勇者リンクS’の人理修復配信RTA   作:はしばみ ざくろ

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愛も変わらず、ハイに気ままに

「あら?」

 

地平線の向こうから災いはやって来る。

暴風は全てを呑み込むか?まだ誰にもわからない。まだ誰にも、わからない。

 

「船長!前方に船が一隻――・・・?」

「・・・何かしら。すごく、嫌な感じ・・・」

 

風の勇者を見送ってすぐその船は現れた。

砂を噛むような雰囲気の、されど粘着質な傲慢さを感じる。

ギリシャ神話にて金羊の毛皮を求め、旅だった。冒険者達の伝説の船。

 

「初めまして、薄汚い海賊達」

 

ぴったりと横付けされた船の奧から、芝居がかった口調で男がやって来る。

高貴ぶった仕草。こちらを見下す緑の目(グリーン・アイ)。リンクとは似ているようで全く違う、クロムイエローの髪。

黒髭は一瞬訝しげな顔をして、すぐに顔を顰めた。

 

「・・・まさか、アルゴノーツ?」

「アルゴノーツ!?あのギリシャの海賊団・・・!」

 

アンが弾かれたように反応する。メアリーは最大限に警戒してカトラスを握り直した。ヘクトールは紙一重で驚愕を隠す。

何故?どうしてここに?・・・いや、それよりも。召喚された時とは全く違う、この膨大な魔力は一体――――。

そんな海賊達の振る舞いを、蟻を眺める子供の目でイアソンは見ている。

 

「いかにも。我々はアルゴノーツ。世界を正しくあろうとさせる、正義の英雄達だ」

「ハッ。歯の浮くような台詞をどうも。英雄様が何の用だ?」

「もちろん、君の持っている聖杯さ。私という王にこそ天の杯は相応しい。お前のような、三流の海賊ではなくてね」

「断る。死ね」

 

女王の船(クイーン)が撃ち込んだ砲撃は、堅牢な魔力障壁に阻まれる。

爆炎は届かず、爆煙が視界を遮った。

舌打ちをする間もなく巨躯が飛び移ってくる。

その男こそ――――ギリシャ神話最大の。否、人類史においても最大の英雄。

十二の試練をくぐり抜けた超人。その功績から死後、星座として神々の座に加えられた破格の勇者。

此度はバーサーカーとして現界した英霊、ヘラクレス。

揺れる船。ふらつきながら構える海賊。勝ち誇った顔のイアソン。

 

「ヘラクレス、まずはあの女海賊達を殺せ」

「■■■■■■――!」

 

抵抗なんてできやしない。気づいたらもう目の前に居て。

振るわれる斧剣にあっさり頭が潰された。

衝撃に体が崩れる。甲板に叩きつけられる。

ぐちゃり。

血がたくさん飛び散って、黒髭の頬を汚す。

 

「・・・・・・・・・てめえ」

「ははは。怖い怖い」

 

あらゆる場所であらゆる怪物と戦った。

敗北などなく、最後には神にまで至った男。

それは確かに偉大なる英雄。最強と呼ばれるに相応しい勇者。

最も黒髭にとっては、量産型の記念コインよりも興味がないけれど。

 

「とはいえ私にも慈悲がある。君が大人しく聖杯を渡すならば、見逃してやってもいい。――――ああ、ヘクトールは返して貰うが」

「なんだ先生。敵だったのでちか?」

「・・・そうなんだよ。悪いね、船長」

 

合わなくなった目に、怒りを覚えることはない。

だって黒髭は知っている。ヘクトールがあの時、一緒に目を輝かせていたことを。

 

「・・・そんなに聖杯が欲しいならくれてやるよ。俺も死にたくはないんでね」

「おや、存外物わかりがいいんだね。まあ気持ちはわかるよ。ヘラクレスは怖いだろう?」

 

怪物が怖くて海賊が出来るかよ。こいつ何もわかってねぇな。

ヘラクレスなんてどうでもいい。イアソンはもっと興味ない。

黒髭が今気にしているのは、背後に立っているヘクトールだけ。

 

「そういう訳だから先生、そろそろ睨むのは止めてくれよ。俺の性格はよく知ってんだろ?」

「ええ、よく知ってますよ。――じゃあオジサンは船に戻りますね」

 

ああ、わかるとも。

アンタが最後のあがきに何かしようとしている事くらい。

ヘクトールは政治家で、戦争屋で、仕事人だ。

本当の感情など面に出さない。仕事に私情など挟まない。

後ろから黒髭を槍で貫いて、聖杯を奪う。それで終わりだ。

 

「(・・・・・・・・・・・・)」

 

けれどヘクトールはアルゴー号に戻った。

もし黒髭が何かしても、とっさに動けないよう(・・・・・・・・・・)に。

今までの自分ならば、こんな半端な仕事はしなかった。見て見ぬふりなど。雇い主を裏切るなど!

 

 

“ヘクトール”

 

 

・・・でも、声が消えないのだ。

 

 

“無理はしないように”

 

 

優しい声が消えないのだ。

あの人はどこまで見えていたんだろう。

ヘクトールの勇者はヘラクレスじゃない。海の王はイアソンじゃない。

レモンよりも瑞々しい金色が、目に焼き付いてしまったから。

黒髭が胸に手を突っ込んで、聖杯を取り出す。その僅かな間。

 

「(――聖杯よ、風の勇者の元へ行け!)」

 

コンマ数秒でも、思考する時間があるならば。

光が弾ける。ほぼ同時にヘラクレスが動く。

ヘクトールが辛うじて視認できる速度で、斧剣が黒髭を砕いた。

だが遅い。

聖杯はすでに流星のごとく、空の向こうへ飛んでいく。

 

「塵屑が!!」

 

ヘクトールは地団駄を踏むイアソンから目を逸らした。

なんなら船の中から感じる禍々しい気配からも、明らかに増えているサーヴァントの姿からも目を逸らしたかったけれど。(おそらく機械で出来ている?人なのか馬なのかよくわからない奴とか。白い髪の、神父っぽい青年とか!)

それは叶いそうにもなかったので、そっと晴天を仰ぎ見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金色の輝線を描いて聖杯が飛んでくる。

逃げるように、追いかけるように、挨拶もなく。

赤獅子の上でそれを受け取ったリンクは、額にこつりと杯を当てた。

ひんやりとした、声なき声。

 

「・・・ティーチがやられた」

 

 

奏者のお兄さん 第三者?グフー?

守銭奴 第三者&グフーかもしれん

小さきもの 卑しか男ばい!見んねエゼロ!

小さき爺 弟子が本当にすまん

 

 

「まあバラバラでいるよりは、一塊になってくれたほうがいい」

 

聖杯を懐にしまう。

じんわりとした魔力を感じながら遠くを見つめていると、波と共に流れてくる気配に気づく。

 

「・・・んん?」

「これは・・・聖なる気配か?」

 

 

小さきもの なんかあるね エゼロわかる?

小さき爺 専門外じゃ

小さきもの 専門外かぁ

 

 

「ちょっと寄り道しようか。赤獅子、向かってくれる?」

「うむ。任せておけ」

 

ゆったりと舵が切られる。

船から広がる細波は、ヴェールのように繊細だ。

雲影(うんえい)の中から島が出てくる。

降り注ぐ日光に目を細めながら、赤獅子は浜に到達した。

 

「・・・ああ」

 

島の森の中。

サーヴァントの気配に気づいた男女が顔を上げる。

新緑を詰め込んだ髪を持つ男は、ため息とも感嘆ともつかない声を零した。

その煮え切らない態度に、猫耳をぴるぴる動かして女が言う。

 

「鬱陶しいぞ。ため息ばかり。私が見てくるからお前はここにいろ」

「待ってくれ、麗しい君よ。この状況で一人残される方が辛い。僕も行こう」

「邪魔はするなよ。まだ敵か味方かもわからん」

 

足音を立てずに走り出した女を、慌てて男が追いかける。

あっという間に木々をすり抜け、白い砂浜とそこに立つ少年が目に入った。

――――――どくん、と。

心臓が脈を打つ。

 

「――――――ぇ」

 

警戒の思考も態度もすっぽ抜けて、翠緑の女――アタランテは立ち尽くす。

数歩後ろを追いかけてきた男――ダビデは、その少年を見て急な喉の渇きを感じた。

突然高鳴る心臓の音が、思わず荒くなる呼吸音が、聞こえていないか気になってしまう。

少年がこちらを振り返っても、言うべき言葉がわからなくて。

 

「こんにちは。名前を聞いても?」

 

気を遣わせてしまった!

思考が剛速球で通り過ぎ、動揺を全く隠せてない声が滑り落ちた。

 

「・・・僕はダビデ。生前は古代イスラエルの王です」

「アーチャー、アタランテ。・・・えっと、お目にかかれて光栄だ。勇者リンク」

 

声が震えて居ないだろうか。ダビデの頭の片隅の、冷静な部分が考える。

 

「風の勇者・リンク。こっちは相棒の赤獅子だ。よろしく」

「あ、ああ」

「・・・これが、あの赤獅子の船」

「ところでさっそくだけど、この島の奥から感じる不思議な気配について説明して貰っても?」

「・・・お気づきでしたか。では僭越ながら、僕が」

 

イアソン率いるアルゴノーツ。

敵対することを選んだアタランテ。

イアソンが探している契約の箱(アーク)。そして女神エウリュアレ。

この海域において最初に召喚されたサーヴァント、ダビデ。

そして契約の箱(アーク)は彼の宝具であること。

 

 

守銭奴 そういうことか・・・。どう思うエゼロ

小さき爺 契約の箱(アーク)はたしか神に捧げられた聖遺物だろう?そこに女神を捧げるのはおかしくないか?

 

 

確かに。いいとこ突くねエゼロ

 

 

そもそも契約の箱(アーク)とは?

旧約聖書に記された聖遺物の1つ。

神の指示を受けたモーセが作らせた“十戒”を封じた箱。

開いたものに罰をもたらすという、“開けてはならない”逸話の箱だ。

 

「アークにエウリュアレを捧げれば世界は救える・・・と。奴は頑なに信じているようだった」

「だけどこの箱に神を捧げても、世界なんて救えない。どころか機能不全を起こし暴走するだろう」

「騙されてるってことか・・・」

 

 

フォースを信じろ エゼロご名答

小さき爺 当然じゃな!(Partying Face)

ウルフ そしてイアソンくんはさぁ

災厄ハンター あぁ~!イアソンくんの好感度が下がる音ォ~!

 

 

「事情はわかった。特異点が崩壊するのは見過ごせない。儂も手伝おう」

「! あ、ありがとう、ございます」

「感謝します。勇者リンク。直に女神アルテミスとオリオンが、正しきマスターを連れてくるでしょう。それまでお待ちいただければ」

 

アタランテは旅だってすぐ、一騎のサーヴァントとして召喚されたアルテミスとオリオンに出会っていたようだ。

この特異点を修正するため、示し合わせて別行動を取っていたらしい。

 

「そうだな。儂には少し考えなきゃいけないこともあるし」

「考えないといけないこと・・・ですか?」

「おそらくイアソンの後ろに付いている、魔人グフーのことだ」

「!?!?」

「グフーが・・・何故・・・?」

「そりゃ悪属性だからなぁ。人の足を引っ張るのが趣味さ」

 

イアソンをけしかけて黒髭を潰したのは、グフーで間違いないだろう。

奴の性格から考えて、直接手を出すのは最低限だとして。

最も警戒すべきなのは――――。

 

「聖杯で召喚されているかもしれない、新たなサーヴァント。そして強化されているだろうヘラクレスだ」

「な、何てことだ・・・・・・」

「メディア、ヘクトールはお前たちでもどうにかなるだろう。ただヘラクレスは――――」

「・・・貴方が、自ら?」

 

 

騎士 ヘラクレスってそんなに強いのか?

ファイ 最も恐るべき点は十二の試練を踏破した事により、十一回の蘇生のストックを持つということでしょう。

バードマスター ひえ・・・。嫌すぎる・・・

 

 

「そうだな、儂が出よう。新しく召喚されてるかもしれないサーヴァントは、それこそアークにでも触れさせればいい」

「・・・簡単に言いますね」

 

苦笑が漏れるけど、ちっとも嫌な気分じゃなかった。

頼られている。期待されている。あの勇者が!僕たちを・・・!

 

「それくらいの労働はするべきだ、ダビデ王。アタランテ、女神達は結構遠くに行ったのか?」

「えっ。ええと、そんなに離れた場所には居ないと思うが」

「なら明日にでも、マスターを連れて合流するか。儂の勘は当たるんだ」

 

この場でもっとも幼い姿をしているのに、もっとも貫禄がある。

地面に無造作に腰を下ろしていても、品位が少しも欠けやしない。

 

「今日は3人で一泊だ。食事の準備でもしようか」

 

そんなリンクの微笑みに促されて2人も立ち上がった。

ひんやりとした海でまどろんでいた赤獅子が、話が一段落した気配を察して目を開ける。

 

「折角赤獅子もいるんだし、寝物語に生前の話でもしてあげよう」

「本当か!?!?是非!!!!」

「こんな日が来るなんて、流石の僕でも予想してなかったなぁ・・・」

 

特異点の状況も忘れて、思わず無邪気に喜ぶアタランテ。

辛うじて大人の仮面を被っているだけで、心はずっと高鳴っているダビデ。

二人とも血に塗れた人生を送った。

親に愛されなかった子供と。親にもなれなかった王。

 

「その昔、神々の力が眠るという、緑豊かな王国がありました――――」

 

食事が終わっても、夕日が顔を出しても、星が目を覚ましても。

今夜だけはただの羊飼いと、ただの狩人は、夢中になって勇者の冒険譚を聞いている。

羊飼いの竪琴に合わせて歌ってやれば、一生の思い出が出来たと微笑み。

狩人に弓の技を見せてやれば、幼子のように飛び跳ねて喜んだ。

生前に忘れていた、しがらみも使命も宿命もない、静かな夜だった。

心を慰撫する、温かな夜だった。

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