を進むのだった。
「――――まあ、盗られたものはしょうがないんじゃない?」
「軽いねぐっちゃん・・・」
「むしろ攻撃されなかったのが幸運よ。無事で良かったわね」
「・・・うん」
へにゃりと眉尻を下げた少女に、眉をつり上げたアサシン。
少し苛立った表情で、マスターの肩を引き寄せた。
「あーもう!そんなに落ち込むんじゃないわよ!アンタのせいじゃないでしょ!」
「うん・・・」
「生きてりゃこんなこと何度でもあるわよ。アンタが無事ならそれでいいの。私の言うことが信じられない?」
「・・・ううん」
ぎゅう、と縋るように背中に手を回してきた立香に、虞美人は頭を撫でながら抱きしめ返してやる。
まったくかわいくない後輩である。弱音すら素直に吐けないなんて。
「マシュ、アンタは大丈夫かい?」
「はい、船長。・・・確かに酷く動揺しましたが、虞美人さんの言うとおり、攻撃されなかっただけ幸いです」
「・・・そうだね。聖杯は奪われちまったが、アタシたちはまだ負けていないよ」
今夜はここで一泊することにして、たき火と食事の準備が始まる。
体が動いていたほうが気が紛れるマシュは、手伝いのために浜に降りていった。
立香にはぐっちゃんが付いているし、あとは――――。
「どうだい。そっちは」
「・・・・・・駄目だな。どの宝具も弾かれる。さすが賢者の弟子、グフー。天才の所業よ」
「手が震えてるけど大丈夫かい?」
『発作みたいなものなので気にしないで下さい』
ルビーの瞳にとがった耳。ピッコル族の美青年、グフー。
彼のかけた石化の呪いは、ギルガメッシュの持つ宝具でさえ解くことはできなかった。
興奮すればいいのか感動すればいいのか悔しがればいいのか、もうよくわからなくなってるギルガメッシュの手は震えまくっている。
しかしそれは、他のサーヴァントや職員たちも同じ気持ちだった。
こんな状況でなければ、ハイラル時代の魔術にひたすら感嘆していただろう。
『そういえば、英雄王。キミは勇者リンクの武器も持っていたはずでは?』
「…フォーソードや夢幻の剣なら使えない。どうやらあれは勇者にしか使えないようにセーフティがかかっているようだ」
『えっそうなんだ』
唯一効きそうなマスターソードはそもそも蔵に存在しない。八方塞がりである。
「大丈夫よ、
「・・・勇者様なんて、来るのかしら。こんなところまで・・・」
「ええ、きっと。ひょっこり現れて、あなたの困りごとも解決してくれるでしょう」
「
その隣では、女神達が額を合わせている。
ステンノが優しく頬を撫でれば、エウリュアレはバイオレットの瞳に涙を浮かべた。
エウリュアレもステンノと同じく、永遠に美しい代わりに、か弱く無力な少女である。
あの魔人――――。
一目見て背筋が寒くなった。崩れ落ちることもできず、ただ呆然としていた。
古い土着の神ですら、格が違うとわかる。
あんな恐ろしいものは生前ですら見たことがない。
怖くて怖くて、アステリオスが石化されても、声すら上げられなかった。
もしまた出会ってしまったら、どうしたらいいんだろう。
「(勇者様・・・)」
影の中からワンと現れた。ふわふわの勇者。
エウリュアレの所にも、来てくれるのだろうか。
当たり前のように、助けてくれるのだろうか。
優しく背中をさすってくれるステンノに寄りかかりながら、女神はぽろりと涙を落とした。
「マスター!ぐっちゃんも!夕飯が出来たよ」
「うん。いただきます」
「良い香りね。いただきます」
努めて明るい声を出しながら、ブーディカが島から声をかける。
船から降りてきたマスターは、少し目元が腫れているけど、自然に笑えているようだった。
こんなに若くて、可愛らしいマスター。どうしても娘の姿を重ねてしまう。
どうか健やかでありますように。どうか笑顔でありますように。
「おいしい?おかわりもあるからね。はい、飲み物」
「うん、おいしいよ」
「・・・この肉、美味しいわね。なんの肉?」
「ワイバーン」
「えっ」
「そこで狩ったワイバーン」
狩りたてほやほやである。
「マスター、デザートもあるからね。キャットと作ったんだよ」
「うん。・・・ブーディカ」
「なあに?」
「ありがとう。明日も頑張るね」
たまらなくなって抱きしめた。
苦しいよ、と笑い混じりに少女は言う。
「マスター、あたしの力が必要だったらすぐに呼んでね。勝利の女王の力を見せてあげる」
「頼もしいな」
「キミのサーヴァントだからね」
空が橙色に染まる。朱色の太陽が眠りに落ちる。
星が目を覚ますまで、たき火の炎は消えなかった。
巨大な影が海底から現れる。黄色く光る目玉は8つ。
ぎょろぎょろと獲物を吟味して、紫の触手をくねらせる。
「ダッ・・・」
「ダッ・・・」
「ダイオクタじゃん・・・」
巨大な渦が発生した。船はあっという間に巻き込まれる。
「ナンデ!?ダイオクタナンデ!?」
「わからん。なんでじゃろ」
○ファイ 魔物が発生するということは、魔を司る何者かがこの特異点に居るということです。
○バードマスター 誰?魔王?
○奏者のお兄さん 魔王か魔王じゃないかの勘だけは百発百中なんだよな
○銀河鉄道123 じゃあ誰だろ。うちのマラドーファミリーでもないと思いますが・・・
○りっちゃん ディーゴくんは改心したでしょ。ファミリーとか言うてやるな
「メアリー!大砲準備!」
「! 了解!」
「えっ効きます?拙者の船の大砲でも効きます?」
「儂が撃つから効く」
「ヒューウ!」
既に船は渦に流され、身動きが取れなくなっている。
大砲を旋回させて角度調整、無駄撃ちなどしない。
「・・・
側面の目玉に1発。間髪いれずに3発。目玉を潰す。
攻撃を受けたダイオクタが我武者羅に触手を動かす。渦の流れが強くなり、船がぐんと引っ張られる。
なんの問題も無い。残り4発も正確に撃ち込まれた。魔物は海に消えていく。
まるで白昼夢のように、海は静寂を取り戻した。
「・・・さすが風の勇者」
ヘクトールがぽつりと呟いた。
○小さきもの ・・・・・・ウチだ。
○小さきもの グフーの気配がする。エゼロもそう言ってる。
○守銭奴 あ~・・・。しますね。はい。
○フォースを信じろ えっでも座では大人しくしてた・・・・・・けどあいつ人の悪い心に興味あったな・・・。
○小さきもの だからわりと人間にちょっかいかけるし自分も悪いことするんだよ。
○小さきもの 風だけでも大丈夫だろ。代わりにしばいといて
「今はとっさだったから儂が出たけど、サーヴァントでも魔物は倒せると思う」
「わたしの銃でも・・・?」
「大丈夫だ。次は任せたよ」
「はい!」
きらきらと目を輝かせたアンが返事をする。
それにリンクがくすりと笑う。元気なのはいいことだ。
船は改めて、聖杯を所持しているという海賊の元へ向かう。
「そうだ、ティーチ。儂、戦闘には参加しないから」
「え~」
「お前達だけで十分だろう?魅せてくれよ」
「んも~。仕方ないですな」
○騎士 もっと早めに気にしてくれ
○Silver bow マイペースだなぁ・・・
絡め取られて蜘蛛の巣に。
蝶は誰にも捕らえられず。
飛んで火に入る夏の虫。
「こんにちは。キャプテン・イアソン」
豊かな藤紫の髪を風に揺らし、麗しい青年は現れた。
太陽を背にして、蕩けるような笑みを浮かべる様は、まるで天からの遣いのよう。
誰も彼もが目を奪われて、現実かどうか疑い出す。
「お前、は・・・・・・」
こちらを凝視する男に、グフーはゆっくりと目を合わせる。
「魔人グフー・・・・・・?」
「聖杯が――――欲しくありませんか?世界を救うために、王になるために」
グフーは人間の悪い心に興味がある。
それと同じくらい今は、
「なんの、なんのつもりだ」
「そのままの意味ですよ。ワタシ、アナタに興味があるんです」
聖杯を投げると、イアソンは反射的に受け取る。
震える手で杖を握りしめている魔女と、斧剣を構えこちらを睥睨する男は、どうするべきなのか迷っているようだった。
「それがあれば、もっともっと戦力を呼べるでしょう。ああ、なんならワタシも手伝ってあげますよ」
「は・・・・・・」
「ワタシ、勇者に倒されて反省したんです。ええ、今度こそは師の願い通り、賢者として人々を導きましょう」
嘘では無い。反省はした。だが後悔はしていない。
導くとは言ったが、世界を救うとは言っていない。
グフーは人間の心が知りたい。善でも悪でも、沢山の感情が見たいだけ。
人々の夢と思惑が重なり、2つの聖杯によって特異点が歪み、その結果生み出されるものはなんだろう。
気ままで気まぐれ。無邪気で残酷。強大で苛烈なピッコル族。
座で他の悪属性達と接したことにより、その手に負えなさには拍車がかかっていた。
唯一止められそうな老いたガノンドロフは雀のお宿に慰安に行っている。ギラヒムも付いていってしまった。
「・・・は、ははは。はははははは!」
でもそんなこと、夢に目が眩んだイアソンにはわからない。
黒幕に逆らえないメディアには、魔人なんてもっとどうにもできない。
ヘラクレスは、友の滅びの未来を悟った。
かつて己も勇者と呼ばれた、その勘でわかる。
だが自分にもできることはない。唯一希望があるとしたら、連鎖されて召喚されているかもしれない、緑の服の勇者――――――。
「いいだろう!私の魔術師として、仕えることを許す!」
「ありがたき幸せ。どうかアナタの手足として、ご自由にお使い下さい」
楽しいなぁ。楽しみだなぁ。
盲目の人間は面白い!
海は混沌としていく。誰にも予想できぬ未来に。