勇者リンクS’の人理修復配信RTA   作:はしばみ ざくろ

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監獄塔に復讐鬼は哭く
L'amour est un poison.


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――人を羨んだコトはあるか?」

 

「己が持たざる才能、機運、財産を前にして、これは叶わぬと膝を屈した経験は?」

 

「世界には不平等が満ち、ゆえに平等は尊いのだと噛み締めて涙に暮れた経験は?」

 

 

誰かが脳の底から語りかけてくる。体の内側で嗤っている。

 

 

「答えるな。その必要はない」

 

「心を覗け。目を逸らすな。それは誰しもが抱くがゆえに、誰ひとり逃れられない」

 

 

暗闇から手は伸びて。立香の魂を絡め取っていく。

ここでは(カルデア)ない何処かへ。何処かへ。何処かへ・・・・・・。

 

 

「他者を羨み、妬み、無念の涙を導くもの」

 

「嫉妬の罪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

監獄塔に復讐鬼は哭く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある朝、藤丸立香が妙に気掛かりな夢から眼を醒ますと、自分が全く知らない牢獄の中で寝ているのに気づいたのです。

夢と言ったものの、覚えているのは己に語りかける男の声だけで。

何を話していたのかも忘却した頭では、この状況を切り抜ける最善の方法など浮かぶはずも無く。

 

「絶望の島、監獄の塔へようこそ先輩(・・)!」

 

眠気を吹き飛ばす朗々とした声に、肩を揺らしてしまうのも仕方がないのです。

 

「罪深き者、汝の名は藤丸立香!ここは恩讐の彼方なれば、如何な魂であれ囚われる!・・・おまえとて、例外ではないさ」

 

ポークパイハットを被った、色白の肌をした男が牢の向こうに居た。

話しかけられるまで、そこに居ることに気がつかなかった。こちらを見下ろす金の瞳。

そういえば服も寝間着じゃない。カルデアの白い戦闘服だ。

 

「・・・・・・きみ、だれ?」

「この世にいてはいけない英霊だ。お前の可愛い可愛い後輩とやらの口を借りればな」

 

がちゃん。扉の鍵が外される。

デビュタントを祝う大人のように、淑女に使える執事のように、男は恭しく扉を開いた。

 

「思い当たるフシがあるだろう。それとも既に忘却したか」

「・・・初対面だよね」

「―――――ああ、成る程。時系列の因果が乱れているな。いいとも、存分に忘れ去るがいい。あらゆるすべてを魂に刻み続けるのは復讐鬼(・・・)だけだ」

 

男はさっさと歩き出し、少し遅れて立香の足音が続く。

何もかもわからない状況で、頼れるのは――――。・・・頼れるのか、この人・・・?

思考を止めたのは獣と見紛う唸り声。恨みと妬み。行き先を阻む黒い影。

 

「そうら、さっそくお出ましだ。暖かく脈動するおまえの魂が気にくわないらしい」

「意味がわからない・・・・・・」

「此処にもあの手の死霊はよくよく集う。しかし、随分と苛立っているようだぞ?」

 

直視するだけで(はらわた)が焼け付くような、嫉妬の感情。

藤丸立香が、命を持ちながらこの部屋に居る事に。

生きる活力と気力に満ちあふれていることを。

心底―――呪っている!

 

「そんな・・・理不尽な、」

 

後ずさることも出来ず、服の裾を握りしめた立香の前から、しかし男は離れなかった。

振り返ることもないまま、穏やかな声で語りかけてくる。

 

「はは。落ち着けマスター(・・・・)。おまえは知らねばならない。多くの事柄を」

マスター(・・・・)・・・?」

「たとえば此処は何処なのか。たとえばオレが何者なのか。得られる知識の多くは些末に過ぎんが、そうだな。ひとつくらいは学んで行くがいい!」

 

魔力が爆発した。

立香の視界を奪う、青黒い炎。

死霊、悪鬼、怪物。全て、全てを燃やし尽くすために、炎はうねる。

あっという間に道は拓けた。緑がかったコートをふわりと翻し、男はようやくこちらに振り向く。

 

「たとえば・・・・・・。そう、人間(オマエタチ)の醜さを」

 

その顔が余りにも冷たくて、寂しくて、美しくて、優しかったから。

立香の心の底にあった恐怖や絶望は、すっかり雲散霧消してしまったのだ。

 

「ここは何処?キミの名前は?」

「ここは地獄。恩讐の彼方たるシャトー・ディフの名を有する監獄島。そしてオレは・・・」

 

くるりと背を向けて、再び男は歩き出した。

先ほどと違うのは、影が横並びなこと。隣に並んだ立香は、男の顔を見上げて続きを聞く。

 

「英霊だ。おまえがよく知っている筈のモノの一端だ。この世に影を落とす呪いのひとつだ」

「呪い・・・」

「哀しみより生まれ落ち、恨み、怒り、憎しみ続けるがゆえにエクストラクラスを以て現界せし者」

「・・・ジャンヌ・オルタみたいな感じ?」

「オレの事はアヴェンジャーと呼ぶがいい」

 

歩幅の違いからくるずれた足音が、監獄塔に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死なぬかぎり――――。生き残れば、おまえは多くを知るだろう。多少歪んではいても、此処はそういう場所だからな」

「もっと具体的に話して欲しい」

「だが、このオレがわざわざ懇切丁寧に伝えてやる義理はない。オレはお前のファリア神父になるつもりはない。気の向くまま、おまえの魂を翻弄するまでだ」

「確かに翻弄されてる!これが・・・!キアラさんの言ってた大人の男のズルさ・・・!?」

 

階段を上り、通路を抜け、男の足は止まらず。

何処かへ、何処かへ。

 

「・・・フン」

 

足下をうろつく(いとけな)い少女を諫めるような、呆れの混じった声だった。

 

「最低限の事柄は教えておいてやろう。手短にな」

「うん」

「まず、おまえの魂は囚われた。脱出の為には、七つの『裁きの間』を超えねばならん」

「誰に囚われたの?」

「魔術王を名乗る男。おまえは奴に見られた(・・・・)。邪視による呪殺」

「・・・私、死んだ?」

 

ひゅっと肝が冷える。

というかそもそも、魔術王とやらに会った覚えがない。いつの間に呪われていたのだろう。

 

「まだ死んでいない。因果が乱れている、と言っただろう。どうやらおまえは、オレが知るよりも過去のおまえのようだ」

「なる、ほど?」

 

つまり遠くない未来、自分は魔術王に呪殺されかけ、監獄島へ魂を落とされる、ということだろうか。

・・・将来がとてつもなく不安になってきた。大丈夫かな・・・。

 

「カルデアなぞに声は届けられないし、同じくしてあちらからの声が届くことも有り得ん」

「うん・・・」

「裁きの間で敗北し殺されれば、おまえは死ぬ。何もせずに七日目を迎えても、おまえは死ぬ。以上だ」

「簡潔だ。ありがとう」

 

ぢぢ、と照明が揺れる。

光に照らされていないあの暗闇から、今にも化け物が飛び出して、自分を襲うのではないか・・・・・・。

そんな考えが浮かぶほど、嫌な闇だった。

 

「現在のイフ城(シャトー・ディフ)は、歴史上に存在したそれとは大きく異なっている。おまえが見てきた特異点に似ているだろうが、まあ、それとも違う」

「まず本物のイフ城(シャトー・ディフ)を知らないんだけど・・・」

「さあ、第一の『裁きの間』だ。おまえが七つの夜を生き抜くための第一の劇場だ」

 

いつの間にか辿り着いていたらしい。

広々とした部屋の中央に、待ち構えている男がいる。

 

「七騎の支配者が待っている。誰も彼もがおまえを殺そうと手ぐすね引いているぞ?」

「あれは・・・ファントム・・・?」

「如何にも。第一の支配者はファントム・オブ・ジ・オペラ!」

 

美しき声を求め、醜きもののすべてを憎み、嫉妬の罪を以て立香を殺す化け物である。

 

「クリスティーヌ・・・・・・。クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ!」

 

男は(こいねが)うように、呪うように、名前を呼ぶ。

 

 

「微睡むきみへ私は唄う。愛しさを込めて

 嗚呼 今宵も新たな歌姫が舞台に立つ!

 嗚呼 おまえは誰だ きみではない クリスティーヌ!

 我が魂と声は ここに ひとつに束ねられる! すなわち・・・!」

 

 

巨大な鉤爪が高速で襲い来る!

アヴェンジャーは伸ばされる腕を弾き、爪を躱し、怨念の炎を纏った拳で腹を捉えた。

アサシンに勝る超高速移動。防御も出来ずにファントムは吹き飛ばされる。

 

「ようく見ておけよ、マスター。コレが人だ。おまえの世界に満ち溢れる人間どものカリカチェアだ!」

 

轟音がするほどの勢いで壁に叩きつけられても、顔色一つ変えやしない。

幽鬼のように浮遊する体から、ぼそぼそと言葉が漏れている。

 

 

「きみにも等しい声に 爪を立てさせておくれ

 きみにも等しい喉を 引き裂いて赤い血を見せておくれ

 私は欲しい 欲しい 欲しい 今宵の私はどうしようもなく

 ・・・・・・あまねく ひとびとが 妬ましい(・・・・)!」

 

 

段々と大きくなる声、鬼気迫る表情。

カルデアに召喚された彼とは、似ても似つかない。

リンクに導かれたファントムと、この監獄島にいるファントムは、もうまったく違う存在なのだ。

 

「ははは見ろ!見ろ!アレはどうやらおまえの喉をコレクションしたくてたまらんらしい!」

「唄え 唄え 我が天使!今宵ばかりは 最後の叫びこそ 歌声には相応しい!」

「おまえはどうする、マスター!」

 

追い詰められたときに本性が出るとか、命の危機にこそ本質が見えるとか。

そんなありきたりなことを言う気は無い。ただ、アヴェンジャーは見定めるだけ。

彼女のことを。魔術王に敗北し(・・・・・・・)、カルデアのマスターを殺せるだけの霊基しか残っていない己のことも。

まだ、まだ何か。出来ることがあるはずだと。

 

「戦うよ」

 

魔法も奇跡も持たぬ人間が唯一持っている、希望という名の炎。

 

「死にたくない。苦しいのはイヤ。・・・けどそれ以上に」

 

輝く瞳はマジックアワー 。闇をも照らし、絶望を覆す、勇気の光!

 

「マシュと所長と一緒に、東京に行くって約束したの!私、帰らなきゃ・・・!!」

 

ありふれた日々を愛している、その心に。アヴェンジャーは笑った。

 

「ならばオレの手を取れ!――仮面の黒髪鬼に、真なる死の舞踏を見せてやる!」

「うん。お願い、アヴェンジャー!」

 

雷撃にも似た無数の閃光が、ファントムを襲う。

追撃する魔力を纏った高速の格闘術。醜き殺人者にはなすすべもなく。脆い体を砕かれていく。

 

「シャトー・ディフはおまえの魂には相応しくない!おまえは殺人者としてはあまりに哀しすぎる!」

 

怨念の魔力を凝縮した投射攻撃が、霊核を捉えた。

 

「時の果つる先より、光が 見える・・・・・・ この胸に想いならざる大穴を開けるのか・・・・・・」

 

ひび割れて砕けた体はよろけて、ぼたぼたと口から血が流れる。

 

 

「おお わが心臓よ いずこ

 おお わがこころ いずこ

 クリスティーヌ この心臓はきみに捧げよう

 クリスティーヌ この愛を きみへ」

 

「愛のうた・・・なのかな」

「果たしてそうか?よく聞け。あれは黒髪の殺人鬼が叫ぶもう一つの歌だ」

 

帽子の位置を直しながらアヴェンジャーは言う。

ファントムに近寄ろうとした体は、手で阻まれた。思わず男の横顔を見上げる。

 

 

「クリスティーヌ 我が愛 私はきみを愛するが

 クリスティーヌ 私は耐えられぬ

 尊きはクリスティーヌ きみと共に生きる人々を

 愛しきクリスティーヌ きみと同じ世界に在るすべてを」

 

 

消滅していく男からこぼれ落ちる、嫉妬の歌。

 

 

「きみと過ごす人々を 朝陽のあたる世界を 私は 私は

 ――――時に、妬ましく思うのだ 狂おしいほどに――――」

 

「はは、ははははははははははは!はははははははははははァ!!」

 

笑う。嗤う。呵々大笑。アヴェンジャーは高笑い。

 

「オペラ座の怪人、おまえの嫉妬を見届けた。おまえを殺し、その醜さだけを胸に秘めてオレは征く!」

 

馬鹿にしているわけではないのは、立香にも分かった。

 

「地獄で誇れ。おまえこそが人間だ」

 

幕引きのように静寂が訪れる。

無意識に緊張していた体が緩んでいく。ほぅ、と立香は息を漏らした。

 

「さあ、第二の『裁きの間』へと向かうぞ!残る六騎の支配者が待っている!」

「もう!?ちょ、ちょっと休憩しない!?さすがに疲れた・・・!」

「・・・仕方あるまい。先ほどの牢に戻るか」

 

行きは随分歩いたはずなのに、帰りはあっという間だった。

なんとなく服を着たまま寝る気にもなれなくて、上着を脱ぐ。

 

「・・・アッ!見ないでよ!」

「誰が見るか。寝るならさっさと寝てしまえ」

 

冷たいシーツに身を横たえる。

すぐにどろりとした眠気が襲ってきた。抗わずに目を閉じる。

アヴェンジャーはそれを背中越しに感じ取り、一息つく――――――間もなく。

異常を察知して即座に周囲を警戒する。何だ。何だ?何かが来る!

影が蠢く。闇の向こう側から現れたのは、一人の青年。

 

「何だ、貴様は」

「・・・・・・はぁ」

 

その問いかけには答えず。一回り大きいコートを揺らしながら、青年はけだるそうにため息をついた。

 

「やーっと見つけた。めんどくさいとこに堕ちてんなぁ・・・」

 

 

フォースを信じろ 立香ちゃん居た!!!!!!!!

バードマスター よかったー!!!!!!

騎士 ・・・・・・で、どこだここは

 

 

彼こそが勇者リンクの反転存在。リンク・オルタナティブである。

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