ピ・ピ・ピ・ピ・ピ。
等間隔で鳴る心電図。魔術の膜で覆われた少女。入れ替わり立ち替わり、部屋に訪れる職員。
「血圧・脈拍、共に正常。バイタル他・・・どこも異常は見られません」
「可能性のあるものはどんどん試してみよう!これは・・・なかなかの一大事だよ」
昼になっても起きてこない少女を、呼びに行ったのはマシュだった。
本当は朝、行こうとしたのだけれど。
つい昨日、第三特異点から帰ってきたばかりだ。きっと疲れているのだろう。もう少し寝かせてやれと、エミヤに止められたのだ。
それならばと、どこからともなく現れたフォウと一緒に時間を過ごして。そうして、十二時になったので、部屋の扉をノックしたのだ。
声をかけても揺さぶってもフォウが乗っても、身じろぎもせず眠り続ける立香に、血の気が引いて指先が冷たくなった。
フォウが鳴いて意識を引かなければ、そのまま崩れ落ちていたかもしれない。
「異常が無いのが
「肉体的には健康そのもの。だからこちらも気がつかなかった・・・というのは言い訳だね」
ベッド脇の椅子に座ったクー・フーリンが、がしがしと頭をかく。
腕を組んでふー・・・と息を吐いたロマニが部屋の入り口に視線を向けた。
「残りのキャスター達は役に立ちそうにもないし、あとはダ・ヴィンチちゃんが戻ってくるのを待つしかないか」
「役に立たなくてごめんね~」
「我々に出来ることがありましたらなんなりと」
「今は特に無いかなぁ」
ひょっこり顔を出したアマデウスとジル・ド・レェを解散させる。この二人にそっち方面は期待してません。
「夢のなかにいるみたいだね」
「ダ・ヴィンチちゃん」
「レム睡眠状態だ。脳は起きている・・・けど、観測は不能。原因も断定できるものはない」
「八方塞がりだな。王サマはどうした」
「すぐに戻ってくる、だとさ」
「うーん」
千里眼を持つギルガメッシュがそう言うのならば、すぐに戻ってくるのだろう。
しかし、それならばよいか、とはロマニもダ・ヴィンチも立場的に言えない。しばらく調査は続くだろう。
「マシュは大丈夫かい?」
「サーヴァント達が着いてるよ。むしろ私が心配なのは・・・」
「・・・所長?」
「そう、だいぶ参ってるみたいでね。キアラがうまく慰めてくれればいいけど・・・」
オルガマリーの自室に立ち入れる者は少ない。
カルデアの所長である、というのも大きいが、彼女が己のプライベートな空間に他者が侵入することを許せなかったからだ。
他人に対する恐怖と拒絶は、一種の潔癖さとなって現れた。
レフ・ライノールでさえ部屋の中には入れない。入れなかった。しかしそれももう、ずいぶんと昔の話。
「オルガマリーさん。ハーブティーが入りましたよ」
「・・・ありがとう、キアラ」
顔色の悪い少女は、先ほどからずっと項垂れたままだ。
マシュが管理室に飛び込んできたときは、まだそこまで大事には捉えていなかった。
こちらで計測しているマスターのデータには、何一つ異常が出ていなかったからだ。それにマシュは出生と育ちから来る
・・・思っていた、の。
「どうしよう」
ハーブティーに映る少女は、怯えた目をしている。
「立香が」
恐ろしさに心が蝕まれる。負の感情に引きずられる。
「立香が、おき、起きなかったら」
なにか予兆があった?気づけていれば防げていた?
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
どうしたらいい?
「わた、わたし。どうしたら、」
「オルガマリーさん」
隣に座って肩を支える、キアラの手は温かい。
「大丈夫ですよ。ご存じでしょう。立香さんは、とっても
柔らかい声が、小さくなって震える少女を包む。
じわりと目元が濡れた。嗚咽が漏れていくのに気づいて、キアラがカップをそっと預かる。
零さないように机に置いた反対の手で、オルガマリー抱きしめた。
「待っていてあげましょう。立香さんがいつ戻ってきても、万全の状態で出迎えられるように」
「う、うっ、ぁ」
「オルガマリーさん一人の責ではありません。きっと大丈夫。信じてあげられることも、強さというものですよ」
白衣がどんどん濡れていっても、キアラは抱きしめる手を緩めなかった。
「(立香さん・・・)」
オルガマリーともマシュとも違う。元気印の少女。
あの太陽のような笑顔が、どうか曇っていませんように。
キアラに出来るのは、そう祈ることだけだ。
○ウルフ どうっすか
○バードマスター 気配は辿れるけど見えないな・・・
○Silver bow 何かプロテクトされてますね。条件見える人
○奏者のお兄さん 悪属性以外は入れないぽい
○災厄ハンター WAO
なぜ第四特異点前に監獄島へ堕ちているのか。時の勇者は天を仰いだ。
わからない・・・何も・・・。マジでわからん・・・どうして・・・。
知らん間に知らんフラグを建てて突き進むな。俺らがGABAったみたいじゃん・・・。
○いーくん 悪属性ならオルタがいるだろ。聖光、呼んでこい
○フォースを信じろ 呼んでも来なかったら?
○いーくん (拳を勢いよく振り下ろす)
監獄島にはアヴェンジャー・巌窟王とナイチンゲールがいる。そのうち戻ってくるだろうが・・・。
すでに予測可能回避不可能な現状だ。念には念を入れて、もう一騎行かせた方がいいだろう。
○奏者のお兄さん ジャンヌ・オルタも行かせよう
○銀河鉄道123 ドウ=ヤッテ
○奏者のお兄さん カルデアも一回くらいレイシフトを試すだろ。魔法で補助する
○銀河鉄道123 魔法・・・何でも・・・出来るのか・・・?
○騎士 俺たちが使う魔法も根源に直通してるのでぇ・・・
カフェオレをぐいっとあおって、眠気を払った。
「マスター!マスター!起きなさい!」
「・・・・・・んん」
目覚めを促す声が聞こえて、立香はもぞもぞとかけ布団から抜け出した。
眠い目を擦って起き上がると、そこにいたのは竜の魔女。ジャンヌ・ダルク・オルタである。
「ああ良かった・・・。私が来たからにはもう大丈夫。安心なさい」
「オルタ?なんでここに・・・」
ぎゅう、とジャンヌ・オルタに抱きしめられた。
再臨によって長く伸びたシルバーホワイトの髪が、牢獄の中で光っている。
柔らかな胸元に抱え込まれて、立香はぱちぱちと瞬きをした。
「貴女、ずっと眠っていたんですよ」
「・・・やっぱり?」
「やっぱりじゃありません!全く・・・。・・・通信は繋がりませんし、レイシフトに成功したのも私だけです。さっさとこんな湿っぽいところから帰りますよ」
「あ、待って。アヴェンジャーが・・・」
手を引かれるまま牢から出ると、影がぞろりと伸びて立ちふさがる。
アヴェンジャーは相も変わらず、愉悦混じりの笑みを浮かべていた。
「く、はは――――。願望器から産まれしアヴェンジャーか。面白いものを引き入れてくれる」
「なんです、あなた?邪魔をするなら燃やしますよ」
「オルタ、アヴェンジャーは味方だよ。というか多分、出口はまだないよ」
「・・・ハァ?」
第二の裁きの間に辿り着くまでの間、ジャンヌ・オルタに状況の説明をした。
○りっちゃん 未来の出来事を過去の存在が体験している?つまり?
○海の男 英霊の座と同じように、ここにも時間の概念がない。多分
○奏者のお兄さん 未来の俺らがなんかしたのかもしれんな。多分
○小さきもの まあ無事だったからいいんじゃない
「――――劣情を抱いたコトはあるか?」
広い空間に声が響く。一歩前に居たアヴェンジャーが、ゆっくりと振り向く。
「第二の『裁きの間』にてオレはおまえに尋ねよう。
一箇の人格として成立する他者に対して、その肉体に触れたいと願った経験は?
理性と知性を敢えて己の外に置いて、獣の如き衝動に身を委ねて猛り狂った経験は?」
「無論あるとも!」
見知らぬサーヴァントの大声に肩を揺らした立香を、オルタは背中に庇った。
「見るからに女癖の悪そうな男」
「サーヴァント・・・セイバーかな」
「天地天空大回転!それこそ世の常、無論ありまくるに決まっていようが!」
ケルト・アルスター時代(サイクル)の勇士。
精力絶倫にして大食漢、気前よく、嫉妬せず、恐れを知らない――堂々たる男。
「獣欲のひとつ抱かずして如何な勇士か英雄か!俺の在り方が罪だというならば、ふははは良いともさ!
俺は大罪人として此処に立つまで!俺は!赤枝騎士団筆頭にして元アルスター王たる俺は!
主に女が大好きだ!」
きっぱり開き直った台詞と共に、三人の前に現れた、フェルグス・マック・ロイ。
少なくとも外見は、
「心を覗け。目を逸らすな。それは誰しもが抱くがゆえに、誰ひとり逃れられない。他者を求め、震え、浅ましき涙を導くもの。色欲の罪」
「なァにが、浅ましきだッ!!!!抱きたいときに抱き、食いたい時に食う!それこそが人の真理!それこそが生の醍醐味だろう!」
○守銭奴 そうなん?
○騎士 人による
「はははははは!そして言うまでもなくッ!今こそがその時、その味わい!そこな女よ、俺には分かる!お前は中々いい女だ。胸は少々物足りぬが、太ももはなかなかだな!」
「ハ?殺す」
不愉快な言動を続ける男を焼き殺すために、黒い炎が襲いかかった。
フェルグスはそれを平然と避ける。大口をあけて笑う。呵々。
「そして見知らぬ男!おまえはアレだ。いらん。殺す」
そう言ったフェルグスの口が裂ける。悪魔のように。
下卑た息を吐いて、戦闘態勢に入る。そのさまはとても、勇士などではない。
「なにあれ・・・」
「見た目も気持ち悪いとか、いよいよ良いとこナシですね」
「トゥヌクダルスの幻視。かつての中世、この世ならざる異界へと堕ちて恐怖を識った騎士トゥヌクダルスが見たモノだ」
主の威光により形作られた煉獄の第四拷問場、燃える丘が如き巨獣の顎を持ち上げし煉獄。
すなわち、煉獄の悪魔である。
「無論、歴史の推移に対して発生した解釈であろうが、此処はシャトー・ディフ!絶望の監獄!主が誰しもを救いはせぬ、という証明が一度は果たされた地なれば!――――救われぬモノのすべてが集うとも!」
「ええ、そうですよ。主は誰しもを救いません。もしも神がおわすのならば、私には必ず天罰が下るでしょう」
竜の旗を掲げる。誰のために?決まっている。
「行きますよ、マスター。あんな下衆にくれてやるものなどありません」
「オルタ・・・」
「あなたの前に立ちふさがるすべてを、私は燃やしましょう。あなたが望むのならば、私はすべてを燃やしましょう」
「オルタ、ゼル伝完読おめでとう」
「なんでそれを!?!?!?」
「完全にハマってるって報告が方々から」
「ししし仕方ないでしょ!!!!悪いですか!?!?!?」
○ウルフ ハマったんだ
○バードマスター 推し誰かな
「と、とにかく!やりますよ!」
「うん。お願い!」
天地天空大回転。
アヴェンジャーの肉体を砕かんと振るわれた剣を、オルタが旗で受け止めた。
弾き、振り払い、纏う炎が追撃を阻む。
「アンタの出番はないわ!そこでマスターを守ってなさい!」
「クハハハ!お前の
ドレスを象った鎧を翻し、美しい髪は羽衣のように輝く。
鋭い刺突が男の体を抉り、広がる旗が視界を遮った。欲に目が眩んだ獣風情が、この竜の魔女に触れられるものか!
「オルタ!瞬間強化!」
「いいでしょう。全ての邪悪をここに!」
旗の
「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮――
怨念は魔力に、憎悪の炎に。骨の髄まで燃えてしまえ!
爆発のように魔力が弾けた。四方八方に飛び散る火花を鬱陶しそうに見る、影に潜む青年。
○オルタ 帰っていいか
○ウルフ ダメ
○災厄ハンター オルタが居ないと俺らも観測できないんで
○いーくん 結局アレ?
○フォースを信じろ (拳を勢いよく振り下ろす)
○オルタ 勇者の癖に初手暴力で来るんじゃねぇよ
なにやら色々あったようだが、第二の試練もクリアである。