「第六の裁き、第六の支配者――。おまえは見るだろう。およそ人間の欲するところに限りなどない、と」
ばらばらの足音は、同じ目的地に向かっている。
「彼以上に強欲な生き物をオレは見た事がない。事実、驚嘆に値する。富を、金を、私財を腹へ溜め込むためならば、実の娘を捧げようとした男さえ、彼には遠く及ぶまい」
長く薄暗い廊下は、獲物を呑み込んだ蛇の腹のよう。
等間隔の照明が眩しくて、立香はぱちぱちと瞬きをした。
「彼の欲は、文字通り世界へも及ぶのだ」
「なんだかご機嫌だね。その彼のこと気に入ってるの?」
「フン。そうだな。考えた事もないが、或いはそうかもしれん」
アヴェンジャーは歌うように言う。オトダマのように言葉が跳ねた。
「彼は回答を求めた。正しきものが真にこの世にはないのなら、と。尊きものを、ヒトの善と幸福を信じたが故に、悪の蔓延る世界を否定したともいえるか?おまえ達には分かるまい。いいや、それともおまえ達であれば真に理解が及ぶか」
金色の瞳が、立香とアヴェリンを映した。
不思議そうに首を傾げる少女と、感情の読めぬ目で見返してくる青年。
「そう、彼は、この世全てに善を成さんとした男だ」
「強欲だな」
「クハハ!そうとも、強欲だ。彼は
「・・・・・・!」
○バードマスター 誰だろ
○いーくん 誰だろうと、この世全てに善を成さんとかいうワードで出てくる奴はヤベェよ
○バードマスター それは・・・そうなんですが・・・
「何であれ――。ある種の敬意さえ抱いているのだ、オレは。その無謀、高潔、強欲!喝采には相応しかろう!故に。故に。この上ない敬意と共に」
舞台役者のように手を広げ、上機嫌で男は言う。
「我が黒炎は悉く破壊しよう。正しき想い、尊き願いにこそ、オレの炎は燃え上がる。覚悟せよ、マスター。おまえは・・・・・・。世界を呑まんとする強欲をも、砕かなければならない」
石造りの重厚な扉を開けば、第六の試練の間。
「・・・・・・来ましたね。アヴェンジャー。前回は後れを取りましたが、私も決断しました。貴方を倒し、貴方を止める」
聖なる旗を翻し、そこに立つのは白き聖女。
「それこそが貴方への導きになるのだと信じています、今は」
「違う、違う違う!!」
怒号と黒炎が爆発した。
裁きの間を揺らし、空間がびりびりと震える。
「確かにおまえは逃がさぬ、おまえはいずれ殺す!だが今ではない。なんという間の悪さだ、旗の聖女よ!その間の悪さ!カドルッスにも匹敵しようか!」
「ジャンヌのこと嫌いなの?」
「オレが!オレであるからだ!」
「ああ、その気持ちは分かります。私も私であるが故に、あの女が嫌いです」
ジャンヌ・オルタが艶然と笑う。
どこか妖しさを感じる笑みに、ジャンヌは少し眉をひそめた。
「憤怒の存在を認めぬのであれば、それはこのオレを否定するにも等しきこと!」
「猛り続ける者。アヴェンジャー、竜の魔女。憤怒はそう、時には貴方たちの言う通り――――容易く消えはしないのでしょうね。私にも理解できます。幾度も目にしました。怒りは、藁に灯った火が如くして、きっと煌々と燃え盛ってしまう」
アヴェンジャーとジャンヌ・オルタが、視線に晒されて顔を顰めた。
アヴェリンはジャンヌの後ろを見ている。
後ろに佇む、強欲を見ている。
「怒れる者と、その周囲にある多くのモノが燃え尽きてしまうまで。けれど・・・・・・憤怒を胸に秘めたとしても・・・・・・同時に、赦しと救いを想う事だって叶うはずです」
「小癪!オレに、赦しと救いを説くか!」
「・・・・・・一応聞いてあげましょう。どうぞ
「かけがえのないマスターを得た貴女は、もう救いを知っているはずです。アヴェンジャー。あなたも、一度はそれを経験したはずでしょう?」
空気が凍った。
「はは・・・・・・は・・・・・・!ははははははははは!ククッ、ハッ、ははははははははははははははは!!」
「ふふ・・・・・・ふっ・・・・・・!あっはははははははははは!あはは、はははははははははははは!!」
尾を踏まれた虎がいる。
逆鱗に触れられた竜がいる。
「我が恩讐を語るな、女!」
「私のマスターを、救いなどに貶めるな!」
瞬間、アヴェンジャーは黒き炎のヒトガタに変わり。
ジャンヌ・オルタの全身から憤怒の業火が溢れだす。
「マスターは私の救いなどではない!そんなモノを求めてはいない!ただ側に居たいだけだ。ただ彼女の炎でありたいだけだ。この身が朽ちるまで、地獄まで供をするだけだ!!知った風な口を利くな!!怒りの一つも抱けない、欠陥人間が!!」
「我が黒炎は、請われようとも救いを求めず!我が怨念は、地上の誰にも赦しを与えず!」
「オレは
「我が名はジャンヌ・ダルク・オルタナティブ!明日に進まんとするマスタ―の魂を、我が全霊をもって守り抜く者だ!!」
「理解した。理解した。旗の聖女!おまえの性質は、どうあってもオレとは相容れぬ!」
「殺してあげるわ。そして教えてあげる。我が復讐の何たるか!」
「・・・・・・!」
怨念を叩きつけられた、聖女が息を詰まらせる。
ふいに影が伸びてきた。ゆっくりと暗がりから歩み出る、褐色の少年。
「言葉だけでは届かぬ思いもある。聖女よ。あなたも、よく知っている筈ですが」
「・・・・・・分かっています。分かっているのです。けれど、私はどうしても諦めきれない」
「――――だからこそ、主は今もあなたを愛し続けるのでしょうね」
「――――おお。待ちかねたぞ。もう一人の
その姿は立香も見覚えがある。
青きオケアノスで出会った、柔和な笑みの男。
「天草四郎・・・?」
「如何にも。はじめまして、アヴェンジャー。
「・・・・・・」
「だが、一方で私は貴方を信じてもいます。これ以上ないほどに」
「ンン・・・・・・?」
白い髪を揺らして、ゆったりと天草は続ける。
「この世の地獄を知る者ならば、真に尊きモノが何であるかも同時に知った筈。魔術王の策謀にも貴方は乗らなかった。ならば・・・・・・」
「――黙れ。アレは怨念を持たぬ者だ。恩讐の外に在る存在と馴れ合う道理はない」
言葉を遮った。アヴェンジャーから漏れ出る殺意。
「勘違いされては困るな、天草四郎。オレは
「・・・・・・確かに、そうでしょう。ジャンヌ・ダルク。力をお借りします。イフ城に配置された者ではなく、同じルーラーとして」
「――――ええ、天草四郎時貞」
そして激突。
黒炎が、光が、旗が、拳が、黒鍵が。ぶつかり合う高速戦闘。
それに欠伸をひとつ。アヴェリンは立香の方に向く。
「なあ、これ長くなる?自分が殺れば一秒で終わるんだが」
「でしょうね」
「つーかあいつら自分のことはスルーしたよな。無視は良くないぜ」
「私じゃなくて二人に聞いたほうがいいよ」
「そうだな」
黒い炎が弾けた。
ジャンヌ・オルタやアヴェンジャーとも違う魔の炎は、聖人と復讐鬼を分断する。
「なぁお二人さん。自分には説教とかないの?一応自分も復讐鬼なんだけど」
「・・・・・・・・・リンク・オルタナティブ」
「魔王の悪しき心と、勇者の悪しき心がカタチを成した、漆黒の意志・・・・・・」
「そうそう。
くすくすと笑う、口元を袖で隠す。
普段は快活な性格で分かりづらくなっているが、リンクが本来持っている、匂うような色気がする。
「勇者リンクは、貴方の存在を受け入れた。・・・・・・ならば、私たちには祈ることしかできません」
「復讐はヒトの手に在るが、貴方はヒトであってヒトではない。だから貴方を滅ぼせるのは、コインの表側である勇者だけです。私達では絶対に勝てない」
黒鍵を固く握りしめる。
囁き一つ。手の一振りで、彼は自分たちを殺すだろう。
「・・・・・・貴方を救えるのは、理解できるのは、貴方そのものであるガノンドロフだけ。勇者リンクだけ」
「・・・・・・ええ、ご指摘の通り。貴方に出てこられたら、私達は何も言えません。お手上げです」
「――――甘い。甘すぎるな。嘲笑さえ浮かばぬぞ。此処に在ってさえ気高さを失わぬ者どもよ」
魔王の片鱗が見える。
主なるものを嗤い、しかしてヒトの可能性を知った男の姿が。
「感情のままに燃え尽きていく者を救おうなどとするから、お前たちは聖人なのだろう。――だが。
凄絶な凄み。金の瞳に囚われる。
「勇者が捨てられなかった負の感情に。王が抱える底なしの怨念に、同情したな?調停者のくせに肩入れするな。愚か者共」
本当につまらなそうに吐き捨てて、アヴェリンは後ろを振り返った。
「殺すぞ」
「どうぞ」
「フン」
首が飛んだ。
ひゅん、と振られたのは大きな双剣。魔王の振るう、無慈悲な刃。
○奏者のお兄さん うわあの双剣
○海の男 あいつら二刀流好きだな
○災厄ハンター (正直二刀流はちょっとかっこいいと思っている)
○騎士 (わかる)
第六の試練はこれで終い。
己の未熟さを恥じ入りながら、聖人達は消えた。