一方こちらはグフーを撃破したリンクサイド。
周りに影響が出てないことを確認し、時の勇者は神殿に帰っていった。
あとでミスドを差し入れてあげよう。その背を見送りながら、風の勇者は思案する。
「(さて、立香達のほうはどうなったか)」
加勢するなら船の方がいいだろうか、と伸びをしながら考える。
等間隔で聞こえていた波の音が不意に乱れた。反射的に剣の柄に手を添える。
○騎士 次はなんだ
○フォースを信じろ あれ?この気配・・・
振り返った先の水面がきらきらと光った。まるで鏡のように、空の青さを反射している。
石が投げ入れられたかのように波紋が広がった。それはやがて天に向かって立ち上がり、人型を作る。
ざく、ざく、と砂浜を踏みしめる鈍い音。
けだるそうにこちらへ近寄る青年は、光の無い目をしていた。
銀というよりは白い髪。金色の瞳。一回りサイズの大きい黒いコートを羽織っている。
必然的に袖余りになった手をゆらゆらと振って、一応の挨拶とした。
「シャドウ?ダーク?」
「オルタでいい。自分らは全員で1つの霊基だし」
○フォースを信じろ やっぱりうちのシャドウだ
○いーくん 久しぶりに見たな
「どうしたんだ。わざわざ特異点まで来るなんて」
「“また勇者共にやられた!えーん悔しい!そうだオルタちょっと仕返ししてきてください!いいでしょうアナタは私の部下みたいなものですし!”」
「・・・・・・」
「ただでさえポンチなのに
「お前も大変なんだな・・・」
○小さき爺 弟子が 本当に すまない
○小さきもの グフーのお守りとか現状1番イヤな職業では?
○守銭奴 駄々捏ねが目に浮かぶ
はぁー・・・とため息をつくこのシャドウは、一応ガノンの悪しき心から生み出されたアヴェンジャーのはずだ。復讐心とか無いのだろうか。
「もちろんあるに決まっているだろう。この霊基の根幹はお前らを反転したものだ。無慈悲、無関心、怠惰、残忍、苛烈、暴君、憎悪。・・・はぁ。面倒だが折角来たんだ。嫌がらせの1つでもしてやろう」
「む、何をする気だ。いくらオルタでもやっていいことと悪いことが、」
「知らね」
「あ!コラ!」
ぼちゃんと水の中に飛び込む、オルタを追おうとして踏みとどまる。
水を介して出入りするのは、確か時オカでの能力だったはずだ。
○奏者のお兄さん 居ますね確実に。あいつらセットなので・・・
○ウルフ 潜ったってことは船の方か?でもヘラクレスがスタンバってるよな
水の神殿のボス、水棲核細胞モーファと中ボスをやっていたダークリンクは仲が良い。
どっちかが出てくるのならどっちかもついてきている。そして水中はモーファの独壇場だ。いくらリンクでも分が悪い。
それを考えると泳いで追うのは悪手だ。向かうとしたら恐らく船。
いつの間にか山を揺らしていた地響きが収まっている。立香たちも戻ってきそうだ。
「(! ヘクトール)」」
○Silver bow おっ
○りっちゃん へぇ
念のため気配を消して船に乗り込むと、ヘクトールの攻撃が防がれたところだった。
誇らしげなオリオンとエウリュアレの宝具が突き刺さる。光の粒となって消滅していくヘクトールは、安堵したような笑みを浮かべていた。
○銀河鉄道123 ゆっくり休んで欲しいですな
残るはイアソンと、メディア・リリィ。
オルタはどこへいった?リンクは油断なく周りを警戒した。
ダビデの問いかけが投げられる。イアソンは答えられず、メディアは笑っていた。
気味の悪いほどの静寂が、リンクの眉を
○バードマスター イアソンは王になりたかったんだね
○騎士 それにしてはカラテが足りないな。志は悪くないが
○うさぎちゃん(光) あと言葉も足りてないよね。コミュニケーションを取れ
○災厄ハンター ボロクソ
空気が揺らぐ。小さな違和感を感じて、リンクはきょろきょろと周りを見渡した。
言葉が、感情が、間欠泉のように吹き出した。イアソンに近づく男がいる。
○ 奏者のお兄さん ん、ヘラクレス
メディアが短剣を取り出すのを、リンク達は視認していた。
ヘラクレスが動いた為に傍観の姿勢を取る。
――――動揺、驚愕、悲鳴、呆然。
ヘラクレスの胸に短刀が突き刺さった。
それだけなら、大したダメージにはならなかった。そこで話は終わっていた。
「聖杯よ」
「! オルタ・・・!」
どこからともなく聞こえてくる声を、リンク達以外も
誰の発言なのか、という思考を飛ばし、ただ言葉の意味だけを認識する。
言論によって他者の思考を誘導し自在に操る技術と、魔術的な精神干渉が合わさったスキルだ。
高い対魔力とオルタ本人を認識しているリンクは弾けるが、他はそうもいかないだろう。
ヘラクレスを包む闇の魔力。聖杯を起動させ、彼はそれを呼びだした。
ぱしゃん。
ヘラクレスの体が溶ける。
「戦う力を与えよう。抗う力を与えよう。滅びるまで戦うがよい。この贄を食い尽くし、海を穢し、世界を侵食せよ。序列三十、海魔フォルネウス!」
ヘラクレスの霊基が醜い魔神に変貌していく。
ああ、成る程。確かにこれは嫌がらせだ。目覚めずにすんだはずの海魔を、わざわざ呼び出したのだから。
縦に避けた瞳孔の、赤い瞳。天を衝く黒い肉体は余りにも醜悪で。
『魔神・・・!これで二体、いや二柱目か・・・!本当にいるのか、そんなものが・・・!』
「っ・・・!」
「こりゃまた驚いた・・・。しかも何だい、フォルネウスだって・・・!?それはソロモンの魔神のことじゃないか!」
叫び声に気圧される。物理的にも押されていく。声にも魔力が籠もっているのだ。
オルタが既に逃げているのを確認して、風の勇者はため息をついた。
○バードマスター 介入する?
○災厄ハンター 打ちひしがれてるけど
○ウルフ イアソン様はこれからだから。知らんけど
銃声が肉の柱にぶち当たった。
船首に立つ船長は、高らかに吠える。
「当たった!ようし、当たるんだったら倒せるさ!」
「キャプテン・・・!」
「マシュ、これが正真正銘最後の戦いだ。ほらほら、しっかりしな!コイツをぶっ倒すためにやってきたんだろう?」
「コイツはアンタたちのための大一番だ!不敵に笑ってこう返してやんな!」
太陽をも堕とした女は、逆光に照らされて笑う。
テメロッソ・エル・ドラゴ。この名を覚えて逝くがいい!
「“化け物なんかに用はないの。いいから素敵な王冠を渡してちょうだい!”ってな!」
令呪のある右手を握りしめて、立香は頷いた。
マシュの胸に広がる、この気持ちはなんだ。
心を揺さぶる、勇気と希望の輝き――――。
「アイ、キャプテン!マスター、この時代最後の敵を確認。修正を開始します!」
『カルデアより、ゴールデン・ハインド!解析結果が出た!聖杯はあの巨大敵性生物の中にある!』
『総員戦闘体勢!サポートに集中!』
敵に魔力が集まっていく。
瞳から放たれる無数の攻撃を、飛び出したマシュが宝具で防いた。
「よっしゃ、気合い入れろアルテミス!アステリオス、虞美人、行くぞ!」
「いいけどダーリンは?」
「見てるだけ!応援はします!」
「がん ばる」
「ああ、見苦しいったらありゃしない。さっさと片付けて帰るわよ」
アルテミス、アステリオス、虞美人が攻撃を叩き込んでいく。
抉られて消滅した肉柱は、しかし即座に再生した。ヘラクレスの能力の影響を受けているのだろう。
「マスター、魔力を回せるかい?再生するよりも早く攻撃しないと、アレは無理そうだ」
「私も宝具を解放しよう。同時にいくぞ」
「うん、お願い二人とも」
溜まった疲労でかすかに息を乱す立香の頬に、エウリュアレの冷たい唇が触れた。
「マスター、女神の加護をあげる。踏ん張りなさい」
「・・・うん!ありがとう女神様」
メディアが震えながら、杖を支えに立ち上がった。
イアソンはまだ俯いて、座り込んでいる。
「君には改心する権利がある。──では、仕方ないな。
「二大神に奉る・・・・・・。
投石器によって放たれる、必ず命中する五度目の攻撃。
青と橙の光を纏い、天から降り注ぐ無数の矢。
肉柱を上から、横から、引き裂き打ち抜き削り取る。
『よし、効いて・・・!』
〈漂流の時 来たれり〉
「「「!?」」」
ぐらり、と近くにいた三騎が体勢を崩す。
視界が点滅して、目眩を起こしたかのように頭が揺れた。
慌てて距離をとる。
「魔力を吸われた!?おいしっかりしろ!」
「うう~・・・」
「ぐぅ・・・」
「う・・・気持ち悪い・・・」
○うさぎちゃん(光) (アイツ喋るんだ)
○フォースを信じろ (思った)
〈魔力充填完了 その痕跡を消す〉
「令呪を以て命ずる。マシュ!ドレイク!私達に勝利を!」
「はい!仮想宝具、展開!」
「カルバリン砲、限界まで撃てぇー!!」
〈焼却式・フォルネウス〉
超高出力の魔力が閃光となって襲いくる。
相対するは、聖杯が生み出す無限の砲弾。数えるのも億劫なほど展開されたそれは、太い光の輝線を描く。
その後ろからドレイクを守るため、皆を守るため、マシュが宝具を発動する。
衝撃が海を伝い、船を揺らし、黒煙が視界を覆う。
爆音。火花は弾けて、焼けるニオイ。
『船は!?』
『信号は健在!・・・映像来ます!』
乱れた映像が復帰する。
オルガマリー達が見たのは、消滅間際の魔神。息を切らしながらも立っているマシュ。
『良かった・・・』
「もう少し、もう一撃!みんな動けるかい!?」
「言われずとも・・・!」
しかしダビデ達が動くまでもなかった。アタランテよりも早く、剣は霊核に突き立てられた。
「・・・・・・・・・イアソン?」
吹き飛ばされて露出した霊核――――ヘラクレスを貫く。イアソンの後ろ姿。
「もういい・・・・・・」
「・・・いいのか」
「・・・メディアを裏切りの魔女にしたのはオレだ。だから次は、次こそは!もっと!ちゃんと!うまく、うまく・・・・・・!」
「・・・・・・」
「お前がオレなんかのために、犠牲になる必要はないんだ・・・。・・・はは」
ヘラクレスと魔神が消滅した。ころりとおちた聖杯には、もう見向きもしない。
○災厄ハンター でもワンチャンあるかもって思ってしまったんだなぁ
○小さきもの グフーが悪いよ
○守銭奴 これだから混沌・悪は・・・
メディアはふらりと、イアソンに暗い視線を向けた。
それに気づいたダビデが、鋭い声で牽制する。
「イアソン、メディア。まだ戦うかい?」
「大人しく聖杯を渡してください」
「・・・・・・ああ」
イアソンの心は折れた。
もう、怨嗟の声も出ない。
「・・・・・・ごめんなさい、イアソンさま」
「・・・・・・」
「彼からアナタを守りたかったけど、私には手段がなかった」
「彼?」
『王女メディア!黒幕は誰なのですか!?』
オルガマリーの問いかけに、メディアは静かに答えた。
「それを口にする自由を私は剥奪されています。魔術師として私は彼に敗北していますから」
『サーヴァントとしてではなく、魔術師として王女メディアが敗北した・・・!?』
「ええ、どうか覚悟を決めておきなさい。遠い時代の、最新にして最後の魔術師たち。アナタたちでは彼には敵わない。魔術師では、あの方には遠く及ばないのです」
メディアの心は粉々になった。
イアソンはヘラクレスが救ったけれど、彼女は誰が救うのだろう。
「だから――――星を集めなさい。いくつもの輝く星を。どんな人間の欲望にも、どんな人々の獣性にも負けない、嵐の中でさえ消えない、
このメディアには関係のない事だけど、確かに
初恋だった。その心を守りたかった。
余人と異なる耳を生まれ持った彼女は、しかしそれを誇りに思っていた。女神の声を聞くために大きく長い耳になったという、ハイラル人と同じだったからだ。
溢れんばかりの魔術の才も相まって、きっと先祖は彼の民なのでしょうと皆が口をそろえて言った。
嬉しかった。夢だった。毎日のように小説を読んで、海の向こうを目指す冒険に憧れていた。
だけど結果はご覧の通り!
己は魔女に堕ち、イアソンは舳先に押し潰され死に絶えた。
どこで間違えたのだろう。女神によって植え付けられた、偽りの恋心から?
悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。虚しい。・・・誰か。
心が悲鳴を上げている。血を流して項垂れている。
だけどここには誰も居ない。
裏切りの魔女を慰めようとする、“誰か”など――――――。
「悲しいな。王女メディア」
聞き慣れぬ声に顔を上げる。
恐ろしい嵐の中でも届くような、怒号飛び交う戦場でも届くような、綺麗な声だった。
そしてその姿を認識した瞬間、もともと真っ白だった顔色をさらに白くしてふらーっと尻餅をついた。
「だけどお前はお前なりに、理不尽に抗ったのだろう。そんなお前の心が無下にされるのは見ていられない。ならばせめて、この歌を送ろう」
「ひぅっ、ひっ、ひっ、」
「うんよし呼吸はちゃんとしようか。過呼吸になりそうな音してるから」
○うさぎちゃん(光) せんせーイアソン君が気絶しました
○いーくん こういう肝心なところを逃すのがイアソン様のイアソン様たる由縁
どたーん!と大きな音がしたので思わず顔を向けると、イアソンが泡を吹いて倒れていた。重傷や・・・。
風のタクトを取り出す。真名解放。
「来たれ賢者、我が友よ。天に届くこの音色は、祈りを紡ぎ傷を癒やさん。我が指揮に唄え!
リト族の賢者、メドリ。先代のゾーラ族賢者、ラルト
コログ族の賢者、マコレ。先代のコキリ族賢者、フォド。
2つのハープと2つのバイオリン、美しい音色が海に響いた。
溢れんばかりの誇りと喜びをもって、4人の奏者は楽しそうに唄を奏でる。
メディアの瞳からぽろりと涙が落ちた。それを切っ掛けに、ダムが決壊したかのように涙が溢れだす。
あんなに冷え切っていた心を、暖かいものが満たしていく。
暗く沈んでいた心を、輝く星が照らしてくれる。
○銀河鉄道123 イイネ!しました
○Silver bow ふぁぼった
○りっちゃん いいエンドロールだ
ドレイクが、アステリオスが、アタランテが、ダビデが、オリオンが、夢中で聴いている。
エウリュアレ、アルテミス、虞美人が、うっとりしながら聴き惚れている。
立香とマシュは、胸に温もりが灯るのを確かに感じた。少し泣きそうになって、慌てて袖で拭った。
なんて綺麗で、透明で、慈愛に満ちた、素敵な唄なんだろう。
カルデアは静まりかえっている。呼吸すら演奏の邪魔になると言わんばかりの空気だ。4分の3が無言で泣いている。残りの1も若干危うい。
風の勇者の祝福をうけて、特異点は修正されていく――――――。
第三特異点 封鎖終局四海オケアノス 定礎復元